祝新春コラボレート企画

幻の長岡鉄男「外盤A級セレクション」続編 第4.5.巻
2005年1月1日開始

PAGE−2
PAGE−1はこちら
PAGE−3こちら
PAGE−4はこちら
FMfan別冊1981年.夏号 No.30       
30−1

ヘンリー八世とラ・ムジカ・スペクラティヴァ

フランス・ブリュッヘンとサワークリーム

独RCA RL30438

「ヘンリー八世の素朴な小曲(29〜105秒)八曲と、同時代の進歩派の八曲を交互に演奏する。サワークリームはブリュッヘンの主宰する新トリオ。八種類の古楽器を持ち替えて演奏する。ヘンリー八世の曲は始めか終わりに小鳥の声を入れ、またスペクラティヴァの曲に対して20〜30dB低めにカッティングするという凝りようだが、くだらんとしかいいようがない。全体としては録音は優れており、特にB面三曲目のクルムホルン(オーボエの先祖で、ぐんと野性的な荒々しい音)、四曲目のカケスかなんかのギャーギャーという声が出色。」


*注「1979年1月、オランダ、ハールレムでの録音。製作SEON.プロデューサー:V・エリックソン。サワークリーム、第1回の録音、このグループの、その後の活動は不明。」

30−2

カール・オルフ/カルミナ・ブラーナ

ロバート・ショウ指揮アトランタ交響楽団.合唱団

米TELARC DG1056/57 2枚組

「1980年11月16−8日、アトランタ・メモリアル・アーツ・センターのシンフォニーホールでショップス無指向性マイクと指向性マイクを使っての録音。マイクの数やセッティングは不明、ワンポイントでないことは確かでマルチに近い方式だと思う。目立つのはソロとグランカッサとシンバル。ホールトーンはよく入っているのに、奥行き感はやや不足。一枚目A面トップなど、すべてのパートがかぶりつきにドッと押し寄せた感じの鳴り方になる。A面は歪みっぽい感じもあるが、B面後半から歪みっぽさが減って綺麗に鳴り出す。迫力はまさしくTELARCだ。」


*注「”レコード漫談”46頁、参照。」

30−3

ラベル/バイオリン・ソナタ「遺作」.サティ「右と左に見えるもの」.ミヨー/「春」.ストラビンスキー/協奏二重奏曲.プロコフィエフ/無伴奏バイオリン・ソナタ 作品115

Vn:ギドン・クレーメル.Pf:エレナ・クレーメル

蘭フィリップス 9500 912

「近代から現代の小曲とソナタ。初めて聴く曲が多いが、いずれも小粋な感じでなかなか面白い。録音も極めて自然な感じで、ややオフマイク、ワンポイント的。ピアノはやや右より、バイオリンはやや左寄りに定位するが、楽器の大きさ、小ささがよくわかり、左右、前後、上下の位置関係もよくわかる。刺激的でなく、ぼけたところもなく、豊麗で、底力のある、リアルでソリッドでリッチなサウンド。余韻も綺麗だ。サティの”右と左に見えるもの”という曲で、Vnのピアニッシモがワウって聴こえるところがあるが、これは自然なレベル変動であろう。優秀録音盤である。」


*注「1980年5月24−6日.スイス・ラ・ショード・フォン音楽劇場での録音。なぜかオランダ盤にはデーターが記載されていない。国内版輸入メタル原盤プレスは日本フィリップス27PC−50。エレナ・クレーメルは当時のギドン・クレーメルの奥さんで現バレンボイム夫人。デュプレの生前から交際があったという微妙な関係。」

30−4

R・シュトラウス/「薔薇の騎士」映画音楽

マンフレット・ライヒャルト指揮バーデン・バーデン・アンサンブル13

独ハルモニア・ムンディ 65−99904/905

「楽劇”薔薇の騎士”は1911年1月、ドレスデンで初演されたが、15年後の1926年1月、同じ場所で、ロベルト・ウィーネ監督の(無声)映画(版)”薔薇の騎士”上映された。その時の伴奏音楽がこれである。指揮者を含めて13人の小編成だが、非常に緻密な構成になっている。レコードナンバー、904が第1部、905が第2部、独立して買える。情景に合わせて69に分けられているが切れ目なしに演奏される。音は繊細にシャープに切れ込んでツヤがあり、決して鋭くなく、歪み感極小、マルチマイクにありがちなハーモニーの欠如感がなく”連帯”そのもの、音像、音場はワンポイント的にナチュラル。優秀録音盤」


