祝新春コラボレート企画

幻の長岡鉄男「外盤A級セレクション」続編 第4.5.巻
2005年1月1日開始

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FMfan別冊1986年.秋号 No.51
  
51−1

 ソノラウス・エクスプロレーション(響きの探検)

G・シュワルツ指揮ほか

米  CRI SD−388

「A面は1978年5月ニューヨークでの録音。ルチア・ドルゴゼフスキー(米1931〜)の『テンダー・シアター・フライト・ナゲイレ』18分。作曲者自身の打楽器と6人のブラスによる演奏。タイトルは四つの単語を並べたもので文章ではない。ナゲイレは『投げ入れ』の意味だが、東洋の未発達、あるいは変則的な発達を遂げた美学の手法だとある。B面は1978年カラマズーでの録音。C・カーチス=スミス(米1941〜)の『ユニソニックス』『ハンドベルのための音楽』で24分40秒。B@はアルトとサックスと作曲者自身のピアノ。BAは作曲者が指揮。SN比と音場感がイマイチだが、音質は驚くほどリアルで浸透力がある。A面より前衛的で面白い。」
 
  
51−2

O.M・チョウラシャ(Chourasya)のサントゥール

仏 ESPERANCE 165 543

「制作1981年。エネスコの文化基金にによるコンクールに合わせての録音。サントゥールの演奏はチョウラシャかクーラシャかよくわからないが、インド人である。ほかにタブラ(太鼓)とタンブーラ(首長がの撥弦楽器)が加わり3人で演奏。A面はラーガ・チヤンドラ・ネール、21分3秒、B面はデューン、23分5秒。インド音楽独特の冗長な展開で眠くなるかと思うと、これが目の覚めるような強烈な演奏と録音であるる。SP−9784(外セレ3巻220)の限りなく繊細なサントゥールとはかなり違う。もっと硬質で、線の太い、張りの強いサントゥール。エネルギッシュで、ダイナミックで、バリバリと弾きまくる。輪郭鮮明で、厚みがあり、余韻も綺麗だが、大味。」
 
  
51−3

ケ・ビバ・メヒコ(Que viva Mexico)

Br:パプロ・メディナ

独 CALIG CAL−30593

「制作1979年。メディナはメキシコ生まれのバリトン。本国で民謡、カンシオンを学び、ドイツに渡って、クラシックを学び、オペラ歌手としての実績を持つ。演奏はほかに、マリアッチ・ポトシーノ、コンファント・ヴェラクルサーノ・カテマコ、デュエト・メリダ。全15曲で、エル・ランチョ・グランデ、ラ・クカラチャ、フレネシ、グラナダなどが入っている。明るく、力強く、切れの良い伴奏。メディナの声は厚く、力強く、堂々として正にオペラ調。楽劇風にワーッと歌いまくるラ・クカラチャには妙な違和感があって面白い。コーラスはちょっと荒れる。音場は横一直線型。メディナの音像は顔だけ巨大に張り出して、ジャケットのオルカメの巨大頭像にそっくり。」


*注「『続々レコード漫談』31頁、参照。」
  
51−4

ウォルター・ピストン/弦楽四重奏曲 第1.2番

ポートランド弦楽四重奏団

米 NORTHEASTERN NR−216

「1983年5月、ウエルズリー大学ホートン記念講堂での録音。ピストン(1894〜1976)はアメリカの作曲家で、八つの交響曲、六つの弦楽四重奏曲など、わりと古典的な作風で知られる。ポートランド弦楽四重奏団は1969年結成、国連の要請で南北アメリカからヨーロッパまで広く演奏旅行、ピストンの作品の演奏では定評があるそうだ。曲は現代音楽と言うよりは近代音楽の感じで、なかなかのもの。演奏も快調、リズム感もいい。録音はわりとオフだが明快で切れが良く、力があり、楽器の分離が良く、さらには弦の一本一本まで分解するほどの解像力はあるのだが、それでいて有機的につながっており、余韻が綺麗でホールエコーたっぷり。雰囲気がいい。」

51−5

ヴュータン/ビオラとピアノのためのエレジーとソナタ:エレジー、ソナタ変ロ調、未完成のソナタからアレグロとスケルツォ

Vla:テレーズ=マリー・ジリセン、Pf:ジャン=クロード・ヴァンデン・アイデン

ベルギー MUSIQUE EN WALLONIE MW−80054

「1985年6月、ブリュッセルのRTBF第2スタジオでの録音。ヴュータン(1820〜81)はバイオリンの名手で、作品もバイオリン中心、ビオラ作品の国内盤はないと思う。3曲とも親しみやすい曲。ビオラの甘さ、厚み、地味な力強さがよく出た名演、名録音。透明で、艶のあるナチュラルサウンド。マイクはオンに過ぎず、オフに過ぎず、音像もナチュラルだが、音場は狭いのか広いのか、あるいは全く存在しないのか、壁も床も天井も見えないという感じの不思議な音場である。」
 
51−6

シュッツ/クリスマス・オラトリオ、「我が魂は主をあがめSWV344」、「主イエス・キリストの七つの言葉SWV478」

ムジカリッシェ・コンパニー

独 MD+G G−1229

「制作1985年。三曲で57分35秒。演奏グループは『音楽商会』あるいは『音楽仲間』とでもいうのか、22人で、ボーカルと古楽器を担当する。ボーカルは、カウンターテナーが二人、テナーが3人、バス4人の9人。シュッツはバッハより百年早く生まれた人。近年着実に人気が上がってきている。曲はそれほど古さを感じさせない。演奏は一流、録音もいい。独唱者の声が実に歯切れが良く、透明で、伸び伸びとしていて、しかも厚みがある。弦も管も古楽器でありながら、やたら鋭くはならない。ホールエコーの質が良く美しい。コクがあるのにキレがある(*)、という録音だ。」

*注「*これは当時ヒットしたアサヒビール/スーパードライのTVCMの惹句、たしか俳優の夏八木勲のセリフ。」
 
  
51−7

ヴェネツィアのブラス・アルバム

ロサンゼルス・フィルとサンフランシスコ交響楽団のメンバー

米 Crystal S−111

「録音データ不明。A面は四声の曲5曲、五声の曲3曲。B面は八声の曲6曲。A・ガブレエリ、G・ガブリエリ、メルロ、フレスコバルディ、ラッピなど、ヴェネツィア楽派の作品である。ジャケットの写真では教会堂(聖マルコ大聖堂?)の左端に四人、右端に四人が立って演奏しており、10メートルくらいの間隔を置いている。古式にのっとっての演奏のようだが、B面はこのスタイルで録音されており、左右遠く離れての掛け合いが面白い。しかも、2チャンネル・モノ式の掛け合いではなく、定位、音場感ともリアル。掛け合いにもかかわらず、堂々センターにも中身の詰まった音場空間が存在するのは見事。厚く、輝かしく、しかも柔らかい見事なブラスである。」
 
  
51−8

エスキル・ヘンベリー/叙情的風景

Br:ハワード・スプラウト、スェーデン王立室内管弦楽団

スェーデン PHONO SUEACIA PS−17

「1983年6〜11月、ストックホルム放送局スタジオでの録音。A面2曲27分50秒、B面3曲17分15秒。いずれも歌曲で、バリトンのソロが中心で、ソプラノ、テノール、バスも入る。伴奏はピアノ、弦楽オーケストラ、ファゴット、オーボエ、ハーディガーディ、チャイム、アンチック・シンバル。一種類で、またはアンサンブルでるヘンベリーは1938年生まれのスェーデンの作曲家。曲はいわゆる現代音楽ではあるが、難解なものではなく、どことなく白夜を思わせる、不気味さと、静けさと、懐かしさのある不思議なメロディー。SN比がよく、透明度が高く、バスとバリトンが野太く力強く、弦は繊細で、楽器編成からして、やや細身になるが、いい録音だ。」
 
  
51−9

J.S.バッハ/バイオリンと通奏低音のための作品

ボストン博物館トリオ

米 TITANIC Ti−80

「制作1980年。ハープシコード、ガンバの伴奏付きのバイオリン曲は7曲あるが、間違いなくバッハの作品と認定されているのは、BWV1021、1023の2曲、後の4曲は疑問視されているが、このレコードでは前記2曲のほか、1024、1026を収録。演奏者は、いずれも大学その他の教授、講師を務める学究派。楽器はメトロポリタン美術館の収蔵品。1693年ストラディヴァリ製バイオリン、1666年製ジロラモ・ゼンティのハープシコード、1701年ニュルンベルグのマティアス・フメルのバス・ヴィオル。壮絶に切れ込むはい上がりのサウンドだが、響きが良く厚みもある。ただし演奏はいかにも教授風で素っ気ない。」
 
51−10

ジャン=クロード・エロア/観想の炎の方へ

東京楽所、宮内庁楽部、芝祐靖ほか

仏 HARMONIA MUNDI HMC−5155/56

「2枚組。1983年9月30日、東京国立劇場でのライブ録音。エロアは1938年生まれのフランスの作曲家で、東洋、特に日本に興味を持っており、カマカラ、ガクノミチ(楽の道)、ヨイン(余韻)などの作品がある。楽の道は以前此の頁で紹介したが、筆者個人としては、ナローレンジの雑音のゴッタ煮という最低の評価だった。今度のレコードは音も良く、音楽性もあり、楽の道とは雲泥の差といえる。内容は一言では説明できないが、真言、天台の唱名、雅楽が基本で、まず伝統的な曲をオーソドックスに演奏、次にエロアの作曲になる現代曲を演奏する。ワイドでダイナミックなサウンド、時に狂気の沙汰だが、なかなか面白い。」
 
  
51−11

ランゲレイク

演奏:エリザベート・クヴェルヌ ほか

ノルウェー Helio   HO−7036

「1985年2月、オスロのレインボー・スタジオでの録音。ランゲレイクは北欧の古い民族楽器で、15世紀から18世紀の始めにかけて愛用されたが、その後ほかの弦楽器に追われて姿を消した。一時は完全に消滅したと思われていたが、北部のヴァルドルの谷間に生き残っていることが発見され、エスニック・ブームにのって復活。楽器の製造と演奏がにわかに活発になった。ランゲレイクは、胴長の撥弦楽器の左端に糸蔵をつけたようなもので、和琴にも似ているが、手前の弦でメロディーを弾き、ほかの弦はコードをつける。演奏はクヴェルヌとランハイム。ほかに3人、フィドル、リュートなどで伴奏。曲は単調だが、録音は繊細で鮮烈で、余韻が美しい。」
 
  
51−12

アメリカの現代音楽/H・ブラントの『軌道』、G・サミュエルの『ホワット・オブ・マイ・ミュージック!』80人のトロンボーンと30人のベース

米 CRI SD−422

「制作1980年。composers recording incの略でCRIという、非営利免税のレコード会社である。NEW WORLD と似たようなものであろう。A面、H・ブラントの『軌道』、B面、G・サミュエルの『ホワット・オブ・マイ・ミュージック!』。演奏はサミュエル指揮で、A面は80人のトロンボーン奏者とオルガンとソプラニーノ、B面は36人のコントラバスと打楽器とソプラノ。いずれも1979年の作品。80人のトロンボーンは前代未聞、不思議な厚みと力があり、音場は独特、風にそよぐ葦、といった感じで、手前から奥へとトロンボーンのうなりがさわさわとひいていく。36人のベースはむしろ控えめで、打楽器も爽やかで美しいが、SN比がイマイチ。咳が入るが演奏者の咳か。」
 
  
51−13

ベートーベン/ピアノ・ソナタ第18番,25番、26番「告別」

P:パウル・バドゥラ=スコダ

仏ASTREE AS−72

「1985年8月、バウムガルトナー・ガジノでの録音。例によってバドゥラ=スコダ自身のコレクションから、ウィーンのゲオルク・ハスカ、1815年製のハンマーフリューゲルによる演奏。このピアノはAS−73でも使われているが、装飾を排したシンプルでダイナミックなデザインが特徴。パルテノン神殿風の太い円柱に支えられた厚手のキャビネットから弾き出されるサウンドは独特の厚みと、重みと、堅さを持つ。貴族的な繊細感ではなく、武骨な、あるいは田舎臭いサウンドともいえるが、むしろベートーベンの風貌にぴったりで、これが本物ではなかろうか。なお、ASTREEは概してCDよりAD(LP)の方が音がいいようだ。」
 
51−14

720年のクリストフォリ・ピアノフォルテ/ジュスティーニの作品集VOL.U

Pf:ミエチスラフ・ホルショフスキー

米 TITANIC Ti−79

「1979年12月、1980年1月、アンドレ・メルタンス楽器美術館での録音。ピアノの発明者クリストフォリ(1655〜1731)の製作したピアノは3台だけ残っており、その中で一番古いものが1720年製で、メトロポリタン美術館の楽器コレクションの蔵品となっている。ロドヴィコ・ジュスティーニ(1685〜1743)は最初にクリストフォリのピアノのために作曲した人。VOL.Tも持っているが、聴き比べてなんとなくUのほうがいいような気がした。ソナタ第2番、5番、9番で計54分。ドボドボした不思議な音のピアノだが、力があり響きが豊か。ホルショフスキーがしきりに唸る声もよく入っている。面白いレコードだ。」

*注「ミエチスラフ・ホルショフスキー(1892.6.23〜1993.5.22)はポーランド生まれの名ピアニスト。百歳まで活躍した音楽家として晩年脚光を浴びた。1987年95歳の時に来日。その際のインタビューで生涯最高の喜びは、1905年、日本海海戦で東郷元帥がバルチック艦隊を撃破したことと語っていた。」
 
51−15

テレマン/無伴奏フルートのための12の幻想曲

Fl;マクサンス・ラリュー

スイス TUDOR 73013

「製作1975年。チューリッヒ、ウルドルフのチューダー・スタジオでの録音。テレマンの作品の中では知名度があり、レコードも色々出ている。このレコードは10年以上前(ママ、この記事が書かれた1986年当時)の録音だが、最新録音と比較しても負けないパワーを持つ。初めて聴いても楽しめる曲。演奏も端正だが、一音一音に力の入った熱演で説得力がある録音はスタジオということだが、かなり広く、わりとライブな部屋で、オフマイク(おそらくワンポイント)の録音のようだ。いわゆるフルートのイメージよりも、厚く、力強いサウンドで、エコーも正確にキャッチされている。空調か何か、低域に絶えずノイズが入っているが、そう耳障りではない。カッティングレベルが異例に高いので、SN比も良い。」


*注「録音:Gerhard Schuler。外セレ1巻37のスイス TUDOR、フランクのフルート・ソナタとはスタッフが異なる。」
 
 
      
