サイのベッドの横には軍服を着た男性が、椅子に座ったまま眠っていた。多分軍人なんだろう。変わった色の髪をしている。白髪にも見えるアイボリー。サイには似たような色合いの知り合いがいた。その例から鑑みるに、瞼の奥にある瞳も、多分同じ色なのだろう。
その軍人が、目を覚ました。予想通り髪と同じ目の色をしていた。サイの様子を見て、ホッとしたように何か言う。辛気臭い顔だ。
そこで初めて、ここが言葉の通じない異国であることを思い出した。
サイが何か言うよりも先に、軍人が指を立てた。四本。それはわかるが、どう伝えよう。この国の言葉で、四は何というのだったか。頭がぼんやりして思い出せない。
サイは少し考えて、同じように四本指を立てた。軍人は次に二本指を立てる。サイは先程と同じように真似をして、答えた。
軍人が何か言った。だが、サイにはなんのことやらわからなかった。サイの態度に軍人は肩を落として、病室を出て行った。
今になって、鼻孔と咥内に残った吐瀉物――胃に何も入ってなかったはずだから、胃液か――が、蘇ってくる気がした。鼻をかむか、口をゆすぐかしたい。
どうにか起き上がってあたりを見回す。使えそうなものは置かれていなかった。
やがて騒々しい音がして、ドアが開いた。
「サイ! お前、大丈夫なんだな」
「うるさい、頭に響くじゃない」
現れた銅色に、サイはため息を吐いた。幼馴染みのトッドだった。
サイの、あの「軍人と似たような知り合い」その人。軍人は白髪のようなアイボリーだったが、彼は銅(あかがね)色の髪に銅色の瞳をしている。寒がりで、コートを着込んでもなお震えていた。
「お前が倒れたって聞いて、俺は飛んできたのに、お前って奴は……」
「だって気分が悪いんだもの。仕方ないじゃない」
なおもトッドが言い募ろうとしたのを、ため息で制した。トッドの掠れた怒鳴り声が頭に響くのだ。口に残った胃液が気持ち悪い。だが、迎えが来たからといって起き上れるほど、回復してはいなかった。出来ることなら明日まで寝ていたい。
だが、サイの幼馴染みはそれを許さない。
「ほら起きろ」
「なんでよ」
「寝たいならうちで寝かせてやるから。ここ軍属病院なんだよ。外国人のお前を一晩置いてくれるほど、優しいところじゃねえの」
軍属病院だからなんだというのだ。トッドに無理やり立たされて、彼に寄りかかるようにして歩く。体調が悪いせいで思考がまとまらない。
トッドはそんなサイを引きはがそうとした。
「しゃんとしろよ」
「いいじゃないの。……ねえ、ちょっと口ゆすいできていい? さっきから気持ち悪くて」
わがままを言って、トッドにトイレまで先導させる。
そんな二人を、監視するように立つ人物がいた。