*注「製作1980年、独ハルモニア・ムンディと南西ドイツ放送協会との共同製作。南西ドイツ放送局、ハンス・ロスバウト・スタジオでの録音。因みに、ハンス・ロスバウト(1895〜1962)のドイツの名指揮者、現代音楽に定評があり、南西ドイツ放送交響楽団の常任を務めていた。その功績による命名である。長岡氏は失念されているが、実際には、このレコードは3枚目の第3部(独ハルモニア・ムンディ065−99 906)もあった。ただ第3部は製作1981年となっており、この1.2部より遅れて録音されたようだ。この演奏、最近、CD復刻されたが、後半部分のマスターテープが紛失したのでレコードからの板起こしになった。そういう意味でもオリジナルLPは貴重。”連帯”とあるが、当時のポーランドの政情にあわせた長岡氏のジョーク。数年前、この演奏団体が来日し、紀尾井ホールで、この無声映画版”薔薇の騎士”を上映し実際に映画の伴奏して話題となった。無声映画版には原典のオペラと多少筋が異なり、なんと浮気中のマルシャリンの夫、ヴュルテンブルグ元帥が登場するのだ。」




30−5

ワーグナー/楽劇「パルシファル」

カラヤン指揮ベルリンフィル

独グラモフォン 2741 002 5枚組み

「カラヤンのデジタルと聞いただけで、逃げ出したくなる感じだったが、意外とまともな録音で安心した。スペアナの形も悪くない。3kHzからハイエンドにかけて下降しているので、あまりいじくっていない証拠。ローエンドはやや不足だが、バッサリではないので聴感上のレンジはなかなか広い。繊細感もエネルギー感もあり、情報量も多い方。ちょっぴりホコリっぽくて、ツヤも不足(音がさびて、くもっている)なのが不満だが、トータルではいい方。音像は小さくまとまっているが、音場はもうひとつ。」


*注「長岡氏にとってメジャーレーベルの象徴、帝王カラヤンは悪の権化だったようで、評価も手厳しい事が多い。多少の難点はあるものの名曲、名演奏を考えると推薦モノ。個人的には”パルシファル”の歴史的名演、クナッパーッブツシュ、1961年バイロイト・ライブ(蘭フィリップス)が録音も優れていると思う。」

30−6

ムソルグスキー/ラベル編曲.「展覧会の絵」.ラベル/クープランの墓

ゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ交響楽団 

独デッカ 6.42645

「毎度おなじみの展覧会の絵で飽き飽きというところだが、録音はなかなかいい。デジタルの特徴を発揮してfレンジ、Dレンジとも特に広い。解像力も高い。ローエンドがよく伸びていながら締まりがよく、全体に厚みと力感のあるサウンド。デジタルにしては弦楽器がさらさらと美しく鳴るのは立派、パーカッションの切れはもちろんみごと。ただ金管とシンバルは少しヒステリックなところもある。総じて真鍮物がうるさいという感じ。色彩感豊かな演奏で、音場も広く、ぐんと前に張り出してくる。ホールの響きもわりと出ている。」


*注「この号で同時に、同じデジタルマスターのイギリス・プレス(英ロンドン LDR10040)の同じ演奏を”独盤と、音はずいぶん違う。(シャープなフィルターを通して低域カットを示している事をスペアナで示して)明らかに低音不足、出ている低音も締まりがなく、透明度も落ちている”と批判。独デッカ盤のみ高評価ということか。」
30−7

ケルン・フィルハルモニッシュ・チェリステン/ヴァーゲンザイル、オッフェンバック、バラキレフ、ヒナステラ、ミヨーの作品

指揮とVc:ウェルナー・トーマス 

独EMI 063146 134

「指揮のウェルナー・トーマスを含めて七人のチェリストによる演奏。以前、十二人のチェリストというのがあったが、それとは別。六台のチェロ.五台のチェロ、二台のチェロとコントラバスなど、計十一曲。音は鮮度、透明度が高く、力強く切れ込んで、弦の一本一本が聴き分けできるような高分解能の録音である。歪み感もほとんどない。低域の締まりも良い。定位も明確で、センターも充実している。床の共振もほとんど入っていない。ただ、どっかと腰を据えたチェロではなく、宙に浮いたチェロで、やや雰囲気不足。音場も左右はよいが、上下と奥行きがもうひとつ。」

*注「”続々レコード漫談”94頁、参照。このレコードはケルン・フィルハルモニッシュ・チェリステンの第2集、当然、アナログ録音の第1集もあったはず。私の知る限りでは第4集までレコードが出ていたようだ。但し4集はデジタル。」

