己はいつも一人だったと記憶している。
己は幼くして王になった。
己には親兄弟はいなかった。
己の傍にいるのは臣か、あるいは女中だけだった。
別にそれが普通だったから、さして感慨は抱いていない。
あるとき臣が言った。
臣の言うことはよくきくもののだと思っていた。し、そう教育されていたから己も聞き入れた。
――曰く、浦西の県吏が謀反を企てていると。
ある将が己に言った。
曰く、浦西県吏は公明正大な人物であり、その徳政は民に好かれている。斯様な人間が謀反を起こすはずがないと。
己にはどちらが正しいのかよく分からなかった。分かるのは、将がなかなかに腕の立つ人物であるとことぐらいだった。
臣たちは口をそろえて言った。
曰く、かの将は己を惑わそうとしていると。
――己は結局、浦西に兵を派遣した。
件の将は、配流となった。ただ、風のうわさで、彼は軍を辞めたときいた。