FMfan別冊1986年.冬号 No.52   
52−1

JOY TO THE WORLD/パン・パイプとオルガンのためのクリスマス音楽

パンパイプ:ジョルジュ・シュミット 

英 SAYDISC SDL357

「製作1977/79年。録音は古いがプレスは新しい。シーズンなのでもあるので取り上げた。シュミットのパンパイプにベルナール・ストリューバーのオルガン、曲によってローラン・ボショとジャン・ギャロンの打楽器が加わる。パンパイプとオルガンはサイズは違っても基本原理は同じなので相性はいい。このレコードではおなじみのクリスマス名曲20曲、入っていないのはホワイト・クリスマスぐらいかというほどよく集めてある。演奏、録音とも優秀で、鮮明で厚いサウンドと広く深い音場は見事。A@の『オー!サンクティシマ』のゆったりとした荘重な響き、ADの『赤鼻のトナカイ』のひょうきんな打楽器もいい。なおタイトル曲は日本名『もろ人こぞりて』。」

*注「パンパイプはパン・フルートともよばれている。この当時、ルーマニア出身のパン・フルート奏者ザンフィルが話題を呼んでいた。」
     
52−2

ジョン・ハッセル/パワー・スポット

独ECM 1327

「製作1986年。ジャケットは毒蛇なのか、長く伸びたプラナリアなのかよくわからないが、変わった絵だ。ハッセルのほか、B・イーノ、M・プルック、J.A.ディーン、J=P・ライキール、R・ホロウィッツ、R・アーミン、P・アーミン、M・フラスコーニの計9人で、アコースティックのトランペット、フルート、ギター、打楽器と各種電子楽器を演奏。表記のほか、ソレイル、ウィング・メロディーズ、エアなど7曲を演奏。A@はスティーブ・ライヒ風の繰り返し、ABはシンセで演奏するエスニックという感じでアフリカンドラム風で音場が独特、B@はインド風、インドネシア風でドラムの超低音がなかなか。ロックとエスニックと現代音楽のフュージョンか。録音もいい方だ。」
 
52−3

キーボード・ミュージック

Pf:ゴンダ・ヤーノシュ、Vib:クルサ・リカールド、Pf:フリジェシュ

ハンガリー KREM SLP X 17916

「1985年夏、録音のハンガリー・ジャズ。ほかにダルフシュ・アッティラァのベース、ソルドシュ・ベーラーの打楽器ら四人が加わり、表記三人の作品計8曲をソロからセクステッドまで、バラエティに富んだ組み合わせで演奏。ヤマハのDX−7などのシンセも活躍する。『ビル・エバンス頌』『3楽章の音楽』『祭り`85』『コラールNo2』といったタイトルから分かるように、割と格調高いジャズ。パチパチノイズが多少あるが、カッティングレベルが高く、fレンジ、Dレンジとも広く、特に高域は驚異的に、歪み感はあるが、シャープに切れ込んでパワフル。B@のシンセの曲が壮絶。スピーカーには厳しいレコードだ。BDは駄作で音も悪い。」
 
     
52−4

ベリオ/ア・ロンネ、ジョン・ケージ/讃歌と変奏

エレクトリック・フェニックス 

英 EMI EL 27 04521

「1985年5月、セント・サイラス教会での録音。UHJ2という方式のマトリックス4チャンネルで、専用デコーダーを通して、サラウンド再生が可能だが、適当なプロセッサーでも、スピーカーマトリックスでもよい。もちろん普通の2チャンネル再生でも、何ら差し支えない。エレクトリック・フェニックスは前衛的なボーカルグループで、このレコードではA面は5人、B面は8人で歌う。表記の2曲のほか、B面にW・ビリングスの小品が入っているが、これだけがひどい音で、録音が違うと思う。『ア・ロンネ』は一糸乱れが整然と叫び、わめくといった不思議な音楽(?)で、声は恐ろしくリアルで、定位も良いが、音場はやや水平一直線型だ。」


*注「デジタル録音。DMM。エレクトリック・フェニックスについては外セレ1巻80を参照。」
 
52−5

ラフマニノフ/チェロ・ソナタ、チャイコフスキー/カプリチオ風小品

Vc:ナンシー・グリーン、Pf:フレデリック・モイヤー

米GM 2012

「マサチューセッツ州ウースターのメカニクス・ホールでの録音。グリーンは1977年にジュリアードを卒業というが、30歳そこそこだろう。モイヤーは1978年に来日しているというが、30代の筈。なかなか力強い演奏で、チェロもピアノも張り合って譲らぬ感じだが、やや歪み感があり、音場ももうひとつだ。特徴があるのはスペアナだ。リミッターもフィルターも入っていないらしく、ピークはピョンとはね上がるし、超低域ノイズが凄い。レコードの反りや傷ではなく、ピアノの強音に一瞬遅れてスーッと上昇するのである。床の振動をマイクが拾っているらしい。これが再生できるかな?」

   
52−6

ファースト・ハウス First House/Erendira:A Day Away、Innocent Erendira、The Journeyers To The East、Bracondale、Grammenos、Stranger Than Paradise、Bridge Call、Doubt, Further Away

演奏 Sax:ケン・スタッブス、Pf:ジャンゴ・ベイツ、bass:ミック・ハットン、Ds:マーチン・フランス

 独 ECM 1307

「1985年7月、オスロのレインボー・スタジオでの録音。Sax,Pf、Cb、Ds&Pecのクワルテットによるジャズ。曲、演奏、録音とも、いかにもECMらしい格調高い西欧的白人ジャズ。もう少し野性的な匂いが欲しいと思う人もいるかもしれない。A@の”A Day Away”はシンバルのppで入り、音場感でハッと思わせ、間もなくピアノが厚く深い響きで加わり、余韻とエコーを効かせる。やがて、ベース、ドラム、サックスとボリュームアップ、といった手法。サックスを一歩前進させた定位感もいい。B面Bの”Bridge Call”では全体にオフで音像小さく、奥行き感が見事。ホールエコーは教会堂なみだ。優秀録音盤。」
 
52−7

聖母頌

アンヌ=マリ・デシャン指揮アンサンブル・ヴェナンス・フォルチュナ

仏 SM 3012.41

「制作1983年。2枚組。指揮者を含めて男女4人ずつのボーカル・グループ。中世の教会用の無伴奏声楽曲を中心に、徹底した資料研究で、オリジナルの雰囲気の再現に努力している。17曲のバラエティーに富んだ作品を、独唱、二重唱、三重唱とコーラスという形で飽かせずに聴かせる。録音はノートルダム寺院で開始したが、パリの騒音の中心なので、もっと静かな場所に移る必要があった、と書いてあるが、何処に移ったのか、移らなかったのか不明。曲によって雰囲気が違い、一面の頭はかなりオンマイクの感じだが、それでもエコーは綺麗。三.四面のオフマイク録音の美しさは比類がない。エコーが波打つように奥へ奥へと消えていき、空気の密度がぐんと高まる。」
 
   
52−8

ジュラの花/フランスのアコーディオン音楽

独奏:ダニエル・ポーリー

英 SAYDISC SDL 353

「制作1985年。ポーリーは1959年、フランス生まれの女流アコーディオン奏者。これまでに数え切れないほどの賞を受けているという。演奏は他に13人のアンサンブル、フェリックス=ベルナール・ストリューバーとそのオーケストラが加わる。A面『グルメの夢』ほか5曲。B面『ボージュのバラード』ほか5曲、計12曲。主としてポーリーとストリューバーの作品。いずれも何処かで聴いたことのあるような典型的なポピュラー・チューンだが、演奏は伸び伸びとして、いかにもベテランの味。アコーディオンは力強く、艶と輝きがあり、オーケストラ(管と打が中心だが)も切れが良く、透明で、定位がいい。優秀録音だが、曲も録音も全て輝かしく、影が不足で、単調という感じもある。」
 
52−9

(セネガル)クール・ムーサ修道院のミサと聖歌

仏 ARION ARN33576

「制作1980年。セネガルの首都ダカールから50qのクール・ムーサにベネディクト会の修道院があり、24人の白人修道士と12人のセネガル人が生活している。大本山であるソレムの修道院の伝統的なミサとコーラ(アフリカン・ハープ)、タムタムのドッキングが、ここで実現した。このレコードはベネディクト会の創始者であるサン=ブノワの生誕1500年を記念して企画されたもの。A面がミサ、B面は聖歌11曲。一聴してフランスでもない、アフリカでもない、独特の雰囲気に包まれてしまう力強いコーラ、深々としたタムタムの響き、伸び伸びと歌うテナーのソロ、少し硬いが軽快なコーラス。エコーは少な目だが、響きが良く、乾いた砂漠の音場みたいな感じ。」
 
      
  
53−1

ユーグ・デュフール/アンティフィシス、ジョナサン・ハーヴェイ/モルテュオス・プランゴ、ヴィヴィオス・ヴォコ、ジェラール・グリセイ/モジュレーション

ピエール・ブーレーズ指揮アンサンブル・アンテルコンタンポラタン

仏 ERATO STU 71544

「1982年9月21日、1983年4月1日、パリ、ジョルジュ・ポンピドー・センターのIRCAM映写室での録音。いずれも40代の働き盛りの作曲家(1987年当時)。アンサンブル・アンテルコンタンポラタンは管と打楽器にウェイトを置いた室内管弦楽団。アンティフィシスはフルートと室内管弦楽団の協奏曲だが、打楽器が活躍、透明、鮮明で、しかも優しさのある金管打楽器が素晴らしい。ブラスの咆哮、ドラムスのズシンと腹に響く轟音の中から軽やかに浮かび上がるフルート。ハーヴエイの曲はミュージック・コンクリートでこれも面白い。グリセイの曲も録音は優秀だが、曲としては退屈。」
 
53−2

ミヒャエル・ファーレス/A面:独奏ピアノとライブ・エレクトロニクス(L.E)のための「ピアノ」、B面:独奏ハープとライブ・エレクトロニクスのための「ハープ」

Pf:ポロ・デ・ハース、L.E:パウル・ゴトシャルク&ハンス・シュティッベ、Hp:ギデ・クネブッシュ

独 ECM 1281

「1982年ルトヴィヒスブルクのパウエル・スタジオでの録音。A面25分25秒、B面29分25秒。A面は恐ろしく重いピアノと怪獣の咆哮のような怪しげな音で始まる。鉄のの棒をハンマーで叩きつけたようなピアノ、渦巻く音場、地獄のイメージである。B面はppの唸りで始まり、すっかり退屈させたところで後半、トカトン、トカトンとリズミカルに快走し始める。」
 
  
53−3

ディアネシュ・カーン〜サロッドの名手

独 Chhanda Dhara SP3478d

「録音は1980年代の筈。民族音楽には珍しくダイレクトディスクである。カーンのサロッド(超太棹の撥弦楽器)に、アシシ・クマール・バラリのタブラが加わる。記載はないが、もう一人タンブーラがいるはずだ。A面はブリヤ・カリアンというラーガによる演奏。B面はマニ・カムバイというラーガによる演奏。このレーベルはインド音楽の宝庫といってよく、このレコードもベストとはいえないが、ダイレクトディスクというのが貴重。ラーガは序破急の感じで、盛り上げていくのが普通だが、このレコードもそうだ。右に繊細なタンブーラ、中央やや左寄りに図太いサロッド、左に激しいタブラという定位。特に厚く力強いサウンドが特徴。」
 
53−4

イギリス連邦への挨拶

スコッツ・ガーズ・バンド

英 Polyphonic PRM 108D

「1986年2月、ウェリントン・バラックスのガーズ・チャペルでの録音。バッキンガム宮殿などで、お馴染みの軍楽隊の一つがスコッツ・ガーズで、49名で編成、指揮はJ.M・クラヴァリング大佐。イギリス連邦は49ヶ国から成るもなので、全部は無理。なるべく広い地域と趣味をカバーする12曲を演奏するというスタイルをとった。『ウォルチング・マチルダ』『ハイランド・ローズ』『カーニバル』『スイギング・サファリ』といった曲が入っている。正直いって音楽としてはあまり面白いものとは思えないが、恐ろしくデッドでドライで、立ち上がり、立ち下がりともよく、明快そのもので、野外の音場(?)といったものが見えてくる。」
 
  
53−5

シュテファン・F・ウインター/小さなトランペット

独JMT 860007

「1986年7月、ニューヨーク、ブルックリンのシステムス・トゥーで録音。ハーブ・ロバートソンほか7人でポケット・トランペット、アルト・サックスなど、管が5、エレキと生ギター、ビブラフォンとマリンバを演奏。宇宙の彼方にクラングフォルケ(音の雲)という惑星があり、そこには楽器たちが楽しく暮らしていました、という奇想天外なストーリーで始まる一種の絵本である。この星が機械やコンピューターに支配され、楽器たちは無用の長物として潰されて、ヤカンや缶にリサイクルされる。そこに小さなトランペットちゃんが活躍して.....というわけで、ジャズ調の奇妙なサウンドでストーリーが展開する。器楽とシンセだが、思いっきり遊んでいるという感じが楽しい。」

*注『ディスク漫談』162頁、参照。
  
53−6

ノルウェー民謡

演奏:トーネ・フルベクモ、ハンス・フレドリク・ヤコブセン、アリルド・ブラッセン

ノルウェー Helio HK7024

「制作1983年。フルベクモは1957年生まれの女性で、歌とノルウェー・ハープ、リードオルガン、。ヤコブセンは1954年生まれ各種木製フルートとギター、タンブリン。ブラッセンはフェーレ(バイオリンの先祖)、ほかに二人がラングレイク(No51参照)、ノルウェーハープ、コントラバスを演奏。ノルウェー東南部の谷間に残る民謡と器楽を伝統楽器を使用しながら現代的解釈で演奏したもの。曲はいかにもそれらしい素朴なものだが、録音は鮮烈。スタジオ録音でマルチマイク的だが、楽器の音は実にリアル、歌も硬質だが、生の声に近い。フルートを吹きながら爪先でリズムをとっている音も入る。残念ながら写真のフルベクモはどう見ても美人じゃない。
 
  
53−7

ザ・プリントメーカーズ

ゲリ・アレン・トリオ

独 MINOR MUSIC 001

「1984年2月8,9日、シュトゥットガルトのスタジオでの録音。ゲリ・アレンのピアノ、アンソニー・コックスのベース、スペシャル・ゲストのアンドリュー・シリルの打楽器という編成で演奏するジャズ5曲。いずれもアレンの作曲で、B@がタイトル曲。アレンは言う、多くのミュージシャンが自分の心に何かをプリントしていった。その刻印の証明がこのレコードである。プリントメーカーズというタイトルもそこから生まれた。そして百人ものアーチストの名前を並べている。そんな事は別にして、このレコードは面白い。A@は手をこする、手を叩くといつた音から入り、フリージャズに発展する。重量感のあるサウンドも面白い。」

53−8

コレルリ/ラ・フォリア、アルベルルト・ローレンツ/変奏曲 第1.2番、ファン・アイク/プリンス・ロベルツ・マスコ、グリーンスリーブス変奏曲 ほか

ミカラ・ペトリ・トリオ  リコーダー:ミカラ・ペトリ、Cemb:ハンネ・ペトリ、Vc:ダビット・ペトリ

蘭 PHILIPS 6514 166

「制作1982年。大変なハイレベル・カッティングで、録音も強烈。ソプラノ・リコーダーはワサビたっぷりの寿司よろしく、ツーンと鼻を抜けて脳天に来る。むしろ本物の鋭さに近いといえないこともない。鼻息はもろに入るし、演奏ノイズで超低域もはね上がる。音像は拡大して、音場は平面的だが、とにかく厳しい録音だ。」