30−8

ブランデンブルク・ブギ

Vn:S・グラッペリ.Fl:E・デュラン.Key:L・ホロウェイ.Ds:A・ギャンリー.Cb:A・ゥォリー

独EMI 06764112

「1980年4月6.7日のデジタル録音。バッハのポピュラー・メロディーをアレンジして気楽に聴かせる。デジタル臭さはなく、綺麗な音。個々の楽器は明るく輝かしく厚みと力強さがあり、定位も良いが楽器だけがあって、奏者が見えないという録音だ。やや大味で、繊細感がもう一息、雰囲気も不足、無響室的な録音。バイオリンの音色は独特で、シンセのバイオリンみたい。ドラムスもリズムボックス的だ。テクノに挑戦するアコースティック・サウンド?」

*注「”続レコード漫談”61頁、参照。この頃は坂本龍一のYMOがテクノブームを呼んでいた。」

   
30−9

シューベルト/アルペジョーネ・ソナタ.弦楽三重奏曲 D581.471

レ・ミュジシャンズ:Vc:ローラン・ピドゥー,Vn:レジェ・パスキエ,Va:ブルーノ・パスキエ,P:J−C・ペネティエ  

仏ハルモニア・ムンディ HM1035

「これも仏HM調サウンド、HMサウンドも毎日聴いていたら、あるいはうんざりして、もっとさっぱりした音が欲しくなるかもしれない。あまりにも美しすぎるのだ。この艶と輝きは、独HMにはない。弦楽三重奏は繊細でシャープだが、ヒステリックなところが全くなく、厚みと力強さがあり、余韻が引き込まれるような美しさを持っている。こういうのを聴くと、(メジャーレーベルの)CBSやRCAやDGは聴けない。アルペジョーネのチェロも美しく力強いピアノだが、しかも繊細で、余韻が美しいのである。優秀録音盤。」

*注「1980年2月の録音。エンジニアはJean-Francois Pontefract。仏HMの優秀録音盤は彼かAlbert Paulinによるものが多い。ジャケット画はC.D.フリードリッヒ。 シューベルトのレコードは何故か、この画がよく使用される。レ・ミュジシャンズは新パスキエ三重奏団が母胎になって1970年代に出来た室内合奏団。バイオリンのレジス・パスキエとビオラのブルーノ・パスキエは兄弟。父親は著名なビオラ奏者ピエール・パスキエ、やはり兄弟でパスキエ三重奏団を結成していた。ブルーノ・パスキエは、これ以前にもカリオペ・レーベルでドビッシー弦楽四重奏団を組んでいて室内楽を録音していた。」

30−10

グロウイング・アップ・イン・ハリウッド

vo:アマンダ・マクブルーム.L・マイヨーガ指揮オーケストラ

米シェフィールド LAB13

「ダイレクトメカッティング。これまでのシェフィールドとちょっと音が違うような気がした。どう違うかと聞かれても明快には答えられないが、より厚く、よりシャープで、しかも全体としてはよりマイルドになったという感じ。マイクからカッティングレースまでの距離が短縮されたのではなかろうか。音はボーカル、ベース、ギター、ハーモニカ、いずれもリアルでナチュラル、定位も極めて明快。ただ音像はスピーカーと相似形で出てくる。定位も左右一直線で上下が出にくい。とはいっても、現時点では優秀録音であることは間違いない。」


*注「1980年3月25−7日.MGM−シェフィールド・ラボ・スタジオでの録音。マクブルームがハリウッド映画に関わる歌曲を歌う内容。私の手持ちは1枚なのに箱入りの豪華版?!、箱なしの普通版もある。」
30−11

聖イヴァン祭のおつとめ

独アルヒーフ 2533 457

「以前紹介した”アトス山の復活祭”を第一作とするシリーズ三作目である。1979年10月19.19日、ブルガリアのリラ山中にある聖イヴァン・リルスキー修道院でのミサの実況録音。聖イヴァンは876年にスクリノ村で生まれたブルガリアでは最もポピュラーな聖人だそうだ。ミサの生録はオフのワンポイント録音が原則。このレコードも音源は全てオフで、分解能の低い装置でボリュームを絞って聴いたら全くのおだんごだと思う。高分解能の装置でボリュームを上げて聴くと、いくらでも情報が取り出せるという感じで、Dレンジも極めて大きく、音像はリアル、音場は広大である。500Hzのレベルは今回の最高を記録している。」


