美術館秋の定期上映会“美術館製作映画コレクション”
自治体作品としての美術館製作映画


 高知県立美術館が、秋の定期上映会のテーマである「劇映画だけが映画じゃない!」のもとに『美術館製作映画コレクション』と題する企画上映をシンポジウムと併設しておこなった。さまざまな企画上映が花盛りのなかでも、こういった切り口は全国的に見ても初めてのものではないかと思うが、芸術の殿堂と目される美術館が近年、映画に対して非常に強い関心を見せ始めている状況のなかで、その重要性を提起するうえでも、まことに時宜に適った好企画である。
 上映作品には、96年ベルリン国際映画祭でネットパック賞受賞のHEAVEN−6−BOX(高知県立美術館製作)をはじめ、自らのオリジナル映像作品には“身体”という今日的なテーマを課して継続的に製作を続けている愛知芸術文化センターの『T−CITY』『トワイライツ』『KAZUO OHNO』『フィリピンふんどし 日本の夏』。美術館製作映画の先鞭を切った川崎市民ミュージアムからは『残雪』、国際交流や人権啓発といった何かのための手段としての映画の活用ではなく、映画製作そのものを目的として取り組んだ公的機関のパイオニアである伊丹市・伊丹映画祭実行委員会からは、『ひとけたの夏』『真夏のビタミン』と錚々たるラインナップである。加えて、シンポジウムには、それぞれの現場から、松本教仁氏(高知)、越後谷卓司氏(愛知)、川村健一郎氏(川崎)、田中茂氏(伊丹)がパネラーとして壇上に登った。
 観客動員は百名余りということで、通常の高知県立美術館の映画上映会と比べて少なめではあったが、地元高知新聞学芸部のみならず、日経新聞文化部が東京から取材に来たり、世田谷美術館から学芸員が訪れたりと地元地域に留まらない反響を得ていた。これだけの企画であれば、もっと大きな反響を得てしかるべきだと思うのだが、その点では少し残念である。
 個人的には、噂に聞くばかりで観る機会を得ずにいた『トワイライツ』(天野天街監督)や『真夏のビタミン』(三原光尋監督)、加えてタヒミック監督の新作が観られるというのが楽しみであったが、「美術館と映画製作」と題するシンポジウムで現場の声としてどういったことが発信されるのかに何よりも強い関心と興味があった。しかし、その点では一時間という余りにも限られた時間でしかなかったために、これまでの経過や現状が紹介された程度に留まり、何とも物足らなかった。
 美術館が映画製作に乗り出したのはなぜなのか、そして何を目指し、どういった状況を生み出すことを期待して取り組むのかといったことについて、もっと具体的で率直な発言を期待していたのだが、皆お人柄か、余りにも控目な発言に終始した感がある。はじめから、この程度の時間では何も話せないという諦観があったのかもしれない。また、特に川崎・伊丹については、先駆者でありながら、今や製作予算が措置されない状態にあるといったことが負い目として働いていたのかもしれない。しかし、たとえ織り込み済みの事業計画やハード施設の有効活用といったことから取り組み始めた事業であったにしても、実際に携わってくるなかで明確になってきた問題意識や意義、展望といったものがあるはずで、そこのところがもっと雄弁に語られてもよかったのではなかろうか。進行にもう一工夫が欲しかったように思う。結果的には、改めてセルフ・アピールの大切さを再認識するとともに、全国に衝撃と影響を与え、時代の潮流を先駆けたとも言える取り組みでさえ中断してしまったのは、現場職員にありがちな妙な遠慮や気恥かしさが充分なセルフ・アピールを怠らせたからではないかという気がして残念に思った。
 しかし、言葉による発言は不十分でも、個々に上映された作品群がそれぞれの製作主体の個性と狙いを図らずも雄弁に語っていて、非常に興味深かった。川崎・高知については一作品しか上映されなかったのだが、それでも全体的に、個々の作品の作家の個性の背後に製作者の個性を感じさせるプログラムとなっており、そういうものには、普段余りお目に掛かったことがなく、とても楽しい思いをさせてもらった。特に伊丹市の作品がラインナップされているところには、主催者の確かな見識を感じる。全作品を一覧すると、同じように公的機関が製作しても、これだけ色合いの異なる作品群が現われることに驚くとともに、非常に健全なものを感じるし、だからこそ面白くて、今後さまざまなところでそういった試みが実現されていくのではないかという期待と可能性が膨らんだ。
 映画自体を目的とする映画製作に公的機関が着手したことは、90年代の特記事項のひとつとして日本の映画史に刻み込まれることになるであろうが、そのなかでも、これからますます重要性を帯びてくると思われる美術館製作映画の動向には、今後とも注目していきたいと思う。
by ヤマ

'96.11. 2. 県立美術館ホール



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>