祝新春コラボレート企画

幻の長岡鉄男「外盤A級セレクション」続編 第4.5.巻
2005年1月1日開始

 優れたアナログ・ディスクのガイドブックとして今でもマニアの信頼の厚い長岡鉄男氏の著作「外盤A級セレクション」第1−3巻は、当初は5巻まで出し、500枚(組)の輸入盤レコードを紹介する計画だったという。LPからCDへの移行が長岡氏の想像以上に早く、3巻で止まってしまったそうです。
 この本の元ネタの一つになった季刊FMfan別冊、連載の外盤ジャーナルを改めて繙いてみると未紹介の「優秀録音盤」が夥しい数ある事が判ります。中には辛口の長岡氏には珍しく最大級の大絶賛しておいて外セレに登場しなかったレコードもかなりあります。そこで、幻の長岡鉄男「外盤A級セレクション」第4.5巻と称して外盤ジャーナルに紹介されていた中の「優秀録音盤」を順次紹介していきたいと思います。
 当初、外盤ジャーナルは自宅再生装置のテスト、オーディオチェックに使える優秀録音のレコードを毎回8枚ほど紹介する目的で連載が始まりましたが、次第にコーナーが大きくなり録音の劣悪なゲテモノ盤まで取り上げるようになりました。そうした不良録音モノや「外盤A級セレクション」と内容の重なるものは省略しました。
 それからオリジナルの本文から要約し録音と音楽内容に関係ない部分は極力カットし、分かり易いようにほんの少し改変した部分もあります。スペクトルアナライザーの周波数分布を写真表示されていましたが再現できないのでカットし、また本文に時代に合わない古い表現や誤記もあり、注釈を入れたもののもあります。ジャケットの写真は入手できる物は出来るだけ掲示しました。
 長岡氏は、レコードは国内盤には批判的で輸入盤主義者でした。無論、日本グラモフォンや東芝EMIはオリジナルの輸入プレスと比べると格段に音が悪かった事もありますが、当時の国内レコード再販制の高値維持政策に長岡氏が強く非難をしていたという背景もあったようです。オリジナルと同じスタンパー、輸入メタル原盤で国内プレスされた国内盤プレスは、プレスの質も良く入手しやすいので併記しました。
 タイトル前の番号(例18−01)は便宜的につけたものでオリジナルの記事にはありません。
 音楽之友社より発刊されていた、長岡鉄男氏のシリーズ著作「長岡鉄男のレコード漫談」「長岡鉄男の続レコード漫談」「長岡鉄男の続々レコード漫談」「長岡鉄男のディスク漫談」「長岡鉄男の続ディスク漫談」にも、同じ外盤ジャーナルで言及されたレコードについて重複して解説されていた場合があるので、それらは*注に参照先を示しました。

 なお、未収集のレコードも多く、ジャケット写真を掲げることが出来ないものが多いです。それらをお手持ちの方、よろしければその写真を管理人まで御提供いただければ幸いです。よろしくお願いします。
    
*長岡鉄男「外盤A級セレクション」第1−3巻 とある資料 
FMfan別冊1978年.夏号 No.18 FMfan別冊1978年.秋号 No.19 FMfan別冊1978年.冬号 No.20
FMfan別冊1979年.春号 No.21 FMfan別冊1979年.夏号 No.22 FMfan別冊1979年.秋号 No.23
FMfan別冊1979年.冬号 No.24 FMfan別冊1980年.春号 No.25 FMfan別冊1980年.夏号 No.26
FMfan別冊1980年.秋号 No.27 FMfan別冊1980年.冬号 No.28 FMfan別冊1981年.春号 No.29   
FMfan別冊1981年.夏号 No.30   FMfan別冊1981年.秋号.No.31 FMfan別冊1981年 冬号.No.32  
FMfan別冊1982年.春号 No.33  FMfan別冊1982年 夏号.No.34 FMfan別冊1982年 秋号.No.35
FMfan別冊1982年.冬号 No.36 FMfan別冊1983年.春号 No.37    FMfan別冊1983年.夏号 No.38
FMfan別冊1983年.秋号 No.39 FMfan別冊1983年 冬号 No.40 FMfan別冊1984年 春号 No.41
FMfan別冊1984年 夏号 No.42  FMfan別冊1984年.秋号 No.43  FMfan別冊1984年.冬号 No.44    
FMfan別冊1985年.春号 No.45 FMfan別冊1985年.夏号 No.46 FMfan別冊1985年.秋号 No.47
FMfan別冊1985年.冬号 No.48 FMfan別冊1986年.春号 No.49 FMfan別冊1986年.夏号 No.50  
FMfan別冊1986年.秋号 No.51 FMfan別冊1986年.冬号 No.52   FMfan別冊1987年.春号 No.53  
FMfan別冊1987年.夏号 No.54 FMfan別冊1987年.秋号 No.55 FMfan別冊1987年.冬号 No.56   
FMfan別冊1988年.春号 No.57 FMfan別冊1988年.夏号 No.58 FMfan別冊1988年.秋号 No.59
AVフロント 1989年2月号 DISC HOBBY 1 AVフロント 1989年3月号 DISC HOBBY 2 AVフロント 1989年5月号 DISC HOBBY 3
AVフロント 1989年6月号 DISC HOBBY 4 AVフロント 1989年7月号 DISC HOBBY 5 AVフロント 1989年8月号 DISC HOBBY 6
AVフロント 1989年9月号 DISC HOBBY 7 AVフロント 1989年11月号 DISC HOBBY 9 AVフロント 1990年4月号 DISC HOBBY 14
AVフロント 1990年5月号 DISC HOBBY 15 AVフロント 1991年9月号 DISC HOBBY 31 AVフロント 1992年1月号 DISC HOBBY 35 
AVフロント 1992年4月号 DISC HOBBY 38      
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FMfan別冊1978年.夏号 No.18    
18−1

マーラー/歌曲集・子供の不思議な角笛

S:ジェシー・ノーマン,B:ジョン・シャリー=カーク,B・ハィティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

蘭フィリップス 9500 316

 「グラモフォン(小澤征爾の巨人)とは対照的な録音、5kHz前後では10dBもレベルが低い。レンジの広い、しかし、厚みと落ち着きのある録音で、ひとつひとつの音を大切に録って、しかも暖かみとスケールを出している。ソプラノとバスのソロが加わっているのでテストには便利だ。ソロとオケの定位、奥行きと張り出しなどチェックポイントにはこと欠かない。」


*注「ジャケットのデザインが微妙に異なる再発廉価版は蘭フィリップス416。669国内版.輸入メタル原盤プレスは日本フィリップスから初版はレコード番号X7729 再版.廉価盤 FH−33。因みにこの当時はジェシー・ノーマンは日本では未だ無名だった。この曲の名演奏として定評のある英EMI.ASD 1000981:ジョージ・セル指揮ロンドン響も録音はかなり良い。」
18−2

マーラー交響曲第1番「巨人」

小沢征爾指揮ボストン交響楽団 

独グラモフォン2530 993

 「(スペアナ)のf特以上に高域のエネルギーが多く、金管も、弦もメタリックで強烈だがレンジは広く、切れ込みが凄い。細かい音もよく拾って情報量が多い。聴き疲れのする音だがテストには使える。30−40Hzがハイレベルカッティングされているのだが再生できるかどうか。君のスピーカーの実力をためすには最適だ。」

*注「後から録音した花の章を加えた再発廉価盤(レコード番号は410 845−1)もあるが、詰め込み盤となるので音は劣るはず。」
18−3

J.S・バッハ/音楽の捧げもの   

カール・ミュンヒンガー指揮シュトゥットガルト室内管弦楽団

独デッカ 6.42261

 「いわゆるハイファイ録音ではないが音楽性という点ではさすが。ラウドネスを掛けたような録音なので小音量再生した時は絶品。ボリュームを上げるとキャラクターが変わる。ローエンドはブーミーになる寸前で踏み留まって深々としたベースを聴かせ、ハイエンドはヒステリックになる寸前で踏み留まってバイオリン合奏の繊細な切れ込みを聞かせる。剣が峰の録音であり、再生装置の歪みを拡大して聴かせる特技を持つ。ダビングでデッキのアラをさらけ出す。スピーカーも高域の歪みの多いもの、トランジェントの悪いものだとメタメタになる。」
18−4

シューベルト/弦楽5重奏曲.作品956

Vc:M・ロストロポービッチ.メロス弦楽四重奏団 
  
独グラモフォン2530 980

 「現代的な録音というか、シューベルトがショスタコービッチに化けたみたいなダイナミックな演奏で、バリバリ、ゴリゴリと弾きまくる。音楽の捧げものとは対照的な音作りである。オンマイクで直接音中心に録ってあるので余り雰囲気はないが音は明快そのものである。」
18−5

愛の歌 

ナイジェル・ロジャース


独アルヒーフ 2533 305

 「新譜ではないが味のあるレコードだ。中域の質を見るのには好適。笑っているような、しゃっくりしているような奇妙な小節を何処まで再生できるか。」




      
18−6

ジョン・ウィリアムス/スターウォーズ.未知との遭遇

Z・メータ指揮ロスアンゼルス・フイル

米ロンドン ZM10001

 「B面後半の未知との遭遇がよい。pppから始まって一気にfffまでかけ昇って炸裂する。痛快,爽快、豪快。音域バランスもよく低域もよくのびている。これは耳でも聴いても判るしf特でも判る。アメリカプレスにしては情報量も多く、キメも細かい。」

*「ふつう米ロンドンはイギリス・プレスかオランダ・プレスであるが、このレコードはアメリカ・プレスだけのようだ。「レコード漫談」29ページ参照。
18−7

パーセル/歌劇「ディドとエアネス」

T・トロヤノス.F・パーマー.R・スティルウェル.R・レッパード指揮イギリス室内管弦楽団.他

仏エラート STU71091

 「レンジはそう広くはないが、中域重視のクオリティの高い録音で、声が実に抜けが良く艶があり、歯切れがよいがサ行がきつくなることもなく、楽器とのバランスも良い。定位も良いのだが、音像はややふくらむ。同じ曲の古い録音、A・デラー指揮のものと比較してみたが、古い方が音像もぐっと引き締まり、定位は明確だが、立体アニメみたいで実体感がなく、その点このLPは演奏会なみの実体感がチェックポイントだ。」

18−8

レスピーギ/交響詩 ローマの松,祭り

ロリン・マゼール指揮クリーブランド管弦楽団

独デッカ 6.42251

 「レンジが広く、立ち上がりが良く、力強く、情報量が多く、余韻が実によく出る典型的にハイファイ録音である。ハイエンドに多少歪みっぽさはあるがバランスがよく、ダイナミック、特にローマの祭りの冒頭は豪快そのもの。しかも細かい音が隙間なく詰め込まれていて、余韻も素晴らしい。人工的な余韻にも聴こえるが、そんなことを忘れさせるほどの壮大なスケール感が聴きもの。しかしレスピーギの音楽ってこんなに壮大だったのか?これではスターウォーズと間違えてしまう!」

※注「外盤A級セレション 3巻 250と同じ録音。この外セレ推薦のモービル・フィディリティ盤は入手難、このデッカ盤の方が入手は容易。国内盤.キングSLA1128は輸入メタル原盤プレスでプレスも厚い。廉価版は日本ロンドンL18C−5056。」
総括:マイナー志向の強い「A級セレクション」と異なり、名演奏家による名曲、メジャーレーベルばかりで今更ながら驚かされる。      
          
FMfan別冊1978年.秋号 No.19             
19−1

R・シュトラウス/歌劇「サロメ」抜粋.5つの歌曲

S:モンセラート・カバリエ.レーナード・バーンスタイン指揮フランス国立管弦楽団

独グラモフォン2530 963

 「圧巻はB面トップの七つのベールの踊りで、ppの繊細微妙な表現と、ffの圧倒的迫力の対比がみごと、fレンジ、Dレンジとも広く、繊細にシャープに、ダイナミックに切れこんで透明感バツグン、歪みが少なく情報量が驚くほど多い。完璧な再生は非常に困難、ということはメーカーの工場、研究室でのヒヤリングにこのレコードを持参してみてよくわかった。カートリッジ、アンプ、スピーカーの実力をテストするのに好適。」


※「 続レコード漫談15ページにも同じレコードが取り上げられている。欄外に、(スペアナ)の演奏中の最低レベルを0dBと目盛ってあるから、(ピークが)そのままDレンジを示している。Dレンジ.83dBなんていうものすごいものもある、とありますが、このレコードの事と想われる。CDは16ビットでDレンジ96dB理論的に取りうるが、これは飽くまで録音機材を接続しない状態でのSN比であるから実際は70dB以下の筈である。この計測が正しければレコードの実質的なDレンジがCDを凌ぐ事になる!?」
19−2

スメタナ/弦楽四重奏曲第1番.ドボルザーク/弦楽四重奏曲第12番

アマデウス弦楽四重奏団

独グラモフォン 2530 994

 「A面のスメタナ「我が生涯より」がいい。実に正確で生々しくナチュラルにとらえらており、すぐそこでメンバー四人が演奏している情景が眼前ほうふつする。歪みの多い立ち上がりの悪いアンプ、スピーカーはすぐにボロを出す。」
19−3

バロック、イタリアの愛の歌

カウンターテナー:ルネ・ヤコープス.チェンバロ:トン・コープマン

独テレフンケン 6.42226AW

 「とにかく実にきれいな録音で声も中域中心にレンジが広いからスピーカーのテストには好適である。」


*「原盤はフランスのバロワ(アストレの旧称)レーベルと推測。従ってオリジナルのフランス盤はもっと音が良い筈。
 
     
19−4

ボッテシーニ/コントラバス曲集:コントラバスとピアノのための協奏曲風グランデ・アレグロ イ短調、タランテラ イ短調、序奏とガボット イ長調 ほか全7曲

コントラバス:ルートビッヒ・シュトライヒャー.ピアノ:ノーマン・シェルター

独テレフンケン 6.42230AS

 「シュトライヒャーは現代最高のコントラバス奏者、ただしこのレコードでは使っているコントラバスは少し小型である。それだけにチェロ並に自由自在に弾きまくって、音はやはりチェロでは出せない厚みと力を持ったもの。低音の表現力もチェックポイントになるが、それ以上に高域のなんともいえない不思議な音色が、どこまで生々しく再生されるかが重要なポイントだ。」


*注「シュトライヒャーは長らくウィーンフィルの団員だった。演奏楽器はウィーンのバイオリン制作者 Gabriel Lemboeck(1814〜92)の標準サイズ。国内盤、輸入メタル原盤プレスは日本キング SLA6375」

19−5

プロコフィエフ/ロメオとジュリエット

エーリッヒ・ラインスドルフ指揮ロスアンゼルスフィル

米シェフィールドラボLaB−8

 「オーケストラのダイレクト・カッティングという至難のわざに挑戦、みごと成功した1枚である。同時発売のワーグナーは低域不足だが、こちらはfレンジ、Dレンジとも十分広い。豪華絢爛、華やかな音色で炸裂し散乱する。今回紹介したサロメといい勝負だ。西ドイツプレス。」

*注「シェーフィールドラボのダイレクト・カッティングレコードは他に同じスタンパーから日本ビクタープレス.アメリカプレスがある。後にシェーフィールドラボは同じ演奏団体でストラビンスキー/火の鳥.ドビッシー/牧神の午後への前奏曲(米シェーフィールドラボLaB−24)をダイレクト・カッティングしたが、これも長岡氏がFMfanのダイナミックテストで賞賛しておられた。それにしても、今は亡きラインスドルフは当時ベテランの名指揮者。こんな面倒な録音に3回も挑戦したと今改めて感心する。このレコードには英文で録音に至るまでの丁寧な解説書が添えられており、演奏に参加したオーケストラ全員の名前も列記されている。」
         
FMfan別冊1978年.冬号 No.20      
20−1

シューベルト/ピアノ五重奏曲「鱒」

P:アルフレッド・ブレンデル,クリーブランド弦楽四重奏団

蘭フィリップス 9500 442

「ピアノ・バイオリン.(ビオラ)チェロ.コントラバスと五種類の楽器がならんでいるので、オーディオ・チェック用には好適である。個々の楽器が鮮明に生々しくとらえられており、全体としてもバランス良くまとまっていて、ハイファイ録音にありがちな不自然さがない。定位、余韻、奥行きといったファクターもいい線をいっている。」

*注「1977年8月16−7.ロンドンのヘンリー・ウッド・ホールで録音。国内版.輸入メタル原盤プレスは日本フィリップス.X−7843。録音風景の写真が国内版についていたが10本以上のマイクが演奏者に寄ってたかった典型的なマルチマイクだった!?。尤も全てのトラックが使われるわけがないが、ワンポイント収録ではないのは確実。」
   