*注「”続・レコード漫談”36頁、参照。表題は”おつとめ”というより勤行とすべきか。」

   
30−12

トレルリ.タルティーニ.アルビノーニ/バロック・トランペット協奏曲集

Tp:ジャン=リュク・ダッセ.A・エフリキアン指揮イ・フィルハーモニケ・ディ・ボローニャ

仏ハルモニア・ムンディ HM1049

「オケは12人の弦楽器とクラブサンで管楽器、打楽器はない。仏HM独特のツヤと輝きがこたえられない。SN比がよく、歪みが少なく、透明で厚みがある。トランペットは小さくピタリと定位するという感じではなく、小さい点から四方に拡大していくような形で、定位としては甘いが、むしろナチュラルである。バックのオケは実によくハモって美しい。余韻も見事だ。オケが一つの楽器のように渾然一体と鳴っているのだが、耳を澄ませば一台ずつ、あるいは弦の一本ずつが聴き分けられそうな鳴り方。トランペットオケの関係も演奏会で聴くようなバランスでよく溶けあっている。優秀録音盤」


*注「1980年3月、<<Sala del Vasary>>de San Michel in Boscoでの録音。エンジニアはJean-Francois Pontefract。仏HMの優秀録音盤は彼かAlbert Paulinによるものが多い。外セレ第三巻236のドビッシーと同じく”シャトラン谷からの初演”がサブレーベル。独奏のダッセは当時の有望新人、現在の活動は不明。」
30−13

ロワイエ/クラブサン小品集

Cemb:ウィリー・クリスティー

仏ハルモニア・ムンディ HM1057

「ロワイエは1705年ごろ生まれで、1755年に死んだフランスの作曲家。忘れられていた音楽家の一人で、レコードもほとんど出ていないはず。曲はわりとわかりやすく、なじみやすいもので、バッハにボディービルをやらせたような感じ。録音はめざましいものでびっくりする。レンジは広大、ハイエンドは伸びきっているが、透明で繊細でエネルギッシュで切れ込み鋭く、余韻もきれいで情報量大、しかも歪みっぽさゼロ。中低域は厚みと重量感に圧倒される。これがハープシコード?という感じもないではないが、優秀録音盤であることは間違いない。曲間に一瞬、小鳥の声が入るからスタジオ録音ではないはず。」

*注「1979年10月に録音。場所不明。エンジニアはJean-Francois Pontefract。ウィリー・クリスティーは推理作家のアガサ・クリスティーの縁戚という噂があったがガセネタのよう。」
30−14

モーッアルト交響曲全集 Vol.3:ザルツブルク・シンフォニー

J・シュレダー、C・ホグウッド指揮古楽アカデミー

英オワゾリール D169D3 3枚組み.箱入り

「1772年から73年にかけて、ザルツブルグ時代に作曲した(交響曲)18〜27番(うち25番を除く)「ルチオ・シルラ」と「シピネオの歌」の付帯音楽(を収録)。演奏は全て、その時代の楽器または復元モデルを使用、編成も第1バイオリン9,第2バイオリン8、ビオラ4、チェロ3、ダブルベース2、フルート、オーボエ、トランペット2、バスーン3、ホルン4と、当時のまま。音はやや細身だが、繊細に切れ込んで透明度が高く、歪み感極小、目の醒めるような、という表現ではなく、目が洗われるようなといった感じのクールでクリーンでサラサラと流れるような超微粒子サウンド。曲もなかなかいい、すっかり見直した。」

*注「外セレ第1巻.30.31.で同じモーッアルト交響曲全集 Vol.5.6を紹介。Vol.7まであり6のみがデジタル録音。」

30−15

パバロッティ/ヴェリスモ・アリア

T:ルチアーノ・パバロッティ.O・ディ・ファブリティス指揮ナショナルフィル

英ロンドン LDR10020

「デジタルで、このゾッとするようなジャケットときては聴く気がしなくて封を切らずにいた。今回ちらりと聴いてみたら、デジタルらしくないナチュラルサウンドである。デジタルは弦とボーカルがダメかと思っていたら、これが滑らかで綺麗なのである。むしろ薄味の感すらある。もう少し図太く、分厚くても良かったのではないか、オケもバランスが良く、細かい音がよく出て、情報量も多い方、それでいて鋭く突き刺さる感じはない。残響もたっぷり入っているが、ちょっと不自然だ。音像はスピーカーと相似形、横一直線にきれいに並ぶが、上下は全く出ない。」


*注「1979年6月、ロンドンのウォルサムストゥ・ホールでのデジタル録音。ジャケットは御覧の通りのもの。ノンサッチの毒々しい色彩感に美を見いだす長岡氏の好みに合うような気がするのだが..解説によると、この肖像画はG・グレーベによるもので、パバロッティのお気に入りだそうだ。実力の割には録音の少なかった名指揮者ディ・ファブリティスの晩年の貴重な記録でもある。歌劇”アンドレア・シェニェ”だけはシャイーの指揮だが、全曲盤からの抜粋のよう。国内版輸入メタル原盤プレスはキング K28C−100。」

