美術館夏の定期上映会 アニメコレクション
                “ロシア・クラシック&ユーロ・ファンタスティック”

   2日目(日曜日) “ユーロ・ファンタスティック”


『アリス』1988(スイス・西ドイツ・イギリス) 監督 ヤン・シュヴァンクマイエル
『親指トムの奇妙な冒険』1993(イギリス) 監督 デイヴ・ボースウィック
『時の支配者』1980(フランス) 監督 ルネ・ラルー
『ガンダーラ』1987(フランス) 監督 ルネ・ラルー
『クロモフォビア』1966(ベルギー) 監督 ラウル・セルヴェ
『人魚』1968(ベルギー) 監督 ラウル・セルヴェ
『語るべきか、あるいは語らざるべきか 』1970
        (ベルギー)
監督 ラウル・セルヴェ
『ハーピア』1979(ベルギー) 監督 ラウル・セルヴェ
『夜の蝶』1998(ベルギー) 監督 ラウル・セルヴェ
 ユーロ・ファンタスティックと題した二日目は、チェコ、イギリス、フランス、ベルギー出身の個性的な作家たちの競演だった。チェコ出身のシュヴァンクマイエル作品は、当地でもかなりの数が上映されているが、今回上映した『アリス』('88) は、彼の作品のなかでも僕には最も面白く観ることのできるものだった。言わずと知れたルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』にインスパイアーされたとの作品で、原作をかなり忠実になぞる展開のなかで、いかにもシュヴァンクマイエルらしいグロテスク趣味や標本フェチぶりを覗かせながら、実写とコマ撮りを自在に組み合わせて、反復ないしは踏襲するイメージのもたらす納得と飛躍するイメージの意外さのバランスが絶妙で、実に創造的な映像世界が繰り広げられる。アリスの発する言葉とともに繰り返し大写しにされた少女の唇など、ある種の妖しげな官能性さえ暗示していて、原作以上にルイス・キャロルその人に迫った作品だと言えるのではないかと思った。
 一方、ボースウィック監督の『親指トムの奇妙な冒険』('93) は、人形と実写の複合作品である点は『アリス』に同じだが、イギリス民話の親指トムをなぞった話ではなく、いささかグロテスクに過ぎるバイオテクノロジーの世界と前世紀末の一種の流行でもあった近未来のダーク・シティのイメージが達者な技術で描かれていた。
 ルネ・ラルー監督は、三年前に『ファンタスティック・プラネット』('73) を観て、いたく感心し、楽しみにしていた監督なのだが、前作の深みとイメージの豊かさは、共同脚本や作画のローラン・トポールに負うところが大きかったことが図らずも露呈したような気がする。それでも『ガンダーラ』('87) のほうは、人物造形や物語としての拙さを補うだけのスケール感とイマジネーションの膨らみが感じられて、充分楽しめた。
 今回のプラグラムのうち“ユーロ・ファンタスティック”での目玉は何と言ってもラウル・セルヴェの特集だったと思われるが、上映された5作品がすべてがそれぞれに異質でなおかつ駄作がないという充実を果たしていた。『クロモフォビア』('66) と『語るべきか、あるいは語らざるべきか』('70) は、ともに政治的メッセージの強い風刺作品だが、ストレートな力強さと判りやすさが魅力だ。『ハーピア』('79) の妖しい怪奇性もなかなかのものだったが、印象深かったのは、やはり『夜の蝶』だ。冒頭にクレジットでポール・デルヴォーの名が出たので、チラシのイメージとあいまってやはりそうだったかと思うと同時に、じゃあ汽車と山高帽の男で攻めてくるのかなと思ったら図星で、何だか嬉しくなってしまった。最後に山高帽の男が青い蝶を虫ピンで標本のように留めるイメージが、まさしくデルヴォーの絵から受ける時間の止め方、画題の定着の仕方のイメージにぴったりで、内心快哉をあげた。だからこそ、セルヴェは動かしてみたくなったのだろう。
 それにしても、ユーロ・ファンタのほうは『親指トムの奇妙な冒険』にしても、『時の支配者』にしても、『クロモフォビア』と『語るべきか、あるいは語らざるべきか』にしても、国は違えど明確に全体主義への異議申し立てが打ち出されていた。必ずしもすべての作品が世界的に政治の季節と謳われた1960年代のものではない。このあたりは、さすがに国土が戦場と化したヨーロッパだけのことはあると感心した。

参照サイト:「高知県立美術館公式サイト」より
http://www2.net-kochi.gr.jp/~kenbunka/museum/anime/anime2.html#aris


*〜ラウル・セルヴェの世界〜
推薦テクスト:「銀の人魚の海へ」より
http://www2.ocn.ne.jp/~mermaid/yorunotyou.html

推薦テクスト:「楽園計画」より
http://www.din.or.jp/~felice/cinema/review/nachtvlinders.html
by ヤマ

'01. 8.19. 県立美術館ホール



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