20−2

チマローザ/オペラ「宮廷楽士長」ハイライト.他

バリトン:P・フッテンロッハー.アルミン・ジョルダン指揮ローザンヌ室内管弦楽団

仏エラート STU−71059

「A面の「宮廷楽士長のアリア」がいい。コミックに時に軽妙、時に力強く自由自在に歌いまくる。オーケストラも悪くないのだが、要するに伴奏という感じで可もなく不可もなし。この「宮廷楽士長のアリア」はチェックに使える。上体の動き、顔の表情、口の動きがわかるようだ。サ行が鋭くなることもなく、ハ行、ガ行、パ行が生々しく、いかにも気持ちよさそうに歌っているところがいい。」

    
20−3

サイクロン/タンジェリン・ドリーム

英バージン V2097

「A面はボーカルが入り少し歪みっぽい。B面はシンセサイザー中心で、少々の歪みは録音の時に歪んだのか、もともとそういう音づくりなのかわからないので得だともいえる。f特は(*)B面だがリミッターをあまり強くかけていない感じで、音に伸びと力がある。中身はクロスオーバーというよりは現代音楽に近い。イギリス・プレスである。」

*注「スペアナ表示を省略。1978年1月、ベルリン・オーディオ・スタジオでの録音。P:タンジェリン・ドリーム、E:Ottomar Bergler、ミキシング:タンジェリン・ドリーム。」
20−4

ミス・ユー/ローリング・ストーンズ

仏パテ・マルコニ (SACEM) 12EM−2802

「これはフランス・プレスの30pシングル盤。A面は内周まで切って8分26秒。B面は中ほどまでで4分20秒までしかない。余裕しゃくしゃくに切ってあるのでfレンジ、Dレンジとも広く、歪みが少なく、ダイナミックでエネルギッシュ。「ミス・ユー」の中ほどで、ドラムが重量感たっぷりにリズムを刻んでいき、その横からボーカルがジワーッと出てくるところが実に良く、チェックにもってこい。」
     
20−5

クラス・オブ’78/バディ・リッチ

米 ザ・グレート・アメリカン・グラモフォン GADD 1030

「ダイレクト・カッティングもので、カッティングはアメリカ、プレスは西ドイツという、シェーフィールドと同じやり方である。しかも人を喰ったレーベルで、アンプのGASに対して、こちらはGAGか。f特はB面1曲目と2曲目(フィエスタ)を続けてとったもの。レンジが広く、ハイ上がりだが、聴感上はナチュラルで歪みが少なく、刺激的な音はしない。ダイレクトの良さが誇張されずに出ている。カッティングレベルを低めにして成功した例といえる。ジャズ向きの装置より、本格的な良さを持ったシステムで再生したい。」

*注「因みにダイレクト・カッティングは和製英語、正しくはDirect to disc。レコードは今のところ入手してませんので、ジャケット写真はバディリッチ・ファン−サイトより、お借りしました。感謝!!」
20−6

LIVING IN THE U.S.A./ リンダ・ロンシュタット
 
SIDE A: バック・イン・USA 、夢見る頃を過ぎても、ジャスト・ワン・ルック、アリスン 、ホワイト・リズム・アンド・ブルース
SIDE B: 夢のように 、ウー・ベイビー・ベイビー 、モハメッドのラジオ 、ブロウイング・アウェイ、やさしく愛して

米 ASYLUM RECORDS 6E−155

「ダイナミックな歌い方だが、決して歪みっぽい音になっていない。しかも、2曲目、ピアノとバイブをバックにスローテンポでソフトにしかもハスキーに歌う『夢見る頃を過ぎても』が秀逸で、オーディオ・チェックに使えそうだ。」

*注「当時のヒット曲。1978年5月5日−7月3日、ロサンゼルス、サウンド・ファクトリーでの録音とミキシング。プロデューサーはPeter Asher。ミキシングに Aphex Aural Exciterを使用。マスタリング・エンジニアには、シェーフィールド・ラボのダイレクト・カッティングで有名なダグ・サックスの名がある。アルバムタイトルはの邦題は『ミス・アメリカ』、彼女のアルバムで一番売れた。国内盤は1979年発売。オールディーズ曲を中心にロックアレンジされたカバーアルバム。『バック・イン・USA』は、チャック・ベリー。『夢見る頃を過ぎても』は、1935年の映画『春の宵』の主題歌。『やさしく愛して』は、エルヴィス・プレスリーの『ラブ・ミー・テンダー』。『アリスン』は、エルヴィス・コステロ、『ウー・ベイビー・ベイビー』は、ミラクルズのカバーで、この曲では、サックス、デヴィド・サンボーンとの共演がいい。リンダ・ロンシュタットは、メキシコ系とドイツ系のハーフで、最初の頃はカントリー歌手。その後は、ジャズに転向した。”When I Grow Too Old To Dream”を『夢見る頃を過ぎても』と題したのは名訳。」

     
FMfan別冊1979年.春号 No.21       
21−1

ベルリンフィルの12人のチェリスト達

独テレフンケン6.42339

「ベルリンフィルのチェロ奏者12人が集まって、チェロだけの合奏という変わった趣向のレコード。
録音はシャープで鮮明で、細かい音が良くとらえられており、さすがに力もある。チェロだけに、低域より、中低域にエネルギーが集中しているのがf特でもハッキリとわかる。」


*注「輸入メタル原盤プレスの国内版はキング SLA1193。ドイツ盤と同じ時期のスタジオ写真のようだが、アングルが異なる。」
21−2

シャルル・シャイヌ/タルキニア.ムザブ

仏カリオペ CAL1847

「現代音楽というとマルチ・マイクで徹底的にオンで、目の醒めるような、あるいは目の眩むような華々しい音に仕立てるのが普通だが、このレコードは違う。マイクの数は少ないと思う(ワンポイント?)が、わりとオフで、ごく自然に録っており、f特で見る限りレンジは広くないが、聴感上は意外と広く、また力強く、シャープに聴こえる。」


*注「当然の事ながら仏カリオペはワンポイント・マイク録音専門で有名である。」
      
21−3

ヴァーレーズ/イオニザシオン

ピエール・ブーレーズ指揮ニューヨーク・フィル

米コロムビア M34552

「録音は非常にダイナミックでめざましい。50Hz以下はフィルターで切っていると思うが、ハイエンドは伸びきっており、全体としてはかなりワイドレンジである」


*注「レコード漫談102ページ参照」
 
21−4

フランス・ハープ音楽 

ハープ独奏.ニカノア・サバレタ

独グラモフォン 2531 051

「このレコードの録音もあまり成功していると思えない。f特でごらんの通りナロウレンジで、音量も小さい楽器だが、かすかな余韻まで捉えようとすると、相対的にDレンジは広くなるだろう。カッティングレベルは低めで、SN比があまり良くない。しかし強調感が無く、自然な音で録れている。中低域でブーミーになりがちだから再生も意外と難しい。」


*注「この欄に取り上げられている以上は優秀録音の筈なのに、ハッキリ白黒をつける長岡先生には珍しく録音を褒めたのか、そうでないのか中途半端な記事。私のシステムで聴く限りでは、ハープの録音としては悪くはなく、外セレに取り上げられているハープ録音に甚だしく劣るものではなく、ハープの録音は難しいということを書きたかったのか。A.B両面とも27分を越えるLPとしては長時間収録だからカッティングレベルは必然的に低めになったのであろう。ニカノール・サバレタ(1907〜93年)はスペインのハープ奏者。自分で考案した8つのペダルを持つオーベルマイヤー製のハープを使用。古典から現代まで幅広い作品を演奏し、現代作曲家からも多くの作品を献呈されていた。」
21−5

ドビッシー/前奏曲集.第1巻

ピアノ:アルトゥーロ・ベネディティ・ミケランジェリ

独グラモフォン 2531 200

「このレコードは低域たっぷりの曲「沈める寺」が入っているので、そこをf特にとってみた。かなりよくのびているのがわかる。しっかりした音で、余韻も悪くはないが、全体に少し濁りがある」

*注「単行本「ディスク漫談201」171頁.参照。鬼才ミケランジェリ亡き今、歴史的名録音といえよう。録音には慎重なミケランジェリは、これからだいぶ経って晩年に第2巻をデジタル録音をしたが、それは長岡氏の評価の対象にはなっていない。同曲の第2巻は仏カリオペのパラスキヴェスコ盤を長岡氏は「続々レコード漫談」149頁で賞賛されていた。個人的にはドビッシー/前奏曲集.第1.2巻は、名ピアニスト、クラウディオ・アラウの蘭フィリップス 9500 676.9500 747の方が、濁りのない鮮明な音で、これらの録音より優れていると思う。録音に定評のあるスイス・ラ・ショードフォン劇場で収録された物でアラウの鼻息や衣擦れの微細な音まで聴き取れる。」
21−6

フリッカーほか/チェロ・ソナタ集

チェロ:ジュリアン・ロイド・ウェッバー.ピアノ:ジョン・マッケイブ

英オワゾリール DSLO 18

「20世紀イギリスの作曲家のチェロ小品を、前記のコンビで演奏している。いずれも筆者の知らない人物ばかりで先入感なしに聴けたが、編成が小さいだけに録音も楽だと見えて、わりと綺麗に録れている。殊更ハイファイを強調した録音ではなく、ごくナチュラルな録り方がなされており、余韻が大変みごとで、これがオーディオ・チェックのポイントになるだろう」


*「御存知のようオワゾリールはバロック.古典曲専門のレーベル。近現代曲のアルバムは珍しい。」
     
21−7

パガニーニ/バイオリン協奏曲第1番

Vn:ボリス・ベルキン,メータ指揮イスラエルフィル

英デッカ SXL6798

「ソロ・バイオリンが実に美しい音で入っている。鋭いギスギスした音でなく、絹ずれ(*正しくは衣擦れ)を思わせるような繊細で艶やかな音は絶品。マイクはオフ気味だと思うがボケていない。しかし、オーケストラの方はおおらかというか、自然というか、ホールの後ろの席で聴いているような鈍さ、甘さがある。もっとも、それだからソロが浮かび上がるというわけだが。」

*注「英デッカのレコードはイギリス・プレスとオランダ・プレスの2種類ある。どちらのプレスかは不明。輸入メタル原盤プレスの国内版はキング SLA1187。ベルキンは今でも現役、当時デッカが力を入れて売り出した期待の新鋭だったが同世代のクレーメルほどには大成しなかった。」
21−8

パーセル/劇場のための音楽 第二集

ホグウッド指揮アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック

独デッカ 6.42306

「テストによく使っているので紹介した。B面前半が大変きれいだ。繊細微妙な古楽器の合奏にボーカルがまた実に艶っぽく、響きがあって自然である。オフで録音して、ソフトに丸めてごまかした、というのとは違うことがf特を見てもわかるだろう。ダイナミック・レンジも広い。」


*注「原盤は英オワゾリール(L'OISEAU-LYRE)。単行本「続々レコード漫談」246頁で優秀録音として紹介されている劇音楽「ドン・キホーテ」は同じシリーズ。尚、アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージックはエンシェント室内管弦楽団と称されることが多いが明らかに誤訳、それを使わないのは氏の見識であろう。」
            
FMfan別冊1979年.夏号 No.22    *この号は「拡大版」として、コーナーを大きくした。以降そのまま定着し毎度30枚前後、録音の悪いゲテモノやマイナー盤を玉石混淆して取り上げるようになった。これまでに紹介されたレコードは1970年代後半に制作された当時の新譜中心で、全部アナログ・マスターかダイレクト・カッティングでデジタル・マスターは皆無。1979年はデジタル録音勃興期で、これから徐々にデジタル録音が増えてくることになる。尚、無印は全てアナログ録音。  
22−1

王宮のギター

ギター独奏.コンラート・ラゴスニヒ

独アルヒーフ2533 365

「17.18世紀の、あまり聞いたことのない作曲家のギター曲。ギターの録音というと、神経をさかなでするような鋭い音のものが多いが、このギターはオフマイク録音で、響きの美しさは抜群。ソフト&メロウだが、一音一音明確で、しかもよくハモって雰囲気がある。美しすぎてテストには向かない?」


*注「辛口の長岡氏が、こうまで絶賛するのは珍しいことである。」
   
22−2

スペイン・クラヴィア曲集

独奏.パプロ・カーノ

仏ハルモニア・ムンディ HM 1001

「クラヴィアは鍵盤楽器の総称。ここではクラブサン(チェンバロ)とクラヴィコード(クラブサンの前身で卓上でも使える小型鍵盤楽器)が使われている。クラブサンの音は良くないが、クラヴィコードのソロが大変よい。希少価値から行っても貴重」


*注「ここで初めて仏ハルモニア・ムンディのレコードが登場!」
22−3

ヤコブ・オプレヒト/ミサ・フォルトゥナ・デスペラータ

クレマンシック・コンサート 
 

仏ハルモニア・ムンディ HM998

「オランダの15世紀の作曲家で、”絶望的な運命のミサ”とでもいうのか、よくわからない。古楽伴奏の合唱曲で、少し歪みっぽさはあるが、各パートの重なり具合、音量、ツヤはなかなかのものだ。」
22−4

愛の歌

Ms:ジャネット・ベーカー.マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団 

蘭フィリップス 9500 557

「アマリリ美わし、カロミオベン、ガンジスに日は昇る、などおなじみの歌とおなじみではないものと、ミックスで、17−8世紀中心の歌曲が18曲。声が実にきれいに録れており、音像の形も定位もよい。伴奏も節度を心得てうまくならしている。」


*注「Academy of St.Matin in the fields はアカデミー室内管弦楽団の邦訳がすっかり定着しているが、明らかに誤訳で私は抵抗がある。」
    
22−5

アルベール・ド・リップ(アルベルト・ダ・リッパ)/リュート曲集

独奏:ホプキンソン・スミス    

仏アストレ AS 18

「とにかく音がいい。”王宮のギター”よりオンマイクで鮮明だ。しかも、ツヤとふくらみと雰囲気を失っていない。」


*注 「写真提供Y.S氏、感謝!!」
22−6

バッハ/コラール前奏曲集ほか

オルガン:M・レジエ  

米マークレビンソン Vol.1

「アメリカのアンプ・メーカーが出したレコードの1枚。新しいものではないが、ダイレクト・カッティングで、テープデッキのコンターによる低域のうねりがないため、ローエンドが実にゆったりと深々と伸びていて気持ちがよい。中高域は少しほこりっぽく、ツヤが不足、ハイ落ち。曲間の送り溝に相当する部分はホールの暗騒音が入っており、これがレベルこそ低いが、低域から超低域にかけての空気感が実によく録らえられており、テスト用には好適。プレスはフランスであろう。」

    
22−7

フランシス・ロベルディ/フーゲとカプリス

オルガン独奏;ミシェル・シャピュイ 

仏アストレ AS 14

「オルガンのレコードはカリオペが評判だが、アストレーも優るとも劣らぬ出来だ。どれをとっても傑作ぞろいだが、これもその1枚。筆者の全然知らない曲なので敢えて取り上げた。レンジの広さはf特からもわかると思うが、質も良く、雰囲気もある。」


*注「アストレは長岡先生の唱道のお陰で、現在もアナログマニアの信奉が篤く、中古市場で滅多に見掛けないし、在ったとしても高い。本場フランスでもなかなか手に入らぬそうだ。」
22−8 

F・クロマー/木管のためのパルティータ

オランダ管楽アンサンブル

蘭フィリップス 9500 437

「演奏はコンセルトヘボウ、ロッテルダム・フィルの木管奏者を集めたグループ。木管の柔らかさがよく出た録音で、音像の形もナチュラル、奥行きもよく出る。クロマーはボヘミア生まれの17−8世紀の作曲家。ドイツ名フランツ・ヴィエンツ」

*注「再発廉価版もあった。番号不明。」
22−9

ショパン/ピアノ協奏曲 第1番

P:クリスチアン・ツィマーマン,カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ロサンゼルスフィル

独グラモフォン2531 125

「おなじみの曲だが、オケを押さえ気味にしているせいか、レンジはそう広くない。オケの弦がノイズを引きつるような音で気になるが、ピアノは明快で音色も良い。協奏曲というよりはオケを伴奏としたピアノ曲だ。」


*注「辛口オーディオ評論でも知られていた作家の五味康祐が、ツィマーマンのショパンを褒めていた。ツィマーマンはブレンデルと同じく古いSPレコードへの関心が深いアナログマニアで、CDのピアノの悪い録音は史上最低の音がすると発言していた。デジタル時代になって、しばらく録音を控えていたそうで。一方、ポリーニはCDが出るようになると、私の時代が来たと喜んでいたという。両者の音楽性を示していて興味深い。」
22−10

ドビッシー/管弦楽のための映像「イベリア,ジーグ,春のロンド」,ハープと管弦楽のための神聖な舞曲と世俗的な舞曲

B・ハィティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

蘭フィリップス 9500 509

「レンジはものすごく広いというわけではないが、ハイエンド、ローエンドとも自然な形だダラ下がりに伸びており、情報量が多く繊細に切れこんで、定位、広がり、奥行きもよく出る。わりと誇張感の少ないハイファイ録音でよい。」