30−16

クレランボー/カンタータ「オルフェオ」「メデ」

S:ラケル・ヤカール.Vn:ゲーベル.Va:メドラム.Cemb:カーティス

独アルヒーフ 2533 442

「カンタータといっても器楽伴奏のソプラノのソロで、音楽の内容については筆者もよく知らないが、録音の良さで買えるレコード。鮮度、透明度の高いハイファイ録音。仏HMのような悪女の深情け的なところはなく、ドイツ的なハイファイである。ヤカールの声が透明で美しく、Dレンジが広く、どこまでも伸びて、しかも決して割れず、ヒステリックにもならない。ホールエコーも綺麗に入っている。ハープシコードは少し出しゃばる感じもあるが、フルートはボーカルに負けずナチュラルで鮮明。音像もわりと自然に浮かび上がるし音場も広い。テストにも使える優秀録音盤だ。」


*注「ルイ=ニコラ・クレランボー(1676年-1749年).バロック期のフランス作曲家.オルガニスト。」
30−17

パーセル/歌劇「デイドとエアネス」

S:ダナ・フォルテュナト.J・コーヘン指揮ボストン・カメラータ

仏ハルモニア・ムンディ HM10.067

「歌手は9人、オケは10人の小編成の演奏である。こぢんまりとした小粋な演奏で、録音もそれにふさわしく、透明で繊細、部分的に歪みっぽくなるところもあるが、全体としては艶のある美しい音だ。あまりパワフルな感じはなく、節度を保った、貴族的な品の良い演奏とサウンド、音像は小さく引き締まっていて定位は確かだが、上下がちょっと出にくい。歌手の顔だけ見えて、体が見えない感じがある。終幕の頭の部分の拍子木が面白い。全体に、超低域の訳のわからぬ音が頻繁に入る。特にA面の終わり近くにブワッと凄い超低音が入る。」

*注「”レコード漫談”22頁、参照。長岡氏の記事には、音場の高さや音像の上下が出る出ないの言及が多い。音場空間の再生能力の高いカートリッジ、ビクターMC−1やMC−L10を当時使用していたからである。1984年から更に進歩したMCL−1000を使用するようになり、この辺の評価が鮮明になってくる。これらのカートリッジの長岡氏の評は此処を参考に。
http://homepage2.nifty.com/2001odakun0801/subdtestCARTIDGE.html
丸針のDL103では、こうした三次元的な音像再生は無理かと思っていたが、DCプリが完全対称化され、音像の高さ上下が、かなり明確に再現されるようになった。」


   
30−18
ノンサッチの新電子音楽ガイド

バーナード・クラウス

米ノンサッチ NB178007

「ノンサッチは音楽史、現代音楽、民族音楽の三本立てで、変わったレコードをせっせと出している。既に1968年に電子音楽ガイドを出しており、従って今回は新電子音楽ガイドとなった。八頁の解説付き、別にダブルのジャケットの内側二頁も解説になっており、電子音楽、シンセサイザーの音作りのテクニックが大体わかるという仕組み。用語辞典を始め、電子音楽関係の本、雑誌、シンセサイザーのメーカー、作曲家(富田勲やタンジェリン・ドリームも入っている)のリストと、なんでも入っている。”青少年のための管弦楽入門”風で、曲としても面白く、勉強になる。音は強烈、鮮烈。現代音楽、テクノポップファン必聴盤。」

*注「”レコード漫談”185頁、参照。」
       
FMfan別冊1981年.秋号.No.31
   
「今回、記事の冒頭に、持病の喘息が悪化して1ヶ月間入院したことと、それで休載予定だったが、鬼の編集マンになだめすかされ記事を書いた旨が報告されている。更に、デジタル(録音)は、聴いているうちに脈拍が上がりぶっ倒れそうになった、生理的に(デジタル録音は)悪影響があるのではないか、この問題を研究してみたいと書かれてある。その結論が後に長岡氏が報告されたかは不明。御多忙ぶりが偲ばれる。CDが、この世に登場する1年前のことである。」   
31−1

ベートーベン交響曲第5番「運命」/エグモント序曲

小沢征爾指揮ボストン交響楽団 

米テラークDG−10060

「”皇帝”はピアノの収録に苦労したようだが、こちらはオケだけなので、マイク・セッティングは楽だったのではないか。極めてナチュラルで、まとまりのよいオフマイク録音になっている。ホールの違いも大きいと想うが、(外セレ.1巻46)チャイコフスキーの四番あたりとは音色がまるで違う。レンジは狭いがバランスはよく、ソフト&メロウでエレガントなサウンド。特定の楽器が飛び出してくることがなく渾然一体となって、よくハモっており、ホールエコーもたっぷりと入っている。しかも耳を澄ませば細部をちゃんと聴き分けられる録音だ。」

