『人生の特等席』(Trouble With The Curve)
監督 ロバート・ロレンツ


 ちょうど一年前に観たマネーボールと逆の立場のスカウトを主役に立てながら、作品のテイストとしては、むしろ合い通じるように感じられる映画になっているところが最も興味深かった。IT頼りが悪いわけでも、旧態然としたアナクロニズムが悪いわけでもなく、いかなるものもやりようによって良くも悪くもなるというのが本当のところだろうと僕も思う。もしかすると本作は『マネーボール』に対するアンサームービーなのかもしれないと思ったわけだが、それなら抜群に気が利いていると大いに感心した。

 そして、主演のイーストウッドもさることながら、ジョン・グッドマンとエイミー・アダムスがとても良くて印象深かった。ピート(ジョン・グッドマン)の要請によって、ガス(クリント・イーストウッド)の娘ミッキー(エイミー・アダムス)がきちんと父親のところに行ってるのを電話で聞いて漏らした笑みの嬉しそうな様子と、ミッキーがジョニー(ジャスティン・ティンバーレイク)と野球の薀蓄勝負で酒を飲み合いながら盛り上がっているときのいかにも愉しそうな様子が、やけに響いてきた。三つ子の魂百までもとの顛末に納得感を与えるうえでも、非常に重要な場面だったように思う。

 『マネーボール』の娘ケイシーと違って、もはや子供ではないどころか、30代独身の弁護士で、目指していた勤め先の法律事務所の共同経営者の地位が目前にあり、父親との間では積年の屈託が解消されていないとの設定だったから、父娘物語としての陰影はより深くなっていたように思う。

 好きなことがあるというのは、本当にいいことで、そこに身を置くことのできるのが“特等席”なのだろう。加えて、過去の明かせぬ事件の存在がもたらしていた父娘間の亀裂に対して、時を隔てて娘のほうから埋めてきてもらえる果報に恵まれれば、これに勝る特等席はないとも言えるわけで、なかなかの妙味だった。

 父親とのコミュニケーションがうまく行かないことをジョニーに零した際に「きみのほうがリードしてやらなければ」と言われ、「さんざんやってきたわよ」と返したことに対し、「いいかい、最高の3割打者だって7割は打ててないんだよ」との助言を受けたことが利いている風情があったように思うが、随所に会話の妙の窺える気の利いた脚本だった気がする。ガスがジョニーに対して助言していた“捨てることの重要さ”を耳にしながら微かに頷いていたのがミッキーだったことが効いてくる最後の場面でのケータイの投げ棄てにしても、なかなかよく練られている脚本だと思った。

 そんな脚本に見合っているように感じられたのが邦題だ。ガスがジョニーに、娘には同じ目にあわせたくないと語っていた「人生の三等席[cheap seat]」が元になっていると思われるタイトルは、原題の「カーブに難あり」よりもずっと良い気がする。




推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
http://cc-kochi.xii.jp/hotondo_ke/13010207/
推薦テクスト:「お楽しみは映画 から」より
http://takatonbinosu.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-4eab.html
by ヤマ

'12.12. 1. TOHOシネマズ1



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>