*注「1977年12月12.19.20日、アムステルダム コンセルトヘボウでの録音。輸入メタル原盤プレスの国内版は、日本フィリップス X−7895。同時期に録音されたハィティンク、コンセルトヘボウの蘭フィリップスのフランス音楽はビゼーの交響曲1番が外セレ1巻に取り上げられているが、これら以外のフランスものは、長岡氏の評価の対象にはならなかったが、(私的にはと前おいて)同レベルの優れた録音と演奏であるので紹介しておきます。
●ドビッシー/夜想曲・雲,祭り,シレーヌ,/舞踊詩・遊戯 蘭フィリップス 9500 674(25PC−82)
●ドビッシー/海,牧神の午後への前奏曲,スコットランド行進曲,ラプソディ第1番 蘭フィリップス 9500 359(X−7745)
●ラベル/スペイン狂詩曲,古風なメヌエット,高雅にして感傷的なワルツ,道化師の朝の歌 蘭フィリップス 9500 347(X−7751)
●ラベル/ボレロ,ラ・ヴァルス,クープランの墓,亡き王女のためのパバーヌ 蘭フィリップス 9500 314(X−7753)
()内、輸入メタル原盤プレスの国内版のレコード番号」

<シェラザード 2枚>と題して以下のレコードを紹介     
22−11

リムスキー・コルサコフ/交響組曲「シェラザード」

Vn:J・シルバースタイン、小沢征爾指揮ボストン交響楽団

独グラモフォン2530 092

「レンジは広く、バランスも良いが、音楽会で聴く音とは違う。ダイナミックで、シャープで鮮烈。情報量が多くオケの楽器のひとつひとつが聞き分けられるような録音だ。バイオリン・ソロも鮮明だが、ヒステリックにもメタリックにもならず、ぎりぎりのところで踏みとどまっている。いい録音だが、やや冷たい。」


*注「これ以下2枚のシェラザードについては「レコード漫談」140−1頁、参照。いかにも小沢征爾らしい明快で颯爽とした指揮ぶりである。“冷たい”というよりロシア的な土臭さのないアクの抜けたサッパリした演奏という感じ。」
22−12 

リムスキー・コルサコフ/交響組曲「シェラザード」

Vn:D・マジェスケ、ロリン・マゼール指揮クリーブランド管弦楽団 

英デッカ SXL6874

「こちらの方が人間的で気楽に聴ける。鮮烈さ、力強さは少し後退するが、ふくらみがあり、あまり神経質にならずに、綺麗に聴かせる。小澤盤と比べるとややソフト&メロウだが、決してボケた音ではない。」


*注「輸入メタル原盤プレスの国内版はキング SLA1170。英デッカ SXLナンバーのイギリスプレスはアナログマニアに人気があり、中古市場で高値である。デッカ.テラークに録音したマゼール.クリーブランドの演奏は長岡氏の評価が高いが、この当時のマゼールは世界中を飛び回り年に250回も演奏会をこなし睡眠は4時間ほどだったという、ほぼ毎月、新譜を出していたが、いつ録音していたのだろうか。しかも、作曲と文筆をこなし会社を経営し、この間に新たな恋をして離婚、結婚していた。今も第一線で活躍する驚くべき超人である。イギリス盤が手元にないので、ジャケット写真は国内版。」

22−13

ムソルグスキー/展覧会の絵,ショスタコービッチ/プレリュード.作品34

P:ラザール・ベルマン

独グラモフォン2531 096

「ダイナミックで明快。高音部の弦の余韻が極めて音量が小さいのに綺麗に入っている。」

*注「ベルマンは、当時、リストの再来と話題になっていた旧・ソ連のピアニスト。」
22−14

ホセ・カレーラス ポピュラー・リサイタル:グラナダ.カタリ.トスティ/マリア.レハール/君は我が心のすべて.他.

T:ホセ・カレーラス,ロベルト・ベンツィ指揮イギリス室内管弦楽団 

蘭フィリップス 9500 584 

「伸び伸びと歌っており、さすがカレーラスだが、1976年プレスのオペラ・アリア集(9500 203)と比較すると、ハイエンドのメタリックさだけは”584”が少なくて聴きやすいが、ツヤ、輝き、伸び、雰囲気、定位等は”203”の方が上のようだ。曲の関係もあってか、”203”の方がオケともども気合いが入っており、”584”は気楽にやっているという感じだ。」

*注「輸入メタル原盤プレスの国内版は、日本フィリップス X−7934。指揮者のベンツィは十歳で指揮者デビューし、十代初めに天才少年指揮者としてセンセーションを巻き起こし映画にも出演した。その後は、スター街道を歩まず今も地道な活動を続けている。」


<「惑星」2枚>と題して、英デッカ.ショルティ盤とマリナー盤を紹介。ショルティ盤は評価に難があるので割愛。    
22−15

ホルスト/組曲「惑星」

ネビル・マリナー指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管.アンブロジアン・シンガーズ 

蘭フィリップス 9500 425

「音は良い。きめが細かい上に、音に厚みがあり、音場に広がりと奥行きがある。ややオフの録音だが、楽器がよくわかり、ダイナミックで、怒濤のように押し寄せてはサーッと引く感じがよい」


*注「プロデューサーは指揮者としても高名なビットリオ・ネグリ。「レコード漫談」172頁、参照。ここでの評価とやや異なるのが興味深い。ジャケットのデザインが素晴らしい。衛星フォボスかダイモスから望む火星とも、小惑星からの望む土星の衛星タイタンとも想える。尚、ショルティの国内版はデザインを画家の横尾忠則が担当していた。レコード時代はジャケットのデザインが重視されていたのだ。」

<ペトルーシュカ3枚>と題して以下の3枚を紹介    
22−16

ストラビンスキー/バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1911年版?)

シャルル・デュトワ指揮ロンドン交響楽団

独グラモフォン 2530 711

「ややハイ上がりだが、レンジは広く、情報量が多く、シャープでダイナミックで鮮明そのもの。低音は抑え気味だが、カットしているわけでなく、80Hz以下で他の2枚より4〜10dBダウン。その代わり100Hzでは5dBアップ。クールで、ふくらみに欠けるが、いかにもハイファイ的な録音。」

*注「これら以下3枚のペトルーシュカは「レコード漫談」192から3頁にも取り上げられている。漫談ではアンセルメの旧録音が最も評価が高いが、ステレオ初期の古い録音なので、ここでは対象としなかったのであろうか。この当時のデュトワは協奏曲の伴奏指揮専門で、独り立ちの管弦楽曲は珍しい。後にデッカに移籍して、モントリオール響との一連のデジタル録音で名を成すことになる。」


*参考.番外 

ストラビンスキー/バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1947年版)

コリン・デービス指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管 

蘭フィリップス 9500 447

「編成は少し小さいがレンジは広くバランスもとれている。ただ、ハイエンドとローエンドに少し癖があり、音色、余韻とも人工的に操作しているようだ。多少シャリつく。全体にもう少しツヤが欲しい。」


*注「レコード漫談での評価は、この記事とやや異なり好意的。私は悪い録音とは思えない。この当時、デービスはストラビンスキーの3大バレエをフィリップスに立て続けに録音して話題を呼んでいた。この時期のデービスの録音は、私的にはボストン響とのシベリウス交響曲全集が、お薦め。」
22−17

ストラビンスキー/バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1947年版)

クリストフ・フォン・ドホナニー指揮ウィーンフィル

英デッカ SXL 6883

「他の2枚と比べると低音が少し甘いが、それだけにゆったりとした鳴り方で、全体に厚みがあり、情報量も多い方だ。ハイエンドはきめが細かく、サラサラとした鳴り方でやかましくない。ツヤもある。余韻も自然で、きれいだ。テンポが少し遅いが、それも全体の音色とよくマッチしている。」


*注「1977年12月6〜15日、ウィーン、ゾフェインザールでの録音。ウィーンフィルのペトルーシュカの初録音である。」

22−18 

バルトーク/2台のピアノと打楽器のためのソナタ.ストラビンスキー/2台のピアのための協奏曲.2台のピアのためのソナタ

Pf:アルフォンス&アロイス・コンタルスキー兄弟.打楽器:C・キャスケル.H・ケーニッヒ

独グラモフォン 2530 964

「非常にダイナミックで、低域の締まりがよく、奥行き感もよく出た録音。ティンパニー、ドラムの最低音域(60Hz以下)がレベルは低いが、きれいに入っており、ブックシェルフだとこれが聴こえない場合がある。この曲のレコードの中ではナンバー・ワン。」


*注「録音エンジニアはギュンター・ヘルマンス。」

<シェーンベルク/月に憑かれたピエロ 2枚>と題して、ピエール・ブーレーズ指揮の以下の2組の新旧のレコードを紹介    
22−19 

シェーンベルク/月に憑かれたピエロ

朗読:ヘルガ・ビラルツィク、P・ブーレーズ指揮ドメーヌ・アンサンブル 

米エベレスト 3171

「大きな顔の女性がオンマイクで語りかけ、小さな楽器がバックで伴奏するという演奏。声の生々しさは筆舌に尽くしがたい。特にサ行、ハ行、ファ行はまさに真に迫る。やや雰囲気不足。」

*注「レコード漫談97頁、参照」
   
22−20 

シェーンベルク/月に憑かれたピエロ

朗読:イボンヌ・ミントン、P・ブーレーズ指揮、Vn:P・ズッカーマン、Pf:D・バレンボイム

米CBS 76720

「1977年録音、1978年オランダ・プレス。大物を揃えた新録音で、大きな楽器が整列するすきまから、小さな女がのぞいて語りかける。声はオフ気味だが、サ行だけは鋭い。声だけなら断然エベレスト盤だが、雰囲気はこっちの方がある。」

   
22−21 

ブリテン/弦楽四重奏曲 第2,3番

アマデウス弦楽四重奏団 

英デッカ SXL 6893

「レンジが広く、各楽器の音が実に細かく鮮明に録られており、しかも鋭く突き刺さるような感じとか、ノコギリの目立ての感じは全くない。バランスも良く、音像の大きさ、定位とも自然。」

*注「続レコード漫談81頁、参照。写真提供T.K氏。ありがとうございました。」
22−22 

20世紀アメリカ合唱曲集:アイヴス/詩篇第24番「地と、それに満ちるもの」、同67番「どうか神が我らを哀れみ、我らを祝福し」、同90番「主よ、あなたは世々われらの住み家でいらせられる」、コープランド:「初めに」(In the beginning)、E・カーター:「音楽家は何処でも苦闘する」、J・ドラッグマン:「合唱詩歌」

Ms:B・モーガン、ジョン・オリバー指揮タングルウッド祝祭合唱団 


独グラモフォン 2530 912

「A面は少し音が濁る。B面の方が音がいいが、各パートをついたてで仕切ってマルチモノで録音して、パンポットで定位させたようで不自然。A面最後の曲はバックでベルが鳴り、オルガンの重低音がゆったりと入っていて面白い。」

*注「P:Rainer Brock、E:Klaus Hiemann」

22−23 

クロード・バリフ/無声音によるフレーズ.オルガンと管楽器によるイマジネW

シャルル・ラヴィエ指揮フランス国立放送合唱団   

仏 INEDITSバークレイ 995 003

「アカデミー・ド・ディスク・フランセのグランプリ受賞作。未公開のものを含む現代音楽。ボーカル(歌詞はない)と器楽合奏による協奏曲風の表記の曲がいい。ワンポイントか、それに近いと思うが、実にナチュラルで、響きの美しい録音だ。B面の「オルガンと管楽器によるイマジネW」という曲もいい。どちらもレンジはそう広くはないのだが、聴感上はわりと広く感じられる。」 


*注「INEDITSはORTF、つまりフランス国営放送のレーベル。現代音楽中心のためか数が少なく入手難。ラヴィエはアストレに古楽の合唱曲の演奏録音が多い。こうした現代曲に取り組むのは珍しいのでは...」


   
       
FMfan別冊1979年.秋号 No.23        
23−1

バルトーク/ピアノ協奏曲 第1,2番

ピアノ:マウリィッオ・ポリーニ,クラウディオ・アバド指揮シカゴ交響楽団

独グラモフォン 2530 901

「レンジは広いが、低域は持ち上げたという録音ではなく、自然にダラ下がりで伸びているので気持ちがよい。生き生きとした力強く輝かしい音で、スケール雄大、音にも音場にも深みがあり、演奏もノッている感じで引き込まれてしまう。マーラーの4番あたりの冷たさとは対照的だ。」


*注「長岡氏がポリーニの録音を褒めたのは、これだけではなかろうか。No.25でポリーニ/ベームの「皇帝」を”出てきた音はお粗末の一語に尽きる”と徹底的に貶していた。」
   
23−2

木管五重奏のための音楽/アイネム、エデール、フュルスト等、20世紀の作曲家の作品

ウィーン木管五重奏団

独グラモフォン 2531 115

「ひとつひとつの楽器の音が鮮明で、ツヤがあり、しかもよくハモッており、音像、音場もよく表現されている方で、優秀録音といえる。」

*注「ウィーン交響楽団のメンバーによる録音。これとは別に同時期、ウィーンフィルのメンバーによる、同趣向のシェーンベルグ/木管五重奏曲 作品.26も独グラモフォンに録音があり、その演奏は定評があり録音も良い。DG2530 825」

23−3

レスピーギ/交響詩「ローマの松」「ローマの祭り」「ローマの泉」

小沢征爾指揮ボストン交響楽団

独グラモフォン 2530 890

「なんと三曲ぎっしり(1枚に)詰め込んであるから、へたなフルオートでは早めにリターンしてしまう?詰め込みで音が悪いかと思うと意外と良い。ppの部分で溝をかせいでおいて、ffで盛大に使うというやり方。「松」の最後の「アッピア街道」はレンジ広大で凄まじい。繊細にダイナミックに切れ込み、情報量も凄いが、それだけに傷みも早いようで、2−30回でだいぶ歪みも増えてきた。」

*注「小澤−ボストンの代表する名演の一つ。小澤はこうした大編成の近現代曲が得意。1面1曲の配分で、レスピーギの「鳥」か「ボッティチェルリの3枚の絵」を加えて2枚組のゆとりあるカッティングをしていたら超!優秀録音になっていただろう。小澤−ボストンのDG.フィリップスのアナログ録音は秀れたものが多い。外セレでは武満徹だけが取り上げられている。」
23−4

マーラー/交響曲第4番

S:バーバラ・ヘンドリックス,ズービン・メータ指揮イスラエルフィル

英ロンドン LDR1004

「PCM録音(*)である。SN比がよく、レンジは広大というほどではないのだが、聴感上は大変ワイドレンジに聴こえる。第一楽章が特によい。実に繊細に鋭く切れ込んで、しかもヒステリックにならない。透明度も高い。低域は引き締まって音程明確。中高域は情報量が多く、音の複雑な重なりをよく分解して、一音一音明快に聴かせる。弦楽はややメタリックでありながら歪み感極小で独特の繊細感が見事。タンバリン、トライアングルも自然できれいだ。音像は小さく引き締まって輪郭鮮明、音場も広いが、全体に中性洗剤で洗い落として、アルコールで消毒したような、さっぱりしすぎの感もなくはない。」

*注「PCM:Pulse Code Modulation(符号変調)の略でデジタル録音は当初こう呼ばれていた。外盤ジャーナル初のデジタルで、それだけに批評も入念の感がある。メータはデッカにマーラーの交響曲を1−5番まで録音し、4番だけがデジタルである。
デッカは何故か、日本、アメリカではロンドン・レーベルとして発売されている。アメリカ盤は本家と同じく、イギリス・プレスかオランダ・プレスのレコードだから、長岡氏は英ロンドンと表記したのだろう。アメリカ−ロンドン盤は盤は同じものの筈だから基本的には出る音は本家イギリスと同じ。ジャケットだけがアメリカ印刷で紙質が悪く安っぽい、たまに中身のレコードもアメリカプレスで粗悪な盤質のもある。中古市場ロンドン盤はイギリス盤より安いから、お買い得。」

*注2「上記注に関し、アメリカにはもともと英デッカと無関係のDECCAというレーベルが存在していて、英デッカは米国でDECCAの商標を使えなかった由、及び日本版は米国向けに合わせたのだろう、との知見をT.K氏からいただきました。感謝!!」

23−5

シルビア・シャーシュ.ドラマチック・アリア集/椿姫「ああ、そはかの人よ」ノルマー清らかな女神よ,マクベス第1,2幕より,他

S:シルビア・シャーシュ,L・ガルデルリ指揮ナショナルフィル,他

英デッカ SXL 6921

「A面終わりの「ラ・トラヴィアタ(椿姫)」第一幕ステージ前面のシャシュ(S)と、ステージのはるか奥から登場するイアン・ケーリー(T)との掛け合いがいい。奥行き感のテストに使える。」

