「おお、凄いぞ!」
「上達したなあ、誇らしいぞ!」
「格好いいよ、勇允!」
「後ろの馬鹿3人とっとと逃げやがれ!」
軽く殺気立ちながら勇允は言い放つ。そろそろ手が限界に近いのだが、早くどっか行ってくれないだろうか。
「諒解した」
言わんでもしてくれ。心の中で切にそう思う。
3人の足音が遠ざかったのを確認して、月桂に声をかける。
「俺たちも行くぞ!」
白い賊の攻撃の手から逃れつつ、月桂は頷いた。彼女は血気盛んな性格だが、闘いに対する強い矜持は併せ持たない。
――あっさりしているのが月桂のいいところだ。
豆粒ほどに小さくなった3人の後を追いかけ、勇允達も走る。途中で剣を拾うことも忘れない。
足の速さで自分の右に出る者はいまい、と言う自負が勇允にはある。そしてその自負は実力を裏切らない。
あっという間に、先を行く3人に追いつき、そして追い越した。
「相変わらず早いね!」
「感心だぞ」
一番前から勇允。闊達、闊達に抱えられた角少年。少し遅れて冲和。冲和と間を取るように月桂がしんがりについている。
「待て!」
賊達は荷車に乗って追いかけてくる。無人で動く荷車が不気味だ。大の大人が狡いと思う。
「何なの?」
冲和が悲鳴を上げた。
「童を渡せ!」
黒い賊の怒鳴り声に、角少年が体を縮めたように見えた。
「その――一番小さいのだ!」
賊が角少年を指さす。角少年は顔を隠すように頭を抱える。どうやら賊の狙いは角少年であるらしい。
がらがらと音を立てて荷車は迫ってくる。月桂が一行を離れて荷車の前に立ちふさがった。
「轢かれたいか!」
どけ。邪魔だ。そんな賊達の罵声などには耳も貸さず、月桂は両手を前に突き出した。
彼女の両手から光があふれ出た。それは道を覆う程に大きくなって、やがてそこに壁を造った。
氷の壁。先の勇允の力の応用だ。
氷の壁は荷車の進入を阻むように立っている。壁の向こうから苛立ったような声が聞こえた。
「行くぞ」
月桂は自分の氷に何ら芸術性など見いださない。また、切り替えの早いのが月桂のいいところだ。
「おう」