*注「デジタル録音。」
53−9

リドホルム/祭典、ヒルディング・ローゼンベリ(1892〜1985)/「マリオネット」序曲、K.B・ブロムダール(1916〜1968)/室内協奏曲

Pf:H・レイグラフ、シクスティン・エールリンク指揮ロンドン交響楽団

スェーデン Swedish Society SLT33262

「1965年2月、ロンドン、キングスウェイホールでの録音。スェーデンの現代音楽ということで、馴染みはないが、違和感は全くなく、十分楽しめる音楽になっている。22年前(1987年当時)の録音だが、肌理が細かく、パワー感もあり、シンバルがシャープで、しかもエレガント、打楽器の音像が実物大、前後感も実演彷彿、情報量は特に多い。叩きつけるような、目の眩むような衝撃といったものはイマイチだが、ナチュラルサウンドは最新録音盤を上回る。」

*注「シクステン・エールリンク(1918〜2005)はスェーデンの指揮者、1950年代始めにストックホルムフィルと共に、世界初のシベリウス交響曲全集を録音したことで有名。」

53−10

ビトウィーン、コンテンプレーション

独 WERGO SM1012

「制作1977年。A面5曲20分、B面1曲19分。演奏はクラシック、ジャズ、ラテン、インドの混成チーム9人で、ビトウィーンはチーム名であり、プログラムの性格も表している。楽器もピアノ、オルガン、ビブラフォン、オーボエ、ギター、ホルン、コントラバス、コンガ、タブラ、タンブラ、ツィターと多彩。曲によって旋法を変え、フリギア旋法、ラーガありと多彩。正にフュージョンそのものだが、芯のある、輪郭の確かなサウンド。キレがよく、透明度もあるが、肌理の細かい美しいサウンドだ。A@のタイトル曲はジャズ調、AAの『ウォッチ・ザ・ストリート』もトム・ブァン・デル・ゲルトのビブラフォンだが、AB、AC、B面はインド風。やはり『瞑想』が主役のようだ。」
 
   
53−11

ルシタニア・ムシカ

オルガン:ゲルハルト・ドドラー

ポルトガル OPERAPHONOGRAPHICE EDITA B/3

「1975年5月16〜7日、ポルトガル、コインブラのコインブラ大学付属教会のオルガンによる録音。ルシタニアはポルトガルの古称。ポルトガル音楽史ドキュメント・シリーズの中の1枚である。実はレーベル明がよく分からない。HMV系でありねグラモフォンの協力で録音、ディストリビューターは米TITANICと複雑。しかし中身はしっかりしたもので、解説もポルトガル、独、英の3ヶ国語で書かれている。ペドロ・デ・アラウホ、カルロス・セイシャシュら、馴染みのないポルトガル、バロックの作曲家の作品だが、曲そのものは親しみやすいもので、音色が多彩で面白い。特にレーガルの騒々しい音が飛び回るところは楽しい。」
 
   
53−12

デルノーズ/21人の奏者のための交響曲、ボーレン/囚われ人

S:ヘニー・トンナエル、アルノ・ディータレン指揮アンサンブル・コントラン、ステュディウム・コラーレ

蘭 EUROSOUND E S46.807

「1985年11月30日、オランダ、マーストリヒト音楽学校スタジオでの録音。演奏はアンサンブル・コントラン(通奏低音の意味で、現代音楽のベースたらんとの意気込み)が指揮者を含めて24人。『囚われ人』では、音楽学校の学生合唱団ステュディウム・コラーレ、18人が加わる。デルノーズ(Henri Delnooz)は1942年、ボーレン(Jo van den Booren)は1935年、いずれもマーストリヒト生まれ。交響曲の方が音楽としては面白い。現代曲としては親しみやすい方で、音色が美しく、キレの良い距離感のよく出た録音は見事。低域でボンつく感じもあるが、これはスタジオのアコースティックだろう。超低域はそれほどでもないが、低域の迫力は相当なもの。B面のコーラスはややヒステリック。」
 
   
53−13

ミクロース・コクサール/カプリコーン協奏曲(フルートと室内アンサンブルのための)、管弦楽のための変奏曲、クラリネットとハープシコードと弦楽合奏のための5楽章、メタモルフォーゼス

ジェルジー・レヘル指揮ブタペスト交響楽団、コクサール指揮ハンガリー放送交響楽団、F・シャンドール指揮リスト室内管弦楽団

ハンガリー HUNGAROTON SLPX 12134

「制作1986年。コクサールは1933年生まれのハンガリーの作曲家。このレコードは1976〜79年の4作品を収録。フンガロトンは古い録音はCDも含めてイマイチだが、新しい録音は優秀である。盤質もよい。CDも大量に出しており、正に共産圏の星といってよい。いかにも現代曲らしい、小刻みに動く切れ切れのメロディーだが、音像は小さく、音場も広く、伸び伸びとした響きの良いサウンド、時に繊細、時にダイナミック。クラリネットが美しい。」


*注「P:Jeno Simon、E:Istvan Zakarias、Endre Radanyi。アナログ録音。当時の共産圏のレコード・プレスは粗悪なものが多いが、フンガロトンは例外的に盤質が良くプレスも厚く、このLPの重さは150gある。」
 
     
  
54−1

ベネデク・イシュトヴァンフィ/ムシカ・サクラ

アルベルト・シモン指揮スコラ・フンガリカ

ハンガリー HUNGAROTON SLPD 12733

「ベネデク・イシュトヴァンフィは1733年、ハンガリー生まれ、父は教会中心に活躍した音楽家、兄弟の一人は聖職者で、彼がベネデクの楽譜をコピーして保存していたという。ベネデクも教会オルガニストになったが、もともと丈夫でなかったところへ過労がたたって、1778年、45歳で死んだ。隠れた天才の一人か。このレコードではギヨール・カテドラル、ソブロン聖霊教区教会に保存されていた楽譜による教会音楽12曲を演奏。バッハからモーッアルトへの橋渡しのような感じもあるが、音楽性の高い優れた作品で、演奏、録音とも優秀。粗さのほとんどない優しく美しいサウンド。オケも美しく、ボーカルが実にエレガント。雰囲気抜群。」
 
   
      
 
54−2

スカルラッティ、一族の音楽

リカルド・コレア指揮モンテヴェルディ・コンソート

仏REM No 10984

「1986年6月の録音。アレッサンドロ(父)、ピエトロ(長男)、ドメニコ(次男)の3人の作品、カンタータ5曲。一番有名なのはドメニコで、ピエトロは音楽事典にも出ていない。演奏はボーカルがソプラノ、メゾ・ソプラノ、アルト、テノール、バスの5人。テノールはミコト・ウサミという日本人。楽器はバロック・バイオリン2、バロック・ビオラ、ガンバ、チェンバロ、各1人の5人。演奏は端正でそつがなく、いかにもバロック。録音は大理石の床のロビーのような所らしい。シャープで繊細で音場感がいい。チェンバロが優しく切れ込み、バイオリンは繊細、ガンバは少しボンつくが部屋のせいだろう。ボーカルはホールエコーがたっぷりで、空間を再現する。テノールやバスより、ソプラノのエコーが豊かだが、それだけ床や壁がハードなのだろう。」
 
 
54−3

ダーヌ・リュドヤル/A弦楽アンサンブルの5つのスタンツァ、独奏ピアノのための叙事詩

Pf:R・ブラック、P・ズーコフスキー指揮 コロニアル交響楽団

米CP2 13

「制作1983年。A面は弦楽アンサンブルの5つのスタンツァ、18分43秒。1982年3月15日、N.Jのマディソン・ジュニア・ハイスクールでの録音。B面は独奏ピアノのための叙事詩、21分5秒。ニューヨークのヴァンガード・スタジオでの録音。リュドヤルは1895年、パリの生まれ。17歳で評論家、21歳で作曲家として認められ、1916年渡米、1920年以降ハリウッドに住む。若い頃は50年早いと言われた超モダニストだつたが、この2曲はそれほどでもない。スタンツァは1927年の作品。重厚な作風で、オケも重厚。叙事詩は1979年の作品。派手ではないが、芯のあるしっかりしたピアノで、重厚な小品という感じ。」


*注「ダーヌ・リュドヤル:Dane Rudhyar (March 23, 1895, in Paris ? September 13, 1985, in San Francisco), 占星術師としても有名。」
 
   
54−4

イスラエル/Vol.U

仏 OCORA 558670

「1986年2月16日、3月2日、イスラエルでの録音。A面27分45秒、B面25分13秒。エチオピアには黒人系のユダヤ人が3万人からいて、そのうち半分はオペレーション・モーゼスでイスラエルに引き揚げたが、半分は未だエチオピアやスーダンに残っている。エチオピアン・ジューとか、ベータ・イスラエルとか呼ばれる。これらの人々の生活の歌や信仰の歌を中心に録音、正直言って何だかわからないし、楽しめる音楽ではない。ただ、地声の鮮度は高い。イスラエル的というよりはアフリカ的で、老若男女、子供を含む、ソロとコーラス、太鼓と弦楽器。音像の生々しさはギョッとするほど。B@のフワッと襲い掛かる超低域もすごい。」


*注「ディレクター:Alain Duchemin、プロデューサー:Nicolas Sokolowski。」
 
54−5

C・ラウズ/地獄の機械、セクォイア、プリズム風変奏曲、オグーン・バダグリス

レナート・スラトッキン指揮セントルイス交響楽団

米 NONESUCH 79118−1

「1984年11月25日、セントルイスのパウエル・シンフォニーホールでの録音。A面21分20秒、B面21分40秒。ラウズ(1949〜)の2作は共に『抑制されない物理的エネルギーの悪魔的追求』というのがテーマになっている。『地獄の機械』はジャン・コクトーの『エディプス神話』からタイトルを借りたもの。『オグーン・バグダリス』ハイチのブードゥー教の魔神の名前である。かなりこけおどかし的な作風だが、わりと分かり易く、面白い現代曲。鮮烈、ダイナミックで、壮絶な切れ込みが魅力。音像は極めて小さく、音場も広いが、高さはもうひとつ。BAはSN比不良。」
 
   
54−6

F・ミシェル=フレデリク/「四元素」「効果」、リュイス・ロベール=ディーセル/「幾何」、フィル・ウッズ/「即興曲1」

リヨン・ミクスト四重奏団

仏 REM No11020

「1986年11月の録音。A面は四元素、効果の2曲。B面は幾何、即興曲1、の2曲。クワルテットは、トランペット、トロンボーン、サキソフォン二人という構成。1979年結成。経歴も傾向も異なるソリストの集まりで、クラシックからジャズまで幅広く手掛ける。AA、B@の曲ではティンパニー、ウッドブロック、シンバル、ボンゴ、シロホンなどが随時加わる。A@の作曲者はクワルテットのトランペット奏者でもある。四元素に対応して、土、火、水、風の4部に分かれ、鮮烈な効果音が入っている。そのわりに演奏はオフで妙にのんびりしている。BAはサキソフォン・クワルテットのための作品。いずれも平凡なようでいて、奇妙な味のある音楽だ。」
 
   
54−7

ブラス・ミュージック

プラハ・ブラス・ソリスト

チェコスロバキア SUPRAPHON 1111 3903

「1982〜3年の間に、4回に分けてスプラフォン・スタジオで録音。ヨゼフ・マティ(1922〜)、ズデネク・リシュカ(1922〜83)、ルカシュ・マトウシェク(1943〜)、アルノシュト・パルシュ(1936〜)といったチェコの作曲家の作品(四重奏、五重奏)を6人で演奏。A面25分、B面20分40秒。共産圏という制約のためか、現代音楽風の奇々怪々なサウンドとは違って、むしろ古典的でポピュラーな、ごく親しみやすい作風。演奏は端正で明快で自由自在、オリンピックの体操を思わせるものがある。録音もシンプルで明快。やや線が細くなるが、輪郭鮮明、引き締まったリアルな音色と音像、エコーが美しく音場感もよい。」
 
   
54−8

アーサー・ブリス/色彩交響曲、チェックメイト組曲

ヴァーノン・ハンドレー指揮アルスター管弦楽団

英 CHANDOS ABRD 1213

「1986年3月25〜27日、ベルファストのアルスターホールでのデジタル録音。GALLAHERシリーズの5枚目。GALLAHERはアルスター管のスポンサーでもあり、レコードのスポンサーでもある地方有力企業とのこと。ブリス(英 1891〜1975)の作品二曲。A面『色彩交響曲』は30分57秒、紫、赤、青、緑の4楽章構成。B面はバレエ組曲で、25分14秒。4人のナイトの踊り、黒のクィーンの入場、赤のキングのマズルカ、赤のビショップの儀式、そしてチェックメイトで終わる。いかにもそれらしくわかりやすい曲だ。オフマイクで、ややほこりっぽさもあるが、きめが細かく、パワフルで、ホールエコーもたっぷりしている。」


*注「英CHANDOSのレコード番号はABRまでがアナログ録音、ABRDはデジタル録音。」
 
   
54−9

ポジティブ・バッハ

オルガン:トマス・シュメグナー

スェーデン Proprius ALVING PRO 9966

「1983年10月、ウィーン大学付属教会でのデジタル録音。バーティル・アルヴィングというエンジニアが一人で作ったマイナーレーベルにALVINGというのがあったが、何枚か出した後、Proprius傘下に入った。これは、その1枚。B&Kマイクが2本、ソニーPCM−F1(PCMプロセッサー:ADコンバータ)、SL−2000(VTR)使用というシンプル録音。テープはL−500HG(?カセット)である。ポジティブ・オルガンは移動可能(手では持てない)の小型オルガンで、録音に使用したのは1983年スェーデン製。曲はバッハのキルンベルガー・コラールなどから計17曲。A面28分55秒、B面29分30秒。広い教会堂の床に置かれたオルガンの音場感が面白い。キレと力と厚みはほどほど。」
 
   
54−10

フィリップ・ボースマンス/バイオリン協奏曲,コンヴェルシオン

Vn:R・ピエタ,P・バーソロミュー指揮リェージュフィル 

ベルギー RICERCAR RIC014

「ボースマンスは1936年、ベルギー生まれの作曲家。コンヴェルシオン(A面18分5秒)は1980年の作品。タイトルは改宗、転向、両替、代償といった意味で、曲の構成もそういう形が見える。抑圧された欲望が代償行動として別な形で噴き出してくるというもの。協奏曲(B面24分42秒)は1979年の作品で、ヴュータンやイザイで知られるリェージュ・バイオリン学校へ捧げた形になっており、19〜20世紀の協奏曲のスタイルを借りた作品になっている。どちらも曲として面白いし、音はキレが良く透明。芯のある力強い音で、音像は特に小さく、輪郭鮮明で安定している。ただ、音場はわりとこぢんまりしており、ステージが小さいのかもしれない。」

