『グッモーエビアン!』
監督 山本透


 先ごろ人生の特等席を観たばかりだからだろうが、ここにも“人生の特等席”をきちんと得ている人々がいるように感じ、気持ちのいい後味を得た。野球でも音楽でもいい。対価性に恵まれなくても、己が人生にとって掛け替えないだけでなく、他者にも何かをもたらし得る“好きなこと”を見出している人生は、やはり幸いなのだと改めて思う。そして、人の値打ちは、お金で購えないものとして与えられるものをどれだけ持っているかということなのだろうとも思った。

 矢口(大泉洋)の真似は到底できないにしても、フリーマーケットのロック好きの姉御(土屋アンナ)がハツキ(三吉彩花)にオマケしたバッグくらいは、誰しも持っているとしたものだ。単なる気前の良さとは異なるニュアンスが醸し出されている好場面で、ジャニスを好む自分としては、友情出演の使い方の手本のような気がした。

 それにしても、500円玉が木彫ドクロから焼きソバ2パックに変わり、1つは缶ビールになって、果ては宴会への御呼ばれになって歌う変転さながらに、ハツキの名前がハツヒすなわち「happy」から転じてきているとは意表を突かれた。グッモーが「good morning」なのは察しがついていたけれど、「everyone」をエビアンとは読めなかった。出鱈目に見えてむしろこっちのほうが本物に近いんじゃないかというのは、本作で描き出されていた人生観そのものなのだろう。そして命も音楽も、継いでいくことで「happy」に繋がっていくのは、藁しべ長者に限ったものではない“人生の真理”なのだとのメッセージも感じられた。その意味からも、ハツキの出生にまつわるエピソードはとても重要だと思う。こだわりと囚われのなさのバランスこそが人生の幸を解く鍵だというのは、かねてより僕の思っているところなのだが、改めてその感を強くした。

 さりとて、なかなかヤグこと矢口のように生きられるものではない。ハツキがトモちゃん(能年玲奈)に零していたように、一緒に暮らすと鬱陶しいというのは紛れもない事実なのだろう。何事もイイとこ取りはできないとしたものである。ヤグの一番の理解者であるアキ(麻生久美子)さえも幾分持て余していた感があったように思う。だけど、その核心部分を捉える感度とセンスは抜群の女性で、持て余しつつ取っている距離感覚がとてもカッコ良かった。それは娘に対する距離の取り方にも通じており、ハツキがとてもいい子に育っていることへの納得感が、担任教師(小池栄子)との遣り取りによってもたらされていたような気がする。決して出来過ぎの子ではなく、なるべくして育った子のように思わせるところが立派だと思う。麻生久美子はいいなぁと今更ながらに思った。そして、本当に親子のように思える口調を窺わせる話し方をしていた三吉彩花に感心した。

 おそらくハツキは『今日、恋をはじめます』のつばき(武井咲)とはちょうど反対方向になる進路選択をすることになるのだろうが、方向は違っても、つばきの選択もハツキの選択も核心部分は同じだ。青春期にもたらされるべき十代の幸が確かに描かれていたように思う。
by ヤマ

'12.12.15. TOHOシネマズ8



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