ゆらゆら揺れている。ぼんやり目を開ければ、庭の白いハンモックに横になっているのが分かった。
上半身だけを起こすと、庭に広がる情け程度の畑が見渡せる。さんさんと太陽が照っていて、暑いはずなのにそれを感じなかった。庭の端、木陰で母が本を読んでいた。
縁広(つばひろ)の帽子を深く被っているのと、母の白く長い髪が顔を遮っているせいで、顔色はよく分からない。
でも虚弱な母のことだ。きっと日光で茹だっているだろう。
「母さん」
「うん?」
母の、血の気の通わない真っ白な顔が、本から視線をあげてこちらを向いた。意外にも、暑さを微塵も感じていないような、汗ひとつ浮かばない顔だった。
「父さんは」
母は少し黙り込んでから、出かけてるのよ、と告げた。そうなの、と返答しかけて、はたと口を噤んだ。
――父がこんな昼間から出かける?
「お仕事じゃ、ないの?」
サイの問いかけに、母は困ったように笑った。彼女は少し視線を彷徨わせてから、父さんには行かなきゃいけないところがあるの、とだけ言った。
「おやつを用意してくるわね」
母はふらつくように立ち上がると、そう言って家の中に消えていった。
その幽霊かなにかのような背中を見送りながら、サイはもやもやとした違和感を覚え始めていた。
何かがおかしい気がした。病弱な母が、こんな太陽が照りつけるような日中に外で本を読んでいるというのもそうだし、父が日の高い頃から、仕事にも行かずに他のことを優先させるのもおかしい。もしそんなことがあれば私たちに一言何か言うのに。
私たち? そう、「私たち」だ。今この家にいるのは、私と母さん。父さんは出かけていて――。誰かが足りない。誰だろう。
サイがそう考え込んだところで、その思考を寸断するような声が、サイを呼んだ。
「サイ!」
庭の入り口で誰かが手を振っていた。よく見てみなくても、あの髪色は幼馴染みのトッドだ。髪色と獣耳を隠す帽子はどうしたんだろう。
「どうしたの」
「『どうしたの』じゃねえよ。お前が約束すっぽかすから、心配して見に来たんだ!」
「ええ?」
約束なんて、していただろうか。思い出そうとしても、頭に靄がかかってしまったかのように思い出せない。
とにかくトッドの方へ駆け寄ろうとした途端、柔らかい足元がぐるんと回って、足に絡みついてくる。気が付いた時には鼻すれすれに地面があって、宙吊りになっていた。
……そう言えばハンモックに座っていたんだった。
「あーもう。今そっち行くから、動くなよ」
トッドの呆れたような声が近寄ってきたところで、太陽に目を細める時のように、 何故か視界がぼんやりと滲んでいった。