■ PAIN  ++その3++ 


夜に涼がどこかへ出て行ったあと、涼が飼っているカメをいじった。
丸い透明のポリ容器に入れられたカメは、人が近づくと寄って来る。

指を出すと齧られそうなので、恐る恐る2本の指で、そおっと甲羅を掬い上げてみた。
カメは、恐ろしそうに首を引っ込めて、手足を平泳ぎしているようにばたばたさせていた。

ここに来た日の涼の荷物は僅かだった。 お友達の車の後部座席に乗る程度。
洋服が入っていた鞄が2つにマンガが入ったダンボール1箱、 それからカメが入っていた小さいポリ容器。
冷蔵庫とか余計な家具は友達に売ったんだと笑っていた。
困ったなと思ったけれど、涼といつもいられて嬉しいと思った。 あの夜はほんとうに嬉しいと思ったんだ。

このまま落としてしまったら、カメは床に落ちて死んじゃうかな。
それとも壁に思いきりたたきつけたら死んじゃうかな。
でも、死んじゃったら、涼になんて言い訳しよう。

それによく見ると、私のことを上目遣いで見ていたりしてなんだかかわいい。
なんだかカメが好きになったから、一緒にお風呂に入ることにした。
湯船に浸かりながらもう一度カメを持上げて、「君はちっぽけだね」と言ってみた。
こんな私に簡単に持ち上げられて、このまま落とされてしまうかもしれなくて。
身体がだんだん温まり、ココロも少しずつほぐれてくる。



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