「うるっさいなあ」
己の母国語で、ぼそりと呟く。サイの不機嫌を感じ取ったらしいトッドが、げ、と小さく声を上げた。
「なによ、事情も知らないで。言っとくけどトッドは何も悪くないわ」
倉庫の中だというのに、風がそよいでいた。ナージャに手を引かれたが、それを振り払う。
「あんた馬鹿なの?少しでもトッドの話を聞いたらどう?トッドもトッドよ、言われてばかりじゃなくて、もう少し」
「サイ、わかったから少し黙れ!」
焦ったように叫ぶトッドの向こうで、造船士が表情を消した。憎たらしい相手に出会ったときの表情、とでも表現すればいいだろうか。
「お前がサイか」
「ええ」
初対面だろうに、どうしてこんな顔で睨まれなければならないのか。サイには分からなかった。造船士が何か言いかけたのを遮って、トッドがあー、と声を上げた。
「お前がもう少し早く来てりゃ、こうはならなかったんだぞ。半年も待たせやがって」
「は、何よ突然」
うんざりしたように言われて、幼馴染みに額を弾かれる。かっとなってトッドにつかみかかろうとした。だが、手足の長いトッドに両手を押さえられて、動けない。
「離しなさいよ!」
「断る」
二人の勝負は何故か押し合いになっていた。そんな二人を見て、ナージャがけたけた笑っている。
不意に力が抜けて、支えを失ったサイはそのまま倒れた。トッドが急に離れたのだ。ドタッ、と顔面から倒れ込む痛そうな音の直後、愉快そうな笑い声が響いた。
ナージャとあの造船士だ。それを聞いた瞬間、サイの中で何かが切れた。倉庫の中にびゅおう、と旋風が吹いた。
まずトッドを投げ飛ばし、次に呆然となっている造船士に足払いをかける。
仕上げに彼の喉元にレイピアを突きつけた。それを見てナージャがひゃ、と小さな悲鳴を上げた。
「馬鹿にしないで」
馬鹿にしたのは主にトッドだろうが、サイには「そんな細かなこと」はどうでも良かった。男二人にやつ当たりして少しは気が晴れた。
「で、あなた誰」