Novel

二章 二‐二

 宴は日付をまたぐ頃には終わった。早々につぶれたサイは自分にあてがわれた部屋で眠りについている。職人達も寝静まり、工房にはある種異様な沈黙が降りていた。
 トッドは一人起きて、日誌を読んでいた。職人達の努力の塊の様なそれは、一ページごとに彼らの喜びや悔しさ、決意表明が綴られていた。

 4月18日 担当:トーボーグ
  今回の依頼主だという少女がやってきた。団長の同郷であるらしい。良いのか、戦艦用の船を流用してしまって。
 かなりの不安が伴う。船を作るのは良いが、その資金はどこから調達するのか? 
 まあ、ともかく、俺たちの役目、使命は船を作ることだ。
 今の課題は翼だな。

 4月21日 担当:ソーマ
 トーボーグ“方い”なぁ! なるようになるのさ。親父も言ってたじゃん、「俺たちゃぁしがない船作り」ってね! まあ、飛空石に“充て”があんのは“言い”ことだけどね。
 翼は”しゅんちょー“、今は切り出し中。ノコギリギコギコやって腕が”居て“え。
 イシューの姉ちゃんも結構手伝ってくれてるよねー。あれで“ひんしゃく”じゃなかったら言うことなしだよ。
 そういえば“ほーこく”、白鹿造船団がお金と人手貸してくれるってさ。
  ・誤字が多いぞ。トーマ

 4月30日 担当:マクシーム
 よーやく翼の切り出し終わったっす。うあああ、ソーマに負けた! チクショウ! 年下のくせに!
 そろそろ浮き袋の受注が必要っすね。会議でも話したけど、今時請け負ってくれるところなんてあるんすか? 飛空石も大事だけど、何が欠けても船は飛ばねっすよ。
 ちくしょう……。
 5月2日 担当:トーマ
 右翼の削りだしが終わりかけている。良くやったぞマクシーム。
 赤鳥織布所がうちの浮き袋を請け負ってくれるそうだ。
 サイも随分口が達者になってきたな。やかましくてかなわん。やかましいのはソーマだけで十分だ。
 町の人からお金と食事を「寄付」していただいた。今日の食事は豪勢だぞ。

 トッドは読み終わると、ペンを取って一番新しいページに書き足した。
 5月19日 担当:トッド、あるいはトージャ
 スコーリンへの通行許可が出た。今日はすごい騒ぎだったな、いつ憲兵に押さえられるんじゃないかってひやひやしたよ。
 みんな今までご苦労さん、そして、これからもがんばってくれ。
 船が出来たら色んなところにお礼しなきゃならんな、いっそドでかいパーティーでもするか。
 明日出る。見送りは要らない。
 トーボーグ、留守は頼んだ。ソーマ、マクシーム、ヴィクトリカ、下らない喧嘩すんなよ。トーマ、ヴィーカ、カールプ、それと他のみんな、良い船を仕上げてくれ。
 ああそうだ、トーマにソーマ、サイの面倒を頼んだ。いろいろと押し付けて悪いな。

 トッドは書き終わると、それを閉じていつもの場所へしまった。もう日付は変わっていたが、トッドはそんなことを気にする性格ではなかった。そして立ち上がると、朝日を全身で浴びるように伸びをする。
 いよいよ、「今日」だ。