*注「前回30号で、同じテラーク盤DG10065、名ピアニスト、R・ゼルキンの”皇帝”小沢ボストン伴奏、を”ピアノの響きはよいがオケの響きは不足”と批判していた。1981年8月24、26日、ボストン・シンフォニーホールでのデジタル録音。”皇帝”と同じ日の録音である。」
31−2

シマノフスキー/交響曲第3番「夜の歌」.交響曲第2番

T;カルチコフスキー.アンタル・ドラティ指揮デトロイト交響楽団 

英デッカ SXDL7524

「1980年6月、ユナイテッド・アーチスツ・オーディオトリアムでのデジタル録音。シマノフスキーは、1937年に死んだポーランドの作曲家。交響曲のレコードは他に出ているかどうか知らないが、筆者としては初めて、聴くのも初めて、ソロとコーラスの入った第三番が面白い。音質はヴォツェックよりやや落ちるが、水準以上。やはりfレンジ、Dレンジとも広く、情報量大。低音に独特の重量感があり、重戦車軍団の進撃を遠くに聴くといった静かな迫力がある。高域も繊細にシャープに切れ込んで、見事なものだと思っていると、時々メタリックにヒステリックになったりして、トータルでは、重厚壮大で少しやせぎすという二面性を持った録音になっている。」


*注「1980年代にはいるとデッカはポリグラムに買収され、その傘下に入った。デッカのレーベルも黒地から青地に赤帯と変わり大半がオランダプレスになった。ドラティは、この頃、デトロイト響と春の祭典をデジタル録音をして話題を呼んでいた。」
 

31−3

プロコフィエフ/ピーターと狼.ハスラム/スペイン海老のホアニータ

ハスラム指揮ノーザン交響楽団

英crd CRD1032

「ピーターと狼はおなじみだが、”スペイン海老のホアニータ”というのも聴いたこともない。指揮者のハスラムが”ピーターと狼”の向こうを張って作った、音楽物語。そういう訳だが、レコードはなかなか面白い。”ピーターと狼”は楽器とキャラクターの紹介がなく、いきなりストーリーに入る。ちょっぴりハムが出るところがあるが、音はなかなか良く、特にナレーションが、オケと同時録音で、ごく自然な声。声のホールエコーも入っている。”海老...”の方はもう少しハムが入り、音もきつくなる。
 
   
31−4

ムスキー・コルサコフ/「金鶏」組曲.スペイン奇想曲.ロシアの復活祭序曲

ロリン・マゼール指揮クリーブランド管弦楽団  

英デッカ SXL6966

「デジタルのヴォツェックやシマノフスキーよりは一年ぐらい前のアナログ録音だが、やはりオランダ・プレス。斜陽の英国は何もかも乗っ取られていく感じだ。音はデジタルとも共通した明るく華やかに炸裂するタイプ。もっともそういう曲ばかりが集められている。レンジは広いし、バランスもよいが、聴感上はハイ上がりの感じ。しかし、トライアングルや高弦、ブラスは爽やかに突き抜けていく。ティンパニやグランカッサも切れがよく、締まりがよく、爽快な鳴り方。ロシアの復活祭が出来がよく、金鶏もよい。ローエンドがもうちょっと伸びると文句なしだが。」


*注「1979年10月、クリーブランドのメイソニック・オーディオトリアムの録音。”続々レコード漫談”247頁、参照。こちらの方はやや古いせいか、デッカ・マークは黒地の旧態である。黒デッカはイギリスプレスとオランダプレスの両方ありカッティングも異なるが、長岡氏はイギリス・プレスのみ聴かれていたようだ。レコード番号のSXLはアナログ録音、SXDLはデジタル録音。国内版輸入メタル原盤プレスは、ロンドンL25C8010。」
31−5

エリート・シンコペーション

指揮とPf:フイリップ・ガモン.ロイヤル・バレエ管弦楽団メンバー

英crd CRD1029

「コベント・ガーデンのロイヤル・オペラハウスでの公演のため、ケネス・マクミランが振り付けしたバレエ。ジョップリンの曲が八曲、他にポール・ブラット、ジェームス・スコットなど六人の曲が入って全十五曲。表題の「エリート・シンコペーション」はA面二曲目。ラグタイムで構成したバレエというわけだ。演奏はガモンを含めて十四人。弦が五人、管が六人、ピアノが一人、パーカッションが二人。ピアノ・ソロあり、ピアノ・トリオあり、オケありと趣向を変えて演奏。スローテンポのラグタイムだが、音は切れがよく、厚みと力があり透明度が高く、爽快である。曲も音も”寒い冬を追い払うために”よりはとっつきやすい。」

