赤い、真っ赤な世界。赫々(かくかく)と燃えているのだ。
そんな街の中を、一人の少年が走っていた。身の丈ほどの剣を抱えて。どうしてこうなったのかは、わからない。けれど気がつけば勇丁は走っていた。
死にたくないから。
走って、走って、山の方へ駆ける。心臓が爆発しそうだった。熱気を取り込む喉が灼けるようだ。重い剣を抱えた腕がもげそうだ。
とにかく走る、走る、走る。
何かに突っかけて転んだ。剣が宙を舞う。
「あ」
勇丁の口から僅かに空気が漏れた。息は荒く、声を出すほどの余裕もなかった。ふらふらと幽鬼の様な足取りで、地面に転がされた剣に近づく。
息をする度、肺が痛んだ。火の粉に焼かれたのかも知れない。ぼんやりと赤い空を見上げながらそう思う。
こうなったのは一瞬のことで、一体何が原因なのか勇丁にはわからない。誰かの不始末だろうか。行灯の火が何かに燃え移ったのだろうか。
みんなは無事だろうか。この剣をくれた、少し前に知り合った勇丁の大切な仲間は。
ごお、ごお、ごお。
炎が唸る。家々を飲み込んでどんどん大きくなっていく。生きている人間はいない――多分、みんなも呑まれたのだろう。
剣を拾い上げる。多分これだけが形見だろうから。そう思うと、剣の重みが増した気がした。
不意に背後で炎が爆ぜた。
まるで勇丁を食おうとするかのような炎のうねりに、勇丁は弾かれたように走り出した。
山の方へ、ただひたすらに。一体どれくらい走っただろうか。疲労で前後不覚に陥った勇丁には、背後が明々としていることしかわからない。そして何かに躓いて、転んだ。それでも今度は剣を手放したりはしない。
立ち上がる体力も気力もなかった。擦れた腕と膝が酷く痛んでいた。荒く息をする。心臓がひどくのたうっていた。大量の空気が入ってきて熱くて苦しい。肩を上下させながら顔を持ち上げると、何百もの目が責めるように勇丁を睨んでいた。
「獣め、お前がやったのだろう!」
誰かが言った。違う。そう反論したいのに、口は息をするのがやっとだ。堰を切ったように、目は罵倒し始めた。
「お前が焼いたのだろう! この街の、何もかも! この」
――獣め!
怒鳴られた。けれど最後の言葉は否定が出来ない。勇丁は真実獣であるのだから。悲しくなって、俯いた。剣を抱く手が、震えた。
(おれはいきてはいけなかったのか)
止めどなく罵声が浴びせられる中で、勇丁は小さく呟いた。けれどその呟きを拾う者などいやしなかった。
呟きはやがて勇丁の胸中にどす黒い塊として落ちていく。
浦萼が焼けたのも。
――ぜんぶ
仲間が死んでしまったのも。
――ぜんぶ、ぜんぶ
自分が責められなければならないのも。
――ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、
――王の、せいだ