どうするよ。どうするって。
和んでいる角少年をよそに、勇允達は額を寄せ合わせて話し合っていた。
「行くか?」
「私行きたい」
月桂がしゃがれ声で即答する。想像の範囲内だ。それにおざなりに返して、勇允は次に弟分の方を向いた。
「冲和は」
「僕も行きたいよ。けど」そこで言葉を切って、冲和は角のほうへ視線をやった。「彼が信用できるかってことでしょ」
「ああ」
唐突にやってきて、自分たちを雇うという。王都までのツテもあるらしい。しかし見たところ育ちの良い”ただの子ども”。――それが角少年に対する評価だ。
彼と知り合いであるらしい闊達は、さっきから口を閉ざしている。役に立たない、勇允はそう判断して、冲和と向かい合う。
「お前はどう思う? 信用できると思うか」
冲和は小さく唸ると、首を傾げた。
「不思議とそんな気がしないんだよね。ほら、何だかお金持ってそうでしょ」
角少年の着ているものは粗末だが、素行には不思議と気品がある。確かに冲和の言葉通りな気がした。
「じゃあ、話に乗るか?」
「それとこれとは別なような」
これじゃあ堂々巡りだ。さっきから、どうも茶に飽きたらしい角少年がこちらを窺ってきている。
早急に決めなくてはならない気がして、勇允はこっそりため息を吐いた。おもむろに闊達の方を向くと、ゆっくりとした口調で、魚の小骨のように引っかかっていたことを問うた。
「闊達、俺らに隠してることないか」
気まずそうに闊達が視線を上げる。それをそのまま受け止めて、勇允は言葉なく促した。
根負けしたように闊達は息を吐いた。
「まあ、平たく言えば元雇い主、だ」
「随分と端折った説明だな、
「その名はもう使っておりません」
観念したように項だれたまま、絞り出したような声で闊達が言う。
「そうか」
角少年の悪戯っぽい笑みに家主は再び息を吐いた。
「兄貴、虎牙大将って何?」
「俺に訊くな」
「月桂知ってる?」
冲和の問いに、月桂は首を振る。濃茶の髪が頭の上で飛び跳ねた。
「さて」
改まった声で、角少年が一同を見渡した。その表情が蔭がかっていたのは気のせいだろうか。窓の外は日が傾きかけていた。
「この国は腐っている。腐った国を変えるには、多少の犠牲は厭えない――主らにその覚悟はあるか?」
「それは、つまり?」
ごくり、誰かが生唾を呑んだ音がした。
「私を王都まで送り届け――その足で――王を斃す覚悟はあるか、と訊いている」
告げられたそれは、少年達には余りにも重い。沈みかけた日が、部屋の中に影を落としていた。