*注「記事に手短にこうあると、奥行き感しか聴きどころのないレコードととられかねないが、肝心なソプラノの音像は明確で、声は輝かしく力強く艶がある。バックのオーケストラとのバランスが良く節度を弁えて鳴り、それでいて不鮮明にならない。オペラ・アリアとして良い録音である。シャーシュは当時、マリア・カラス(1977年没)の再来と評判を呼んでいたハンガリー出身の美貌の新人ソプラノ。デッカ、フィリップス、フンガロトンが力を入れて売り出し録音も多かったが、80年代にはいると何故か人気凋落した。彼女が主役の歌劇、バルトーク”青ひげ公の城”が”続々レコード漫談”で、ヴェルディ歌劇”スティフェリオ”が”続ディスク漫談”で長岡氏が録音を高く評価していた。」
23−6

バッハ/シャコンヌ.ほか.アルベニス.トゥリーナ.デラ・マサの作品

ギター独奏:マイケル・ニューマン

米シェフィールド LAB 10

「1979年の西ドイツ・プレス。ダイレクト・ディスクである。SN比が良く、音は鮮明そのもの。爪でこする音が実に生々しく録れている。歪み感がなく、見事な録音なのだが、どういうわけか演奏者の実在感が希薄で、楽器が一人で鳴っているような感じがする。音質、音色に忠実な録音といえる。」


*注「私の手持ちはアメリカ・プレスで長岡氏が言及された西ドイツ・プレスとジャケットのデザインが違うようだ。このレーベルに限らず輸入盤にはレコード番号が同じでもジャケットのデザインが異なることが屡々あり要注意。」
23−7

フランソワ・デュフォー/リュート曲集

独奏:ホプキンソン・スミス

仏アストレ AS 40

「リュートは弦の多いギターのような楽器である。使われているのは1644年ベニスのピエトロ・ライリッチ製。わりとオンで録られているが、雰囲気もよく出ており、音像も締まって、楽器も見える。なによりもいいのは演奏者がそこにいるという気配が感じられることだ。アストレー独特のツヤのある音色、ジャケット裏にQのマークがあるが、SQ録音だろうか。それにしてはよく録れている。」


*注「SQとはSQ4チャンネルのこと。一種の疑似4チャンネル録音でR−L.L−Rの差信号を加えてリアスピーカーで再生して音場を広げる方式。SQエンコードされたレコードは普通の2チャンネル再生では音像が暈けることが多かった。1970年代のEMIが積極的に、この方式を支持していた。EMIのレコードでレコード番号の末尾にQがあるのはSQエンコード。」
23−8

ヨハン・ヤコブ・フローベルガー/ハープシコード作品集

ケネス・ギルバート独奏

独アルヒーフ2533 419

「ジャケットのガイコツは感じが悪いが、音は素晴らしい。これに比べるとピノックのバッハ/トッカータ集( 独アルヒーフ2533 402同403)なんかゴミみたいなものだ。繊細で鮮明で、ツヤと厚みとゆとりがあり、立ち上がりと余韻のコントラストが見事。音場も自然で、音色、音場とも深々とした奥行きを持っている。推奨盤。」

*注「この辺から、特に優れた録音には、推奨盤とか優秀録音盤とかハッキリ太鼓判を押すようになってきた。」
23−9

メシアン/ラーム・アン・ブウルジョン

オルガン:オリビエ・メシアン.朗読:ジゼル・カサドシュ

仏エラート STU 71104

「セシル・ソーバージュの表記の詩(芽の中の魂?)の朗読のところどころにメシアンのオルガンの即興演奏がある。詩はジャケットに5ページにわたって全部載せられており、フランス語の勉強にもなる。オルガンはちょっぴりしか入っていないが、これが鮮烈、強烈、超低音が空気を揺り動かす。朗読はサ行が鋭すぎるが、全体としてはテストには大変よいソースだ。」


*注「当時、健在だった大作曲家メシアンの自作自演で名録音となると今では貴重。」
    
23−10

H・ボルネフェルト/アトランタ・リタネイ ほか

オルガン:J・ヴィトマン.S:H・バウムガルトナー=ドラウゲラウテ 
独クリストフォルス SCGLX 73760

「ボルネフェルトは1906年生まれの作曲家。表記の曲はオルガンとソプラノ(歌と朗読)という組み合わせで、レンジはそう広くないが、音が生きている。伸び伸びとして、力もあり、残響が実に豊かで、しかも音像は引き締まっている。かと思うと意識的に音像をワッと拡大させたりもする。特に奥行きが深い。左右でエコーの伸びが違うのは教会堂のくせか。曲もなかなか楽しめるものだ。」

    
23−11

チャイコフスキー/バレエ組曲 眠れる森の美女,白鳥の湖

M・ロストロポービッチ指揮ベルリンフィル

独グラモフォン 2531 111

「レンジは広大とはいえないが、上下ともなだらかによく伸びており、軽快で繊細、クールでソフト、特に弦が柔らかく綺麗で余韻も美しい。全体に割と自然で誇張感がなく、聴きやすい音。しかこここぞという時にはズシンと来る。概してソロ楽器の音像は大きめ、ハープのエコーが広がりすぎる感じもあるが、ともかくエレガントな響きだ。」


*注「名チェリストのロストロポービッチは、この頃から指揮者としても声望が高まり録音も多くなって来た。プロデューサーはピアニスト、指揮者としても名高いコルト・ガーヘン。」
23−12

独アルヒーフのバロック音楽レコード以下4枚まとめて紹介。

J.S・バッハ/トリプル・コンチェルトBWV1044,序曲第二番 BWV1067


Vn:S・スタンデージ,Fl:S・プレストン,T・ピノック指揮イングリッシュ・コンサート

独アルヒーフ2533 410

J.S・バッハ/序曲第一番BWV1066,序曲第三番BWV1068


トレバー・ピノック指揮イングリッシュ・コンサート

独アルヒーフ 2533 411

Johann Gottliebe Graun.Johann Ludwig Krebs/オーボエ協奏曲集

Ob:ハインツ・ホリガー.Cemb:C・ジャコッテ.A・ヴァン・ヴィンコーブ指揮ベルン室内合奏団

独アルヒーフ 2533 412

ルクレール/後期室内楽曲集


ムジカ・アンティカ・ケルン

独アルヒーフ 2533 414

「いずれもスタジオではなく、ホールや城内の大広間といった場所での録音で、楽器はシャープに録られているが、雰囲気もよく出ている。自然な形での演奏を、なるべく自然に、しかもSN比がよく、高い透明度でシャープに録ろうとした努力の跡が見える。みんないいのでまとめて紹介する。序曲は通常の組曲と同じで、第3番のアリアは実にエレガントで美しい。第二番のフルートも良い。ホリガーのオーボエも透き通るような音だ。ルクレールの合奏もシャープに繊細に切れ込んで透明度が高い。」


*注「ピノックのバッハは何故か2枚とも同じデザインである(写真)」 




23−13

アトス山の復活祭

「1978年録音(*1978年12月.聖土曜日)のドキュメンタリー・レコード。ギリシャ北部のエーゲ海に突出した半島の先端にあるアトス山、その麓に建つクセノフォントス修道院での生録である。マイクはAKG.CK5(XY方式ワンポイント)、デッキはナグラWSと軽装備で、レベルセッティングの拙さが随所に目立って、やや歪みっぽいが、生録の良さが出ていて雰囲気抜群。」

*注「”続レコード漫談”35頁.参照。アトス山の復活祭は、これを含めて3枚出ていた。XY方式ワンポイントとは左右の単一指向性マイク2本を間隔を空けず上下に重ねて内側に90度傾ける配置で現在の金田式DCマイクに近いワンポイント・マイクのセッティング。DCマイクはマイクの間隔を広げていないから位相差を十分に検出できず広がりのあるステレオ音場が得られないという先入観に取り憑かれた人が今でもいるが、この録音に対する長岡氏の”続レコード漫談”での見解は以下の通り。”特に音場感は最高で、マトリックス・スピーカーで再生すると恐ろしいほどリアルである。音場は三次元的に広大で定位、移動感、抜群。その場に飛び込んでしまったという感じがする”。」
23−15

ベース・コントラベース

演奏.リル・アトキンソン ほか

デンマーク ジャズクラフト 7

「ピアノ、フルート、ドラムスにウッドベース二台という変わった編成で面白いのだが、レンジはわりと狭く、透明度不足。ただ、二台のベースの再生はなかなか難しいので、テストにも使える。」
   
23−16

キース・ジャレット(作曲)/アイズ・オブ・ハート 

Pf:キース・ジャレット、T−Sax:D・レッドマン、Cb:C・ヘーデン、Ds:P・モチアン

独ECM 1150

「1976年録音、79年プレス。コンサート録音の2枚組。fレンジ、Dレンジともそう広くない。ややオフ気味の録音だが、実に自然で、綺麗な音で、余韻が見事で、ホールの広さもよくわかる。空気感をよく再現する録音である。音像の輪郭はそれぼど鮮明ではないが、定位はしっかりしており、質感がよく出る。二枚組だが、正味一枚半で第四面は無録音溝。これはテストに使える?」


*注「1976年5月、オーストリア、ブレゲンツのコルンマルクト劇場でのライブ録音。P:Mafred Eicher、E:Martin Wieland ジャケットの写真はキース・ジャレットの撮影したもの。」
23−17

デルファイ 1 

チック・コリア(ピアノ独奏)

米ポリドール PD−1〜6208

「デルファイというのはオレゴン州にある風変わりな学校で、L・ロン・ハバードの設立というが、「宇宙航路」なんていうSFを書いたL・ロン・ハバードと同一人物か。そこの講堂での録音で、マイクはピアノの2フィート上に1ペア。8フィート離れてもう1ペアと計4本。マーク・レヴィンソンのプリLNP2に、レヴィンソン・スチューダーA80デッキ。NR(ノイズ・リダクション)その他いっさいなし。SN比はハンコックと共演のコロムビア盤といい勝負であまりいいとはいえないが、NRなしだから仕方がない。その代わり、音は綺麗だ。fレンジ、D・レンジとも狭いが、響きが自然で美しい。」

*注「録音、1978年10月26,7日。プロデューサーはチック・コリア自身。E:Bernie Kirsh。ピアノはマーク・アレン製。マイクはB&K(4006?)。レヴィンソン・スチューダーA80デッキとは、スチューダーA80.アナログ・オープン・デッキの録音再生アンプをマーク・レヴィンソン設計のアンプに置き換え改造したもので、いわばレヴィンソンの2トラ76pDC録音。なぜか、この方式の録音はヒスノイズが多い。」
 
23−18

ハービー・ハンコックとチック・コリアの夕べ

米コロムビア PC2 35663

「ステージに二台のピアノを向かい合わせてのデュエットである。二枚組。サンフランシスコのメイソニック公会堂でのライブ、PCM録音である。1978年プレス。演奏、録音とも悪くない。まろやかな良く響くピアノで、雰囲気があってよいが、PCMのくせにSN比はアナログ録音より悪い」

*注「1978年2月、サンフランシスコのメイソニック公会堂、ロサンゼルス、ドロシー・チャンドラー・パビリオン他でのライブ録音。プロデューサーとしてハンコック自身が名を連ねている。」

         
FMfan別冊1979年.冬号 No.24      
24−1

パス

ビブラフォン:トム・ファン・デル・ゲルト.G:B・コナーズ.Fl:R・ジャノッタ

独ECM 1134

「タイトルはPATHだが、山頭火の「時雨れて一人行くか」という感じであろう。A面トップは”ONE”.B面トップは”MICHI”というタイトルがついている。現代音楽風、室内楽風、尺八演奏風、哲学的ムードミュージックとでもいうのだろうか。歴史に残るようなものではないと思うが、ちょっと変わっていて面白い。録音はかなり良い方だ。オンで録って、エコーがたっぷり入っている。

   
     
24−2

エンジェル・オブ・ザ・ナイト

アンジェラ・ボウフィル.デーブ・グルーシン

米アリスタ GRP 5501

「聴感上の立ち上がり感のよい、ダイナミックな演奏で爽快。ボウフィルの歌も声もニュアンス不足だが、決して荒れた感じではない。マイクと口との距離や角度が絶えず変わるのが判るような歌い方、録り方で面白い。」

*注「制作1979年。ニューヨーク、A&Rスタジオとエレクトリック・レディ・スタジオ。P:デーブ・グルーシン、ラリー・ローゼン、E:ラリー・ローゼン。」 
  
24−3

ザ・ホーク

Fl:デイヴ・ヴォレンタイン.シンセサイザー:デーブ・グルーシン

米アリスタ GRP 5006

「B面トップはボウフィルの歌にエコーがたっぷり入るが、概してA面の方がよい。特に強調感のない、バランスのよいスケール感のある録音で、それでいて、十分迫力も出ている。伸び伸びと鳴る芯のあるバスドラム、鮮度の高いパーカッション、柔らかく綺麗なフルートと、アメリカ・プレスとしてなかなかのものだ。」
  
24−4

オフ・ザ・ウォール

マイケル・ジャクソン

米エピック FE35745

「バックグラウンド・ボーカルが五人、楽器は十四人。ボーカルはミキシングでいじってあるようだが、それにしては人間らしい声が聴ける。この手のものとしては録音は優れているといえよう。」

  
24−5

マラソン/サンタナ

 米CBS FC 36154

「昔より歪みっぽさが減って聴きやすくなった。A面三曲目の「アクアマリン」などは、スローテンポで静かに入って、徐々に盛り上げていくあたり、レンジが広いしひとつひとつの楽器がわりと鮮明で、パンポットで回しているところはあっても、音像の配置はうまく考えられており、音場の作り方が上手い。レンジの割には迫力がもう一息。」



*注:この号はロックのレコードが多く取り上げられていました。以下は録音に関しては批判的ですが、長岡節絶好調なので参考までに引用。飽くまで、これらの長岡氏の見解は、1979年当時に発売されていたレコードによる試聴結果であって、再発されたCDではどうかは不明ということを演奏家とエンジニアの名誉のために補足しておきます。
   
フローラー・プリム/キャリー・オン

米ワーナー BSK 3344

「A面トップの”SARARA”は、サラ、サラ、サラサララと歌う声がエコーはつけてあるが綺麗で爽やか。人間の声に近い。しかし、そのほかの歌はエコーのつけすぎ。演奏はブンブン、チンチン、シャンシャンいっているだけで可もなく不可もなし。」

  
コモドアーズ/ミッドナイト・マジック

米モータウン M8−926M1

「歌の方は大人になって段々角が取れてきたという感じ。トータルのサウンドとしては、わりとよく張り出してくるのだが、大味。しかも、低域が妙に詰まったような鳴り方、欲求不満に陥る。大きな音は出るがDレンジは広くないというディスコ・サウンド調の録音。 同時に買った「ドナ・サマー・グレーテスト・ヒッツ」ベイカサブランカ NBLP−2−7191、ロッド・スチュワート・グレーテスト・ヒッツ」米ワーナーHS3373 はお粗末。ゆめゆめオムニバスなど買うべからず。」

  
イーグルス/ザ・ロングラン

米エレクトラ SE 508

「表題を含めて全10曲。淡々と演奏し歌っている。なかなか器用だしサウンドもわりとナチュラルで聴きやすいが、要するにそれだけのことであって、圧倒的な迫力とか無限の世界に引きずり込んでいく魔力とか、ハッと眼を開かせる説得力とか、とろけるような色気とか、そういったものはない。」
  
*<チャイコフスキー/バレエ組曲「くるみ割り人形」二枚>と題して以下の二組のレコードを紹介
  
24−6

チャイコフスキー/バレエ組曲「胡桃割り人形」,チェロと弦楽の為のアンダンテ・カンタービレ.イタリア奇想曲

指揮とチェロ独奏.M・ロストロポービッチ.ベルリンフィル 

独DG2531 112

「テンポの速いクールな演奏。SN比が良く、透明度が高い。繊細に切れ込んで鮮明。実に粒立ちがよく、歪み感が少ないが、少しやせ気味。また人工照明を均等に当てて、どこにも影が出ないといつた感じの音作りでやや雰囲気不足。真空地帯での演奏会?」

*注「録音は欠点はあるが演奏が高水準であることを考えると推薦モノ。外盤セレクション収録レコードも、外盤ジャーナルでは、こうした録音の部分的な欠点を指摘されていたものが多い。」
24−7

チャイコフキー/クルミ割り人形 組曲 第1,2番

アンタル・ドラティ指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団,合唱団 

蘭フィリップス 9500 697

「(ロストロポービッチ盤)に比べて全てに対照的。自然光で照明したような影があり、表情たっぷりゆったりとして、厚みと奥行きを感じさせる。いささかホコリは舞っているが、空気を感じさせる演奏だ。やや太めだが、馬力はあるほう。繊細感、切れ込み、歪み感はロストロポービッチ盤に劣る。」

