Novel

亡国の獣 拾参―花簪・上―

 店をハシゴする度に、勇允達の荷物は増えていく。
「おい」
 勇允達の後ろをぼんやりとついてくる角に向かって、勇允は不機嫌そうな声を出した。
「ついてきたんならちっとは手伝え」
「あ、ああ。分かった」
「はい、これね」
 冲和から買い物袋を手渡され、角少年は体を前によろけさせる。そんなに重そうな荷物ではなさそうだが。

「おいそろそろ帰るぞー、って、あれ?」
「どうしたのさ兄貴」
 あれからまた店をハシゴして、勇允たちの荷物はふくれあがっていた。これでは荷馬車を雇わねばなるまい。
「いや、角が見当たんねえなと思って」
 ためしに周囲に視線をやってみるが、角のものらしき小綺麗な服は視界の端にも映らない。
「ああ、あのお坊ちゃん?」
 そう言う口調に刺があるあたり、冲和は角少年に、相当な敵対感情を抱いてしまったらしい。
「お坊ちゃんかー。違和感ないな」
「なさ過ぎて逆に怖いよ。どうする? 実は名家の子息で、傷でもつけたら僕ら死刑! とかなったら」
「……やめろよ想像できちまったじゃねえか」
 偉ぶった口調で、無駄に高い自尊心を振りかざす角少年が、名のある家の豪華な椅子の上でふんぞり返っている姿が。
「実はエイ家の隠し子とか」
「無駄に生々しいからやめようぜ、この話」
 勇允の意見に、冲和がそうだねと頷いて、お開きとなった。命は一等大切なものだ。
「まあ奴が自発的にはぐれたにしろ人波に呑まれたにしろ、動かないほうが良いよな」
「あの子荷物持ったままだし。……全く、どこで何してるやら」
 道の端に寄りながら、物事の確認をするように二人は言った。会話が途切れて、二人の間に沈黙が降りる。
 端に立っていると、雑踏が二人を避けて、地面の土色を隠しているのがよく分かった。遠くに聞こえる露天商の声。全てが全て、五年前と同じだ。
「懐かしいな、ここで金が尽きちまって、乞食のまねごとをしたんだっけか」
「あれは実際乞食でしょ。僕死ぬかと思ったもん」
 結果として生きているわけだけれども。苦笑混じりに冲和は言う。
「おい二人とも」
 偉ぶったような声の方へ顔を向ければ、誰あろう、行方不明のはずの角少年の姿がそこにあった。