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イギリス カルト映画傑作選: 『ウィッカーマン』(The Wicker Man)& 『バタフライ・キス』(Butterfly Kiss) | |||||
監督 ロビン・ハーディ 監督 マイケル・ウィンターボトム | |||||
二作品とも、奇異で異様で過激な世界が描かれているように一見したところ思われがちだし、視覚的な刺激だけが目立ってしまいそうなのだが、とんでもない。イギリスらしいシニカルでペシミスティックな知性が、“文化や宗教によって規定された価値観と人間の本性”といったことについて、ふだん感覚的に抱いている境界がいかに怪しいものであるのかを再認識させてくれる刺激に満ちた作品だった。 そういう類の刺激的な作品として、『ウィッカーマン』は十年近く前に観たホドロフスキー監督の『ホーリーマウンテン』を想起させ、『バタフライ・キス』はマイク・リー監督の『ネイキッド』を思い出させてくれる。奇異で異様で過激な世界に見えながら、全くもって荒唐無稽だとは思えない人間の真実に触れるものが根底にあるから、二作品とも怖い映画なのである。 『バタフライ・キス』で、全身にボディピアスを施し重たいチェーンで身を縛り、鎖擦れで薄黒く欝血した肌に17箇所のタトゥーを刻んだユーニスの心を縛っていた愛の枯渇と孤独の深さは、荒涼としていて絶望的に強烈だ。「神様はあたしのことを忘れている。だからあたしが人を殺しても何も言わない。」と無造作に連続殺人を重ね、そこにいささかの心の揺れも見せない。同伴者ミリアムが犯す情動による殺人との鮮やかな対比がユーニスの抱えた孤独の救いのなさを際立たせていて見事だ。絶望そのものを体現しているがゆえの強烈さと毒気に満ちたユーニスの存在感に触れることでしか生を感じられなかったミリアムの孤独もまた、顕れ方は異なるものの絶望的に深い。人間存在の根源的な哀しさと怖さを底に感じさせる凄みに息を飲み、観終えたときには思わず大きな吐息をついた。 『ウィッカーマン』には観ている自分の常識的な平衡感覚がぐらぐらと揺さぶられたような気がする。一見何の変哲もなく普通に見える村人たちによって、とてつもない事々がいとも軽やかに何の屈託もなく、平然と繰り広げられるのだが、そのいかにもカルト的な仰天するような世界の背後に、ある種のプリミティヴなリアリティを根源的なものとして感じさせるので、人間とは、それが一つの世界観として受容されれば、いかようにもあれる可塑性に満ちた存在であることに思いを馳せずにはいられない。それにしてもケルト神話の世界がこのようなものであったなら、キリスト教的価値観が全く意味を持たず、一顧だにされないのは当然だろうし、互いの文化を否定し合う戦いに至ったであろうことは想像に難くないと思う一方で、僕らがいつの間にか、いかにキリスト教的近代西洋型の価値観に浸ってしまっているかを知らされた気もする。思えば、大地豊穣的なセックス賛歌の原始宗教のほうが汎世界的で、宗教的世界としてはキリスト教のほうが特異だったはずなのだ。そういう点では、なかなか意味深長な作品である。 | |||||
by ヤマ '99. 2. 2. 県民文化ホール・グリーン | |||||
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