*注「1982年1月1〜3日、リェージュ、音楽院でのアナログ録音。E:Gilbert STEURBAUT、P:R・SIMONS、J・LEJUNE。ボースマンスの曲は外セレ2巻187、ベルギー RICERCAR RIC 002でも取り上げられている。このレコードと同じスタッフによる録音。」
 
54−11

A:ミヨー/ピアノ、ヴァイオリンとクラリネットのための組曲Op.157b、イベール/バイオリンとチェロとハープのための三重奏曲、B:イベール/フルートとバイオリンとハープのための二つの間奏曲、ルーセル/フルートとバイオリンとビオラとチェロとハープのためのセレナードOp.30

アンサンブル・アルペジョーネ

仏 ADDA 81060

「1985年4月18〜9日、レバノン教会での録音。アンサンブル・アルペジョーネは1985年結成の室内アンサンブルで、弦楽四重奏にフルート、ピアノ、クラリネット、ハープが加わり、二重奏から八重奏まで何でもこなすが、近代から現代が得意。このレコードはフランス的なセンスのある軽快な曲を選び楽しく美しく聴かせる。録音も軽快で鮮明、しかしどぎつさはなく、品良く美しくさらりと流れる。芯があってソフトなハープは出色。定位にやや曖昧な点があるが、それも寧ろ自然な感じ。」

*注「録音:Bernard Neveveu。私の手持ちの此のレコードは、重量が160グラムもありプレスも厚い。重さに拘る長岡氏が此の点を言及されていないから、長岡氏の手持ちは普通の重さ(130g程度)のプレスではないか推定される。そのせいか、私感では定位はピシッと決まり室内楽最高クラスの優秀録音。ジャケットの画はセザンヌ作。」
 
54−12

フランツ・シュレーカー/A面:アルトと管弦楽のための「五つの歌」、B面:@バイオリン、チェロ、クラリネット、ホルンとピアノための「風」、Aオペラ「はるかなる響き」より

A:O・ヴエンケル、Vn:H・ガンツ、Vc:R・フォレスト、Cl:J・ファドレ、Hr:K・フラトコビッチ、Pf:K・ヘルヴィヒ、カール・アントン・リッケンバッヒャー指揮ベルリン放送交響楽団

独 Schwann  VMS 1635

「1984年12月、ベルリン、イエス・キリスト教会でのデジタル録音。フランツ・シュレーカー Franz Schreker (1878-1934)はオーストリアの作曲家。A面の歌曲はアルトが厚く美しく、透明で、響きがよく、オケもマイルドだが、細かい音が実によく入っており、雰囲気大。B@は一聴して、『風』とわかる、わかりやすい曲。ポピュラー・クラシックといってよいが、ハーモニーが実に綺麗で、見事な音の織物を紡ぎ出す。」


*注「DMM。ユダヤ系だったシュレーカーは、ナチスの圧力により、1932年6月にベルリン高等音楽学校校長の地位を追われ、翌年には芸術アカデミー作曲家教授の職も失った。その強い失望で1933年12月に脳卒中に倒れ、 翌年56歳の誕生日を目前に他界した。」
 
   
54−13

ユーロ・ジャズ

ザ・ユーロピアン・コミュニティ・ジャズ・オーケストラ

ベルギー JAZZ CATS 6985 014

「1984年12月12、3日、ロンドン、オデッセイ・スタジオでの録音。A面は『組曲』25分49秒、B面は『I ask you』『No message』の2曲で16分40秒。組曲は『faul days』『betraial』『march』『preservation』の4部構成。演奏は30人のビッグバンドで、音楽監督はボビー・ラムとリック・テイラー。正直言って30人の実力はどういうものなのかは知らない。曲も演奏もいかにもヨーロッパ的で上品で端正である。ボリュームを上げれば、オケの迫力は出るが、絞ってBGMとして聴くのがいいかもしれない。歪み感が無く、綺麗な録音だが、Dレンジはイマイチ。」
 
   
54−14

モーッアルト/セレナード第10番K.361「グラン・パルティータ」

ウプサラ・オムニバス管楽アンサンブル

 スェーデン Proprius ALVING PRO 9967

「1985年4月9〜11日、ウプサラ城での録音。マイクはショップスCMC541とB&K4165、SATT SAM82のミキサー使用、ソニーPCM−F1でデジタル録音。アンサンブルはオーボエ2人、クラリネット2人、バセット・ホルン2人、ホルン4人、ファゴット2人、コントラバス1人の13人。曲は7楽章でトータル51分50秒。純粋のワンポイントマイク録音ではないが、ワンポイント的なオフマイクの録音で、木管が実に柔らかい。柔らかすぎるくらいのふんわりした、しかしちゃんと芯のある、重量感もあるサウンドで、薄っぺらにならない。音像は輪郭鮮明というタイプではないが、存在感はあり、音場感も出ている。ある程度ボリュームを上げた方がバランスが良くなるタイプだが、緊張感はない。」
 
   
       
FMfan別冊1987年.秋号 No.55    
55−1

日本7 「声明」

仏 OCORA 558657 

「1985年10月25日、ラジオ・フランス・スタジオでのアナログ録音。既に『天台声明』が『日本2』で出ており、今回は『真言声明』である。声明についてはほとんど知らないのだが、カトリックやギリシャ正教の祈りや聖歌のようなものだろう。とにかくOCORAの採算度外視の文化事業には感心するばかりだ。音楽としてはどう評価していいのか分からないが、声が素晴らしい。日本人にもこんなにいい声が出せるのだなあとうれしくなる。厚く豊かで艶があって、切れの良い力強い声。ピアノ仕上げの輝きのある声。実に伸びがよく、エコーも少な目だがきれいに響く。コーラスも独特の迫力がある。音像定位も良い。スピーカーの中域のテストに好適。」


*注「ディレクター:Akira Tanba(丹波明?)、録音エンジニア:Agnes Wargnier。この記事はCDによる評価、同時にLPも出ている(レコード番号は同一)。中域の密度の濃いLPの方が、人間の声をよりリアルに再生できる筈、少なくとも金田式アンプで聴く限りでは長岡氏が言及した、この録音の美質は再現されているように思われる。」
   
55−2

アルヴォ・ペルト/アルボス(樹)

Vn:ギドン・クレーメル、ヒリヤード・アンサンブル、シュトゥットガルト国立管弦楽団ブラス・アンサンブル ほか

独 ECM 1325

「1986年8月パウエル・スタジオ、1987年ロンドンの聖ヨハネ教会での録音。ペルトは1935年エストニアのパイデで生まれ、タリンで育ち、1980年までソ連で生活していた。宗教的環境は全くない場所で育ったのに、なぜか宗教的な傾向が強く、それも受難曲、スタバト・マーテル(悲しみの聖母)といった暗く苦しい方向に向かいがち。ジャケット裏の写真を見れば、それも納得できる。ドストエフスキーに生き写しの風貌で、深刻を絵に描いたような表情。全5曲、それぞれにタイトルは違うが、陽気に気楽に聴ける曲はない。録音は優と良が混じり合っている。」

55−3

マクダウェル/ウッドランド・スケッチ、海の小品

Pf:チャールズ・フィエロ

米ノンサッチ H−71411

「制作1983年。マクダウェル・ピアノ曲集第2巻(1巻は当リスト33−9)である。ウッドランド(森林地帯)・スケッチは『野薔薇に寄す』『鬼火』『昔の逢い引きの場所で』『秋に』『インディアン小屋から』『睡蓮に寄す』『リーマスおじさんから』『荒れ果てた農園』『草原の小川のほとり』『日暮れの物語』の10曲から成り、いかにも小品的なくつろいだ曲で、サティとはちょっと違うが、現代人の神経を休ませてくれるいい曲だ。『ウッドランド』というタイトルも郷愁を誘う。『海の小品』も怒濤逆巻く海である。やはり8曲に分かれているが省略。演奏は曲にふさわしく、優しく、BGM的、スペアナではハイ落ちに見えるが、音はごくナチュラル、余韻が長く綺麗だ。」


55−4

J.K.F.フィッシャー/9人のミューズたち

Cemb:Wm・ナイル・ロバーツ

米 KLAVIER K S506

「フィッシャーは大勢いるが、J.K.Fは1665〜1746のドイツの作曲家。9人のミューズとは、エラト、エウテルベ、タレイア、メルポメネ、テルプシコラ、ウラニア、クリオ、ポリュヒュムニア、カリオペの9人で、それぞれをタイトルにしてハープシコード組曲を9曲作った。そのうち、クリオ、エウテルベ、カリオペ、ウラニアの四曲を取り上げたのが、このレコードだ。それぞれが前奏曲、アルマンド、クーラント、サラバンドと6〜11曲の組曲形式で、バッハより20年前の人だが、年代の差は感じさせない。多少フロアが共鳴しているのではないかと思うが、厚く豊かで力強い低音は独特。バスリュート、ベースギター、太棹を思わせるチェンバロだ。」


   
55−5

イン・オムネム・テラス/グレゴリオ聖歌と中世の地方の典礼歌

アンサンブル・ジル・バンショウ

仏 AUVIDIS AV 4953

「制作1982年。アンサンブルは指揮のドミニク・ヴエラールを含めて6人。録音条件ははっきりしないが、パリ市内の教会の一つではないかと思う。プロの歌手によるソロ、二重唱、三重唱のグレゴリアンで、また違った味がある。タイトル曲『全ての土地で』を含めて18曲。とにかく綺麗な音楽だ。特にライブな部屋でのオンのワンポイント録音といった感じで、声はややきついが、厚く力強く、実に朗々と響き渡る。ホールエコーは長くたっぷりとして、彼方に消えていく。直接音と間接音の分離が良く、音像は手前で大きく、後ろが小さい、魚眼レンズ的な効果が感じられる。AEでグォーッというスゴイ超低域ノイズが入る。(ホールの下に)地下鉄が通っているのだろうか。」

   
55−6

ノヴァーク/シニョリ−ナ・ジョバントゥ

フランティシェク・イーレク指揮ブルノ国立フィル

チェコ SUPRAPHON 1110 3889G

「制作1986年。ノヴァークは1870〜1949年のチェコの大作曲家。曲は7景のバレエ・パントマイムというスタイル。下級法律事務所の事務員が主人公で、仮面舞踏会に出たくて、仮面と衣装の店ゾンネンシュトラール(日光)の前に立ち、太陽神リオスのマスクに見とれる。以下省略するが、ホールでシニョリーナ・ジョバントウ(ミス青春)の幻影に会い、楽しい少年時代を思い出し、幻滅、ジョバントウを追いかけるが、彼女は死と対決していた。ラストは店の前で死んでいる事務員という象徴的な物語。ポピュラー・オケで聴きやすく、録音もキメが細かく、コクがあるのに切れがあり音像は小さく、音場は広く、ごくナチュラルだが、わずかにベールをかぶる。」


   
55−7

「夢」組曲

演奏:ライト・レイン

米 MAGI 002

「制作1979年。レコード店で買ったものだが、超マイナーの感じである。テキサス州エルパソのエルアドベと、カリフォルニァ州コタテイのソノマ・スタジオでの録音。ライト・レイン(光の雨)はダグラス・アダムスほか8人のアンサンブルで、弦、管、ピアノ、パーカッションなど1人で1〜7種類の楽器を担当、さらにクロノス弦楽四重奏団が加わっての演奏。曲はアラビア風、時にインド風、時にラテン風、時にクラシック風だが、トータルでは一種のポップスになっている。BGMとしても聴けるが、録音はかなりのもの。ワイドでダイナミック、特に低音はドスが効いて凄い迫力を持っている。中域は厚く、高域も良く伸びているが、やかましさが全くないのが特徴。」

   
55−8

シュリンクス:J.S.バッハ/組曲第2番よりバディネリ、クエンツ/フルート協奏曲、モーッアルト/フルート協奏曲第1番

パンパイプ:シミオン・スタンチウ、アルミン・ジョルダン指揮ローザンヌ室内管弦楽団

仏 ERATO NUM75187

「制作1985年。スタンチウはブカレストの生まれ。ルーマニアの民族音楽で広く使われているパンパイプ(パンフルート:葦笛)に惹かれ、シュリンクス(古代ギリシャでの呼び名)と読んで愛用。指先で音を自由に操る。単管のフルートとは違うので、速いパッセージは難しいのだが、それを見事にこなして、フルート顔負けの妙技を聴かせる。オケも悪くはないが、やはりシュリンクスが見事。うっとりとさせる演奏、特徴のある、ややハスキーで鋭い音、音像は小さく、リアルで表情が見えるような録音。シリンクスの周囲の空間が感じられる。」

*注「当時、同じくルーマニア出身のパンフルート奏者ジョルジュ・ザンフィルが『ロマーナの祈り』などのレコードを出し話題を呼んでいた。アルミン・ジョルダン(Armin Jordan, 1932年4月9日 ルツェルン〜2006年9月19日 )はスイスの指揮者、今年(2006年)9月15日、バーゼルでオーケストラを指揮中に倒れ、病院に運ばれ急死した。エラートに録音が多い。」

55−9

ロシュバーグ/オーボエ協奏曲、ドラックマン/プリズム

ズービン・メータ指揮ニューヨークフィル

米 NEW WORLD NW335

「A面は1984年12月、B面は1985年5月、いずれもニューヨーク、マンハッタンセンターでの録音。どのレーベルでも、そうだが、最初はやる気満々でアッと言わせ、そのうち中だるみが来て、盛り返すものと、そのまま消えてしまうものがある。NEW WORLDレーベルは今、中だるみ状態だ。このところずいぶん買ったが、パッとしない。この盤もA面のロシュバーグはイマイチ。曲も感激が薄いし、音は歪みっぽい。B面の『プリズム』とは格段の差だ。この曲は『M.A.シャルパンティエ風』『F.カヴァレリ風』『ケルビーニ風』の3部から成るが、カラフルでダイナミック。スペアナで見る以上に聴感上ははワイドでパワフル、切れ味鋭く、いかにもプリズム、音場は広大である。」

55−10

モーッアルト/Music for friends:クラリネット協奏曲 K622.クラリネット三重奏曲K498

アラン・ハッカー指揮とCL.ミュージック・パーティー室内管弦楽団

仏 nato 670

「1985年12月17.18.20.21日、ヨークのヘストリン教会での録音。このレコードはA面、B面とか、第1面、第2面という分け方はせず、トリオ面、コンチェルト面と分けている。トリオは『ピアノ、クラリネットとビオラの三重奏曲K498』、コンチェルトは『クラリネット協奏曲 K622』、トリオはジョセフ一家のために、協奏曲はシュタットラーのために作曲されたというので表記のタイトルになった。(それぞれ生前のモーッアルトの友人)オリジナル楽器使用、ピアノはピアノフォルテである。全体に輝き、艶、エネルギー、音場感はイマイチだが、親しみやすい曲を友人同士で演奏しているといった、優しさ、懐かしさのようなものが出た独特のサウンドではある。鼻息がわりと耳につく。」


*注「P:Jean Rochard、E:Daniel Deshays&Myron Meerson。フランス盤なのに、ジャケット裏に英語でアラン・ハッカー自身の楽曲解説がある。」

