「お前達、用意は出来たか」
闊達がこちらにのしのしと歩いてくる。その前を、元気よく少年が駆けてくる。
「もちろん」
抑えめな声で、勇允は答えた。
角少年が小さい歩みでこちらに近づいてくる。
「うむ。ではそろそろ出発だな」
うんうん。頷きながら少年は言う。
「何を話していたのだ?」
少年のことを見とがめながら、月桂は問う。あまり度が過ぎるようであれば、一回お仕置きが必要だろうか。眼がそう言っている。怖い。
「小さなことだ」
闊達はそう言って月桂の頭を軽く叩いた。
「さて、行こうか」
号令に、一行は動き出す。
静かな行軍は、こうしてつつがなく始まりを迎えると思われた。
不意に月桂が立ち止まったかと思うと、背後を振り向き、得物に手をかけた。すぐ隣を歩く行商の男を睨む。
その動きに呼応するように、行商の荷台が揺れ、その中から数人の男どもが現れた。
――賊!
勇允がそう思ったのが早かったか、それとも月桂が得物の槍を振るったのが早かったか。
ともかく、一瞬だった。
賊の一人、白い方が刀を振り下ろす。月桂がそれを槍で受け止める。
ひ、小さな悲鳴を上げた角に、もう一人の黒い賊が野性の眼を向けた。
咄嗟に勇允は角と黒い賊の間に割って入る。勇允の両刃剣と、賊の刀とが競り合う。
「童を渡せ」
「は」
どういうこった。しかし勇允のそれは、声にならなかった。賊が2撃目を繰り出したからだ。
横から叩くように繰り出されたそれに、剣がはじき飛ぶ。賊を行かせまいと、渾身の力をもって突進する。
遠いところで剣の乾いた音が鳴るのと、賊の悲鳴が上がるのと、それは同時だった。
「貴様……」
勇允の行動が矜持に触れたらしい。賊は勇允を突き飛ばす。
勇允は尻餅をつきながら、両手を賊に向かって広げた。
掌から炎があふれ出る。異能の一つだ。賊は炎にたじろいで近づいてこない。