『パートナーズ』
監督 下村優


 高知市身体障害者連合会主催の副音声付きバリアフリー上映会で観ていたら、カメラマンの父親(村田雄浩)が部屋に掛けていた写真がキャパとゲバラの二人なのに、同じカメラマンのキャパのほうには言及せずにゲバラについてのみ副音声を入れたので、不審に思いながらも気づかずにいた子犬の名前の由来が示されて、意表を突かれた。飼い主となる全盲の真琴(大塚ちひろ)が「むかし男を盗られた女の名前と同じで感じ悪い」とこぼしていたのは不運だとしても、盲導犬の名前としてチエというのは、なんか気が利かないように感じていたのだが、成程と納得するとともに、そのネタに相応しい映画の始まりだったことに流石は荒井晴彦の脚本だと思った。

 ワーキング・プアなるままに、競争率20倍との盲導犬訓練士学校への受験も叶わない歳になって夢破れ労務災害を負い、自殺した男の話で始まる本作は、死の直前に小山内剛(浅利陽介)たちに送って来ていたケータイメールのなかに「格差」の文字が読み取れ、「貧乏か障害者の二者択一しかない人生」との台詞があった。

 盲導犬はむろん大事だし、保健所による犬の殺処分も問題だ。そして、引退した盲導犬が老後を完璧なケア施設で過ごすこともいいのだが、動物病院にさえも集中治療室(ICU)と呼ばれる施設がある一方で、映画の冒頭で提示されていた問題があることへの割り切れなさが、脚本家の思いとしてあったのではないかという気がした。

 ロックバンドでボーカルをやっていた真琴のキャラクター造形がなかなかよく、大塚ちひろがよく演じてなかなか素敵だった。19歳のチェリーボーイ剛が憧れる年上女性の魅力をいかんなく発揮していたように思う。歌もなかなか上手かったが、忌野清志郎の『雨上がりの夜空に』の選曲は、脚本段階からだという気がしてならない。

 犬と仲よくなる方法をパピーウォーカーの少女美羽(近藤理沙)から教わりチエと一緒に寝る剛の姿が描かれ、真琴がチエと眠り込んでいる姿が描かれていたが、人畜を超えて生き物において一緒に寝ることに勝る親密と至福のときはないとつくづく思った。過日、県外に住む長男宅を訪ね、昼寝に過ぎないながらも、二日続けて三歳の孫息子の添い寝をしたのだが、寝床のなかで見せる笑顔に優る人の表情というものはないのは、異性が相手の場合も同じことだ。そういう意味で、ベッドインを共にした相手が特別な存在になることは自明だったのだが、犬であってもそうなのかとペットを飼わない僕には感慨深かった。

 そして、そういう意味でのベッドインを剛と真琴に敢えて構えずに、異性の手を握ったこともないと恥じていた剛にとってのファーストキスの残したものの値打ちを感じさせていたラストシーンの軽みが、なかなか爽やかだったように思う。
by ヤマ

'13. 3. 2. 高知市保健福祉センター3階大会議室



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