55−11

女声コーラスのための20世紀宗教曲

Org:ジョセフ・リスコン、ジャック・フォンボンヌ指揮アヌシー・リセルカル

仏 REM NO 11008

「1986年6月、フランス、オートサボアのキンタル教会での録音。アヌシー・リセルカルは若い女性14人で結成されたボーカル・アンサンブルで、同時に合唱運動クール・ジョワや、ヨーロッパ合唱連盟の一員でもある。近代、現代曲中心だが、特にディストラー、リオンクール、コロンボットに注目、このレコードでも4曲取り上げている。全11曲。ほかにプーランク、コダーイ、デュルフレ、フォーレ等が入っている。いわゆる現代音楽とは一線を画すもので、優しく美しく気品のあるメロディーとハーモニー。実に綺麗な声で、霞たなびくような、ふんわりとしたコーラスは何ともいえない。」


  
55−12

デル・バウル・ヴィル・タンツェン:中世ルネッサンスの農民の音楽

演奏:オドヘカトン

独FSM 63210

「1985年、春、夏、ケルンでの録音。オドヘカトンはケルンの古楽器アンサンブルで、9人でブロックフレーテ、バグパイプ、ポルタテイフ、ハープ、クルムホルン、リュート、ゲムスホルンなどを演奏する。ラッスス、ゼンフル、プレトリウス、ジョスカン・デ・プレといった人々と作者不明の作品、全22曲。『農民は踊る』というタイトルのとおり、陽気で屈託のない、力強い演奏と歌が元気いっぱいに飛び出してくる。ライブな部屋でのオンマイク録音という感じで、実に鮮明で、輝かしく厚いサウンドが伸び伸びと響き渡る。ホールエコーは少な目だが綺麗で長く伸びる。マイクを離すと響きすぎるような部屋なのだろう。」

  
55−13

モンテヴェルディ/歌劇「オルフェオ」

ミシェル・コルボ指揮リヨン歌劇場管弦楽団、王立教会合唱団

仏 ERATO NUM75212

「1985年2月、アビニョンのビルヌーブ僧院での録音。アンテン2、ラジオ・フランス、エール・フランス等々、多くの協力、協賛を得ての録音である。ソリストは、G・キリコ、A・ミシェル、C・ワトキンソンら、牧人の役でルドロワが出ている。冒頭のファンファーレは軽快でキレが良く、結構ダイナミックでもある。オルフェオ(キリコ)の声はきついが、合いの手のソロ・バイオリンが実に綺麗だ。コーラスは厚く力強いが、ややハイ上がりで、ボリュームを上げると耳につく。ホールエコーはちゃんと入っているが、エコーもやや硬質である。そういう部屋なのか人工的なエコーなのか、全体としてはまずまず明るく、キレの良い力強い録音である。」

55−14

リスト/歌劇「ドン・サンシュ」

タマス・パール指揮ハンガリー国立歌劇場管弦楽団ほか

ハンガリー HUNGAROTON SLPD 12744−5

「制作1986年。別名『愛の城』ともいう一幕物のオペラで、リスト、13歳の時の作品、といっても師のパエールとの共作である。ゴシック風の『愛の城』の城主アリドールは魔法使いでもある。愛の城は呼びかける『恋人たちよ、いらっしゃい』。まるでラブホテルのCMソングみたいだが、実際には一種のお伽噺で、騎士ドン・サンシュが、苦難の末、王女エルジールと結ばれてめでたしとなる。明快で力強く、分かり易い曲。演奏もエネルギッシュで、録音も馬力がある。メゾ・ソプラノ、テノール、バリトンは3点定位。オケに比べてボーカル、特にテノールのドン・サンシュの声が大きい。低域がボンつくのは部屋(ホール?)のせいか、全体としては、やや高域がきついが、ダイナミックな録音だ。」

   
55−15

エーレン・ターフェ・ツヴィリヒ/交響曲第1番、祝典、序奏と変奏

ジョン・ネルソン指揮 インディアナポリス交響楽団

米 NEW WORLD NW336

「1984年11月、インディアナポリス円形劇場での録音。ツヴィリヒ、1939年マイアミ生まれの女流作曲家。アメリカ人だからズィリッチと読むのかもしれない。交響曲は3楽章でトータル17分31秒と短めだが、1983年度ピュリッツアー賞受賞作。音楽で受賞した最初の女性である。女性らしさを感じさせる作品ではなく、なかなか力強い現代シンフォニー。非常に肌理が細かく高分解能。しかもオフマイクなので、刺激的な鋭い音は出ないる近頃の人はせっかちで、大曲には向かないので17分は好適かも。B@祝典はエレガントでしなやかな女性的な曲と演奏、BAはイマイチ。」

  
55−16

マルセル・ランドウスキー/歌劇「ほうき戸棚の魔法使い」

ルスタン指揮ブローニュ・ビヤンクール国立音楽院楽器アンサンブル

仏 AUVIDIS AV4278

「子供の頃から、魔法使いや妖精と親しんできたランドウスキが、子供のために作った短いオペラ。演奏はビヤンクール国立音楽院楽器アンサンブル。主役のソロもコーラスも小学生。ほかに大人の男女二人のボーカルが参加。パリのノートルダム・レバノン教会での録音。台詞が多いが、実にわかりやすく楽しい音楽だ。歌は妖精語だそうで、何を言っているのか分からない。録音はナチュラルの極致。オケ、ソロ、コーラスの音像のリアルさ、位置関係の確かさ、教会の空間もよく出ている。オフマイクだが鮮明で、生々しいが刺激的なところのない録音。B面の『夜のノート』は前期アンサンブルに語り手が加わっての交響的物語、やはり分かりやすい曲、ナチュラル録音。」

55−17

トリオ・ミリエル/ブラスのための室内楽

ベルギー PAVANE ADW 7175

「1985年、クラウゼン・ルクセンブルク教会での録音。ダニエル(ホルン)、ジェラール(トランペット)、ジル(トロンボーン)のミリエル三兄弟で結成した金管三重奏団。兄弟が生まれたのはフランスの寒村。村の音楽といえばブラスバンドであり、父親もアマチュア・トランペット奏者という環境から、三人とも自然に金管の道を進み、それぞれ独立して音楽家となったが、1978年以降トリオとしても活躍するようになった。ウィルビーの『マドリガル』2曲、バッハの『三声のインベンション』から4曲。ほかにペルゴレージ、バルトークらの作品をそれぞれ編曲で演奏。いかにも意気のあった演奏。輝かしく、艶があり、力のあるブラス、ホールエコーも綺麗。音像、音場ともさりげなく自然。」

  
55−18

メイキング・ミュージック

演奏:ザキル・フセイン、Fl:ハリブラサド・チャウラシア、G:ジョン・マクラフリン、T&S・Sax:ヤン・ガルバレク

独ECM 1349

「制作1987年。タブラの魔術師ザキル・フセインが、タブラのほか、各種の打楽器を演奏、中では横腹に穴をあけた素焼きの壺を叩く音が面白い。全8曲、6曲がフセイン、1曲がマクラフリン、1曲が合作、ジャズとエスニックのフュージョンである。どの曲もあまり気難しくなく楽しめるもので、録音は優秀、ギターは切れが良く、パチッ、ピチッと弦が躍るようだし、サックスは素晴らしく伸びがあり、浸透力がある。特に面白いのが素焼きの壺で、ペタペタ、ボワンボワンと異様だが生々しい不思議な音だ。」

  
55−19

若きタブラの魔術師ザキル・フセインとサランギの巨匠スルタン・カーン

独 CHHANDA DHARA SP12187

「制作1987年。インド音楽専門のレーベルの最新盤。CD(SNCD4487)も同時に購入したが、一長一短、少し安く買えるLPの方で紹介する。ザキル・フセインは天才的なタブラ奏者として多方面で大活躍のアーチスト。タイトルの二人のほかにシェファリ・ナグのタンブーラ(伴奏に徹した小音量だが余韻の長い楽器)が加わる。A面はラーガマルクーンス、タブラとタンブーラが左右に分かれて伴奏、カーンのサランギ(弓奏弦楽器)が妙技を聴かせる、ポルタメントと微分音によるグニャグニャ、ニャゴニャゴとネコがわめいているような不思議な音楽。B面はタブラ中心の力強い演奏、まさに神技としか言いようがない。録音も優秀。」


55−20

CD

グローフェ/組曲「グランド・キャニオン(大峡谷)」、ガーシュウィン/「キャットフィッシュロウ」(歌劇『ポーギーとベス』からの交響組曲)

エリック・カンゼル指揮シンシナティ・ポップス・オーケストラ

米TELARK CD80086

「(P)1987年。いかにもテラークらしい猛烈録音、圧巻はグランドキャニオンの『豪雨』だ。ここに本物の雷鳴を入れようと五年間も苦労したという。キレがよくダイナミックで音楽性があり、SN比のよい雷鳴というのは録ろうと思うと容易ではない。雨が降ると俄然SN比が悪くなるので、ドライサンダーを求めてアメリカ中を駆け回り、やっと理想の雷鳴を捉える事が出来た。『グランドキャニオン』のほか、ガーシュウィンの『キャットフィッシュロウ』(ポーギーとベスからの交響組曲)が入っているが、どちらも曲、演奏ともまあまあ。やはり主役は雷鳴だ。これは凄い!どのくらい凄いかはスペアナを見てもらうのが一番。」

*注「1983年6月4日、1985年5月5日と9月17日、シンシナティの音楽ホールでのデジタル録音。マイクはショップス コレットシリーズ(本数不明)、録音デッキ:サウンド・ストリーム・デジタル・テープレコーダーとソニー PCM1610、ネオテックのコンソール、オーディオ・テクニカのケーブルを使用。録音プロセスにはリミッター、コンプレッサー、イコライザーなどを一切使用してないと明記されている。」

   
     
FMfan別冊1987年.冬号 No.56    
この号の冒頭に、長岡氏が「AD(LP)はどこへ行く」と題して、「何年か前に予想したアナログ最後の日がいよいよ近付きつつある感じだ。アナログの新譜の入荷はめっきり減った。1987年プレスとなるとCDだけでADがないとうものも増えてきた。」とある。
1987年も後半になるとCDは一般家庭に浸透しLPを駆逐していた。外盤ジャーナルもCD中心となり取り扱うLPの記事は減っている。
  
56−1

ゼン:タンブーラ

演奏:ミヒャエル・フェッター

独 WERGO SM1061

「1986年1月、シュルツブルクの聖ツィリアク教会での録音。フェッターは既に『オーバートーンズ』『ミサ・ウニベルサリス』等が出ている。1970〜82年の大部分を日本で禅僧として修行した人物で、最初は画家として立ち、ついで音楽にも手を伸ばしたという形。ZENシリーズは琴、ゴング、グロッケン、タンブーラ、フルート、ピアノの6枚が出ている。いずれもジャケットは自筆。A面はひとり二重奏、B面はソロ、いずれもタンブーラ(オリエントの撥弦楽器)の演奏だが、ほとんど持続音  である。プレクトラムでこすっているのだろうか。録音は優秀だが、力強く単純なメロディーの無限の繰り返し、騒々しい催眠術というか、奇妙な音楽だ。」
 
  
56−2

ガルッピ/オラトリオ「アダムの堕落」

クラウディオ・シモーネ指揮イ・ソリスティ・ベネティ ほか

仏 ERATO NUM 75286

「1985年6月、イタリア、パドワのコンタリーニ荘での録音。箱入り2枚組。箱の中に額縁様のスぺーサーが入っており、これにCDサイズの46頁の解説書が入っている。ガルッピは1706〜85年のイタリアの作曲家で、百曲以上のオペラ、20曲以上のオラトリオを書いている。アダムの堕落は6番目のオラトリオで、登場人物は(?)はアダム、イヴ、正義の天使、恩寵の天使の4人。どちらかというと、歌劇に近い感じで、あまり神々しい音楽ではないが、綺麗なオケと伸びのあるテノールとソプラノ(アダムとイブ)、エコーもたっぷりで聴きやすい。ただ、独唱がオンになったりオフになったりするのは自然だが、チェンバロまでそんな感じで動くのは妙。」

 
   
56−3

トリオ84

スウェーデン DRAGON DRLP65

「スウェーデンのジャズである。1984年2月、エーテボリのスウェーデン放送スタジオでの録音。トリオ84のメンバーは、ラルス・ヤンソン(Pf、シンセ)、アンデルス・ヨルミン(Bs)、アンデルス・キエルベリ(Ds)。A面は『静かな場所』『レングタンス・ベルイ』『タクシム』『ヤニナ』。B面は『ヒューマニティ・イズ・ワン』『三位一体U』『ビル・エヴァンスの思い出』『フェレアルナ』『ゴア』とあるが、北欧のジャズらしく礼儀正しい感じ。MJQならぬMJTといったイメージもある。トリオとしては特徴はないが、シンセが出てくると持ち味が出て、特にタクシムが良く、広がり、漂い、浮遊するシンセの雲の向こうに、ベースとドラムが小さく定位する感じは実に北欧的だ。」

 
56−4

ロジャー・セッションズ/交響曲 第4.5番

C・バディー指揮コロンバス交響楽団

米 NEW WORLD NW 345

「1986年4月、コロンバスのオハイオ劇場でのデジタル録音。セッションズ(1896〜1985)はアメリカの作曲家で、プリンストン大、カリフォルニァ州立大、ジュリアードなどで教鞭もとった。交響曲は8曲あるが、難解な現代音楽ではなく、コープランドとも通ずる分かりやすい作品が多い。録音はかつてのNWのど迫力は後退して繊細感が目立つ、第4番は高弦がさらさらと流れて繊細でシャープ、ハイ上がりで、ピラミッド型のスケール感はイマイチだが、割と小さめのホールでの、割と小編成のオケという感じで音場感は優秀。楽しい聴きやすいシンフォニー。第5番は室内楽風に静かに始まって、次第にダイナミックにたたみこんでいく、こちらの方が力作か。」
 
56−5

ザ・クラリネット・サミット

サザーン・ベルズ

イタリア BLACK SAINT BSR0107

「イタリアのジャズ専門レーベルだが、レーベルからライナーノートまで全て英語である。1987年3月、アメリカ、アトランタのゴールデンサム・レコードでの録音。マスタリングはミラノである。ジャケットもジュリアーノ・クリヴェルリのイラスト。演奏は、アルヴィン・ベーティスト、ジョン・カーター、ジミー・ハミルトン、デヴィット・マレイ、クラリネット・カルテットである。『ほかトータル7曲。迫力はないが、品の良いきれいなサウンドのジャズてせ、透明で切れがよく歪感ゼロ。BGMに好適。音場はマルチモノ的だが、ちゃんと定位する。」

