美術館夏の定期上映会“キンダー・フィルム・フェスティバルがやってくる!”

第一日目
@『チェブラーシカ』[ロシア]
  「こんにちはチェブラーシカ』('69)
  「ピオネールに入りたい」('71)
  「チェブラーシカと怪盗おばあさん」('74)
監督 ロマン・カチャーノフ
A『テディ&アニー』[イギリス]('99) OV上映 監督 グラハム・ラルフ
B『センド・モア・キャンディ〜一瞬の夏』
    [デンマーク]('01) OV上映
監督 セシリア・ホルベック・トリアー
C『ウォー・ゲーム』[イギリス]('01) OV上映
  オーバーボイス・ワークショップ発表会A
監督 デイブ・アンウィン
D『とび☆うぉーず』[デンマーク]('00) 監督 ミカエル・ヘグナー
監督 ステファン・フエルマーク
第二日目
@『アヒル救出大作戦』[オーストラリア]('01)
              OV上映
監督 ディ・ドリュー
A『ミヌース』[オランダ]('01) OV上映
  オーバーボイス・ワークショップ発表会B
監督 ヴィンセント・バル
B『パット&マット』[チェコ]
  「遠出」('84) 、「テレビ」('85)
監督 ルボミール・ベネシュ
C『ぼくらと遊ぼう』[チェコ]
  「冬眠の話」('67) 、「犬の話」('71) 、
  「ビーバーの話」('72)
監督 ブジェチスラフ・ボヤル
D『聖石傳説』[台湾]('00) 監督 黄強華
第三日目
@『オテサーネク』[チェコ]('00) 監督 ヤン・シュヴァンクマイエル
A『上海アニメーションの奇跡』[中国]
  「牧笛」('63),「ナーザの大暴れ」('79),
  「猿と満月」('81),「鹿鈴」('82),
  「蝴蝶の泉」('83),「琴と少年」('88),
  「不射之射」('88)            
上海美術映画製作所
 良く言えば、盛り沢山。率直な感想としては、何やら取り散らかしたようなラインナップのプログラムだ。
 今回の企画タイトルになっている“キンダー・フィルム・フェスティバル”自体には、かねてより関心があり、一度まとめて観たいものだと思っていた。7年ほど前に“B級遊民(現シネマ・サンライズ)”が高知ユネスコ協会との共同主催による“ユネスコ・ファミリー映画会”で上映した『マチルダ』が思いのほか観応えがあって、面白かったからでもある。加えて今回は、東京での映画祭と同じように、声優が映像に合わせてライブで吹き替えるオーバーボイス方式での上映が行われるとのことで、それがどういうものなのかも楽しみの一つであった。
 今年10周年を迎えるというこの映画祭が始まった頃の新聞報道だったと記憶しているが、字幕つきのフィルム上映でも、字幕を追えない子供が参加できるようにオーバーボイスで上映していると報じていた覚えがある。あくまで子供が主人公の映画祭というわけで、ちょっと感心したものだ。ところが、今回オーバーボイス上映がされたのは、全プログラムの半分にも満たない5作品で、すべて字幕のついていない作品だったから、かつて僕が感心した“キンダー・フィルム・フェスティバル”の映画祭としてのコンセプトは、今回は全く伝わらなかったのではないかと思う。