Novel

サイバーポリス - 6

 聞こえるように、わざと大きな声で息を吐いてから、思いっきり声を低くして言った。
「何か御用でしょーか」
『……何怒ってるの』
 不思議そうな声で、みっちゃんは言う。本当空気を読まないな、ちぃっと張り倒してもええやろうか。
「で、何」
『あ、そうだったね。私ね、良いこと思いついたの』
 とても楽しそうに、みっちゃんは言う。まるで、新しいおもちゃを見つけた子供のように。
「良いこと?」
 上っていた血が少しだけ引いていくのが分かった。
『そう、私がきなちゃんのお手伝いするの』
「手伝い? 英語の補習は間に合ってますが?」
『そっちじゃなくて!』
 みっちゃんの突っ込みが耳に痛い。私は思わず携帯を耳から離す。
 耳がきーんとする。突然大声出すな。
『――と、聞いてるの? もしもし』
 マイクの音量を最大にしたらしい。耳を離していても声が聞こえてくる。
「きーとりますぅ」
 無線に話しかけるようにして、あからさまに声を張る。するとみっちゃんはひるんだように一瞬黙り込んだ。
 恐る恐る携帯を耳に当てると、今度は正常な音量でみっちゃんの声が聞こえてくる。
『あー、ごめんね?』
「分かればよろしい」
『で、手伝いのことだけどね』
 やたら遠回りをして、話がようやく本題に戻ってきた。
『きなちゃん一人でA.m.の事探そうとしてたでしょ』
「ぎっくぅ」
『あのね、ウケ狙って口で言ったって駄目なんだからね。一人じゃものの限度ってもんがあるでしょ』
 悔しいけれど正論だ。私は言葉を探して、とりあえず唸った。
『唸ったって駄目だよ』
 はあ。みっちゃんのため息を吐く音が聞こえた。みっちゃんにあきれられるなんて超屈辱的! 負けんな自分!
「もう何なん?」
『いやね、だからさ、私が探すの手伝ってあげるよって話』
「あー何やそんなことかって自分!」
『だよねーそうなるよねー』
 みっちゃん完全に棒読みだ。彼女の困ったような笑いが見えるような気がした。怒りなんて意識の彼方に吹っ飛んでいた。

「自分、東組やろ」
『うん、きなちゃん西組だよねえ』
 みっちゃんの声音はいたって呑気だ。
 西組と東組は対立している。
「それを分かっといて自分!」
『でもぶっちゃけ仲悪いのはアーサとDr.だけでしょ』
 言われると確かにそうだ。あの二人は犬猿の仲を体現したかのように仲が悪い。
 でも私がみっちゃんと行動すると、アーサからの心証が悪くなる、絶対。
 コンビの仲が悪いんじゃ、組んでいる意味がない。
『でも今西だ東だ言ってる場合じゃなくない?』
 思いついたように、みっちゃんが言った。
「確かにな」
『ね、というわけでさ、明日一緒に探しに行こうよ』
「わかった」
 みっちゃんがどうせ守らないだろう時間を指定する。それを指摘すると、
『あくまで目安だよ』
 むくれた声が返ってくる。どうやら時間ぴったりに来る気はさらさらないようだ。
「ちゃんと時間守りぃよ」
『いーじゃんよ』
 それから話は他愛もないことなっていって、私たちは30分くらい話し込んだ。多分、サイバーポリスの話をしたときよりも盛り上がったんじゃないだろうか。