『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(Catch Me If You Can)
監督 スティーブン・スピルバーグ


 純然たるシリアス・ドラマでも、スピルバーグお得意のファンタジック・エンターテイメントでもない、言わば“シリアス・ファンタジー”とでもいうような面白い味わいの宿った作品だ。こんな木に竹を継いだ呼称を与えることがふさわしいように感じられるというのは、得てしてどっちつかずで破綻していたり、妙な違和感が残ったりするものなのだがと、今ふと『ホワット・ライズ・ビニース』を想起したが、ゼメキスが狙っていたのは、ジャンルは違うけれど、こういうテイストだったのかもしれない。だが、思い起こしてみると、スピルバーグ作品では過去にもこれに似たテイストの作品があったような気がする。世評はあまり芳しくなかったように思うが、僕はけっこう気に入ってたオールウェイズだ。
 かの作品は、死者との交感だから、より超現実的なシーンが登場してもおかしくはない。その点、この作品は基本的にクライム・サスペンスということになろうから、あまりに奇抜で飛躍したシーンが連発されると気分が損なわれてしまいかねない。ところが、随所にファンタジックな映像がシーンとして登場しながら、そういうことは起こらなかった。それには、物語そのものが相当に現実離れしていることが有効に作用していたのかもしれない。
 しかし、ある種の意外さとともに感心したのは、あまり丹念に描出していたとも思えないのに、人物描写がしっかりしていたことだ。フランク(レオナルド・ディカプリオ)と父親(クリストファー・ウォーケン)や母親(ナタリー・バイ)、そして、彼を追うFBI捜査官カール(トム・ハンクス)との関係などが、変化の過程とともにきちんと伝わってきていた。演技者の充実ということもあろう。殊にレオナルド・ディカプリオは、犯罪者としての大胆不敵さをある種の無邪気さと集中力によって感じさせるとともに、孤独に痛む十代の青年の飢餓感を巧く演じていたし、トム・ハンクスは、真面目な不器用さとともにある、運に恵まれない男の不屈と誠実を巧みに演じていた。
 僕は迂闊にもというか、幸いにも、この作品が実話を基に撮られた映画だという記憶がないままに観ていたから、最後に監修者としてフランク・W・アバグネイルの名前が出てきたときには、いささか驚いた。そして、実話だとしたら、実際にあったことかどうか一番確かめてみたいと思ったのは、身元引受人となって自分を釈放させてくれたカール・ハンラティに父親代わりの心情的投影をしていたと思われるフランクが、自分よりも娘との週末を選択したカールに失望したかのようにして、再び偽パイロットとなってフランスに逃亡しようとしたときの空港での二人のやり取りだ。
 これは象徴的な形で作られたエピソードであって、事実だとは思いがたいのだが、なにせ四年間も交渉を重ねてフランクを手元に引き寄せたカールなのだから、あり得ないことではないという気もする。しかし、実際の出来事だったとしたら、ある意味で、フランクが十代ながら偽造小切手詐欺を二年近くに渡って続け、400万ドルを騙し盗り、世界を股にかけて逃亡を重ね得た事実以上に奇跡的なことだろうと思う。目的があったとはいえ、四年かけてフランクを釈放させたことも、その目的が叶ったことも、実に突拍子もないことで、破格の人物ということにおいては、カールはフランク以上だ。
 僕は、フィクションだと思って観ていたので、こんな突拍子もない物語をドラマとしての説得力につまずきのない形でスピルバーグが観せてくれたことに大いに感心していたものだから、実話と聞いて却って驚いたのだった。空港での二人のやり取りなど、フィクションなら何の違和感も生じないけれど、実話となると滅法気になってくる。面白いものだと思う。


推薦テクスト:「La Dolce vita」より
http://gloriaxxx.exblog.jp/51124/
推薦テクスト:夫馬信一ネット映画館「DAY FOR NIGHT」より
http://dfn2011tyo.soragoto.net/dayfornight/Review/2003/2003_03_31.html
推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
http://cc-kochi.xii.jp/jouei01/0304-2catch.html#catch
推薦テクスト:「帳場の山下さん、映画観てたら首が曲っちゃいました。」より
http://www.k2.dion.ne.jp/~yamasita/cinemaindex/2003kicinemaindex.html#anchor000939
推薦テクスト:「my jazz life in Hong Kong」より
http://home.netvigator.com/~kaorii/am/catchmei.htm
推薦テクスト:「とめの気ままなお部屋」より
http://www.cat.zaq.jp/tomekichi/impression/kansouk2.html#jump12
推薦テクスト:「This Side of Paradise」より
http://junk247.fc2web.com/cinemas/review/reviewk.html#catchmeifyoucan
by ヤマ

'03. 5. 1. 東宝2



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