腑に落ちない気がしたので、主催者に尋ねてみると“キンダー・フィルム・フェスティバル”からのセレクションは、この5作品だけだったようで、それなら企画タイトルにやや偽りありという気がしないでもないし、そんなこと以上に、肝心の映画祭コンセプトをぼやけたものにしてしまわざるを得ないプログラムに対して、安易に“キンダー・フィルム・フェスティバルがやってくる!”というタイトルを冠するべきではなかったのではないかという気がする。もっとも、当日の会場には、来高した声優で進行役も務めた河合氏が思惑違いを漏らしていたように、ろくに子供たちの姿がなかったのだから、子供が主役の上映会ではないという点では、結果的に首尾一貫してはいた。子供のための上映会というPRの仕方をあまりしていなかったのかもしれない。
 また、セレクトされた5作品のうち3作品がアニメーションとは無縁の実写作品で、定期上映会としてのテーマである“アニメーションってすごいんだよ!”からは外れている。二日目の最後に上映された『聖石傳説』(Legend Of The Sacred Stone)のように人形芝居を実写とSFXで映像化した作品なら、実写作品であってもアニメーションとの接点が感じられるのだが、企画上映のプログラムとしては、どうにも座りが悪い。ならば、テーマのアニメーションからも、タイトルの“キンダー・フィルム・フェスティバル”からも離れた子供向けの優れた映画の特集上映なのかというと、三日目は「大人のアートアニメーションファンに贈る特別プログラム」との触れ込みだ。アニメ、こども、アートといったところで“この際”型に面白そうな作品を寄せ集めて、まとめて“キンダー・フィルム・フェスティバルがやってくる!”で括ったという、かなり乱暴な企画上映だった。だから、「良く言えば、盛り沢山。率直な感想としては、何やら取り散らかした」という印象になってしまうのだろう。
 そのことに疑問や不満を抱く観客は、あまりいそうにはないのだけれど、美術館という芸術文化施設の企画上映プログラムという観点からは少々残念な気がする。しかし、最も残念だったのは、呼び物でもあったはずのオーバーボイス上映がうまく生かされていなかったことだ。
 初日の『テディ&アニー』(Teddy and Annie,The Forgotten Toys)と『センド・モア・キャンディ〜一瞬の夏』(Send More Candy) では原音声とのバランスが非常に悪くて聴き取りにくく、イライラして作品鑑賞以前の状態に悩まされた。三本目の『ウォー・ゲーム』(War Game)になって随分とましになったから、やはり事前の調整不足だったのだろう。おそらくは台詞を発する箇所に合わせて、手動で音声レベルの加減を調整しなくてはならないのだと思う。音調システムとホールでの聞こえ方の具合を充分に把握していないと、音声バランスが悪くなるのは当然だ。初日の土曜日に比べて、翌日の日曜日の集客が落ち込んでいたのは、『チェブラーシカ』(ЧЕБУРАШКА) のような作品がなかったということ以上に、オーバーボイス上映に閉口した観客が多かったからではないかと僕は思っている。本家の“キンダー・フィルムフェスト・ベルリン”で国際審査員特別賞を受賞したという『センド・モア・キャンディ〜一瞬の夏』など、これが上手くいっていたら、随分と違って見えたであろうことを確かに窺わせながらも、作品として味わう以前のところに自分が留まっているもどかしさを感じた。