*注「ドラティの演奏はオリジナルで2枚組、箱つき、のレコード.クルミ割り人形の全曲盤(蘭フィリップス6747 257)があり、ここで取り上げられたレコードは、そこから取り出して組曲にまとめられた、いわばオムニバス。こうしたオムニバス盤は、先に書かれてあるよう再編集という余計なプロセスのせいか、オリジナル盤に音の面で劣ることが多い。全曲盤は”ホコリが舞っている”という感じは殆ど無く、フィリップスのコンセルトヘボウ管の録音としては上質。ドラティはバレエ音楽の演奏に定評があり、この”クルミ割り”の代表的名演。私感では、この全曲レコードは演奏込みで推薦盤。ドラティは同時期、フィリップスにコンセルトヘボウを指揮して”眠れる美女(蘭フィリップス6769 036)”全曲.3枚組もアナログ録音していた。これは、長岡氏の評価の対象にはなってはいないが、”クルミ割り”に演奏.録音とも凌ぐ。なぜか白鳥の湖だけはコンセルトヘボウと録音せずに他界した。写真は全曲盤」


24−8

スビリチュアルズ/黒人霊歌集

ソプラノ:ジェシー・ノーマン.Pf:D・ボールドゥィン.アンブロシアン・シンガーズ

蘭フィリップス 9500 651

「全十五曲、うち九曲にはアンブロシアン・シンガーズのコーラスがつく。ノーマンもデュパルクやシューベルトを歌うときと違って、わりと気楽に歌っている感じ、声がナチュラルに軽やかに伸びて、歪みっぽさがない。コーラスともども、音像がナチュラルで定位が良く、奥行き感のよく出た好録音だ。」

*注「国内版は輸入レコードに対訳と日本語解説付きで売られていた。番号日本フィリップス 20PC−405。」

24−9

シェーンベルグ/グレの歌

S:ジェシー・ノーマン,Ms:T・トロヤノス,T:J・マックラケン,Br:D・アーノルド.T:キム・スコウン,語り:W・クレンペラー,

小沢征爾指揮ボストン交響楽団,タングルウッド祝祭合唱団  

2枚組 箱入り 蘭フィリップス 6769 038

「独唱.合唱.語り、(大編成の)オーケストラからなる全102分の大曲。オケは「ローマの松」でみせた小沢らしい繊細にダイナミックに切れ込んで散乱する録音で、スケール、奥行きがあり、よくハモっているのだが、耳をそばたてればひとつひとつの楽器が聴き分けられる感じ。コーラスも自然で見事。ソロは部分的には多少ひっかかるところもあるが、全体としては優秀録音盤で、レンジも広い。」


*注「1979年3月30.31日.4月3日.ライブ録音。歌手の音像が、やや大きめなのが長岡氏の気にされていたところと推察。ジャケットの絵はムンク作「太陽」。語りのウェルナー・クレンペラーは、名指揮者オットー・クレンペラーの息子でハリウッドの映画俳優。戦争コメディで間抜けなナチスの将校というのが当たり役だった。数年前に死亡。やはり素養があるのか語りも音楽的で上手い。因みにカール・べームの息子も映画俳優カール・ハインツ・ベーム。彼には「血を吸うカメラ」というホラー映画の名作がある。
国内版輸入メタル原盤プレスは、初版の箱入りが25PC−37/8,再発廉価版が18PC−141/2」

24−10

ベルリーオーズ/ファウストの劫罰

プラシド・ドミンゴ.イボンヌ・ミントン.D・フィッシャー=ディスカウ.D・バレンボイム指揮パリ管.他

独グラモフォン 2562 048−50

「3枚箱。オケは大づかみの録音だが、音に厚みと迫力があり、悪くない。神経質に分解するタイプではない。コーラスもよいが、ソロは音像がふくらみ、口が大きい。クライマックスの地獄落ちは、オケと子供のコーラスが不気味な雰囲気を漂わせ、ゾッとさせる迫力があるが、ファウストとメフィストが男の金切り声みたいな録音でやかましい」


*注「”続レコード漫談”181頁、参照。欠点はあるが、名曲の本場のオケによる比較的良い録音となると推薦モノ」

24−11

キルヒマイヤー/ノクターン.スクリャービン/三つのエチュード.ソナタ第10番、フィーゼル(1935〜)/W.ソナタ

Pf:フォルカー・バンフィールド

独WERGO 60081

「ダイナミックだが粗さはなく、雄大なスケールの中に繊細微妙な隠し味がうかがわれるようないい録音だ。特にB面最後のフィーゼルの曲が実にいい。現代音楽の好きな人には推奨できる。」

  
      
FMfan別冊1980年.春号 No.25     
*この号から、それまで毎号、異なっていた各レコードの記事枠とレイアウトが一定し、1枚あたりの批評字数が多くなり、曲や演奏者のプロフィールに触れる余裕も出てきた。殊に優れた録音には文末にハッキリと太鼓判を押すようになった。FMfan別冊の廃刊まで、このスタイルが続く。今回の記事のレコードは、いずれも1977−9年に録音された当時の新譜である。        
25−1

スタンリー・カウエル/エポキーズ.レディ・ブルー.ミュサ&マイムーン.他

Pf:S・カウエル.Cb:セシル・マクビー.Ds:ロイ・ヘインズ

米ギャラクシーGXY5125

「fレンジは広いが、聴感上のDレンジはそれほど広くない。ハイエンドをやたらに持ち上げていないからだろう。鮮度、透明度はスパイロ・ジャイラに一歩ゆずるが、重低音領域のエネルギーがあり、どっかと腰を据えた音だ。ダイナミックではあっても、不必要な強調感はなく、ピアノもベースもドラムスも底力のある音。シンバルがやたらに出しゃばらず、さりげなく鳴っているのもよい。音像はわりとセンターに集まっている。盤質のせいかノイズはやや多い方だ。」


*注「ジャズである。未聴。」  
     
25−2

アルバン・ベルク/歌劇「ルル」、F・ツェルハによる第3幕.補筆完成版

S:テレサ・ストラータス.ピエール・ブーレーズ指揮パリ・オペラ座管弦楽団.合唱団.他 

独グラモフォン 2711 024 4枚組.箱入り

「曲の内容については専門家に任せるとして、録音だが、歪み感がなくシャープでクールで緊迫感もある。透明度が高く鮮度大、オケも声も音像が引き締まって輪郭鮮明、定位も明確である。オケはあまり大編成ではないようだが、声とのバランスもよく、声も自然でサ行が鋭くなることもない。動き、奥行きもわかる録音だが、ちょっとサッパリしすぎる感もないではない。もうちょっと、アクや空気感があるといい。」


*注「ベデキントの”地霊””パンドラの箱”に基づいたベルグの未完のオペラをF・ツェルハが補筆完成させ、1979年パリオペラ座の初演に併せてスタジオ録音したもの。3幕完成版はベルク未亡人により封印され、彼女の死後、日の目を見た。4枚組で7面で演奏が終わり、8面は、ジャーマン、F・ツェルハ、ブーレーズの肉声解説が入っているが、CDには収録されていない。演出はP・シェローで声楽陣は豪華メンバー、三幕版初演の歴史的録音。本番のパリ・オペラ座の初演ライブ映像がDVDで出ている。そこでは主役のストラータスは、三幕で切り裂きジャックに斬殺され体操のブリッジ状に反り返って倒れるという熱演を示している。このレコードの録音は、たしかにアナログマスターとしては漂白したような鮮明さで特に声が淡泊な感があるが、デジタルマスターCDの無機質な冷たさとは異なる。無調音階オペラの殺伐とした雰囲気を伝えていると言えないこともない。AT33PTGのようなラインコンタクト針で聴くと、その感が強いが、丸針のDL103で聴くと音質がガラリ変わり艶もアクも厚みもある人間らしい声になる。不思議な録音である。尚、ベルクと親交のあったベーム.ベルリン・ドイツ・オペラの独DG.通常版”ルル”ライブ録音も、私的には、このレコードに迫るほど、かなり音が良い。」
25−3

ボッケリーニ/バイオリンとハープのためのソナタ 第1,2,3,5,6番

Vn:レジェ・パスキエ,Hp:カトリーヌ・ミッシェル  

仏アリオン ARN38749

「バイオリンとハープというのは、珍しい取り合わせだし、バイオリンは古楽器を使っているのでちょっと音が違う。曲はわりとシンプルで幼稚な感じ。習作を聴かされているみたいだが、それだけにあまり神経を使わずにすむ。録音は素晴らしい。楽器が少なくマイクも少ないということもあるだろうが、鮮度が極めて高い。透明で美しい、ツヤのある音だ。バイオリンは左上方、ハープの低音はセンター下方、ハープの高音は右上方に定位する。楽器が三台あるような錯覚を受けるが、ハープの形を考えればこれでいいわけだ。目の前に楽器をおいて演奏しているという感じである。」


*注「仏アリオンはフランス(ポリグラム?)・プレスとイタリア・プレスの2つの版がある。このレコードも2種類出ていて音質的にはフランス盤の方がベター。」
25−4

モーニング・ダンス

スパイロ・ジャイラ    

米インフィニテイ INF 9004

「ジャケットがいい。実を言うとスパイロ・ジャイラって何者なんだか全然知らなかったが、ジャケットにつられて買ってしまった。ジャケットにこれだけこっているというのは中身にも自信のある証拠だろう。表題の”モーニング・ダンス”はなんということはないと思うが、B面トップの”ヘリオポリス”はいい。fレンジ、Dレンジとも広く、実に力強く、ハードでシャープ。しかも全くやせるところがなく、ソリッドで厚みがある。アルト・サックスも鮮烈だし、コンガ、パーカッションが実に切れがよく力強い。全体に透明度が高く、定位が明確で、音像が引き締まっている。輪郭鮮明、ただ、楽器は見えるが、プレーヤーの姿が見えないという録音。楽器が宙に浮かんで鳴っている。とはいえ優秀録音盤には違いない。必聴盤。」



25−5

パーセル/ハープシコード組曲

スピネット独奏:コリン・チェルニー

独アルヒーフ 2533 415

「ティルニーは昨年(1979年?)来日、小さな演奏会を開いたのだが、仕事で宮崎に出張中で聴けなかった。ハープシコード組曲だが、演奏はスピネットである。1705年以前に製造という骨董品で、アドラム・バーネットという個人のコレクション。ケント州グートハーストのバーネット邸で1978年1月25−7日にかけて録音、1979年プレス。スピネットはハープシコードの親類に当たる鍵盤楽器で、このレコードに使われているものは51鍵、変形スクウェアタイプ、みるからに可愛らしいものだ。ごく普通の木造の廷内での録音、ジャンではないが、音が生きている。飽くまでも透明、優しく、鋭く、ナチュラルで、深みがあり、一音一音が、空間に、そしてリスナーの体に浸透してくるような鳴り方。余韻も素晴らしい。推奨盤。」

*注「長岡氏が御贔屓の演奏家のコンサートには顔を出していたことを窺わせて興味深い。”ジャン(醤)”とはモランボンの焼き肉のタレの品名。当時”味が生きている”という惹句で米倉斉加年のテレビCMが話題を呼んでいた。元コント作家らしい表現?!」
25−6

ムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」ラベル編曲.「禿げ山の一夜」

ロリン・マゼール指揮クリーブランド管弦楽団  

米テラークDG−10042

「マイクはショップス・スチューダーSMK50U.三本。チャイコフスキー四番に比べるとマイクが違い、たぶんオケのレイアウトも違うと思う。A面トップに、禿げ山の一夜、が入っている。レンジは広く、カッティングレベルも高く、特に低域は従来の録音とは違うものだが、全体としてみるとチャイコフスキーの四番とはかなり違う。どこが違うかというと、まず立ち上がりと余韻、鮮度、ツヤ、音場の奥行き、透明度、解像度。ひとりひとりまでは分解するとしても、弦の一本一本まではいかない。四番を聴いた後ではかなり不満が残るが、それでも平均水準から見れば優秀録音盤には違いない。特に低域、超低域はさすがにデジタルだ。」


*注「サウンド・ストリームによる16ビット.サンプリング48キロヘルツによるデジタル録音。このNo.25では同時に、外盤A級セレクション 第1巻−46:チャイコフスキー交響曲第4番を必聴盤と絶賛していた。マイクとステージ上のオーケストラ奏者の配置が異なると鋭く音に反映するということであろうか。テラークのデジタルは何故かCDよりレコードの方が音に迫力がある。サンプリングが48Kから44Kヘルツにダウンする際のロスだろうか。」

25−7

ピエトロ・チェスティ/カンターテ

コンチェルト・ボーカレ.S:ユディッタ・ネルソン.CT:ルネ・ヤコープス.他

仏ハルモニア・ムンディ HM1018

「チェスティは1623年アレッツォの生まれで、マルカントニオ・チェスティともいう。教会音楽指揮者、オペラ作曲家。(ソプラノの)ネルソンは筆者の好きな歌手の一人なので、つい評価が高くなってしまうが、録音は素晴らしい。楽器もボーカルも繊細で豊麗、立ち上がりと余韻が見事で、しかもやわらかさがにじみ出てくる。音像、音場ともナチュラルで顔が見えてくる録音。歪み感はゼロに近い。曲が曲だから誰にでも薦めるわけにはいかないが......。」


*注「アルベール・ポーリンの録音。仏HMの優秀録音盤の多くは、彼かJ.F・ポンテクラフトの手による録音。仏HMの古楽としては、ありふれた内容で取り付きにくさは感じられない。当時は長岡氏はまだマイナー志向が薄く、念のために文末に注意を入れたのだろう。特薦盤。」

25−8

J.S・バッハ/無伴奏チェロ組曲 第1−6番

独奏:アンナー・ビルスマ 3枚組.箱

独SEON RL30369

「今回の録音もバロック・チェロによるもの。普通のチェロは脚棒を床に立てて支えるが、このチェロはやや小型で、脚棒がなく、胴を膝ではさみつけて支える。そのせいか音は非常に明快でダンピングがよく、低域のかぶりがない。一方、ちょっとさっぱりしすぎて寂しい感じもある。録音は鮮明でシャープで、余韻も見事、楽器の形が実物大でありありと見えてくる。かなりデッドな部屋での録音のようなので、多少ライブなリスニングルームで聴きたい。」

*注「ビルスマといえは今ではバロックの大家だが、当時、無名だったようで長岡氏は原記事に経歴を併記していた。」
25−9

キャロル・スローン/コットンテイル

vo:C・スローン.Cb:ジョージ・ムラツ.ベニー・アノロフ.ノリス・ターニィ.ジョー・ラバーベラ

米CHOICE CRS1025

「1978年11月。マグドナルド・スタジオでの録音。どういうスタジオか知らないが、わりと小さくてライブな部屋のようだ。また床が丈夫でないように聴こえた。ややオフ気味な録音で、キャロル・スローンの顔はかなり大きくふくらみ、分散した形で輪郭はない。伴奏はあまり出しゃばらず、スローンより後ろで演奏しているのがわかる。エコーの付き方が、どうも山小屋かなにかのような感じがして仕方がない。バスドラムはドスンドスンと床に響いて聴こえる。あるいは床が鳴っているのかもしれない。音場は集中型、透明度不足。しかし、あまり緊張感のない、家庭的雰囲気のある録音で面白い。」


*注「ジャズである。未聴。」

    
25−10

ベートーベン/歌曲集:「アデライーデ」「君を愛す」「新しい愛、新しい生活」等、全14曲

T;マーチン・ヒル.Pf;C・ホグウッド 

英オワゾリール DSLO 535

「ピアノはアンドレアス・スタインのフォルテピアノというベートーベン時代のもの。グランドだが6オクターブしかなく、なめし皮張りのハンマーを持つ。ペダルも膝レバーも何もなしのシンプル構造で、音も独特だ。もともとは(ピアニストの)パドゥラ・スコダ氏の所有だったのを、現所有者のコルト氏が、1815年ものベートーベン・タイプ・プロードウッドと交換したという。たぶんコルト氏邸での録音と思うが、独特の響きがつき、部屋の広さ(狭さ?)がわかる録音だ。装置が悪いと部屋の響きが消えてしまい、出来の悪いスタジオ録音みたいになってしまう。テストにも使えるレコード。」


*注「いうまでもなく、ピアニストのパドゥラ・スコダはアストレにフォルテピアノ演奏の録音をしている。」

25−11

ロドリーゴ/アランフェス協奏曲.*4台のギターのためのアンダルース協奏曲

G:ペペ・ロメロ,ロメロ四重奏団(*)ネビル・マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団

蘭フィリップス 9500 563

「録音はB面(アンダルース協奏曲)の方がよい。ギターは強調感が少なく、自然に録れており、ギターとオケは対等の扱い。A面のオケは中低域でボーボーとしまりがなくなったり、バイオリンの高域がきつくなったりする時もあるが、それを除けば全体としてはシャープで肌理の細かい綺麗な音で良い。残響がよくとらえられ、奥行き感の出た録音で、音像定位はよいが、オケの楽器に対して、ギターが大きめに見える。またギターの音像は高めに出てくるが、台の上に乗って演奏しているのだろうか。」


*注「1978年7月30日−8月2日.ロンドン.ヘンリー・ウッド・ホールの録音。アンダルース協奏曲はロメロ四重奏団の委嘱で作曲し初演された。これは彼らの2度目の録音。ギターは音量が低いので、通常オーケストラと協奏曲を演奏するときは、PAを入れる。そういう意味では”オケの楽器に対して、ギターが大きめに見える。”というのは客席で聴くギター協奏曲の音を再現したものとも考えられる。国内版輸入メタル原盤プレスは日本フィリップス X−7954」
25−12