 
56−6

ムハール・リチャード・エイブラムス/カラー・イン・サーティー・サード

イタリア BLACK SAINT BSR 0091

「イタリアのジャズ専門レーベル。1986年12月、ニューヨークのサウンドアイディアス・スタジオでの録音。MUHALはマハルかマホールか分からない。この方面は詳しくないのである。エイブラムスのピアノに、J・プレイク(Vn)、J・パーセル(Sax)、F・ホプキンス(Bs)、A・シリル(Ds)が加わる。タイトル曲を含むエイブラムスの作品ばかり7曲。時には現代音楽風にも聴こえるモダン・ジャズ。レンジは広大、パワフルで厚みがあるが、歪み感がなく、聴きやすい曲と録音だ。ACのソプラノ・ソングはバイオリンを生かした現代音楽風、B@のピアノ=チェロ・ソングはチェロ・ソナタ風、BAのタイトル曲は室内楽風。それぞれに面白いし、録音も悪くない。」

 
56−7

レーリンクレーベのフォーク・ミュージック

ハンガリー HUNGAROTON SLPX18102

「制作1986年。ルーマニアのカルバチア山系から流れ出してハンガリーに入るマロシュ川周辺に残るジプシー音楽。レヘリンクレーベというのはマロシュ河畔の地名。そこに生まれてハンガリーに移住したシグモンド・シェクリーとシグモンド・カルサイ、フェレンツ・セーベが編集したマロシュ河畔のダンス音楽。ジャケット裏には、赤ん坊を日本風におんぶした男がソニーらしいオープンデッキで編集している写真が載っている。いかにも民族音楽の感じだ。『チレン・チョット』という風に聞こえる男性のソロボーカル、わらべ唄風の女声の地声のコーラス、艶のあるバイオリン、フォークダンス、いずれも恐ろしくデッドだが、奇妙な生々しさがある。」
 
   
56−8

ディノ・ベッティ、ファン・ブル・ノート/THEY CANNOT KNOW

イタリア SOUL NOTE

「イタリアノジャズ専門レーベルだが、イタリア語はどこにもない。1986年、ミラノのジングルマシン・スタジオでの録音。タイトル曲ほか、『真夏の日光』『共演』『沈黙の星雲からの記憶』『真冬の夜の夢』『ジュー・ド・ポメット』と計6曲。いずれも表記二人の作曲、指揮。最後の作品は『ほほ骨の遊戯』の意味だが、ジュー・ド・ポメット(というゲームが実際にある)の語呂合わせだそうだ。演奏はビル・エヴァンス、ミッチェル・フォアマンといったアメリカ勢にイタリア勢が加わって総勢30人に近い。内容は特にイタリア的と言うことはなく、スタンダードな感じで、レンジは広く、華やかに散乱するタイプ。音像も一つひとつ鮮明にソリッドに定位する。厚みはもう一つ。」

 
   
     
FMfan別冊1988年.春号 No.57    
57−1

ブレンデル・コレクション/J.S・バッハ/イタリア的協奏曲、半音階的幻想曲とフーガ、幻想曲とフーガ イ短調、他

Pf:アルフレッド・ブレンデル 

蘭 PHILIPS 9500 353(LP)、420 832−2(CD)

「録音は1976年5月。かつて9500 353として出ていたLPのCD廉価盤である。このCDはLPのイメージをそのまま残している。本来のピアノの音は、ジンジン、ピンピン、耳をつんざくような鋭い音ではない。柔らかくて芯のある音というのが本物だ。その音がよく出ている。余韻、ホールエコーが豊かで、ローソクの光(芯があり、明るい光があり、その周りにふわっと広がるオーラがある)のような音と音像、これはもう絶品である。しかし、透明度不足、全体にホコリっぽいのが欠点。それでもこれはいい録音だと思う。」

*注「ADDのCDとして紹介。アナログ・マスターの演奏はデジタル・プロセスを一切経ないオリジナルのLPで聴く方がベターだと思う。輸入メタル原盤プレスの国内版レコードは日本フィリップス X−7814 」



「LP」
57−2

ミンネゼンガーとミンストレルの音楽

トマス・ビンクレイ指揮古楽スタジオ

CD:独TELDEC 8.44015
LP:独テレフンケン SAWT 9487

「制作1988年。AAD。74分08秒。復刻廉価盤である。全19曲、@〜Mはかつて『ミンネソングとプロソディ』(SAWT 9487)としてLPで出ていたもので制作は1966年だった。現在でも第1級で通用する優秀録音盤である。これにミンストレルの音楽がN〜R曲として追加されたお徳用盤。演奏は7人で、1人が数種の古楽器を操り、ラム(メゾソプラノ)とレヴィット(テノール)はボーカルのかけ持ち。中世の器楽曲、声楽曲だが、演奏が素晴らしく、録音は抜群である。最新録音のCDも顔色なし。生楽器と肉声の持つ力と厚み、艶と張り、雰囲気と音場感にあふれた録音、@の太鼓の男声のエネルギーに圧倒され、Aの女声のやるせない迫り方に骨抜きにされる。Rのジューズハープとリュートにもう唖然。」


*注「記事はAADのCDで紹介。同じくオリジナルのLPで聴くべきであろう。」
57−3

カルミナ・ブラーナ/1300年頃の手写本による33の歌曲集 Vol.2

リュート:トマス・ビンクレイ.T:ナイジェル・ロジャース.他 古楽スタジオ

CD:独TELDEC 8.44012
LP:独テレフンケン SAWT 9522−A

「制作1988年、AAD。制作1966年のLPのCD廉価盤である。カルミナ・ブラーナはオルフの作品が有名だが、これはオリジナルの中世音楽。遍歴学生や下級聖職者ら、無名の人たちの作品数百曲。全曲のレコードではないが、ハルモニアムンディには5枚組の大がかりなものがある(外セレ2巻147:クレマンシック盤のこと)。テレフンケンでは2枚に分けて出ていた。その内のSAWT 9522−AのCD化である。これもミンネゼンガー同様、1960年代録音の音の良さが生きている。朗々と高らかに鳴り響く楽器と歌。厚く、力強く、艶もあるが、ミンネゼンガーと比べるとやや硬質で、音像も少し大きめになる。しかし、エコーはたっぷりで音場感はいい。Vol1は店頭になかったので買わなかった。」

*注「記事はAADのCDで紹介。オリジナルのLPについては『レコード漫談』44頁で紹介されている。このカルミナブラーナT.Uを2枚組.箱入りにまとめたアルバムも出ていた。独テレフンケン6.35319 2LPs、初盤と同じスタンパーからのプレスで音質はほぼ同等。」



「2枚組、箱入りの再発盤」
57−4

ジョージ・クラム/私生児のための牧歌、鯨の声

米 NEW WORLD NW357

Fl:ミューラー、Ms:デガエターニ ほか

米 NEW WORLD NW357

「A面29分50秒。『牧歌』が1987年4月、『鯨』が1985年5月の録音。B面32分22秒。1969年10月の録音。A@はフルートと3人のパーカッション。尺八風のフルート、鼓風の小太鼓、遠雷のようなティンパニと邦楽的イメージだが、フルートの音像はセンターのはるか彼方に小さく定位。ティンパニはさらにそのまた奥と、不気味なくらいの距離感を再現する。雰囲気抜群だ。AAはフルート、チェロ、ピアノのトリオ。やはり距離感が見事。鯨の声の描写音楽ではないが、そんな雰囲気もないではない。はるか彼方でぶつぶつひとりごとのようなものが入る。B面はデガエターニの歌に室内アンサンブル。古い録音だが、音も音場もリアルそのもので美しく、実物大、実物の肌ざわりである。」

   
57−5

フランソワ・ヴェルケン作品集

パリ8重奏団ほか

仏 FORLANE UM 6525

「録音は1976、78、84年、場所もノートルダム・レバノン教会ほか3ヶ所。A面は23分27秒、『膨張』『迂回−方向転換』の2曲。B面は23分55秒、『6つの束の間の詩』『二つの遊戯』『クラブサンのための中断』の3曲。演奏は表記のほかにオルガン、パーカッション、チェンバロ、合唱などが加わるが、1曲ずつまるで編成が違う。A@の8重奏は鮮明で、きれがよいがコクはない。咳払いが1回入るのが効いている。AAのオルガンは少しホコリっぽいが、エコーがゆらめきながら、ゆっくりと上昇し消えていく感じがいい。B@のコーラスは女声が少し荒れるが、全体としては、ふわりとした綺麗なサウンド。BAのパーカッションはいい。BBのチェンバロは楽器が少し傷んでいるのか。」

   
57−6

フェイ・エレン・シルヴァーマン/レストレス・ウィンズほか、ラルフ・シャピー/クロスリッシュ・ソナタ ほか

米 NEW WORLD NW355

「A面27分。1986,7年の録音。シルヴァーマンの表記の作品のほか、『スピーキング・アローン』『バッシング・ファンシー』の2曲。A@は木管5重奏、AAは無伴奏フルート、ABは14人のアンサンブル。B面は33分51秒。1987年の録音。シャピーの表記の作品のほか、『トランペットと十人の奏者のための小協奏曲第一番』が入っている。B@はチェロとピアノ。シルヴァーマンは1947年の生まれだが、作風はわりと保守的、A@の自然体の音色と音像は、ほっとさせる美しさのある録音。ABは奏者が一人ずつ出てくるような曲で、これも綺麗。シャピーは1921年生まれ。B@は、ピアノの音像大、チェロはピアノに負けている。BAは低音感が独特。音楽、音、音場とも、立体的、対位法的で面白い。」

   
57−7

ガブリエル・リー/インプレッションズ

仏? NARADA LP1005

「1984年10月の録音。全13曲39分40秒。ジャケットには『ギターのための音楽』とあるだけ。ガブリエル・リーの自作自演のギター・ソロに、たぶんシンセサイザーだと想うが、弦楽風の伴奏、オルガン風の伴奏が入る。一人合奏なのか、別に奏者がいるのか不明。曲はアースダンスに始まってアースダンスに終わる組曲形式で、『ウィンター・ダンス』『ウォーター・ダンス』『フォール・ドリーム』『フューチャー・ドリーム』等々の曲名が並ぶ。曲名通りの親しみやすいセミクラシック風の作品だが、音は凄い。猛烈なパワーでキレまくる高剛性ハイスピード巨大重量級ギター、音像も巨大。とにかく雄大豪壮で、部屋中がギターになったような恐怖感さえある。」

   
57−8

聖母賛

Sax:ジャン・ピエール・ロリブ、Org:アンドレ・ランプロワ

仏? TLP 93008

「1985、6年、リェージェのサンニコラ教会での録音。A面はランプロワの聖母賛で、受胎告知、ピエタ、聖母子、昇天、サルベ、レジナの五部構成。B面はランプロワ、ロリブ、エスペポ、ボサの作品五曲。いずれもサックスとオルガンの組み合わせで、サックスは曲によりソプラノかアルトが選ばれる。現代曲の筈だが、いわゆる現代音楽のイメージではなく、いずれもどこかで聴いたような親しみやすさを持っているのは古いメロディーを取り込んでいるせいか。オルガンは力強く朗々と鳴りわたり、そそり立つ巨木の森を見る感じ。その巨木の間をサックスが小鳥のように舞い、歌う。高い天井に向かって、どこまでも伸びていくサックスが爽快だ。」


   
57−9

マッツ・ホルムクイスト/時の物語

S:レナ・ヴィルレマルク、ラビリンス ほか

スェーデン CAPRICE CAP1345

「1986年11月、ストックホルムのソネット・スタジオでの録音。演奏はレナのボーカル、”ソフィスティケイテッド・レディ”という弦楽四重奏団と、ジャズ・クインテッド”ラビリンス”(アルト・サックス、ピアノ、ドラムス、エレキギター、エレキベース)。9曲、46分40秒。A@は弦が実に綺麗で、管も音に伸びと輝きがあり、ドラムスは力があり、生々しい、というよりは、やや人工的に磨き上げられたサウンド。エコーもついているが、アコースティックなエコーとはちょっと違うようだ。楽しめるジャズとクラシックのフュージョン。B@はジャズそのものだが、全体としては鮮明、ダイナミックだが、汗や体臭を感じさせない上品なジャズになっている。」

   
57−10

ハリソン・バードウィッスル/秘密劇場 ほか

エルガー・ハワース指揮ロンドン・シンフォニェッタ

蘭 ETCETERA ETC1052

「制作1987年。バートウィッスルは1934年生まれ。A面は『メカニカル・アルカディアの永久歌』『シルバー・エリア』の2曲で25分40秒。B面は『秘密劇場』32分11秒。シンフォニェッタは14人のアンサンブル、というよりはソリストの集まりで、テクニックは素晴らしい。AAでは、これにハープが加わる。3曲とも、ロンドン・シンフォニェッタを想定して作曲されているので、演奏は文句なし。かなりの難曲だが楽々とこなしている。鮮烈、シャープ、音像は小さいが、ソリッドで実物大の重量感があり、音場の奥行き感が深い。A面は華麗なアンサンブルで聴かせ、B面は次々と登場するソロ楽器の顔見せ興行的な面白さがポイント。サラウンド効果は少ない。」

   
57−11

ナナ・ヴァスコンセロス、アントネッロ・サリス/レスター

伊 SOUL NOTE 121 157−1

「1985年12月9、10日、ミラノのバリゴッチ・スタジオでの録音。ブラック・セイントと同系列のレーベルである。ヴァスコンセロスがパーカッションとボーカル、サリスがピアノとボーカル、『トライラ・ボラ』『ソニ・カラビチ』『レスター』ほか全7曲39分。例によって現代音楽、ジャズ、エスニックりフュージョンである。特にA@は雅楽風の演奏に、野太い呪文風の歌(つぶやき?)、かけ声と、シュトックハウゼンの世界。BAはアフリカンドラム風、AAはラテン風のジャズ、BBは多重録音で、インド音楽風の呪文と多彩。実に豊かで生々しく、存在感があり鮮明だが、鋭さのない、気持ちの良いサウンド。音場感も抜群で、スタジオといっても、かなり響きの良い部屋のようだ。」


   
57−12

テテ・モントリュー/私の好きな音楽 Vol.1

伊 SOUL NOTE 21180−1

「1986年12月、ミラノのバリゴッチ・スタジオでの録音。ヴィンセンテ・モントリュー。テテは愛称、『頭』の意味か。『対談(テテ・ア・テテ)』の意味か。1933年スペイン、バルセロナの生まれ。『自分はスペイン人ではなく、カタロニア人であり、心は黒人だ。』と言っている。実際にもヨーロッパで一番黒いジャズ・ピアニスト。自作の『ドント・スモーク・エニモア』を含む8曲、45分。このレーベルのジャズは、概して上品に整理しすぎた感じが多いが、これはそれがなく、いかにもジャズ・ピアノは実に明快で輝かしく、艶があり、堂々と響き渡る。音像は巨大で、ボリュームを上げると巨大なピアノの中に閉じこめられたような気分になるのが面白い。』

   
       
FMfan別冊1988年.夏号 No.58. ディスクホビー    
今号から、この記事の題名を「外盤ジャーナル」から「ディスクホビー」と改題、国内盤やLD:レーザーディスクも紹介するようになった。今回はAD(アナログディスク)つまりLPの紹介は1枚もない。敢えて挙げればCD/LP.同時発売された斉藤徹/東京タンゴのみ。      
58−1

斉藤徹/東京タンゴ

ベース・ソロ・インプロビゼーション

日本 ALM AL502CD

「1986年7月、東京バリオ・ホールでの録音。45分17秒。デジタルとアナログで同時録音。デジタル・マスターはADに使用。アナログ・マスターはCDに使われている。斉藤徹はジャズベーシストだが、このレコードでは主として弓を使ってコントラバスを演奏している。全7曲。@のタイトルが『東京タンゴ』だが、全体としてはタンゴでもジャズでもなく、即興の現代音楽の感じだ。Cの『フォー・アップル・サリー』の後半に4人の応援者が四隅でリンを鳴らすほかは全くのソロ。響きの良いホールでのワンポイント・マイク録音で、実に力強く、生々しく、豪快、痛快な演奏と録音である。音像はリアルで、弓の飛びはねる様子が見えるようだ。」

*注「LPとCDで同時発売されていた。この記事はCDでの評価。デジタル・マスターからAD、アナログ・マスターからCDとは倒錯的、ピュア・アナログ派の金田信者としては、アナログ・マスターからAD(LP)を制作しなかったのは疑問だ。」
 
     
     
FMfan別冊1988年.秋号 No.59.ディスクホビー    
今号で、季刊誌だったFMfan別冊は廃刊となり、次号から「AVフロント」と変わり月刊誌になる。ディスクホビーの連載は継続されるが、CDとLDの紹介が中心になり、LPの記事は激減する。
  
     
59−1

アウト・ヒア・ライク・ジス.....