 5本並べて観た“キンダー・フィルム・フェスティバル”作品の全体的な印象は、やはり教育的ニュアンスの色濃い作品群だということだ。特に実写作品の3本『センド・モア・キャンディ〜一瞬の夏』『アヒル救出大作戦』(Hildegard) 『ミヌース』(Minoes)は、長編劇映画としてのスタイルは異なっているのに、示し合わせたように環境保護と動物愛護で通じていて、これにベルリンという形でヨーロッパの要素が加味されると、少し素直な気持ちでは観られない部分が生じてきたりもする。映像表現たる映画としての魅力という点では、5本のなかで最も見劣りがしながらも、題材としての興味深さで印象にあるのは『ウォー・ゲーム』だ。第一次世界大戦の戦場で、敵対していたイギリス兵とドイツ兵が、クリスマスの日に、ふとしたことから双方の陣営を出て、サッカーの試合を始め、束の間なかよく興じる話のもとに、若者を戦地に送り込み、殺し合いをさせることの理不尽を静かに訴えた作品だ。サッカーが特別なスポーツである両国で、第一次世界大戦なればこその話かもしれないが、実話を元にした作品だそうだ。

 初日の最初と最後に加えられていたのは『チェブラーシカ』『とび☆うぉーず』(Help! I'm a fish)であった。前者は、ロシアの国民的なキャラクターなんだそうだが、今風のオフビートな脱力キャラが三十年前の作品で主役を張っているところが妙に面白かった。後者は、二年前のデンマーク作品だが、飛び魚をもじった邦題で、作中でも飛び魚がオチに使われる映画の主人公名がトビーなのは偶然の一致とも思えないのだが、吹き替え版でエンドクレジットを見落としては確かめようもないものの、妙に気になっている。テンポよく、絵も面白かったが、キャラクターやドラマがいささか類型的な気もした。
 二日目のプログラムに加えられていたのは、チェコ・アニメの『パット&マット』『ぼくらと遊ぼう』(Poidte Pane,budeme si hrat !)、台湾の布袋戯(プータイシ) という人形芝居を実写とSFXで映像化した『聖石傳説』。チェコ・アニメの両作品は、僕がこれまでに抱いていたチェコ・アニメのイメージからすると、毒や不気味さの影が差さない見やすさと親しみやすさに、やや意表を突かれたようなところがあったが、その分、却って残る印象度は薄まっていたように思う。『聖石傳説』は、これまでに観たことのない映像世界が斬新で、大いに楽しんだ。冒頭から、何かの続編でもあるように派手なバトルシーンが繰り広げられるのだが、細かいカットで素早くダイナミックに連続展開していくので、訳の判らないまま、観入ってしまった。ドラマとしての展開やらキャラクター説明の乱暴さ、観終わっても、なんでこういう話だったのか合点が全くいかない不届きさを残しながら、視覚体験としては堪能したような満足感を与えてくれるから、恐れ入る。二日間のプログラムのなかでは最も面白かった。

 三日目のプログラム8作品には、“キンダー・フィルム・フェスティバル”からの作品は1本もなく、一般的にはとても子ども向きとは言えない作品が入っているのに、当日の新聞報道で「中国のアニメなど子ども向き8作品 県立美術館できょう映画祭」といった形で報じられ、同フェスティバルへの言及がされていた。これも、今回の企画上映のコンセプトの不明瞭さゆえに起こったことだろう。
 ヤン・シュヴァンクマイエル監督の『オテサーネク』(Otesanek)は、相変わらずの悪趣味と食への執着をチェコの民話を題材に描いた、大半が実写からなる作品だが、ちょうど一年前に観た『アリス』('88) のほうが数段シャープだった。今回の作品で二時間を越えるのは、ちょっとキツイように思う。
 “上海アニメーションの奇跡”と題した7作品は、どれも間違いなく物珍しい作品群だ。十年前に唐山皮影劇団の樂州影戯という影絵人形劇を観て、その美しさに目を見張った覚えがあるが、アニメーションを観るのは初めてだ。'63 年から'88 年までの比較的古い作品で、傑作との誉れ高いものを集めたようだが、水墨画・切紙・セルと手法は異なっても、色合いが淡色系で音楽が非常に重視されているところが共通していた。人形アニメの『不射之射』は監督・脚本・美術・人形とも日本人の手によるものだから、少々異質で却って見慣れた風情があったが、そのほかは、いずれも今までに観たことがない雰囲気のアニメ世界を形作っていた。なかでも僕が気に入ったのは、『琴と少年』('88) だ。世界初の水墨画アニメーションとして注目を浴びた『牧笛』('63) から25年を経て、よりシンプルで、スケール感と同時に繊細さを窺わせる作品になっていて、その見事な筆遣いにすっかり魅せられた。また、音楽とのコラボレーションも他に抜きん出ていたように思う。『鹿鈴』('82) も水墨画アニメだ。可愛らしくドラマ性が豊かで、観て楽しい作品だが、『琴と少年』を観た後では、少々描き込み過ぎているような気がした。

参照サイト:「高知県立美術館公式サイト」より
http://kochi-bunkazaidan.or.jp/~museum/kinder/framepage.films.htm

『オテサーネク』
推薦テクスト:「こぐれ日記〈KOGURE Journal〉」より
http://www.arts-calendar.co.jp/KOGURE/01_11/OTESANEK.html
推薦テクスト:「THE ミシェル WEB」より
http://www5b.biglobe.ne.jp/~T-M-W/movieotesanek.htm
by ヤマ

'02. 8. 17.&18.&25. 県立美術館ホール



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