*注「録音はBob Auger。CRDの優秀録音の多くは彼の手によるもの。この号で同時に外セレ.1巻(3)”寒い冬を追い払うために”を優秀録音盤として推奨の太鼓判を押していた。」
   
31−6

ビバルディ/協奏曲集「四季」

Vn:ルフロシユ.アルトマン指揮レ・ソリスト・ド・フランス

仏カリオペ CAL1629

「最近のカリオペのジャケットはカラーになった。そのせいか、モノクロ時代に比べて音もぐんとカラフルになった。カリオペはワンポイント録音が特徴だが、これもそうだろうか。録音の場所ははっきりしないが、ジャケット裏の写真を見る限りは、ホールのステージらしく周囲に厚いカーテンを張りめぐらしてあるようだ。音はカリオペらしくないもので、中域のカッティングレベルが高く、華やかでダイナミック。各楽器は鮮明で繊細、かなりオンの感じで録れている。わりとデッドで、ホールエコーは少なめ、音像はリアルで定位はしっかりしており、ハープシコードはスピーカーの外側に定位する。”四季”の録音の中では優秀。」

31−7

ロシュバーグ/ピアノ五重奏曲

Pf:アラン・マークス.コンコード弦楽四重奏団

米ノンサッチ N78011

「(ノンサッチには)シルバーシリーズといって人並みの値段を取るシリーズがある。レーベルはシルバーだ。1980年の9月と10月、ニューヨークのラトガース・プレスビテリアン教会での録音。1918年生まれのジョージ・ロシュバーグという作家は、筆者には初耳で、演奏者の方もよく知らない。しかし聴いてこれは掘り出し物と思った。曲がなかなか面白い。現代曲といっても超現代ではないので安心して聴ける。録音は優秀。ピアノが厚みがあり、弦はごく自然で、いわゆる鮮烈、先鋭な切れ込みというのとは一味違った切れ方で、鮮度の高いオフマイク録音といった感じ。余韻もすごく綺麗だ。気がかりは盤の寿命だが、このシリーズはその辺も考えてあるのだろうか。」
 

   
31−8

マリウス・コンスタン/ストレス(M・ソラールと共作).プシュケ.3つのコンプレックス

Perc:シルヴィオ・グァルダ.アルス・ノヴァ金管五重奏団.Pf:カティア&マリエル・ラベック.ジャズ・ピアノ:マーシャル・ソラール

仏エラート STU 71238

「コンスタンの指揮で十三人の奏者が弦、管、打楽器、ピアノを演奏、ジャズ・ピアノも入る。打楽器はお馴染みのグァルダとドルーエ。A面の”ストレス”は全員参加だが、B面の”プシュケ”は二台のピアノと二人のパーカッション、”コンプレックス”はピアノとコントラバスだけ。この手のものには定評のあるエラートだけに安心して聴ける。今回はパーカッションより、管楽器とピアノがいい。トランペット、コルネット、トロンボーン、チューバ、みんな実体感があって薄っぺらにならないのがいい。優秀録音盤には違いないが、かつてのパーカッションT.Uが登場した時のような衝撃はない。」


*注「1979年12月、パリのノートルダム・リバン教会/クレイタル文化センターでの録音。エンジニアはピエール・ラヴォア。外セレ.1巻70”パーカッションvol.2”.をFMfan別冊.1979年冬.No.20で絶対推薦盤と紹介していた。コンスタンはフランスの作曲家で指揮者、ストレスはジャズとクラシックの融合音楽、レコードには楽器配置図あり。国内版はRVC.REL−8017.輸入メタル原盤プレスではないようだが音質は優秀。」
 
31−9

ザ・シェフィールド.ドラム・レコード

Ds:ジム・ケルトナー.ロン・タット

米シェフィールド LAB-14

「両面とも即興演奏のドラムソロで、A面は7分11秒、B面は6分23秒と短い。30p33回転シングル盤と思えばよい。従来のシェーフィールドは、演奏場所とカッターレースまで数百メートルの距離でつないでいたが、今回の録音はケーブルがずっと短いのではないだろうか。これまでとは次元の違う、立ち上がり、立ち下がりの鋭さと、厚み、重量感を持っており、ハイエンドも細身にならず、余韻の消え方が実に生々しくていい。音像も確か。演奏はつまらないが、録音バツグンなのを考慮して推奨盤。」


