『ライトスタッフ』(The Right Stuff)
監督 フィリップ・カウフマン


 今月から映画日誌をつけることにした。これは、その最初になる。期待を上回るほどのものではなかったが、期待はずれにはならなかった。アメリカ宇宙開発計画初期のマーキュリー計画で、初の宇宙飛行士に選ばれた七人の男の物語であるが、国家計画という大きな組織のなかで、組織の側に飼い馴らされずに見事に生きた男たちの物語である。

 男のカッコヨサと幼稚さが表裏一体になっていて、男の生き様を思ううえで興味深い。構成が巧みで、飛行機の元パイロットである宇宙飛行士たちと平行して、あくまでパイロットとして生きた一人のNO1.パイロットの強烈な個性の男を描くことで厚みが出ている。彼ら、生命がけで挑戦的に生きている当事者たちに比べて、それを取り巻く連中、ことにマスコミの連中や政治家たちのなんと薄っぺらで傲慢に見えることか。

 しかし、現実には、いつも力を持つのは当事者ではなく、それを利用する彼らのほうだ。そういう連中に時折しっぺ返しをくらわせたり、地団駄を踏ませるしたたかさは爽快だし、また、彼らはそれを失ってはならない。それはある面、尊大さと映るかもしれないが、政治家やマスコミの傲慢さとは違い、彼らにはその資格がある。その資格とは、つまり当事者であるという点だ。そして、その行為がつまらぬプライドやエゴに拠るのではなくて、真の誇りに支えられてなくてはならぬ。そういう点から考えると、真のヒーローとは結局パイロットであり続けたイエーガーだったのではないかという気がする。ライト・スタッフ(正なる資質)とは、まさにその“誇り”なのである。現代で最も失われつつある価値ながら、人間として最も大事な資質である。




参照テクスト:『ライトスタッフ<ディレクターズ・カット>』の拙日誌

by ヤマ

'84.10.10. テアトル土電



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