Novel

亡国の獣 一章 七

 勇丁が目を覚ましたとき、視界は真っ暗だった。
 目だけを動かして周囲を伺う。隠れ家の中だ。狭い居間の床、卓子(つくえ)の下に丸まるようにして横になっていた。
 ――悪い夢を見た。
 背中がじっとりと汗ばんでいて、妙に鼓動が早い。
 どんな夢だったかは忘れたが、とにかく悪い夢だった。
 ――獣め。
 耳に残る声がやけに生々しい。忘れよう。勇丁はそう思って、ごろりと寝返りを打った。張り付いた寝間着が気持ち悪い。
 明日出発であることを思い出して、緩く息を吐いた。玄関口の方に目を遣れば、いつものように闊達が大の字に寝ている。椅子のほうを向くと、月桂がこちらに背を向けて眠っていた。
 あの後、出発の準備はすぐに整った。元々荷物の少ない三人だ。あの角の信じられないような目が妙におかしかった。思い出して、勇丁は頬を緩めた。