ブルックナー/交響曲第5番

ダニエル・バレンボイム指揮シカゴ交響楽団 

独グラモフォン 2707 113 2枚組.箱入り

「楽器をひとつひとつオンマイクで鮮明に録ったような録音で、歪み感も少なく、レンジも広く、低域もよく伸びているが、個々の楽器は少し細身に聴こえる。全体にハイ上がりで、金管が華々しいが、軽く薄い感じの金管だ。明るさ、華々しさだけだと安っぽくなってしまうのだが、レベルは低いながらも超低域がちゃんと出ているので、これが気球にオモリをつけた感じになってうまく抑えている。定位はよいが、楽器が前列勢揃いの傾向が少しあって、奥行き感がもう一息。全体としてはなかなかいい録音だが、ブルックナーのレコードとして考えると朝比奈隆あたりとは対照的だ。」

*注「”続レコード漫談”70頁、参照。バレンボイムはDGにシカゴ響とアナログで、テルデックにベルリンフィルとデジタルで、2回もブルックナー交響曲の全曲録音をしている。朝比奈隆を引き合いに出すのは驚かされるが、長岡氏が朝比奈の録音を評価の対象にしたことはないと思う。新鋭バレンボイムによる、古老の朝比奈.ヴァントと対極のブルックナー演奏といえよう。」
25−13

ブラームス/バイオリン協奏曲

Vn:サルバトーレ・アッカルド,クルト・マズア指揮ライプチッヒ・ゲバントハウス管弦楽団

蘭フィリップス 9500 624

「この曲のレコーディングとして何十枚目に当たるやら。それだけにまたかということになるだろうが。このレコードは別に変わったことはやっていない。ごくオーソドックスな感じだ。オケはブラームスらしい重厚さが出ているが少しほこりっぽく、ツヤと鮮度がもう一息だ。もっとも協奏曲だから、オケがあまりピカピカのギンギラに出しゃばらない方がいいともいえる。バイオリンは音質、音像ともきりりと引き締まった感じで、しかもオケと遊離することなく、自然なバランスで鳴っている。マルチマイク録音だとは思うが、ワンポイント風なミキシングを心がけたというところか。あまりギスギスしない、エレガントで、すっきりしたバイオリンである。」

*注「超優秀録音とまではいえないが、名曲の名演奏家による名録音。アッカルドはオーディオ・マニアでアナログ派。比較的最近、手持ちのストラディバリウスとガルネリウスを使い分けて、イタリア−FONEにアナログ録音の特製レコードを出していた。国内版輸入メタル原盤プレスは日本フィリップス25PC−32」
25−14

ショスタコービッチ/歌劇「ムツエンスク郡のマクベス夫人」

ニコライ・ゲッダ.ビシネフスカャ.ロストロポービッチ指揮ロンドンフィル

英EMI 03 374/6 3枚組.箱入り

「名前だけは知っていたが、聴くのは初めて、曲については何ともいえないので専門家にお任せする。ショスタコービッチらしい大編成のオケを駆使したオペラで録音は特に優秀。レンジは広大、シャープに鮮明に切れ込んで、情報量大。オケの楽器の一音一音がわかるような細かい録り方だが、しかもダイナミックで音に伸びがある。ボーカルは絶叫型だが歪み感はなく音像も引き締まって定位も良く、動きがよくわかる。曲.録音.演奏とも、壮絶、強烈で全曲聴いたらさぞ疲れることだろう。オケの役割が大きいところは楽劇風。ニコライ・ゲッダの声は少しやせ気味でヒステリックに聴こえる。」


*注「1979年、世界最初の全曲スタジオ録音。”続々レコード漫談”81頁、参照。1934年、スターリン圧制下の初演直後にソ連当局から批判を受け暫く演奏を封印し、内容を変更して”カテリーナ・イズマイロヴァ”として改題して演奏していた。70年代に入ると時代が変わり、原典版が演奏できるようになった。」

     
FMfan別冊1980年.夏号 No.26    
26−1

バーンスタイン/ファンシー・フリー.ソロ・バイオリンと弦と打楽器、ハープによるセレナード

Vn:G・クレーメル.L・バーンスタイン指揮イスラエルフィル

独グラモフォン 2531 196

「*ライブ録音だ。セレナードはユダヤ的息苦しさがあるが”ファンシー・フリー”は軽快そのもの。映画”踊る大紐育”のベースにもなっている。舞台はニューヨークのサイドストリートのバー。カーテンの奥でビリー・ホリデーのブルース、ビッグ・スタッフが38秒間聴こえてから開幕、オケにピアノ(ホンキートンク)、ドラムス、ベース・ギターが加わって陽気でにぎやか、切れ込みが鋭く情報量大で、ハイエンドは壮烈だが歪み感はない。ドラムスも切れがよい。ステージの奥行き感もよく出ている。優秀録音盤。」


*注「ライブ録音年月日不明。製作1979年。この連載当時、健在だったバーンスタイン、ベームに帝王カラヤンにも優秀録音はあるのだが、何故か外盤セレクションには彼らの録音は取り上げられていない。彼らは超メジャー、老舗DGの看板であったので、マイナー志向の長岡氏が外したのかもしれない。」
26−2

パーフェクト・マッチ/エラ&ベイシー

vo:エラ・フィッジェラルド.カウント・ベイシー・オーケストラ

米パプロ D2312110

「ジャケットは裏のカウント・ベイシーの写真の方がシャープで、タイトルもエラ&ベイシーとなっている。1979年7月の(デジタル)録音。デジタル・システムはソニー製である。レコードは何と赤く透明なディスコ・スタイル。スペアナでも、聴感でもはっきりわかるのだが、fレンジ、Dレンジともかなり狭く、何のためのデジタルかわからない。輪郭はわりとはっきりしているが、線が太く大味で、繊細感不足。と欠点ばかり並べたが、いいところもある。ライブ録音で、あまりいじくり回していないということもあって、音に硬さはあるものの、雰囲気はよくつかまえており、楽しめるレコードになっている。」

*注「ジャズ界の大御所二人の録音。某ジャズ・サイトよりジャケット写真を提供してもらいました。感謝!!」




26−3

ピンク・フロイド/ザ・ウォール

米CBS 36183

「ピンク・フロイドは”狂気”以後、パットせず、前作”アニマルス”は曲、演奏、録音と三拍子そろった、救いようのない駄作だったが、今度の”ザ・ウォール”で、どうやら壁を突き破れそうである。ジャケットはこりすぎというか、写真に撮った場合はの効果は最低なので、開いて左側の部分をお見せする。二枚組でもあり、色々なキャラクターの曲がアラベスク風に次々と出てくる。トータルでは録音は優れている。”狂気”の方がレンジが広く、特に超低域ではかなりの差をつけるが、透明度、締まり、歪み感、奥行き、といつた点では”ザ・ウォール”が上回っている。位相処理で音がグルグル回ったり、飛びかかったりする部分もあり、あの手この手で楽しませる。」


*注「”狂気”とは、外セレ.1巻−99の、"ピンク・フロイド/the dark side of the moon"の邦題。ロック・ファンは必聴であろう。」
 
  
26−4

ドビッシー/歌劇「ペレアスとメリザンド」

S:F・フォン・シュターデ.B:スティルウェル.カラヤン指揮ベルリンフィル

米エンジェル SZCX3885

「極めてユニークなスタイルで有名なオペラだが、もともとがフォルテやフォルテッシモがほとんどないような淡々として流れていく幽玄な響きが持ち味。西洋能楽みたいなものだから録音も難しい。このレコードはよく出来ている方だと思う。ボーカルとオケのバランスがよく、どちらも出しゃばることなく、ぼけることなく、きめ細かく流れていく。音像は小さく締まっているが、輪郭はクッキリ型でなく水彩画風。音場は広い方だが、上下は出にくい。マイクセッティングとミキシングのせいだろう。スペアナで見るとレンジは狭いが、これは曲そのものがそうなっているためだ。ただ、ローエンドの不足はカラヤン録音の特徴が出ているのだろう。」


*注「評価の対象となった米エンジェル盤は盤質が粗悪。独.英.仏のEMIのプレスなら確実に音質はワンランク・アップする事を考慮し定評ある演奏ということを含めると推薦に値する優秀録音と思う。”ローエンド不足”とあるが、これは飽くまで、20ヘルツ以下も再生できるASWを使用しての試聴であって、一般のSPでは不足とは感じられない筈。カラヤン録音の低域不足は長岡氏の持論。カラヤンのモニタースピーカーがARを使っているからだろうと推察されていたこともある。写真はドイツ盤、アメリカ盤と同じデザイン。」

26−5

ビゼー/カルメン組曲第1番.グリーグ/ペール・ギュント組曲

レナート・スラトッキン指揮セント・ルイス交響楽団

米テラーク DG−10048

「おなじみのデジタル録音である。現行のデジタル録音のウィーク・ポイントは、ハイエンドであり、特に弦の合奏に問題が出ると思うが、TELARCも概してパーカッションとブラスには強く、弦にはやや弱い感じだ。とはいっても現時点では間違いなく優秀録音。スペアナはB面”ペールギュント”の最内周”山の王の宮殿にて”だが、A面”カルメン”のトップでもほぼ同じ斜め加工特性を示し、これがピラミッド型のどっしりとした音作りに通じている。音は概してB面がよく、特に”山の王の宮殿にて”は、低域の締まりと量感が別格で、部屋を揺るがせ、胸を締めつけてくる迫力はデジタルならではのものといえる。」


26−6

ベルク/バイオリン協奏曲「ひとりの天使の想い出のために」.ストラビンスキー/バイオリン協奏曲

Vn:イツァーク・パールマン.小沢征爾指揮ボストン交響楽団 

独グラモフォン 2531 110

「ベルクのバイオリン協奏曲というのはたいしたもんじゃないと思っていたのだが、このレコードを聴いて、演奏と録音、特に録音の良さですっかり見直した。ベルクの音楽は(歌劇の)ヴォツェックやルルにも見られるが独特の底知れぬ凄さがある。それがよく出ている。”ひとりの天使の想い出のために”というサブタイトルつきだが、これは有名な建築家グロピウスとマーラー未亡人との間に出来たマノン・グロピウスが十八歳で死んだのを悼んでということだそうだ。バイオリンのソロは鮮烈で素晴らしいが、オケも負けず劣らずシャープで繊細でレンジは広大、ローエンドの空気感が凄い。ティンパニーやベースがオフでありながら引き締まって力強い。特薦。」


*注「録音エンジニアはベルグ:Klaus Hiemann.ストラビンスキー;Hans-Peter Schweigmann B面:ストラビンスキーのバイオリン協奏曲なのだが、記事中でストラビンスキーの方には一切言及されてない。本命のベルグと録音エンジニアが異なり鮮明さが劣るからであろう。ベルクは歌劇”ルル”を作曲中にマノン・グロンピウスの訃報を聞きインスピレーションを受け、ルルを中断して、このバイオリン協奏曲の作曲に取り組んだが、完成後、今度はベルクが悪性の腫瘍を発病して亡くなり、ルルは第3幕が完成せず未完に終わった。そこで先に紹介したツェルハの補筆完成版が関わってくる。」

26−7

ベートーベン/2つのオーボエとコール・アングレのための三重奏曲−作品87.ドン・ジョバンニの主題による変奏曲WoO−28.コールアングレ(イングリッシュホルン)とピアノのソナタ−作品17

Ob:ハインツ・ホリガー,モーリス・ブール,H・エルホルスト.Pf:J・ヴィッテンバッハ

蘭フィリップス 9500 672

「(オーボエ奏者の)ホリガーがフィリップスで入れているレコードには優秀録音盤が多いが、これはその中でもトップクラス。コールアングレ(イングリッシュホルン)とピアノのソナタより、二本のオーボエとコールアングレで演奏するトリオと変奏曲がいい。実に明るく美しく透明で、余韻が見事。音像は引き締まって、ピタリと定位する。かなりオンマイクだが、そう鋭くならずピストンの音がカチャカチャと聴こえるのが不思議と耳ざわりにならない。演奏、録音とも優秀。特薦。」


*注「1979年4月23−8日.スイス・ラ・ショード・フォン音楽劇場での録音。このホールでのホリガー、グリュミォー、イ・ムジチのフィリップスの録音は優秀なものが多い。国内盤には、このホールでの録音との表記があるのだが、なぜか本家オランダ盤には記載がない。国内版輸入メタル原盤プレスは日本フィリップス25PC−63」

26−8

J.S・バッハ/トッカータ集.VOL2 BWV911.914.915.916

Pf;グレン・グールド

米CBS M35831

「CBSコロムビアも色々買ったが、ロクなものがなく、これ1枚だけが残った。グラモフォンのアルヘリッチにもBWV911が入っているので、スペアナはそれからとった。形がよく似ているのでわかると思う。カッティングレベルはアルヘリッチが少し高く、SN比もアルヘリッチが上回る。グールドは低域のレベルがやや高く、SN比はやや劣る。聴感上でもその差は明確に出てきて、切れ込みと、透明感、静寂感はアルヘリッチが上回るが、グールドには全体にゆとりと低域の伸びがあり、親しみのある録音といえるだろう。」


*注「この年.1980年に、鬼才グールドが亡くなった。」

   
26−9

J.S・バッハ/イギリス組曲 第2番,トッカータBWV911,パルティータ第2番

Pf:マルタ・アルヘリッチ

独グラモフォン2531 088

「もともとがハープシコードの曲であり、ハープシコードの音というのは、立ち上がりが極めて鋭く、しかも落ち着いた耳当たりのよい音である。ピアノで弾く場合、ハープシコードの音色を意識するか、無視するかは演奏者、録音技師の自由だろうが、このレコードはハープシコードの音色を生かした優れた演奏と録音になっている。A面のトッカータが特によい。タッチが極めて明快でクールで切れがいいのだが、決してオンに過ぎず、やかましさ、金属的な鋭さがない。余韻、ピアニッシモが綺麗で、透明感と静寂感がある。小意気な録音だ。」


*注「奔放さでしられるアルヘリッチとしては大人しい演奏である。」

26−10

キャッチング・ザ・サン

演奏 スパイロ・ジャイラ

米MCA 5108

「ジャケットを見ただけでスパイロ・ジャイラとわかる。前作のイメージをそっくり受け継いだ、エキゾチックでカラフルなジャケット、曲も前作の延長の感じがある。録音は前作に負けず劣らず優れたもので、一種独特の音色を持っている。低域は力強く、締まりがよく、バスドラムはドーンという音ではなく、ド、ド、と瞬時に止まる感じで緊張感があり、爽快。中域から高域にかけても切れがよく、透明度が高く、音に伸びと厚みがある。トランペットやサックスが、明るく輝かしく、冴え渡って、厚く力強い。では生々しい鮮烈な音かというと、そうでもなく、多分に人工的な色付けを感じさせるので、この辺が不思議だ・音作りのうまさか。」

*注「スパイロ・ジャイラの音作りについては、単行本”レコード漫談”112頁、参照。
漫談の記事の方が後で考えを少し変えられたように想える。とはいえ、一聴に値する演奏と録音であることには違いない。

 
26−11

シュターデ・アリア集:ロッシーニ/歌劇「オテロ」.ハイドン/歌劇「報われた誠」.モーッアルト/歌劇「皇帝ティトゥスの慈悲」よりハイライト

蘭フィリップス 9500 716

「人気のフレデリカ・フォン・シュターデ、これは(既に全曲盤のあるオペラからの)オムニバスである。オムニバスというとロクなものがないのだが、このレコードはわりと良い。A面の”オテロ”が本命で、スペアナもそこからとっている。レンジは狭いが、カッティングレベルが高く、鮮度も高い。シュターデはカラヤンのメリザンドよりも.力があって音像もソリッド。コーラスとのバランスはもう一息。」


*注「”オテロ”以外のオペラからのオムニバスなのだが、他の曲の録音については言及されていない。ロッシーニ/歌劇オテロ の全曲盤は、主役がT:ホセ・カレーラス.Ms:シュターデ.美男美女のコンビで、ヘスス・ロペス・コボス指揮フィルハーモニァ管弦楽団 蘭フィリップス 6569 023 3枚組 箱入り(世界初録音)。写真は全曲盤。オムニバスはオリジナルに劣るの原則に従うなら、そちらの方を推薦すべき。この全曲盤の音は輝かしいばかりに力強いのが印象的、こちらの方が良さそう。たしかに合唱は、やや出しゃばり気味、ソロとのからみが少ないので気にならない。シェークスピアの”オテロ”はヴェルディのものが有名だが、ロッシーニ版も悪くはない。”レンジは狭いが”とあるが、編成の小さいロッシーニの曲だから仕方ないこと。シュターデは美貌で人気のあるメゾ・ソプラノ、シャーシュのようにドロップアウトすることなく今も活躍中。有名なティファニーの店員をしていて、美声を認められて、21歳から初めて声楽を習いだし、数年後、本格的に歌手デビューしたというシンデレラ・ストーリーがある。一方、ボイス・トレーナーの前夫と離婚するおり、シュターデの声は夫婦で作り上げた共有財産だから”資産分与”を迫られ訴訟となり、敗訴して、相応の金を支払ったという珍妙な逸話もある。写真は全曲盤」

