Distance

1.平和へ向けて

「こ、これは……!?」

 帝国の首都、ベクタに入ったロックたちは、その光景に驚愕していた。一部の建物が壊れ、煙がもくもくと上がっており、市街地の人々は今あった出来事でパニックになっており、市街地を逃げ惑っていた。

 魔導研究所で手に入れた魔石を持ってゾゾに行った後、ティナは魔石マディンの力によって自分の出生を思い出し、新たな力を得て再びロックたちの仲間へと戻った。
 その一方で、ナルシェ側もようやくリターナーの説得に応じて共に戦うことを決めた。そして、更に幻獣の力を借りるべくティナで説得を試みようと封魔壁の洞窟へと向かった。
 しかし、封魔壁が開くと同時に数体の幻獣が飛び出し、封魔壁は扉の前に巨大な岩石を積み重ねてより強固に閉じられてしまった。ティナの呼びかけに応じなかったのである。

 そんなわけで、一行は幻獣が飛び出した方角を手がかりにここ、首都ベクタにやってきたわけである。

「やはり……幻獣たちが……?」

 この状況にティナは愕然とした。たった数体の幻獣なのに街を半壊させるだけの力を持つことを。ましてはティナは人間と幻獣のハーフであることを知ったこともあって、自分の内にある力に恐れを感じたのであった。

「おお、おまえたち無事だったか!」
「バナン様! これは一体……!?」
「わからん。わしらがここに着いた時点で街は既にこの有様だった。街の人の話だと見たこともない大きな獣が街を破壊していった、と口を揃えて言っておる」

 バナンからの話を聞いて、ロックたちはこの原因がやはり幻獣のものである、と悟った。

----セリス……!

 街中でこの状況なのだから帝国城の方はどうなっているか分からない。もっとひどい被害を受けている可能性だってある。居ても立ってもいられなくなったロックは帝国城へ駆け出そうとするが、そこは素早くエドガーに腕を掴まれ、止められてしまった。

「どこへ行く気だ、ロック!?」
「決まってる! 城に向かうんだよ!」
「だと思ったよ。だが、今のおまえはどんな無茶をやらかすか分からないからな」

 魔導研究所を脱出する時に一人無謀な行動に出ているため、再度合流してからはエドガーはロックに対して目を光らせていたのであった。

「くっ……離せ!」

 ロックは必死にエドガーの手を振り払おうとするが、力はエドガーの方が上であるためか離れない。どうしても振り払おうと必死にもがいていると、前方から帝国兵が三人こちらに近付いてきた。
 その兵士たちは武器を一切持っていなかった。戦場では戦う意思がないことの表れであるが、敵の罠かもしれないと思った一行は、念のため武器を手に取って構えた。

「どうか武器を降ろしてください。我々はあなた方と戦いに来たのではありません」
「どういうことだ!?」
「もう戦争は終わりです……詳しくはガストラ皇帝がお待ちですので聞いてください。帝国城まで案内します。こちらへどうぞ」

 帝国兵はついてくるように促して帝国城へ向かって歩き出した。それに応じてロックたちもついていき帝国城内部へと入っていった。

 帝国城周辺はどうやら被害を受けていないようだった。セリスがどこにいるのかは分からないが、居るとすればこの周辺と思われるためロックはひとまず安堵の息を吐いたのであった。

 帝国城の謁見の間に着くと、そこには項垂れたガストラ皇帝の姿があった。ロックたちの存在に気付くと、ガストラはゆっくりと顔を上げた。

「わしはもう、そなたたちと戦う気はない……」

 弱い声ながらもはっきりとそう言った。すると、玉座の奥にある扉が開き、一人の男が出てきた。ロックにとってはつい最近知ったばかりの人物だ。

「シド!」
「皇帝は心を入れかえた。幻獣たちは仲間を取り戻しにここにやってきたのじゃ。仲間たちが皆殺しにされたと聞くと街を荒らしてどこかへと去って行った。わしは確かに聞いたのじゃ。幻獣たちの怒りの声をな……」
「わしは幻獣の力を甘く見ていたようだ。まさかここまで強大な力を持っていたとは……このままでは世界が滅びる! そうなる前に幻獣たちを説得して彼らと和解せねばならん!」

