『地雷を踏んだらサヨウナラ』
監督 五十嵐 匠


 財力でも、権力でも、武力でもなく、人なつっこい人柄と情熱だけでもって人は、こんな生き方もできることを見せてくれ、非業の死を遂げたというのに、どこかしら爽快感を残してくれたような気がする。

 それは、作り手が一ノ瀬泰造(浅野忠信)をカメラマン魂に殉じた男として捉えずに、あくまで自分を惹き付けてやまない戦場やアンコールワットの現場に身を置いて、自分の手で写真を撮ること、そして、それを高く売り、有名になりたかった男として捉えているからだろう。自分の夢と欲望のために身体を張って生き抜き、殉じたように描かれているので、悲壮感がないのだ。

 それはまさしく作り手の意図でもあるから、この作品では戦場カメラマンの生死の境を駆け巡る激烈な緊張感や危険、苦労などよりも泰造の人柄を偲ばせるエピソードを描くことに力点が置かれ、そういう場面での浅野忠信の表情や声のトーンは監督の期待によく応えたものとなっている。幾多の知人の無残な死を見送る際の、板についていない演技とは極端に対照的だ。

 それにしても、戦場カメラマン仲間のティムとの関係といい、カンボジアの田舎教師のロックルーとの関係といい、いまどきこんなにピュアな友情を前面に押し出した物語を見せられて、まるで浮き上がっているとは見えないのだから、けっこう大したものだ。浅野忠信が役柄にすっぽり嵌まっていたからだろうし、何よりも作り手の一ノ瀬泰造への愛情というものが伝わってきたからだろうと思う。

 最後の場面なんか、あのような状況で駆け出して、しばしの間と言えど逃げられようはずもないのだが、作り手が泰造にアンコールワットを一目でも眼前に見させてやりたかったのだろうという気がした。観客への映像的アピールを考えてというよりも、そんなふうに見えてくること自体が、この作品において作り手が泰造に並み並みならぬ愛情を抱いていることが伝わってきている証拠のようなもので、映画体験としては、ちょっと珍しいものとして心惹かれた。




推薦テクスト:「Fifteen Hours」より
http://www7b.biglobe.ne.jp/~fifteen_hours/OneStep.html
推薦テクスト:「Silence + Light」より
http://www.tricolore0321.jp/Silence+Light/cinema/review/jiraiwo.htm
by ヤマ

'00. 3.20. 県民文化ホール・グリーン



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