26−12

バルトーク/ビオラ協奏曲.ヒンデミット/ビオラ協奏曲−白鳥を焼く男

Va:D・ベニヤミーニ.D・バレンボイム指揮パリ管弦楽団

独グラモフォン 2531 249

「A面のバルトークの方がいい。九分九厘まで出来上がっていた遺作を弟子のティボール・シェルリーが完成させたもので、ビオラという縁の下の力持ちを主役にして、どこまで効果を上げられるかが聴き所。録音はレンジが広く、切れがよいが、聴感上はナチュラルに録られており、ビオラ、オケとも音色は繊細で美しい。ビオラ独特の甘さもよく出ている。音像はやや大きめで、輪郭はあまり目立たない。ソロとオケの距離感がもう少し出ると申し分ない。ビオラが第一バイオリンに吸い込まれそうになる時がある。トータルでは優れた録音といえる。」

26−13

初期イタリアのバイオリン音楽/ガブレエリ、マリーニ、ロッシなど17世紀の作曲家6人の曲

ムジカ・アンテイカ・ケルン 

独アルヒーフ 2533 420

「曲はなじみはないが、ごく親しみやすいものばかりてせ、BGMとしても、気楽に聴けるはずなのだが、演奏と録音が、クールにシャープに研ぎ澄まされており、とても気楽には聴けない。繊細でシャープで透明で、立ち上がりと余韻が素晴らしく、しかも極めてナチュラルで美しい。音場も広く、特に奥行き感がすごい。優秀録音盤、特薦。」

*注「バロック・バイオリンなど当時の楽器で演奏。このFMfan別冊 No.26では同時に外セレ.2巻−180のグリュミオーのビバルディ/四季も優秀録音盤として取り上げられているが、それには”特薦”の太鼓判はないから、この録音は、それより良いのだろう。」

 
26−14

ラーガ・ハメールとラーガ・ガラ

演奏.シタール:ラビ・シャンカール.タンブラ:アラ・ラカ、他

独グラモフォン 2531 216

「タンブラはシタールと違ってフレットを持たない弦楽器。この録音では通常より小型の5本弦のものがつかわれているそうだ。スペアナで見てもわかる通り、カッティングレベルが低く、レンジもそう広くはないが、極めて繊細微妙で歪み感が少なく、一音一音明確に聴き分けられる。決してダイナミックな音ではないが立ち上がりが鋭いので、ダイナミックレンジは意外と広いのではないかと思う。スペアナの立ち上がりを時間を10倍ぐらい早くすれば、レベルももっと上がると思う。いい録音だが、やはり単調で飽きる。シタールマニア向き。」

*注「シャンカールのシタールのレコードは外セレに2枚取り上げられている。単調で冗長なのがインドの音楽。」

   
26−15

スティル・ハリー・アフター・オール・ジーズ・イヤーズ:40th Anniversary

演奏 ハリー・ジェームス&ヒズ・ビック・バンド

米シェフィールド LAB11

「(1979年3月26−30日、ワイリー教会、ダイレクト・カッテイング録音)トランスレスのAKGのワンポイント・ステレオ・マイクをメインに使い、サブとして、ピアノ用にソリッドステート・タッチアップ・マイク。アコースティック・ベース用に管球式のテレフンケン251とシンプルな構成。教会からカッターの置いてあるマスタリング・ラボまでは740フィートの(長さの)ケーブルで送り、管球式のカッティング・アンプに入る。歪み感の少ない、透明でサラサラと指の間からこぼれ落ちるようなきれいな音。普通の音量で聴くと品が良すぎて、薄味で迫力不足。圧倒的大音量で真価を発揮、ボリュームを上げてもうるさくならない。音像は引き締まっており、定位も良い。」

*注「デジタルが出現する直前の1970年代後半はダイレクト・カッティングが各メーカーで盛んに試みられていた。長岡氏はダイレクト・カッティングが必ずしも優れた録音ではないことを指摘されていた。その理由の一つは長いケーブルを経てカッティング・ルームに至ることだった。このレコードは、その例外か?ダイレクト・カッティングが事実上絶滅してしまった現在では、この方式のレコード自体が貴重だし、いずれも出来の差はあるもののデジタルメディアでは得られない独特の生々しい音色がある。殊に老舗の米シェフィールド・ラボのものはアナログマニア必聴。」

       
FMfan別冊1980年.秋号 No.27     
27−1

ドビッシー/管弦楽のための映像「イベリア,ジーグ,春のロンド」,牧神の午後への前奏曲

アンドレ・プレビン指揮ロンドン交響楽団

英EMI ASD 3804

「1979年.デジタル・レコーディング。デジタルらしいといってしまえばそれまでだが、きめ細かくシャープに切れ込み、明るく輝かしく散乱するハイファイサウンド。スペアナで見ても高域のレベルがかなり高い。5kHz以上で急激に下降しているが、この辺はハーモニックス成分だから落ちて当たり前、落ちない方がおかしいのである。低域がちょっと寂しいのが難点で、トータルでもややカン高く、やたらに目ざましく明るいが、歪みっぽさはなく、肌ざわりもよく、その点ではアナログ的なよさもあり、いい録音だ。定位もなかなかしっかりしている。」

*注「テクニカルノートがレコードに挿入されており、それに依ると、EMIのクラシック音楽、初めてのデジタル録音で、それだけにプロデューサーやスタッフは、スビ・ラジ・グラッブをはじめ強力メンバーを結集した旨が書かれてある。2トラック録音。アナログ録音末期の1980年前後は爛熟記でマルチマイク、マルチトラック録音で録音後、複雑なミキシング、トラックダウンを経てレコード化されていた。一方、初期のデジタル録音は2トラック録音でマルチトラック録音が出来ず、その場で最小限のミキシングで録音。初期のデジタル録音が、当時のアナログ録音に比して良くも悪くもクリアだったのは、メディアの差だけでなく録音手法の違いもあったようだ。それから、EMIの有名なHMV:His Master`s Voice の犬マークは日本ではビクターが商標を取っており、当時はEMIの輸入盤の犬マークには黒いシールが貼られたりカッターで切り取られていることが多かった。」
27−2

ロッシーニ.レスピーギ編曲/組曲 風変わりな店

ランベルト・ガルデルリ指揮ロンドン交響楽団

独EMI 065 03367

「何の変哲もない通俗オーケストラ曲である。ロッシーニのメロディにカラフルなレスピーギのオケがついて、気楽に聴ける曲となっているが、演奏、録音ともに良い。デジタルに負けるかと柳眉を逆立てたアナログみたいな突っ張りもなく、さらさらと流れて行って、しかもポイントに来れば華やかに散乱し、それなりの迫力を示す。スペアナのf特もムリのない形を見せている。小型のスピーカーでも十分に鳴ってくれるが、大型のスピーカーで聴くと、やはりスケールが出てくる。50ヘルツ以下がどこかで効いてくるのだろう。」


*注「長岡氏は記事に、この曲の題を”奇妙な店”と訳しておられたが、私は一般的なモノにしました。ガルデルリはオペラのベテラン指揮者。イタリア・オペラの録音は多いが、単独の管弦楽の録音は珍しい。」
27−3

ストラデルラ/ラ・スザンナ

S:マリアンヌ・クヴェクシルバー.ユディッタ・ネルソン.Ct:ルネ・ヤコブス.他 

独EMI 165−45643/4

「ストラデルラは1644年〜1682年のイタリアの作曲家。波瀾万丈、最後は暗殺されたという、劇的な生涯を送った人物で、この人物を主人公にしたフロトーのオペラがあるくらいだ。”ラ・スザンナ”は二部からなるオラトリオということだが、オペラみたいなものと思えばいい。どういうストーリーだかよく知らないが(ジャケットを読むのがめんどくさい)曲は悪くはないし演奏がいいし、録音が素晴らしい。序曲の代わりのシンフォニアは弦楽器五人とチェンバロのアンサンブルが繊細で鮮明で透明、限りなく細かく切れ込む、という感じで出てくる。ボーカルはベテランぞろいで、透明でツヤがあり、すがすがしいサウンドだ。」
27−4

リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェラザード」

Vn:H・クレバース、キリル・コンドラシン指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

「アナログ録音だが、fレンジ、Dレンジとも広く、ローエンドもデジタルに負けない。オケの楽器の音の一つずつが、さらにはバイオリンの弦の一本一本がわかるような、そんな録音で、実に細かい。しかも厚みも力も奥行きもあって、やせた感じ、冷たい感じはない。シンバルやトライアングルが実に華々しいが、それでいて細かい。繊細に切れ込んで輝きがあってなにもかも真鍮色にピカピカしすぎるのが欠点と言えないこともない。」

*注「たしかに、燻し銀のコンセルトヘボウにしては明るい音色であるが、DCアンプで聴く限りではピカピカし過ぎるという印象はない。寧ろ鮮明さと重厚さを持ち合わせた好録音に聴こえる。これまでに同曲は小沢征爾とマゼールを取り上げられたが、録音としては此がベストと思う。旧ソ連から家族を置いて単身西側に亡命したコンドラシンは、フィリップス.デッカと契約し、バイエルン放送交響楽団の次期音楽監督に決まり、これから大活躍すると期待されていた矢先にポックリ逝ってしまった。没後、ライブ録音が大量に出たが、フィリップスとのスタジオ録音はこれだけではなかろうか。国内版輸入メタル原盤プレスは日本フィリップス 25PC−74。この号でデッカのデジタル録音、コンドラシン指揮ウィーンフィルの新世界も取り上げていますが、こちらの方は批判的。」
27−5

ラベル/バレエ音楽 ダフニスとクローエ 全曲

ロリン・マゼール指揮クリーブランド管弦楽団,合唱団

英デッカ SXL6703

「この曲のクライマックスは筆者の独断ではB面の頭(第二幕:戦いの踊り)だと思うが、これは1974年録音の英デッカ.マゼール.クリーブランドが良かった。仕掛け花火に次々と火がつき、ついには夜空が全面に花火で輝き渡るという、めくるめくような効果が見事だった 」


*注.「マータ指揮ダラス響の米RCA盤.同曲のデジタル録音を取り上げた文中で、その録音を”かたすぎて冷たい”と批判したついでに、この曲の録音で印象に残るのはと、マゼール盤を変則的形で紹介。同曲はレンジが広く、1時間弱もかかるので、LPではカッティングレベルに制約を受け苦しいが、そんな中で音のよい方である。国内盤輸入メタル原盤プレスは、初版がキング SLA 1065、再販ロンドンL25C−3146」
27−6

モンテヴェルディ/マドリガル集.VOL6.7.8:タンクレディ.クロリンダの戦い.アリアナ悲歌.他

ミシェル・コルボ指揮ローザンヌ合唱団.ドロットニングホルム・バロック・アンサンブル

仏エラート.STU71227−30

「3枚組で、当然この前にVOL1〜5があったのだろうが、手元にあるかもしれないし、ないかもしれない。行き当たりばったりにしか買わないからどうでもいいわけだ。1978年9月、スイス.カジノ・ド・ヴェヴェイのホールでの録音。80年プレス。ボーカルはソリストだけで11人、楽器が10人。多彩な内容で、単調のようだが、変化に富んでおり何よりも録音が美しい。決してオンマイクではないのだが、楽器も声も静かにしかも鋭く切れ込んで、余韻と残響が美しい。ただ、この残響の美しさは装置が良くないと、さっぱりダメということもわかった。以外と難しいソースだ。」

27−7

アルバン・ベルグ/歌劇「ヴォツェック」

ピエール・ブーレーズ指揮パリ・オペラ座管弦楽団

米CBS M2−30852

「1969年録音、アメリカプレスにしては鮮度が高く、エネルギーがあり、不気味な雰囲気がよく出た録音だ。レンジも広い方である。」

*注「単行本”続レコード漫談”.51頁.参照。このFMfan別冊(No.29?)で外盤ジャーナルとは別企画の”オーディオ向きをうたったレコードほど音が汚い!?”という記事があり、”外盤ジャーナルで取り上げていないわりと古いレコードで、しかも演奏、録音とも最新盤を凌ぐものという条件で捜してみた”とあり(後に外セレに取り上げられる)、コロボリー、ラインの黄金、リヒター指揮のマタイ受難曲、カルミナブラーナ、と共にテストに使える優秀録音レコードとして変則的に紹介。ヴォツェックの代表的な名演奏。写真はドイツプレス:独CBS 79251。ドイツプレスの方が盤質は良いようである。」

27−8

プリテン/キャロルの祭典、7つのイギリスのクリスマス・キャロル集

Hp:オシアン・エリス.クリスチャン・ハラー指揮ウィーン少年合唱団

独RCA RL30467

「1978年8月、ゼキルンでの録音。ゼキルンてなんだかわからない。コーラスはソフトタッチで雰囲気があり、鋭くならず、もやもやにならず、ほどよい湯加減である。ソロが出てくる時も、やたらに飛び出さず、それでいて音像はしっかりと立っていて、なかなかいい録音だ。わずかにほこりっぽい感じがあるのだが、これもホールに漂うほこりなのだと思えば我慢できる。エリスのハープが実にいい。こちらはコーラスよりオンで、かなり鋭く切れ込んでくる。といってもハープがギターに化けたりはしない。一聴してハープと判る音色で定位、大きさも自然だ。」


*注「”続レコード漫談”227頁、参照。」
27−9

古代ギリシャの音楽

グレゴリオ・パニアグワ指揮アトリウム・ムジケー   

仏ハルモニア・ムンディHM1015

「現時点でのアナログ録音の最高峰、あるいはデジタルを含む全てのレコードの中の最高かもしれない。しかし、このレコードの良さをフルに発揮させるのは容易でないことも断言しておく。ハイスピードで、微少信号に極めて忠実で、Dレンジは特に大きいというシステムでないと絶対に真価を発揮してくれない。紀元前五世紀から紀元五世紀ぐらいまでのギリシャ音楽の復元であり、ボーカルと数十種類の楽器を使用。立ち上がり、余韻、ホールトーン(スズメの声が絶えず入る)、Dレンジ、透明度、力強さ、厚み、リアルな音像と音場。すべてに圧倒的。内容も面白く、何度聴いても飽きない。超マニア必聴盤!!」

*注「”レコード漫談”206頁、参照。1978年6月、アルベール・ポーリンの録音。1979年プレス。再プレスでドイツDMM盤があるが音質が劣るので要注意。欄外に長岡氏のコメントで”今回の超特薦はギリシャ古代音楽、だまされたと思って買ってみるべし!”とある。ひょっとしたら開発当初のDCマイクでDC録音したのではないかと錯覚するような鮮烈な録音。アナログはマッタリとしたソフト・フォーカスな音という人は驚愕して先入観を覆されるだろう。SACDが出た現在も、これを凌ぐ録音はないような気がする。外セレで真っ先に取り上げるべきLPであるが、この記事が契機でベストセラーになり有名になりすぎたので除外したという。」

27−10

木管二重奏集/ハイドン.ドニゼッティ.ベートーベン.モーッアルト.ドヴィエンヌの作品

演奏:コンソルティウム・クラシウム

独テレフンケン 6.42416

「二本のオーボエ、二本のクラリネット、クラリネットとファゴット、二本のホルン、二本のファゴットという組み合わせで、常に木管二本だけで伴奏はない。木管は(*)ブロックフレーテの前衛音楽も紹介したが、このレコードはまさに正反対、曲、演奏、録音とも両極点に立つものといえる。レンジはもちろん広くはないが、オフマイクで実にソフト&メロウ&エレガント。しかし、メロメロのもやもやではなく、音像定位はしっかりしており、雰囲気がよく出る。名演奏を遠くで聴いているという感じだ。これはこれでいい録音だと思うが、装置が悪いとボケボケになるおそれもある。」


*注「この27号で外セレ−1巻71の”アヴァンギャルドのブロックフレーテ音楽”を紹介。」

   
       
FMfan別冊1980年.冬号 No.28    
28−1

ショスタコービッチ/交響曲第5番

レナード・バーンスタイン指揮ニューヨークフィル

米CBS IM 35854

「ジャケットは赤一色で青と黄色をかけ忘れたような印刷。デジタルというとどうしてこう薄汚いジャケットになってしまうのか、不思議である。デジタル向きのダイナミックな交響曲、バーンスタインの演奏も速いテンポで鋭くえぐる。スペアナは終楽章から撮っているが、レンジが広く壮絶である。何とも華々しく散乱する録音で、少々うるさいが、あまり汚れっぽくはならず、繊細感も残している。全体にハイ上がりで疲れる音だが、最後のグランカッサの一撃は強烈で、思わずとび上がるほどだ。」