 ガストラはそう言うとすくっと立ち上がり、背中を向けて玉座後ろの扉へと歩き、その手前で足を止めた。

「リターナーの戦士たちよ、今夜はゆっくりと食事しながら話をしたい。世界平和のために、わしらはどうするべきかをな……」

 そう言い残して、ガストラは扉の奥へと消えていった。

「会食の準備には少し時間が掛かる。おまえたちにはその間出来るだけ多くの兵士と話をして欲しい。まだこの和平に賛成しておらぬ者もいるのでな。よろしく頼むぞ」

 シドも同じように、扉の奥へと入っていった。

 兵士から話を聞くと、今回の和平に対する考えは様々だった。和平に賛成する者もいれば、納得せずに反対する者もおり、和平そのものは賛成だけど急に武器を捨てるのは無理だ、と訴える者もいた。
 また、ケフカはドマに毒を流した罪で投獄されていることも知り、それに対しては多くの兵士がいい気味だ、と口を揃えていた。ケフカが元々兵士から如何に信頼されていなかったかを示すものである。

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 兵士の話を聞いて謁見の間に戻ると、一人の帝国兵が玉座の奥の扉へと案内した。かくして、帝国とリターナーによる会食が始まった。




 会話は基本的に皇帝とフィガロ城の王であるエドガーが応対していた。一国の主、というだけあってエドガーの外交の手腕も優れており、リターナーとして同席していたシドや他の仲間の出番など全く必要ない、といったところだった。
 しかし、皇帝の『ところで、セリス将軍のことだが……』と切り出したところ……。

「セリスは仲間だ!」

 いきなりロックが割って入ってきた。この言葉だけは絶対に譲れないことを主張するかのように。そしてこの唐突な言葉に、会食の席が少しざわついたのは言うまでもなかった。

「(落ち着け。分かったからここは俺に任せてくれ……)」
「(わりぃ。つい……)」

 ロックの心の中ではあの時の後悔が消えるわけがなかった。だからこそ、この問いかけに対する答えは誰にも譲れなかった。もう、揺れたりはしない。

「うむ。あれはケフカが嘘をついていたのだ。彼女はいち早くこの戦争の愚かさに気付いており、そなたたちリターナーに組していたのだ」

 素早い反応に皇帝は戸惑ったものの、すぐに落ち着いた様子でそう答えていた。

 その後も会食はつつがなく進行し、最終的にはティナの協力の元、帝国とリターナー共同で幻獣が向かったとされる大三角島へと向かい、幻獣と和解を試みることで合意した。




 そして、会食後……。

「ティナが行くなら俺も行くよ」
「ロック……ありがとう」
「みんなはここに残ってくれ。この話、どうもくさいんだよな……」

 今まで支配欲剥き出しだったガストラがこうもあっさり和平を望む、ということに違和感を感じていた。セリスやティナを魔導戦士として育て上げ、魔導研究所で幻獣の力を吸い出して。
 そこまでやってきておいて今更、それも簡単に和平を提案してくるなんてロックにとってはどう考えてもおかしい話だった。

「そうだな。確かに皇帝の言葉をそのまま信じるのは難しいな」
「ならば、我らで帝国の監視をしているでござるよ」
「いざという時のために、俺は壊れた飛空艇を修理しておくぜ」
「ちょっとでも怪しい行動をしてきたら、俺の自慢の腕で止めてやるぜ!」
「がうー。おれ、しっかりあいつら見ておく!」
「二人とも、気を付けて行ってくるクポ!」

「ああ。おまえらも気を付けてな」

 お互いに言葉を掛け合い、ロックとティナは大三角島へと向かうべくアルブルグへと向かった。

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