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『太陽と月と 私たちの憲法の人々の情熱』 | |||||
監督 福原進
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日本国憲法はGHQの押し付けだとする意見に対して、明治期の自由民権運動のなかで生まれた憲法草案から脈々と継がれてきたものだとする立場で製作された作品ながら、押し付け論が生じるのも故なしではないことも明示していたことに感心させられた。 日本国憲法の三大原理は、言わずと知れた「国民主権・基本的人権の尊重・平和主義」だが、このなかでも最も重要な部分を“平和主義”なかんずく「戦争/武力の放棄」に極言すれば、国民主権すら謳っていなかった日本政府案(松本委員会案)はもとより、GHQ草案の元になったとされる在野の憲法研究会案にも、更にはその元になったとされる我が地元高知の植木枝盛の東洋大日本国国憲案[明治14年]にも条文化されておらず、マッカーサーノートにて初めて示されたものだったことをきちんと明らかにしていた。 だが僕は、日本国憲法の最大美点を基本的人権の尊重に感じているので、やれ押し付けだの自主憲法に近いものだのといった論争よりも、第97条に「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって」とある“人類の…成果”とのくだりを、イギリスの人権宣言に発し、フランスの社会契約論を経て、明治期の自由民権運動の中で結実した立志社の植木枝盛案や同時期の千葉卓三郎による五日市憲法草案が憲法研究会やGHQ案に繋がって行っていることを明らかにすることで、まさしく“人類の成果”なのだと感じさせてくれる構成を持っていた本作に、大いに好感を抱いた。 上映の後、高知市立自由民権記念館長による講義もセットされていて、より詳しく植木枝盛らの思想が説かれたので、映画でも言及されていたのか講義のなかでの話に留まっていたのか、少々判然としなくなっているが、『板垣政法論』のなかで、万国共議政府を設立して各国分権を進め、平和協調による軍備縮小を図ることが各国の人権保障政策の進展に繋がると説いていると教えられ、驚いた。植木枝盛のアジア主義というのは聞き覚えがあったのだが、彼が、人類が第一次世界大戦を経験する遥か前から、言わば、国連の必要性を説いていたとは初めて知り、大いに感心した。さすが「自由は土佐の山間より出づ」との言葉を残しただけのことはある郷土の先人だ。 それにしても、こうして振り返ってみると、明治新体制の基本方針となった五箇条の御誓文が、坂本龍馬の船中八策を基にしたと言われ、敗戦後の日本の新体制の基本方針となった日本国憲法が、植木枝盛の東洋大日本国国憲案を基にしていることになるわけで、近現代の日本に対して土佐の先人の残した足跡の大きさに感嘆するのだが、本作で、植木枝盛案と並べて五日市憲法草案が示されていることの意義はとても大きいと思う。つまりは龍馬、枝盛だけのことではないということだ。すなわち、東洋大日本国国憲案に対する五日市憲法草案に相当するようなものが、龍馬の船中八策に対してもあったであろうということだ。だから、単純に龍馬や枝盛の功績とするのではなく、当時、真摯に国事に取り組んだ人々の数々の議論の成果として捉えるべきものだということだ。 そういう意味でも、日本国憲法が第97条で“人類の成果”と明言しているのは、最高法規にふさわしい格調であり、見識だと思うし、昨年の大河ドラマ『龍馬伝』第43回「船中八策」で、龍馬が各条を読み上げながら「これは横井小楠先生、これは勝先生、これは武市さん…」などと連ねながら、吉田東洋らにも言及する姿を描いていたのは、なかなか見事なものであったと改めて思った。 | |||||
by ヤマ '11. 1.10. 美術館ホール | |||||
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