『メッセンジャー』
監督 馬場 康夫


 随分前に観た『私をスキーに連れてって』が思いのほか面白かったので、ちょっと期待していたのだが、裏切られることなく楽しめた。ドラマの骨格自体は、何の変哲もなく定番とも言えるスタイルなのだが、大都市東京を疾走する自転車便を颯爽と描き、まさしくチラシに謳われたとおりの“不況の日本しか知らない若者と、バブルをひきずる女のおかしな「ボーイ・ミーツ・ガール」”として成功している。

 自転車を漕ぎ、汗する肌で風を切る心地好さが、きちんと伝わってくるのは、たいしたものだ。そして、汗して働く手ごたえの確かさを共有できる仲間同士の結束が、軽やかに爽やかに伝わってきて、ほのかな憧れと夢を見せてくれるのだ。現実感は甚だ希薄な映画であるだけに、気持ちのよさが満たされなければ、何の価値もなくなることを作り手はよくわきまえている。また、惹かれる男によって女は幾つになってもいかようにも変わっていくという、男女に共通して潜んでいるいささか守旧的な願望や日本的な判官贔屓を満たしてくれるストーリー展開など、一見かっこよく時流に乗った風俗に目を向けながらも、実のところは、非常に保守的な感覚での安心感をもたらしてくれる作品なのだと思う。

 飯島直子がなかなか素敵だ。バブリーな歪んだ世界に馴れ切ったタカビーな女から、虚飾の垢が洗い落とされていくプロセスを、表情豊かな可愛らしい女の魅力で惹きつける。あの年齢で健康的な色気とピュアな愛嬌を滲ませて、僕にはマリリン・モンローを髣髴させさえした。




推薦テクスト:「帳場の山下さん、映画観てたら首が曲っちゃいました」より
http://yamasita-tyouba.sakura.ne.jp/cinemaindex/mecinemaindex.html#anchor000438
by ヤマ

'99. 9.15. 東宝3



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

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