『山猫』(Il Gattopardo)['63]
監督 ルキノ・ヴィスコンティ


 出会えることになっている作品は、いつか何処かで出会うのだから、慌ててDVDやビデオを追って観るまでもないと思っている僕も、2004年のリバイバル時にさえ当地では上映がなかっただけに、今回【午前十時の映画祭 青の50本】で『ミツバチのささやき』からの差し替えによって出会えることになるとは思い掛けなかった。

 フィルムをスクリーンに映写する“映画”というものが間もなく消え去ろうかとし始めた今、新興ブルジョワジーに取って代わられつつある貴族の凋落を背景に、時代や社会の変革のなかで生きる人々の姿を捉えた作品を観るのは、単に映画に留まらない“変革の時代”のさなかにあるだけに感慨深い。「山猫や獅子【の紋章を持つ貴族】の時代ではなく、山犬と羊【といった新興ブルジョワジーや農民】の時代になった」と漏らすような階級意識を持ち合わせていない僕でも、携帯電話を持たずDVDやビデオで映画を観る習慣も拒んでいるのだから、時代遅れという点では同じようなものだ。

 貴族的な選民意識からではないのだけれども、甥のタンクレディ(アラン・ドロン)のような機を見るに敏な合理性に対して、否定よりは頼もしさと嘱望を感じながらも美意識の欠如を覚え、妻のみならず当の娘自身の意向を逆撫ですることを知りつつ、娘を嫁がせたくはないと思うサリーナ公爵(バート・ランカスター)の彼の捉え方に通じる感覚は、僕のなかにもあるような気がする。

 恐るべきことに、このとき公爵を演じたバート・ランカスターは、今の僕の年齢(52歳)よりも僅かながらも年下だった。サリーナ公爵の年齢が具体的に示されていた記憶がないが、もう孫もいる僕とさして違わない年の頃なのだろう。ラストシークエンスとなっていたのは、他家に招かれて参席した大舞踏会だったが、タンクレディの婚約者アンジェリカ(クラウディア・カルディナーレ)の社交界デビューの場で彼女からダンスの相手を申し込まれ、「マズルカのような激しい踊りはもう出来ない、ワルツならまだしも」と答えたタイミングでたまたまバンド演奏が変わってワルツになってしまい踊る羽目になっていた。恐らくは久しぶりに実際に踊ってみて、往年のダンスの名手ぶりを髣髴させるとの賞賛を浴びながらも、きっと確実に、自身の息切れのほうに説得力を感じていたであろう。そんなサリーナ公爵が、かような貴族の集まりに参集する人々の間でも既にして、燭台ひとつ褒めるにも換算によって行なうようになっている様子を小耳に挟んでその場を離れると、今度は大佐を名乗る軍人から時代の寵児ガリバルディに痛手を与え尚且つ感謝されたとのホラ話的な自慢を聞かされるような社交界にうんざりしている様子が、新政府の設ける上院議員への推挙を告げに来た使者に対し「これからは【貴族の】私よりも【新興ブルジョワジーの】カロージェロ(パオロ・ストッパ)のほうがいい」と固辞する姿よりも印象深かった。

 タンクレディについてもアンジェリカについても、その存在に対して、時代の申し子としての肯定感を抱きながら、自分とは相容れないものとしてのスタンスを苦にすることなく自前のものにしているサリーナの立ち位置に品格を感じた。大舞踏会から辞するに際して、一族の帰宅に車の手配を依頼しつつ、自らは最新機器たる自動車に乗ることなく路地を歩いて抜け出ようとする後ろ姿を捉えて終えたエンディングは、いかにも貴族の退場を偲ばせているようであったが、もしかすると、舞踏会に招かれた他家の一室で見上げた“死の床に就く老人を描いた絵画”を見つめて意識していたはずの自身の老いと死に抗う力を自己確認するために、映画の序盤で登場した馴染みの娼窟に向かっていたのかもしれないと思わせる含蓄を孕んでいるところが見事だった。やはり巨匠の作品だけのことはあって、なかなか大したものだ。

 それにしても、ヴィスコンティの作品に流れている時間のこの緩やかさはどうだろう! これくらいの話で、なぜ三時間超なのかと思いながらも、どこを切って取っても堂々たる絵になる画面を三時間超続けているスタッフ力に圧倒されていた。本編開始前に文字で流れた“イタリア語完全復元版”完成の関係者への謝辞が撮影監督によるものだったのも納得の作品だった。




参照テクスト:掲示板談義編集再録

推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
http://cc-kochi.xii.jp/hotondo_ke/11021201/134/
推薦テクスト:「映画通信」より
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=10442&pg=20041203
推薦テクスト1推薦テクスト2:「シューテツさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1802488190&owner_id=425206
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1802633663&owner_id=425206

推薦テクスト:「大倉さんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1891495220&owner_id=1471688
by ヤマ

'11. 2.13. TOHOシネマズ1



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>