Novel

亡国の獣 幕間―ある王の独白―

 己はいつも一人だったと記憶している。
 己は幼くして王になった。
 己には親兄弟はいなかった。
 己の傍にいるのは臣か、あるいは女中だけだった。
 別にそれが普通だったから、さして感慨は抱いていない。

 あるとき臣が言った。
 臣の言うことはよくきくもののだと思っていた。し、そう教育されていたから己も聞き入れた。
 ――曰く、浦西の県吏が謀反を企てていると。

 ある将が己に言った。
 曰く、浦西県吏は公明正大な人物であり、その徳政は民に好かれている。斯様な人間が謀反を起こすはずがないと。
 己にはどちらが正しいのかよく分からなかった。分かるのは、将がなかなかに腕の立つ人物であるとことぐらいだった。

 臣たちは口をそろえて言った。
 曰く、かの将は己を惑わそうとしていると。

 ――己は結局、浦西に兵を派遣した。
 件の将は、配流となった。ただ、風のうわさで、彼は軍を辞めたときいた。