*注「1979年東京文化会館でのデジタル・ライブ録音。ジョン・マックルーアがプロデューサーでミキシング担当。世評に高い名演。国内版のデザインも首と手足のない裸の胴体という不気味なデザインだった。文化会館の音響では飛び上がるようなグランカッサの一撃音はありえず明らかにミキシング魔術である。ショスタコービッチ5番の録音は、このように最後の打楽器を強張した録音が多い。それを誇張とするか作曲者の意図を忠実に反映したものととるか微妙。」
28−2

ドビッシー/選ばれし乙女、フランソワ・ヴィヨンの3つのバラード、春のあいさつ、祈り:ラマルティーヌ詞

S:バーバラ・ヘンドリックス,Br:D・フィッシャー=ディスカウ、D・バレンボイム指揮パリ管弦楽団.合唱団

独グラモフォン 2531 263

「”選ばれし乙女”はダンテ、ゲイブル、ロゼッティの詩に基づき、オケとコーラス(ソプラノトコントラルト)、ナレーション、独唱(ソプラノ:ヘンドリックス)で構成される静かな美しい曲だ。録音もシルキータッチ。きめ細かくソフト&メロウで、さらさらと流れて漂う。天国的な夢幻的な雰囲気がよく出ている。バラードの方は、オケもオンになり、フィッシャー=ディスカゥの声にも力が入るが、全体としてはエレガントな録音。音像も小さく引き締まり、定位も良く、前後も出るが、高さが出にくく、また、全体に音場は人工的で、ホールの壁や天井の存在を感じさせない。意識的にそうしているのであろうが。推奨盤。」
28−3

イーグルス・ライブ

米アサイラム BB705

「ジャケットがいい。演奏旅行用トランク(を模したモノ)だと思うが、スチールサッシの銀色と地の赤との対比が良く、バカに立体的に見えるなと思ったら、実際にスチールサッシの部分が浮き上がった特殊印刷である。二枚組で全15曲。ちょっぴり拾い聴きしただけだが、なかなかいい。録音はサンタモニカ・シヴィック・オーディオトリアムで1980年7月27−9日、31日の収録が主になっている。拍手、歓声、それに応えるしゃべりが自然でいい。演奏も録音もいい方だ。いろいろな面でバランスのよいとり方。ヒステリックなところが少なく、人間が自分の声で歌っている感じがする。でも、ローコスト・システムにはEW&F(*)の方が合うかも。」

注「この号で”概して歪みっぽく、シャリシャリ、ジャリジャリしていて、ボーカルもハスキーでメタリック”と評した、フェイセス/EW&F 米CBS盤のこと。」
28−4

シェーンベルグ/組曲−作品29.「バイオリンとピアノのためのファンタジー」作品47

Vn:ジョセフ・シルバースタイン.ボストン交響楽団室内楽奏者たち

独グラモフォン 2531 277

「バイオリン、ビオラ、チェロにクラリネット三人とピアノの七人で演奏する組曲、作品29がメインでB面の終わりにファンタジーが入っている。この曲についてはよく知らないのだが、とにかく、序曲、ダンス・ステップス、主題と変奏、ジーグの四部から成り、形式にとらわれない七重奏曲ということだ。フォーク調あり、フォックス・トロット調ありで、なかなか面白い。マルチマイク録音で、レフトに弦、センターにピアノ、ライトにクラリネットという配置。鮮度が高いが鋭くならず、歪み感がなく、しなやか。音像は小さく、定位はよいが、人工的で音場は水平一直線的。でもいい録音だ。」


*注「ジャケット画はクリムトの”リンゴの樹”。シルバースタインは当時のボストン交響楽団のコンサート・マスター。」
28−5

シェミラニ/ザルブ(イランの打楽器)のための作品

ザルブ独奏:ジャムシド・シェミラニ

仏ハルモニア・ムンディHM388

「シェミラニはクレマンシックのフルートと共演したレコード(HM987)があるが、今回はタールとの共演。イランの古い撥弦楽器である。ひょうたん型の胴に子羊の皮を張り、25のフレットつきのフィンガーボードを持つ六弦の楽器で、爪を使って弾く。ザルブは樽のような形に丸太をえぐって皮を一枚張った、中型の太鼓である。単純な楽器が二台というので録音は楽かもしれないが、非常に鮮明に録れている。特にタールのハイエンドの切れの良さは見事で流石はハルモニアムンディという感じ。ザルブもいいが、低音が少しダブつくみたいで、実際の楽器のサイズより一回り大きく感じられる。音楽としてよほど趣味がないと飽き
そうだ。」

*注「1976年の録音。シェミラニはチェルミラニーとも表記されることがあり、どちらが正しいのか。ザルブとタールについては外セレ第2巻170”ペルシャの遺産”、”続レコード漫談”136頁でも取り上げられている。録音としては170のノンサッチ盤に劣らぬ鮮明さである。この当時はエスニックブームが来る以前で民族音楽の評価は低く、それで文末に”飽きそうだ”と書かれたと推定。」
28−6

ストラビンスキー/春の祭典

ロリン・マゼール指揮クリーブランド管弦楽団

米TELARC  DG10059

「TELARCも初期の録音にはハイエンドのきついものがあり、ちょっと前の録音では低音ダブつきと迷いが見えていたが、この”春の祭典”は傑作だ。1980年5月14日シビアランスホールでの録音だが増設ステージを使った特殊なレイアウトでなく、ほぼ普通の演奏会のままの配置で、マイクは3本、客席の方から録っている。前代未聞の当たり前の録音だが、これが大成功。素晴らしい迫力と解像力とナチュラルなバランスと臨場感。グランカッサがステージ奥からマッハ3でブッ飛んで来るショックはタダごとではない。これだけ細かくバランス良く録れるならマルチマイクはナンセンス。必聴盤!!なお同時発売の新世界(DG10053)はそれほどではない。」


*注「デジタル録音。”レコード漫談”31頁、参考。このレコードが長岡氏にとつて最高の”春の祭典”録音であることは間違いない。個人的には、この録音がマイク3本のみで行われたというのは信じ難い。マイク2本のみで録音されていたというのが売りの某メーカー.マーラー交響曲CDが実は12本の補助マイクによるミキシング込みだったという例もあり、レコードのテクニカルノートはそのまま鵜呑みに出来ない。これから後のTELARC録音に対して長岡氏は批判的になるが、それは、この録音に対して”日本のレコード評論家に「極端に誇張した非現実的な音作り」と酷評されたことがあるからだ。”(FMfan別冊.No.35.長岡氏の外盤ジャーナル中の記事)このレコード評論家とは高城重窮氏である。私としては高城氏の発言は全面的に賛同できるものではないとしても一理はあると感じています。この当時、デッカはマゼール指揮クリーブランド管の録音を多くの残しているが、メイソニックホールでの収録。」
28−7

ヴェルディ/レクイエム

S:K・リチャレルリ.T:P・ドミンゴ.B:N・ギャウロフ.Ms:S・ヴェレット.

クラウディオ・アバド指揮ミラノ・スカラ座管・合唱団

独グラモフォン 2707 120 2枚組み箱入り

「ヴェルディの”レクイエム”といえば、ベルリオーズと共にダイナミックなことで有名。オーディオチェック用にも使われる。好調のアバドの指揮は颯爽としていて、鮮度が高く、情報量が大きい。圧巻は”怒りの日”で、スペアナもそこからとっている。低域で32ヘルツだけ、ばかにレベルが高いが、これは測定ミスではなく、実際に32ヘルツがフーッと入ってくるのである。多分、ブックシェルフでは聞こえないのではないか。叩きつけるようにダイナミックで、コーラスもスケールが大きく、重なりもよく出るが、ネフスキーに比べると少し荒れる。ネフスキーは大音量再生向きだが、こちらはあまりレベルを上げない方がいいようだ。」


*注「前の26号、冒頭でアバド指揮”アレクサンドル・ネフスキー”を”TELACが裸足で逃げ出すド迫力。超特薦。”と絶賛していた。外セレ2巻183.ショルティのヴェルレクと比べると豪放さの点では劣り端正な演奏、こちらの方が本場モノである。この録音は、カルロス・クライバーがスカラ座管で”ラ・ボエーム”を録音していてドタキャンして逃亡。そこで、せっかく歌手とオケが集まっているのだからと当時ヒマだったアバドを招いて代わりに録音されたという噂があるが本当だろうか?だとしたら、クライバーが”ラ・ボエーム”を完遂していれば録音でもレベルの高いものが残されたはずで今更惜しまれる。因みにクライバーの”椿姫”は名演であり良い録音である。」
28−8

ホット・スティックス/エド・グラハム

米M&A リアルタイム RT106

「1978年ビバリーヒルズのM&Kスタジオでの45回転ダイレクト・カッティング。A面は”キャラバン”のドラムソロをグラハムがアレンジ、アール・ハインズのピアノとウェズレイ・ブラウンのベースが加わる。B面はグラハムのオリジナルによる”ソニック・インヴェンション”で純然たるドラム・ソロ。これは(*)オルガンと肩を並べる名録音だ。おそらくマイクは2本ではないかと思う。音場はスタジオらしく、あまり広がらないが、奥行きは判る。音像はごく自然な形で、スピーカーより少し後方に位置している感じで、やたらに張り出して来ないのがいい。しかも音は豪快、強靱、鮮烈、トランジェント最高、歪み感は全くなく、そこで本当に演奏している感じ。」


*注「”オルガン”とは外盤セレクション第1巻.18のレコードのこと。”レコード漫談”104頁、参考。」
   
28−9

プロコフィエフ/ピーターと狼.L・モーッアルト/おもちゃの交響曲

D・バレンボイム指揮イギリス室内管弦楽団

独グラモフォン 2531 275

「”ピーターと狼”のナレーションはジャクリーヌ・デュプレ、これが実にいい。さりげなく、どこか憂いを含んだようなコントラルトの巻き舌でそこに彼女が立っているような感じの自然な声。あまり自然すぎるため、ボリュームを上げると胴間声になる。もう少しナレーションのレベルを下げて録音して欲しかった。オケもやや細身ではあるが繊細でツヤがあり、綺麗だ。鉄砲の音も濁りがない。B面もおもちゃがさりげなく、しかも鮮明に綺麗に入っていていい。鮮明でいて刺激がないので大人にも幼児にも向きそう。」

*注「デュプレは名チェリストで当時のバレンボイム夫人。筋萎縮症の難病でチェロが弾けなくなり引退。声での出演による楽界復帰で発売当時は話題になった。彼女は車椅子生活を強いられており立って録音することは出来なかった筈、長岡氏はそのことを認識されていなかったのか.....」
       
FMfan別冊1981年.春号 No.29    
29−1

フランク.ルクー/バイオリン・ソナタ

Vn:カトリーヌ・クルトワ、Pf:カトリーヌ・コラール  

仏エラート STU71280

「ピアノはベーゼンドルファー。演奏、録音とも適度に温かみがあってなかなかいい。ややオフ気味の録音のようで、バイオリンはなめらかで美しい。スタジオ録音でなく、ライブなサロンでの録音であるためもあって、音にふくらみがある。しかもボケた音でなく、輪郭はしっかりしている。ピアノは始めはオフ気味で控えめな鳴り方だが、だんだん調子づいて、出しゃばってくると、音も変わってオンになる。楽器のサイズまで大きくなる。ちょっと妙だ。音像はバイオリンが左寄り、ピアノはセンターのわりと高い位置(に定位する)。」


*注「この号で同時に、名演奏とされているバイオリニストのキョン・ファ・チョンのフランク/ドビッシーのバイオリンソナタ、独デッカを”音像はやや不自然で変形されており、Vn、Pfともセンターに寄って重なっている。雰囲気不足”と批判。」
 
   
29−2

ヤナーチェク/狂詩曲「タラス・ブーリバ」、シンフォニェッタ

ダビット・ジンマン指揮ロッテルダムフィル 

蘭フィリップス 9500 874

「タラス・ブーリバはゴーゴリの小説。何回か映画化もされている。小説や映画のイメージが強いため、音楽にも底抜けに陽気で、豪快で、向こう見ずなところが欲しいと思ってしまうのだが、わりと神経の行き届いた品の良い音楽である。もっとも曲が、第1部アンドレイの死、第2部オスタップの死、第3部予言とタラス・ブーリバの死、となっているから無茶苦茶もできまい。演奏、録音とも音域バランスの良い、繊細感のよく出たもので、歪み感はほとんどなく、厚みがあり、余韻も綺麗でトライアングルの自然な鳴り方も秀逸、音場も奥行き感もよく出ている。低音の伸び、量感はもう一息。」

*注「デ・ドゥレーン・ホールでの録音。このホールは響きも良くフィリップスに優れた録音が多い。低音、量感については飽くまで、20Hz以下も再生可能なASWを使用しての話、一般SPでは低音が不足しているとは思えないだろう。タラス・ブーリバの映画は、ユル・ブリナー主演の”隊長ブーリバ”が有名。指揮者のジンマンは現役の名匠であるが、この当時は未だ無名で地味な存在だった。」
 
29−3

シュトックハウゼン/シュテルンクラング”五つのグループによる公園音楽”


独グラモフォン 2707 123 2枚組み

「毎回趣向に凝るシュトックハウゼン、この曲は”五つのグループによる公園音楽”というサブタイトルがついている。一グループ四人で計二十人、シンセサイザー中心で、生楽器、ボーカルも加わる。公園の森の中にスチールパイプで足場を組み、その上に板張りの床(良く言えばステージ)を載せ、その上に四人ずつ乗って演奏する。シュテルンクラング、星の鐘という意味か。神秘的で、ナーバスで、かと思うとリラックスして、なんとも説明しにくい音楽。読経そっくりの部分もあり、PTAのおしゃべりみたいな部分もあり、大型の銅鑼がなかなか良く、全体に不思議な立体感がある。」

*注「1979年6月24−6日の録音。肝心な録音については殆ど言及されていないが、”レコード漫談”124頁には”録音は優秀、鮮烈で繊細で、朗々と響いてダイナミック。巨大な銅鑼の響きが豪快。音場が不思議な立体感がある”と書かれてある。長岡氏は、毎回シュトックハウゼンのLP.CDを賞賛して紹介していたので、その功績が認められてか、後年、新譜は、シュトックハウゼン財団から贈られるようになった。シュトックハウゼンの演奏の録音は全てシュトックハウゼン財団が権利を買い取り復刻CDは全て同財団から出版されるようになった。そのせいでオリジナルLPは中古市場で高騰している。」
   
29−4

ドイツの歌(第1集)
H.Albert−C.Kittel−J.Nauwach−J.H.Scheinの歌曲

CT:ルネ・ヤコープス.リュートとキタローネ:コンラート・ユングヘーネル

ベルギー アクサン ACC8015

「1980年4月の録音。カウンターテナーの独唱、伴奏はユングヘーネルのリュートとテオルボ(リュートの一種)ACC8016でも説明したが、アクサンは1980年になって急に良くなった。ヤコープスとユングヘーネルのコンビはACC7802(パーセルの歌とエレジー)もあるが、これはメタリックで、歪みっぽく、マイクがビリついているような音だ。それに引きかえ、このレコードは格段に進歩、交互に聴き比べてみたのだから間違いない。カウンターテナーというレンジが広く、独特の切れと、力とツヤを持った声を見事に録音、リュートとのバランスも良く、音像も自然で、雰囲気がよく捉えられている。曲はあまり知らない作曲家のものばかり。」

*注「29−4.5ともに録音場所不明。リュートは10弦で、1973年製。キタローネについては外セレ1巻の7に説明あり。」
29−5

イタリア・リュート音楽/G.G.カブスベルガー(1575〜1650)の小曲集11曲、A.ピッチーニ(1566〜1638)の小曲集13曲

独奏:コンラート・ユングヘーネル

ベルギー アクサン ACC8016

「1980年6月の録音。ユングヘーネルのリュートは(アクサン)ACC7801.7910もあるが、やや歪みっぽい。今回の8016になって、俄然クオリティ・アップした。レコーディングのコツを会得したのか、それとも使用機材が変わったのか、よく判らない。プレスはハルモニアムンディだがら、1978年と1980年でそう変わるもはずはない。演奏もいいし、録音も素晴らしい。シャープで透明で、歪みっぽさゼロ、最高のクリスタルグラスを手にする思い。音像も自然だ。マイクはオンに過ぎずオフに過ぎず適度な雰囲気もある。」

*注「29−4.5ともに録音場所不明。ユングヘーネルは曲によって、それぞれ17世紀イタリア製の2台のリュートと3台のキタローネを使い分けて演奏している。レコードの両面とも29分を越える長時間収録にも拘わらず音が良い。「ステレオ」誌、1984年6月号での、アクサンのオーナー兼エンジニア、アンドレアス・グラッド氏へのインタビューによると、古楽器録音の使用機材は、2本のマイク(メーカー不詳)とステラボックスのミキサーとナグラ(WS?)のアナログ・オープンデッキ。多数のマルチマイクによるミキシング加工には批判的で、オペラ”オルフェオとエウリディーチェ”やシューベルトの交響曲10番?!でも4本のマイクのみで録ったそうだ。」
      
       
       
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