Novel

バト厨がイッシュで倒れて大変な話

 ブースターに先導してもらいながら先を急ぐ。走らないよう、それでも急ぎ足で。
 やたら町が広いせいで何度も迷いかける。それでも、でかでかと「P」の看板を掲げた建物の中に駆け込んだ。受付のジョーイさんにポケモンを預ける。
 訝しがられた気がしたが、気にしない。そのまま崩れ落ちるように倒れ込んだ。
 ――お腹が空きました。

 つん、と鼻に触る清潔なにおい。あのラッキーもどきが運んでくれたのだろうか。
 ぼんやり目を開ければ、心配そうな表情をしたブースターがいた。まるで「大丈夫?」と問いかけるその表情に、レギは 「大丈夫です」と応え、軽く撫でた。
 レギが起き上がると、ブースターはベッドの脇に飛び降りた。枕元のテーブルにはお盆が置かれていた。
 お盆の上のサンドウィッチをつまみながら、改めて周囲を見渡す。センターのガラス窓の外は真っ暗で、レギは自分が長いこと気絶していたことを自覚した。
 たぶん夜の遅い時間なのだろう。
――まあ、とりあえず腹が減っては何とやらですね。

 夜食を食べ終え、両手を合わせる。
 ピリリリリリ! 暗い中、突然鳴り響く機械音。ブースターがもぞりと動いた。起こしてしまったらしい。
「何事ですか?」
 慌てた様子で見回りのジョーイさんが駆け寄ってくる。驚かせてしまったらしい。
「すみません、ポケナビが鳴っただけです」
「ポケナビ……?」
 ジョーイさんはきょとんとした様子だが納得してくれたようで、「寝ているポケモンもいますので、注意してくださいね」と言って戻っていった。
「はいもしもし」
『レギくんかい?』
「ああ、オダマキ博士」
 慌てた様子の博士とは対照的に、レギの声はのんきなものだ。
『君、今どこにいるんだい』
「バトルフロンティア――と言いたいところですが、なんとびっくり、イッシュ地方ですよ」
『相変わらずというか、何というか……。ちょうどいいや、ちょっと頼まれてくれないかい』
「おつかい、ですか?」
『そうそう。君の図鑑を、カノコタウンのアララギ博士のところまで届けてくれないか?』
「僕の図鑑を? いいですけど」
 時間かかりますよ? 念を押すように言うと、電波の向こうでオダマキ博士が苦笑した。
『ついでに図鑑をバージョンアップしてくれるとうれしいな』
「はあ」
 なんだ、やる気がないなあ。博士がため息をついた。
「わかりました。カノコタウンですね」
『助かるよ』
 ピッ。ツー、ツー……。
通信を切り上げ、すっくと立ち上がる。ブースターがこちらへ顔を向けた。
「さてブースター、出発です――。と言いたいところですが、時間が時間です。今日は休みましょう」

 夜が明ける。海は明るく照らされ、空は東雲色に染まっていく。眠っていた草木が活動を始め、人やポケモンもまた活動を始める。
レギもそのうちの一人だ。
レギは旅支度を終えると、ポケモンセンターを発とうとした。足下ではブースターが伸びをしている。
「ちょっと待ってください」
 ジョーイさんに呼び止められ、レギはセンターの外に向けていた足を止めた。
「何のご用でしょうか」
「何のご用って、あなた! あのポケモンはどうするんですか」
「ああ」
 そういえばそうだったな、と思い出す。オダマキ博士からお使いを頼まれて、すっかり忘れていました。
 昨日のポケモンを思い浮かべる。
(ヒコザルに似ていますし、あの小さな体、少なくとも未進化ですね。体色は青緑。ということは草か水。特性もらいびのブースターと相性はいいですね。
 ですが、仮に野生だとして群れから追い出される程度の実力。足手まといにしかなりません)
 この思考をわずか二秒で行うあたり、レギの廃人具合が窺えるというものである。
 まあそれはさておき。
「あの子は元々僕のポケモンじゃありませんので、回復次第野に放して構いません。僕は先を急いでますので。では」
 ジョーイさんに有無を言わせない口調で行うと、レギは素早くポケモンセンターを飛び出した。向かう先はカノコタウン、アララギ博士の研究所だ。