さて、どこから話すのだったか。
――そう、六年前だな。
六年前、私は誘拐された。それは盈月も知っているだろう。何でも、影家に反感を持っている者の仕業らしい。
らしい、っていうのは、主犯にあったことがないからだ。どこか、たぶん主犯の家に連れて行かれる最中に、馬車が襲撃されたから。
……そういきり立つな、盈月。私は無事だ。
そうして、”団長”の元で一年過ごした。旅をしながら。彼の本名は知らない。本人がそう呼べと言ったから。
世話はどちらかというと”やかまし屋”に焼いてもらったな。名前の通りだ。口やかましくああしろこうしろといってくる奴。本名は知らん。
生活は――盗賊そのものだったな。盗みもするし、必要なら殺しもする。
……だから騒ぐな、盈月。
まあ、あのときの生活が祟って背が伸び悩んでいるのは認めるよ。本当にひどかった。
”団長”は浦西に向かっているようだった。何か目的があったと言うよりも、王都から逃げているようだった。
浦西で勇允に――その両刃刀持った奴――に出会ったのが五年前。そのときは、いろいろすり切れてて、ひどい有様だった。なあ、勇允。
え、”団長”?
彼は、
「私が、殺した」
告げられた言葉はひどく重く、その場に沈殿した。
月桂のかすれ声から事情を聞き取るのは難儀なことだったが、そんなことよりもその内容が、どれも勇允の耳を疑うようなものばかりで。
けれど納得もする。
だからあんな目ができたのか、と。
初めて会ったときの月桂の目。あれは月桂が常軌を逸した生活をしていた証左に他ならない。
「”やかまし屋”は?」
「知らん。確か、そう。私が、”団長”、殺した後、逃げた」
それが真っ当な人間の行動だろう。
「虧月、いや、月桂か……?」
弱々しい盈月の声は、暗闇に吸い込まれた。
「わからない」
凜と芯の通ったしゃがれ声は、勇允が月桂と初めて会ったときに言った「分からない」とよく似ていた。
「私は、自分が、どちらか、わからない」
言葉は少しだけ泣きそうに震えていた。そのわずかな震えに弾かれたように、盈月が暗闇の中へ飛び込む。
次いで、軽い破裂音。
想像できないが、たぶん盈月が月桂をはたいたのだろう。
「お前はお前だ。この大馬鹿者! お前は、私の大切な妹だ」