演奏:リーダース

伊 Black Saint 120 119

「制作1988年。ソウルノートと同系列のジャズ専門のイタリアのレーベル。レスター・ボウイ、アーサー・プライス、チコ・フリーマン、カーク・ライトシー、セシル・マクビー、ドン・モイエとリーダー格によるセクステットの演奏。『ゼロ』『ルナ』『クールT』『ドンキー・ダスト』『ポートレイツ』『フェリシテ』『ラブズ・アイ・ワンス・ニュー』の7曲。明快で、ややクールな演奏。透明で、切れが良く、厚みがあり、音に伸びと力があり、歪みが少ないのでボリュームを上げてもやかましくならない。実に綺麗なジャズだ。トランペット、サックス、ベース、パーカッションと定位もしっかりしているが、ピアノは宙に浮かぶ感じもある。音場は透明というか、あまり感じられない。」

   
59−2

ミシェル・ポルタル/チュルビランス

仏 Harmonia Mundi HMC905186(CD)

「1986年、スタジオSEでの録音。ポルタルというのはどういう人物なのかよく分からないが、即興的、偶発的、瞬間的な音楽家で、しかも、ジャズ、ロック、クラシックからの影響もあり、作品は楽譜にしにくいという。『モザンビーク』『パストール』『ジャムス』『メテイス(白人とインディアンとのハーフ)』『テュルビランス(大騒ぎ)』『バスタ』の6曲。クラリネット、サックス、ベース、ドラムス、パーカッション、ギター、シンセ、アコーディオン、バンドネオン、効果音、曲により3〜7人で演奏。ポルタルも全曲に参加。エスニック風、ジャズ風の楽しい曲だが、録音は抜群、パワフルなドラムス、切れの良いパーカッション、すごい厚みのバスクラ、音像明確、音場リアル、優秀録音だ。」
*注「この記事はCDで紹介。アナログ録音。DMMでLPが出ていた。ミシェル・ポルタルは、42−3(仏HARMONIA MUNDI HM1118)モーッアルト/クラリネット5重奏曲、クラリネット3重奏曲 でクラリネットを演奏していた。」

   
       
季刊誌FMfan別冊が月刊誌「AVフロント」と変わり、コーナーも「DISC HOBBY」と改称され、1枚当たりの記事の量が増えたが、CDとLD(レーザーディスク)がメインとなりAD(LP)の記事は激減する。    
       
AVフロント 1989年2月号 DISC HOBBY 1
   
DH1

ハイドン/リラ協奏曲(2つのリラ・オルガニザータのための協奏曲Hob.VIIh-1〜5)

オルガンと指揮:ウォルフガング・フォン・カラヤン、ベルリン室内ゾリステン

独Koch Schwann 311006 H1 (CD)、 独Schwann

VMS 2083(LP)

「制作1989年 ADD 72分43秒。ナポリ国王(両シシリー王)フェルディナントW世に献呈された作品。王の愛用した楽器リラのための作品で、2バイオリン、2ビオラ、チェロ、コントラバス、2ホルンが加わる。リラはハーディガーディにミニパイプ、オルガンを組み込んだような楽器(写真)だが、音量が小さく演奏会ではフルートかオーボエで代用される。ここではリラをポジティブ・オルガン(室内オルガン)で代用、ハイドンのイメージに近づけようとしている。全8曲のうち5曲を収録。いずれもどこかで聴いたことのある楽しいメロディーにあふれている。これらのメロディーの一部は、ハイドンの交響曲にも転用され、たとえば第1番の第2楽章は交響曲第89番に使われている。豊かで厚みがあり、力強く美しいサウンド、オルガンも実に優雅だ。」


*注「録音1979年2月6,7日、制作ベルリンRIAS(放送協会)。今回はLPの記事はなく、CDでの紹介。此の演奏はLPでも出ていたので取り上げた。LPは第1番と第5番のみ収録、ウォルフガング・フォン・カラヤン(1906〜87)は、有名な帝王カラヤン(1908〜1989)の実兄のオルガン奏者。弟とは異なり地味な音楽活動を続けていた。レコード録音は少なく珍しい。」

       
       
AVフロント 1989年3月号 DISC HOBBY 2
   
記事冒頭で、第1号でからAD(LP)を外したら早速抗議が来たので、ADの批評を復活させた旨が書かれてある。    
DH2

ジョコーソ

Ob:エゴン・パラロリ。マリンバ、Vib:レト・パラロリ、Pf:ローレンツ・クスター

スイス? PAN 10019

「1983年、チューリッヒのパンムジークハウスでの録音。ジョコーソは”楽しげに”の意味で、アンジュ・フレジール、クレマン・ルノム、リュシアン・ニヴェール、オーギュスト・デュラン、クルト・エンゲルといった、主として20世紀に活躍したクラシックとポップスの中間を行く人たちの作品9曲。A面はオーボエソロで、A@などは幼稚園児が弾く分散和音に乗ってオーボエが歌うという感じだが、実に分かりやすい曲で、オーボエの音が絶品、実に綺麗に、朗々と鳴り響き、ホールエコーも美しい。ピアノも軽く流している感じがいい。B面はピアノ伴奏のマリンバソロ。こっちの方が少し肩に力が入っている。全体として、ポップスそのもの、歌謡曲メドレー風の演奏もあるが確かにジョコーソである。」


   
       
AVフロント 1989年5月号 DISC HOBBY 3
   
DH3−1

シンギング・サーランギ

演奏 サーランギ:スルタン・カーン、タブラ:ザキール・フセイン ほか

独 CHHANDA DHARA SP13988

「制作1988年。ルートビヒスブルクのパウエル・スタジオでの録音。表記のほかにシェファリ・ナグのタンブーラ(特に余韻の長い弦楽器で殆ど脇役)が付く。A面はラーガ・カウンシカナダ、B面はタブラソロと、ラーカ・ミシュラティラング。サーランギは角材に弦を張ったようなごつい弓奏楽器だがね胴の響きが少ないせいか、シャープで硬質な音がする。チェロではなくバイオリンに近い音域。NIMBUS(CD:シグマール・シャルマ/英NIMBUS NI 5110)と同じ曲でもタブラも同じ奏者だが、印象は随分違う。楽器は直接音をシャープに正確にとらえ、トランジェントの良さは驚異的、それでいて音像はリアルで定位も明確、すぐ目の前に三人が座っているような生々しさがある。音場としてはかなりデッドで、部屋は感じられないが、三人を取り囲む空間は感じられる。」


   
DH3−2

バルトーク/管弦楽のための協奏曲ほか

シャルル・デュトワ指揮モーントリオール交響楽団

英 DECCA 421 443−1

「1987年、モントリオール、サンユースタッシュ教会でのデジタル録音。トータル69分と超LP。バルトークの作品の中では最も人気のある組み合わせでレコードも多いので作品については省略。演奏も特に紹介の必要はないと思う。スペアナで見ると超LPのためカッティングレベルは低めだが、fレンジ、Dレンジは決して狭くない。SN比も良い。デジタルマスターだが、デジタル臭はなく、情報量大、繊細でしなやかで、シャープではあるが温かみがある。弦が松林を吹き抜ける風のようにさわさわとさざめき、音の微粒子が花粉のように散乱する。ピアノもパーカッションも切れが良く、エコーも綺麗。音像はナチュラルで、定位がしっかりしており、音場感がいい。一階席の前の方に高い台を設置して聴いたら、こんな風に聴こえる?。」
   
DH3−3

イツァーク・パールマン:シベリウス/バイオリン協奏曲、ラロ/スペイン交響曲、ラベル/ツィガーヌ

Vn: イツァーク・パールマン、ラインスドルフ指揮ボストン交響楽団、プレビン指揮ロンドン交響楽団

米RCA VICTOR GL86520

「国内版があるかどうか知らないが、外盤なので千円で買った。バーゲンではない。パピヨンコレクションという廉価盤シリーズなので安いのである。収録時間が71分51秒というのも驚異的。古いマスターを1枚半分集めてのリカッティング。シベリウスのバイオリン協奏曲、ラロのスペイン交響曲、ラベルのツィガーヌの3曲。1曲目がボストン響、後の2曲はロンドン響である。スペアナに見るようにカッティングレベルは低いが、SN比は普通、カッターヘッドに流す電流が小さくて済むためか、予想外に繊細で、ffでの音の伸びもある。バイオリンは透明で繊細、音像は小さく可愛らしい。トライアングルも小さく可愛らしい。独特のミニチュア的な美しさがあり、小型スピーカーでもよく鳴ってくれる。」


*注「アナログ録音のデジタルマスタリングしたもの。デジタルプロセスを経ないゆとりあるカッティングの旧版の方がオーディオ的には良いだろう。」

   
       
AVフロント 1989年6月号 DISC HOBBY 4   
DH4−1

ラーガ・ラギーニ

インド五重奏団

独 CHHANDA DHARA SP14188

「インド音楽では定評のある、というよりインド音楽しかないCHHANDA DHARAのちょっと変わった1枚。シャーナーイ(チャルメラり先祖)、ギター、サントゥール、サーランギ、タブラの5重奏団にタンブーラが加わる。タンブーラはドローン並の影の存在なので、ジャケットには名前も出ない。A面は二重奏(それぞれ異なる組み合わせ)プラス・タンブーラで4曲。B面が5重奏プラス・タンブーラで2曲。演奏は名人芸。ただし、6人の名人が強烈に自己主張しているようなところがあり、われもわれもと張り出してくるので疲れる。フリージャズに似た感じだ。音場感も悪くないが、とにかく切れの良さにはびっくりする。サントゥールはオンマイク過ぎる感じもある。とはいえ優秀録音。」

   
DH4−2

マイケル・バークリー/クラリネット五重奏曲、ピアノ三重奏曲、荒々しい涙、室内交響曲

演奏:ナッシュ・アンサンブル

英 hyperion A66213

「1985年3月録音。M・バークリーはイギリスの作曲家で、最初の作品が1977年というから未だ若い。このレコードは1980〜4年の作品が収められている。ナッシュ・アンサンブルは1964年の創設。フルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、バイオリン二人、ビオラ、チェロ、コントラバス、ピアノの十人。作品は多少ジャズの影響があるようだが、いわゆる現代音楽の気難しさはなく、気楽に聴ける。クラリネット五重奏曲は繊細高分解能だが、無機的に分解し過ぎるということはなく、バランスが良く、音が綺麗で、空間表現も見事、ピアノ三重奏曲も同様。『荒々しい涙』はピアノとオーボエだが、実によく響くピアノと生々しいオーボエとの対比、ホールエコーもたっぷり。室内交響曲は洞窟の奥で鳴るピアノ、リアルなコントラバス、伸びやかに鳴る管と、雰囲気抜群。全体に割と優しく、響きの美しい録音である。」

   
DH4−3

エーベルハルト・ウェーバー/オーケストラ

独ECM 837 343−1

「1988年5,8月、ルートビヒスブルク・バウエルスタジオでの録音。A面5曲、B面6曲、すべてウェーバーの作曲、演奏もウェーバーのベースソロが中心だが、A@はウェーバーがコントラバスとパーカッション、ほかに8人で、各種管楽器を演奏する。BAは同じメンバーのうち6人が加わる。クラシック、ジャズ、エスニックのフュージョンというECM得意のジャンルだが、曲としても面白いし、演奏テクニックも独特で、シンセやエフェクターを使っているようにも聴こえるが、ジャケットで見る限り、全てアコースティック、BBにキーボードが使われるだけである。コントラバスが実に厚く深みがあり、余韻、エコーたっぷりで、ワウっているようにさえ聴こえる。不思議な鳴り方のパーカッション、コントラバスの打楽器奏法も面白い。」


   
DH4−4

シューベルト/幻想曲ハ長調「さすらい人幻想曲」、楽興の時

Pf:パウル・バドゥラ=スコダ

仏ASTREE AS−53

「1981年6月、バウムガルトナー・カジノでの録音。バドゥラ=スコダのコレクションの中から、1824年ウィーン、コンラートグラフ製のハンマーフリューゲルを使用しての演奏。『幻想曲』は1822年、『楽興の時』は1823〜8年の作品なので年代はぴったりマッチする。アストレのレコードは紹介していないものがかなり残っているので順次紹介していきたい。アストレはCDも出ているが、概してLPの方が音がよい。独特の厚みと脂っこさがよく出てくる。バドゥラ=スコダの演奏は重厚で、シューベルトにしては重すぎる感じもあるが、風格はある。録音はアストレ独特の強大な低音と、ピコピコとかわいらしく響く高音のコントラストが妙で、ひと味違ったサウンドが魅力だ。音像は大きめだが、雰囲気はいい。」

   
       
AVフロント 1989年7月号 DISC HOBBY 5    
DH5−1

バイオロジック・ミュージック

ヘールレン打楽器アンサンブル

蘭 KMC 122

「オランダのレコードだが、ライナーノートらしきものがないので細かいことは分からない。ヘールレンはオランダ東南部の都市。アンサンブルは6人だが、このレコードではサックスとベースの二人が加わる。『万国語』『生物学的音楽』『工場に帰れ』『アドワ(エチオピアの町)』『黒いアフリカ』『スペクタル』の6曲。@とCはトラッドに基づくアレンジ。ほかはメンバーの作曲だが、いずれもアフリカン・エスニック調、各種ベル、コンガ、アフリカン・ドラム、スネア、バス・ドラム、ティンパニー、エレキ・ドラムが違和感なく溶け合っている。森の奥でさえずる野鳥、遠い雷、得体の知れぬ重低音といった構成で、音像も拡大せず、音場も深く、やや甘口だがなかなかいい録音だ。スペアナでも重低音の威力は分かる。」

