目を覚ますと、心配そうな表情のナージャと目が合った。身を起こす。充分休んだせいか、ずいぶん体が軽かった。時計を見るに、どうやら一晩中寝込んでいたようだった。
「大丈夫?」
「ええ」
そう言って微笑むと、ナージャはすまなそうに項垂れる。どうやら、サイが倒れたのは自分に責があると思っているようだった。サイはもう一度大丈夫、と言ってナージャのくすんだ金色の頭を撫でた。するとなぜか怒られた。
ナージャに連れられて、一階のホールへ向かう。そこは食堂とダイニングを兼ねているらしい。ナージャに似た少年が、食事を並べている。
「サンドル! Доброе утро」
サンドルと呼ばれた少年も同じ挨拶を返したあたり、どうも「おはよう」と言いあったのだろう。サンドルの視線がサイの方へ向いた。ナージャと同じ灰色の視線だが、探るような鋭さは異なっている。
「お名前は?」
サイが異邦人であることを理解しているのか、ゆっくりとした口調だった。
「ワン・サイ。サイが名前」
「そうですか。僕はスクルージ・サンドル・シードルです。あなたと同じ、シードルが名前です」
言って、サンドル、もといシードルは片手を差し出した。それに応じるが、どうもシードルの信頼を得るまでには至らなかったようだ。シードルは、鋭い視線をサイから離さない。
「ここで、勝手な真似は、許しませんよ」
「しないわよ」
サイの返答に満足したのか、シードルは、ふいと顔をそらして、自分の仕事へ戻っていった。
そうして、騒がしい朝食が始まった。先ほどは冷静に振る舞っていたシードルも、ナージャに朝食のパンを奪われて怒鳴っていた。マールファに窘められても、不満そうな表情を隠そうとしない。どうも短気な性質(たち)らしい。自分が短気であることを自覚しているサイからすると、親近感が湧く。
食事を終えると、ナージャに引っ張られるようにして、食堂を出た。
「どこ、行くの」
「造船所!」
サイの手を引きながら、ナージャは快活に答える。大通りに出て、街の中心から少し離れた一角へと向かっているようだった。やがてあの食堂近辺のような賑やかさは失せていき、閑静になっていく。
「ここは?」
「Мастер-стрит あー、職人たちの、街」
最初は駆け足のような早口で聞き取れなかったが、二回目は並足程度にゆっくりとした発音になって、どうにか聞き取れた。それに従ってか、ナージャの駆け足もゆっくりになる。
「あそこ!」