日は開けて、約束の時間がやってきた。
「しかし意外や」
「何が?」
白いロングコートが首を傾げた。
「あんたが時間通りに来たことに決まっとろう!」
喜びや驚きを通り越してそれは興奮しているように見える。
「ええ、酷いなあ。私だって頑張れば出来るんだよ」
みっちゃん、もといシロがむくれた声で言った。
じゃあ普段から頑張りぃ。そう突っ込みたいのを堪えて、どこ行くん? そう言って振り向いた。
ここはサイポリの中。
シロがゲームの中でなら時間を守れることが分かったところだ。
「どこ行くとか当てはあるん?」
「ああ、クロが連絡くれるって」
名前通り、黒いロングコートに身を包んだ三人目の東組、クロを思い浮かべて、なるほどと相槌を打つ。
「せや、繁華街にでも行こか。あそこなら人も集まるし」
「ヤッター繁華街!」
「買い物に行くんやないで」
シロが暴走しないよう手綱を握りつつ、繁華街を見物するのはまあ楽しかった。ついでにA.m.の情報を仕入れながら、そろそろ移動しようかとシロと二人で算段を立てていた頃。
シロの歩みがぴたりと止まる。
「――クロからだ」
そう言って、シロは直立不動のまま黙り込んだ。大方現実世界で話しかけられたのだろう。
その時間は1分も保たなかった。
「大変!」
現実世界で言えば大声に値するであろう声量で言って、私を揺さぶる。
「出たって!」
「何が」
「アレが」
「はあ?」
シロの言葉はよく分からん衝撃によって支離滅裂になっていた。
「落ち着いて話ぃ。何が出よったって?」
「あの、あれ、A.m.がだよ!」
また、奴が出たというのか。私の頭がゆるゆると沸騰していくのが分かった。
「どこにや」
自分でも分かるくらい、言葉に険がある。シロがそれに一瞬ひるんだ。
「どこに――ああ、うん、それを伝えようとしてたんだよ」
少し落ち着いたのか、早口だったシロの口調がゆっくりとしてきた。
クロから聞いたらしい情報を話し始めた。
そこは比較的人通りの少ない場所で、確かにウイルスを話すのにはうってつけに思えた。
「しかし遠いな」
目的地に向かいながら、そうぼやく。
「まあま」
私のアバターの後を追うようにしながら、シロは言う。
「向こうでクロが待ってるはずだから、まあ逃がすことはないよ」
「けど早く着くに越したことはないやろ」
「早いってば!」
一言で表わせば「荒廃した街」という表現が相応しいだろう。
黒いロングコートが、傾いたビルの上に座る樽とにらみ合っている。そんな構図だ。
「お待たせー。クロ」
「遅い」
ロングコートの方が苦言を呈した。シロと全く同じ姿、クロだ。
「相変わらず性格キツいなあ」
「それどころじゃねぇだろうが」
「ま、そらそうや」
A.m.の方を向き直る。そこで私は息を呑んだ。――A.m.の正体に。
「お前……」
「俺だって嘘だと思いたかったよ」
そこには、Dr.の姿があった。樽の格好も、やりすぎの重装甲と見ればよかったのか。
Dr.から敵意は見えないが、またウイルス騒ぎを起こされてはたまらない。
――まだ、信じたくはないけれど。
「おい、お前!」
相手は緩慢な動作で首を傾げた。
「一つ訊きたい、何故ウイルスを放つ?」
「決まってる」
静かな、穏やかな声だ。本当に「あの」Dr.かと疑いたくなる。
「ここに来る人間が減れば、僕みたいな人間が気安くなるだろ」