目を覚ますと、いきなり見知らぬ天井が目に飛び込んできた。起き上がって周囲を見渡す。質素だが、調度品は皆高級そうだ。
先程から感じていた違和感に目を落とせば、服が着せ替えられている。蒼い絹衣は光を反射して眩しく見える。そんなことよりも、勇允は衣の値を思って頭を抱えた。
枕元には得物の両刃剣が、何故か手入れされた状態で置かれていた。まるでこちらに害意はないよと言うように。
静かだ。静かを通りすぎていっそ不気味だ。早くここから脱出しなくてはならないという危機感に従って、身の丈程の両刃剣を背負い部屋を出た。
――月桂はどこだ?
廊下はがらんとしていて、人の気配が感じられない。廊下はそのまま中庭に面していて、空は四角い曇天を映していた。
森閑としたそこは、まるで物の怪かなにかの屋敷にいるかのようだ。
「おや、起きられましたか」
不意に人の声がして咄嗟に剣に手をかけた。
「そう警戒しないでいただきたい――というのも無理なお話か。私は
そう語る青年の面差しは、月桂とよく似ていた。ただ、背丈は青年、盈月の方が高い。
そんなことより。
「浦西県吏? ここが浦西だって言うのか」
あり得ない、と勇允は首を振る。
「浦西は今大雨が降っているはずだ、とおっしゃりたいのですか? それならご心配なく。影家に
「月桂のことか?」
「あなたはそう呼んでいるようで」
盈月のとぼけるような返事を遮るように、勇允の背後で爆音が鳴った。盈月の顔が強張り、勇允を押しのけて音のした方へとかけていく。
「おい」
とにかく彼から話を聞かなければならない。勇允は盈月の後を追った。
さて、ところ変わってこちらは冲和、
「不気味」
浦西に着くなり、じっと曇天を睨めつけながら、冲和が言った。その言葉に、前方を行く二人が立ち止まる。
「何のことだ?」
角少年の問いに、冲和は視線を落とす。
「聞いたことない? 雨の町、浦西って」
「ん――ああ。聞いたことがあるぞ。慈雨、だったか」
「慈雨?」
角少年が尋ねたのはお前の方だろうが、という顔になる。
あきれて口を閉ざしてしまった角少年に代わり、闊達が口を開く。
「五年前、浦西の大火を鎮めたのがこの止まない雨だそうだ。それで、慈雨と呼ばれているらしい」
「皮肉な話だね」
解説に、冲和は顔をゆがめた。
「雨のおかげで浦西は冷夏、作物もろくに育たなかったのにさ」