■ PAIN  ++その2++ 


涼はときどき仕事をする。

そんな日は学校に行けるけど、涼が家にいる日は、あまり学校には行けない。
一人暮らしを反対した両親を必死で説得して進学した大学なのに、 ここ2ヶ月くらいほとんど顔を出していない。
涼が、俺がいるのに何故学校にいくんだなんて機嫌が悪くなってしまうから。
そんな涼を置き去りにして行くことが、私にとってそれほど重要じゃなく思えるし、 私だって涼と居たいし。

怒らずにいてくれる涼は、本当に優しい。
私のためにおいしいパスタも作ってくれる。
涼が作るペンネアラビアータは辛くてとてもおいしい。
知り合った頃涼が働いていたレストランの、いちばんのお勧めメニューだった。

そろそろ寒くなってきたし、新しいブーツを買いに行きたいと誘ったら、 突然涼が怒り出した。
機嫌のいい日なら、買い物も映画も一緒に来てくれるのに、今日は機嫌が悪かった。 気付かなかった私がうかつだった。
このまえも服とか買っていただろう、そんなに自分を着飾ってどうするんだ、 男でもたぶらかしたいのか、 言いがかりだと言い返せなかった。

おまえなんて俺が本気出せば、腕の1本くらい簡単に折れるんだぞと言いながら、 私の腕を後ろでねじ上げる。
もういいよ、本当に折れちゃうよ、わかったよ、痛いよ、最後は悲鳴へと変わる。
本当に折れちゃうよ。
涼が手を離したあと、悲しくてベッドに顔を伏せて泣いた。
ごめん、泣くほど痛かったのかと、涼が後ろの髪をさすってくれる。

付き合う前に、その長い髪が好きなんだと言ってくれた私の髪を。

俺のこと嫌いになるか?俺のこと捨てたくなったか?
子供みたいに悲しそうに聞くから、思わず私は涼を見上げる。
「大丈夫、そんなことないよ、私涼のこと好きだから」

ダイジョウブ、ダイジョウブ、こんな涼を置いては行けない。
いつかこの痛みが、私のココロを壊してしまう日が来るまで、ここにいるから大丈夫。


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