小さい体は厄介なものだと思う。
人混みの中、はぐれないように月桂の細い腕を掴んだ状態で勇允は思った。
勇允は弟分との待ち合わせ場所まで来たのだが、いかんせん彼は体が小さい。この人の多さではすぐに埋もれる。
「ちゅーわー」
声を張ってみるものの、そこかしこで声を上げている露天商達に掻き消された。
そうでなくてもお腹が空いて腹に力が入らない。
「うう腹減った」
腹を抱えてうずくまる。
「勇允、あっち」
勇允の背をぽんぽんと叩きながら、しゃがれ声である人混みを指さした。
街の隅に何かを囲うように人だかりができている。月桂が耳をそばだてる仕種をしているのを見て、勇允も真似して耳に神経を集中させる。
――兄貴、兄貴。勇允の兄貴!
はっとして、人だかりに向かって駆け出す。
「冲和!」
「兄貴ぃ」
思った通り、人だかりの中には、柄の悪い男達に絡まれている背の小さい弟分が居た。
人だかりに割り込んで、背中に弟分を隠すようにして立った。
「何もんだ、てめえ!」
集団のうちの一人が声を上げた。
「コイツの兄貴分だ」
目の前の集団を睨めつけながら、何したんだ、と小声で冲和に問う。
「何もしてないよ。ただこの人達おつりを誤魔化してたから」
それを聞いて勇允は盛大に頭を抱えた。はあと大きくため息を吐いて、前を見据える。
「説教は後だ、とにかく突破するぞ」
「え、でも」
「ごちゃごちゃうっせーぞ」
男が怒鳴る。殴りかかろうとしてきたのをかわす。そのまま相手の懐に入り込んでみぞおちに一撃。
「てんめぇ」
集団が色めき立った。勇允はそれを無視して走り出す。
「逃げるぞ、冲和」
勇允に声を掛けられて、金縛りが解けたかのように冲和も走り出す。
途中月桂の腕も掴んで、三人で街の中央道を駆け抜けた。
駆け抜けた先にあったあばら屋で、三人は男達をやり過ごした。