  
DH5−2

ジョン・ハッセル/音の力で死者を復活させる夜空の外科医

米INTUTION/CAPITAL C1−46880

「録音は1985〜7年、ソニーPCM F−1を使用。演奏はハッセルがトランペットとキーボード、ほかにディーン:パーカッション、リキエルとホロヴィッツ:シンセサイザーが加わる。タイトルはアイラ・コーエンの詩からとつたものが、曲の内容は『ラビニア/バンクーバ』『パリT』『ハンブルク』『ブリュッセル』『パリU』と5部に分かれている。一応、ロックに分類されるわけだが、いわゆるロックとは違う。ハッセルは正式にインド音楽を学んだ人なのだ。全体としてはエスニック調だが、現代音楽風でもある。特に@は呪術的、A以降はそれぞれの都市の雰囲気描写の感じもあり、全体として、透明度がもう一つだが、音も音場もいい。全員前面整列のギンギンのサウンドではなく、オフで力強く、奥行きが深く、音場も混濁していない。」


   
       
AVフロント 1989年8月号 DISC HOBBY 6    
DH6−1

ジャン・バラケ/セクエンス,歌の後の歌

S:ジョセンフィン・ネンディック、Pf:ノエル・リー、タマス・ヴェトー指揮ブリズマ・アンサンブル,コペンハーゲン打楽器

仏 ASTREE AS75

「録音は1969年だが、プレスは1980年代のはずである。バラケ(1928〜73、フランス)は日本での知名度はゼロ。ヨーロッパでの評価も分かれており、ベートーヴェン以後の最大の作曲家と持ち上げる評論家もいれば、単なる人生の敗残者だと一蹴する評論家もいる。事実、酒に溺れたのたれ死にだった。しかも作品は完成したものが総演奏時間3時間半。未完の楽譜は暗号で書かれていて解読不可能。バラケの作品はヘルマン・ブロッホの哲学的小説『ヴェルギリウスの死』に基づいた難解な作品が中心で、このレコードも取っつきにくい独善的、高踏的なもの。しかし、この時代の現代音楽の中では一味違った、デモーニッシュなものを持ち、録音も優秀、じっくり取り組んでみようという人には勧められる一枚だ。」


*注「1969年12月、コペンハーゲンでの録音。E:ピーター・ヴィルモース。」

DH6−2

フランツ・パウル・リグラー/ソナタ イ長調、ニ長調、変イ長調

Cemb:マリカ・ドビアソヴァ

チェコスロバキア OPUS 9111 1695

「1985年3月、ミルバッハ宮殿での録音。世界初録音だそうである。リグラー(1736〜96)はウィーン生まれのピアニスト、教師、理論家、作曲家、生涯の大半をスロバキア地方で過ごし、彼の著したテキストブックはブラスチラバやブタペストで出版された。作品もどこかスロバキアの色がある。ピアノ、チェンバロ、オルガンのための作品が中心。ここではチェンバロのための6つのソナタから1,2,5番を演奏する。ドブラソヴァはスロバキア初のチェンバロ奏者。OPUSもスロバキアのレーベルである。ギンギンに切れ込むチェンバロではなく、明るい音色だがマイルドで聴きやすく、曲も親しみやすい、肩の凝らないもので、チェコのモーッアルトといった感じ。通人向きのBGMしいった感じ。」

   
DH6−3

サイレンス/チャーリー・ヘイデン、チェット・ベイカー、エンリコ・ピエラナンジ、ビリー・ヒギンズ

イタリア SOUL NOTE 121 172−1

「1987年11月、ローマ、CMCスタジオでの録音。イタリアで頑張っているのがジャズ専門レーベルのSOUL NOTEとBLACK SAINT。CDもカセットも出しているが、LPもしっかり作り続けている。同じレコード会社なのでジャケットも内容もそっくり。トランペット、ピアノ、ベース、ドラムスのカルテット。チェット・ベイカーがトランペットとボーカルを担当している。『ヴィザ』『サイレンス』『エチ』『マイ・ファニー・バレンタイン』『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』『コンセプション』の6曲。マルチモノだが、リアルで明快。力強く厚みがあるが歪み感はなく、いわゆるジャズ録音のイメージから外れた優秀録音。チェット・ベイカーのトランペット、ボーカルとも、センター奥にごく自然な感じで定位する。」


   
       
AVフロント 1989年9月号 DISC HOBBY 7    
DH7−1

ベース・ドラム・ボーン

イタリア SOUL NOTE 121187−1

「1987年11月2〜3日、ミラノのバリゴッチスタジオでの録音。SOUL NOTEとBLACK SAINTは基本的に同一レーベル。ジャズオンリーで新録音を次々とLP化、ジャケットが豪華で録音優秀、アメリカ盤に大きく差を付ける。メンバーはウツド・ベース、゛ラムス、トロンボーンの三人で、これをつないでトリオ名としたもの。『ウーファーロ』『サンバリ』『アリゲーター・クロコダイル』『アロッカ』など全8曲。ジャケットには解説無し、ドゥー・ラングという人のベース・ドラム・ボーンを讃える詩が載っているだけ。いわゆるモダン・ジャズだが、録音は素晴らしい。トロンボーンが厚く力強く、ズバリと切れ込んで絶品、シンバルの音像も小さく、ベースもナチュラル。デッドなりに音場感もいい。」


   
        
AVフロント 1989年11月号 DISC HOBBY 9   
DH9−1

ジョー・ロヴァーノ・クインテット/ビレッジ・リズム

T&S−Sax:J・ロヴァーノ、Tp:トム・ハレル、Pf:ケニー・ウェマー、

Bs:マーク・ジョンソン、Ds:ポール・モチアン

イタリア SOUL NOTE 1211821−1

「ニューヨークのサウンド・アイデア・スタジオでの録音。全10曲のうち9曲はロヴァーノの作品。父トニー・ロヴァーノ、通称ビッグTもサックス奏者。ジョーの最初のレコーディングは1985年11月というから、未だ若手か、マイルドで、エレガントでオーソドックスなジャズで録音がいい。B面二曲目は”T was to me(Tは私にとって)”はビッグTを讃えるロン・スミスの詩からの発想。静かなパーカッションをバックにサックスが優しく歌う。メロディーはジャズだが、感覚的にクラシックだ。ワンポイント(マイク録音)のような、ちいさな音像、自然な音場、実に綺麗なサウンドである。」


   
       
AVフロント 1990年4月号 DISC HOBBY 14    
DH14−1

クルト・ワイル/三文オペラ組曲、ヴァーレーズ/オクタンドル、ボウルズ/笑劇のための音楽、マルティヌー/料理場のレビュー

シカゴ・プロ・ムジカ

CD:米 REFERENCE RECORDING 29CD

LP:米 REFERENCE RECORDING RR29

「1988年6月、シカゴ、メディナ寺院での録音。ソニーPCM−701ES使用。REFERENCE RECORDINGはキース・O・ジョンソン教授の指導で音質優先のディスクを作っているレーベル。シカゴ・プロ・ムジカは1979年にシカゴ交響楽団のメンバーによって結成されたアンサンブルで、一人ひとりがヴィルトーゾであり、アンサンブルも一点の乱れもないという見事さで定評がある。管が中心で、弦とピアノと打楽器が加わる。ワイルは17人、ボウルズは4人で演奏し編成は違うが、いずれも目の覚めるようなテクニックの冴えと超リアル・サウンドで聴かせる。優秀録音盤として推奨できる。」

*注「この記事はCDとして紹介。REFERENCE RECORDINGは或る時期(1990年代?)までCDと並行して”A PROF JOHNSON PURE ANALOGUE RECORDING”のアナログマスターでLPを出していた。この録音もLPが出ていた。」


   
       
AVフロント 1990年5月号 DISC HOBBY 15    
DH 15−1

ディック・ハイマン ファッツ・ウォーラーを弾く

CD 米 REFERENCE RECORDING RR33DCD

LP 米 REFERENCE RECORDING RR33

「史上初のダイレクトCD。これが可能となったのは音源として自動ピアノを使ったからである。ファッツ・ウォーラー(1904〜43)の残した数百曲の作品群(中には1曲数ドルで安売り、それが他人の名前でヒットしたりした)の中から15曲をハイマンが1988年、ニューヨークでベーゼンドルファーの自動ピアノで演奏。メカの動作をDATに記録するタイプである。このテープを1989年9月13日、サンタナのスタジオで同タイプのピアノを使って再生、ピアノのふたを開いた状態、ピアニストの頭に相当する位置にコールズのリボンマイクを2本セットして、レキシコンのリバーブユニットでエコーを付加。リアルタイムでAD変換して、20キロ離れたアナハイムのカッティング工場までマイクロウェーブで送る。この方式だと演奏時間も信号のピークも事前チェックできるので、CDとしてメニューも入れられるしオーバーレベルの心配もない。しかもマイクが拾うのは、一応、生のピアノの音だ。実際のカッティングには予想外の困難があった。途中に高いビルがあって直線で送信することが出来ず、ウィルソン山を中継して、100キロも遠回りして送信。AD変換に最初1630を使ったら音質劣化がひどく、結局701ESを使用、フォーマットが違うので、ハルモニアムンディのコンバーターを使用した、などなど。2万5千枚の限定盤で1枚ずつナンバー入り。筆者のは2115である。マイクロウェーブに変換しているので、ダイレクトCDではなく、リアルタイムCDと呼ぶべきかもしれないが、努力は買える。『ハニーサックル・ローズ』をはじめ、リラックスして聴ける古き良き時代のジャズピアノ。録音は優秀、レキシコンによるエコーも違和感がない。ややハイ落ちで、多少丸めこまれた感じもあるが、厚く豊かで、力強く優しく、アブラの乗った、おいしいサウンドは格別。生の持つ実在感を十分に感じさせてくれる。CD臭のないCDだ。」


*注「P:J.Tamblyn Henderson,Jr、E:Keith O.Johnson。記事はCDについて書かれてあるが、同時にアナログマスターでDMMのLPを出していた。LPもピアノの録音としては優秀である。自動ピアノの演奏なのでニュアンス不足の感は否めないが、予め指摘しておかないとこのことには気づけないほど自然である。」

       
AVフロント 1991年 9月号 DISC HOBBY 31    
DH31−1

ティオルバのドイツ人:カプスベルガー リュート作品集

独奏:ポール・オデット

仏 ハルモニア・ムンディ HMU 907020 (CD)

仏 ハルモニア・ムンディ HMU 7020 (LP)

「1989年11月、アメリカミシガン州、マンチェスターのベセル・ユナイテッド教会での録音。カプスベルガー(1575〜1661)はドイツに生まれ、イタリアで活躍したリュート、テオルボ、キタローネ(大型のリュート)の名手で、表記のニックネームで呼ばれた。名手オデットはハンス・フライのリュートとウェンデリオ・ヴェネレのキタローネ(ともに1984年のコピー)を使用、リュート12曲、キタローネ13曲を演奏。曲によって頭の無音部分にブーンという小さなハムが入る。指の動きを想像させるピチ、パチという演奏ノイズを明確にキャッチ、あたたかみのある豊かで美しい音、音像はやや膨らむが、リュートとキタローネのサイズの差は明らかに出る。余韻もホールエコーも美しいが、部屋の広さは分からない。」


*注「記事はCDでの評価。CDはDDDだからデジタル録音。別に仏ポリグラムの良質なプレスでLPがでているが、デジタル録音の表示はなく、こちらはアナログ録音のようだ。1時間近い収録時間でLPにしてはカッティングが苦しいが、この記事そのままのハルモニア・ムンディらしい鮮明な録音である。P:Robina G Young E:Peter McGrath 」

        
AVフロント 1992年1月号 DISC HOBBY 35    
DH35−1

アイリーン・ファレル トーチ・ソングを歌う

S:アイリーン・ファレル、Pfと編曲:ルーニス・マグロホン、Tp:ジョー・ワイルダー、Ds:ビル・ストウ、Cb:テリー・ピープル、G:グレッグ・ハイスロプ、Fl&Sax:フィル・トンプソン、Vib:ジム・スタック

米 REFERENCE RECORDING RR34

「1989年7月19〜24日、ノースカロライナ、シャーロットのリフレクション・スタジオでの録音、ハーフスピードマスタリング。トーチ・ソングはブルースに対する白人女性の回答だそうだが、ハロルド・アーレン、セロニアス・モンク、ホーギー・カーマイケル、コール・ポーター、ビリー・ホリディーらの作品計12曲。同じファレルの歌うRR32のCDはDDDだが、こちらはアナログ録音かもしれない。スペアナで見るとハイエンドがレベルは低いが伸びきっている。CDではこうはならない。音は実に透明で美しい、低域は深々として厚みと力があり、高域はシンバルが優しく爽やか、中域はボーカルの美しさが驚異的。久しぶりに紹介するLPだが、CDとはひと味違ったものが十分に感じられた。」


*注「ジャケットの表書きに”A PROF JOHNSON PURE ANALOGUE RECORDING”と表記されている。長岡氏はこれを見落とされていたようだ。P:J.Tamblyn Henderson,Jr、E:Keith O.Johnson。バックはジャズのセプテットの演奏で、この音も素晴らしい、殊にスペシャル・ゲストのジョー・ワイルダーのトランペットとフリューゲルホーンが実に深々として瑞々しく厚みと浸透力がある。こういう音はCDでは再現できないだろう。アイリーン・ファレルは元々はクラシックのソプラノ歌手。なんと歴史的名演として名高い、ミトロプーロス指揮ベルクの歌劇『ヴォツェック』の世界初録音で準主役マリーを歌っていたのだ。なおファレルはREFERENCE RECORDINGに他にRR−30.32.36と3組のアルバムをPURE ANALOGUEのLPで出しており、これらも音質が期待できそう。」

     
AVフロント 1992年4月号 DISC HOBBY 38
  
DH38−1

メシアン/トゥーランガリラ交響曲

ピアノ:イヴォンヌ・ロリオ、オンド・マルトノ:ジャンヌ・ロリオ
チョン・ミュンフン指揮 パリ・バスティーユ管弦楽団

グラモフォン POCG1493(国内盤CD)

「1990年10月、パリ・バスティーユ・オペラ、グノー・ホールでの録音。大編成、複雑繊細微妙な音楽なので録音は至難。この録音は、どのように行われたのか分からないが、見事である。パワフル、ダイナミック、ハイスピード。情報量は圧倒的に多く、高分解能、低歪み率。透明度が高く、キレの鋭さとしまりの良さは比類がない。グランカッサのエネルギー、シンバルの切れの良いハイスピードサウンドも驚異的。ややハイ上がりだが、音像は小さく、音場は広く、非の打ち所のない録音。と言いたいところだが、この録音は指揮台で聴く音であり、緊張度が高くリラックスしては聴けない。広い部屋で大音量再生して(スピーカーから)10メートル以上離れて聴くとベストだろう。」

*注「収録時間: 78:32 。メシアン:Olivier Messiaen (1908 - 1992)は、言うまでもなく高名なフランスの作曲家。この録音当時は存命でCDのジャケットも、ミュンフンとのツーショット。」

     
 

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