*注「”レコード漫談”104頁にも”恐ろしいほどの生々しさ”と最大級の賛辞がある。失敗の許されないダイレクト・カッティングとあって、演奏は安全運転という感じは否めない。」
 
31−10

タルティーニ/悪魔のトリル.他

Vn:セルジュ・ルカ.Vc:R・ボガディン.Cemb:J・リッチマン

米ノンサッチ H 71361

「悪魔のトリル”はレコードも多いが、これは初のオリジナル楽器によるオリジナル・スタイルの演奏ということだ。バイオリンは1669年のアマティ、チェロは”ヤコブ・ヴァイス、ザルツブルグ1737年”というラベルの付いたもの。ハープシコードは1740年ブランシュのコピーで、1977年ウィリアム・ダウド製という。”悪魔のトリル”もバイオリン、チェロ、ハープシコードという珍しい組み合わせの演奏になっている。トリオではなく飽くまでもバイオリン・ソナタである。カッティング・レベルが高く、透明度の高い、鮮烈でエネルギッシュなサウンド。演奏も悪くないが、音像定位はもう一息。チェロは伴奏に徹して少しぼけた感じもある。」

*注「”ディスク漫談”41頁、参照。”1978年2月の録音。」
 
31−11

J.H.ダングルベール/組曲 第1番ト長調、J.B.リュリ/クラブサン小品集

Cemb:ウィリアム・ニール・ロバーツ

米ノンサッチ H 71395

「A面はダングルベールの組曲、1977年製の1段鍵盤のハープシコード使用。B面はリュリの作品をダングルベールが写したもので、1979年製2段鍵盤のハープシコード。楽器のせいか、録音のせいか、独特の音色である。カッティングレベルは高く、繊細にシャープに切れ込んで、透明度も高い。音に力感があり、特に低域の厚みが印象的で、どっちかというとハープシコードらしからぬ音である。fレンジ、Dレンジとも広く、直接音は明快、余韻、残響も美しいが、バランス上、低音の量感がありすぎて、黙って聴かせたら”ギターとベースの音ですか”といった人がいたくらいである。」


*注「1980年6月、ロサンゼルス、救世主長老派教会での録音。演奏者のロバーツは教師、制作者としても活動。録音に使用された楽器は彼とブラジエルによって製作された物。ハープシコードのような鍵盤楽器は劣化が早く17世紀に製作された楽器は昔の音色を再現できないことが多い。オリジナルの音を復元する際は、楽器そのものをオリジナルに忠実に新たに組み立てて演奏されることが多い。」

31−12

ベルク/歌劇「ヴォツェック」

S:アニヤ・シリア.Br:エーベルハルト・ヴェヒター.クリストフ・フォン・ドホナニー指揮ウィーンフィル  ほか

英デッカ D231−D2   2枚組み箱入り

「”ヴォツェック”は現代オペラの傑作だが、レコードは少なく久し振りの録音だ。英デッカ、デジタルということで全く期待していなかったのだが、針をおろしてみて驚いた。これはスゴイ録音だ。演奏もいい。SN比がよく、fレンジ、Dレンジとも広い。トランジェントがものすごくよく、細かい音、弱い音が実によくキャッチされている。情報量が多く、ffでの音の伸びが素晴らしく、歪みっぽさは全くない。圧巻は三幕二場のマリーの殺しの場面で肌にアワを生じさせるといった趣がある。最後の子供達の遊びと対話の部分を含めて自然で、生の声そのままという感じだ。推奨盤」


*注「1979年12月.ウィーン・ゾフェインザールでのデジタル録音。”続レコード漫談”51頁、参照。長岡氏はブーレーズ盤より録音で高く評価していた。後に、カール・ベーム指揮ベルリン・ドイツ・オペラの歴史滝名演の復刻CDをステレオ誌連載のディスク漫談で録音を高く評価していた。このオリジナルLPも鮮明な録音である。国内版輸入メタル原盤プレスはロンドン L56C−1129/30。これに限らず歌劇の国内版は解説と対訳が詳細かつ綿密でありがたい。CDのオペラは、この点も軽薄短小のため簡略化してしまって読みづらい。アニア・シリアと指揮者のドホナニーは夫婦。彼らとウィーンフィルで、ベルクの”ルル”とシェーンベルクの”期待”もデッカに録音している。」

       
FMfan別冊1981年 冬号.No.32    *今回からカートリッジが、ビクターMC−1からMC−L10に変わったことが冒頭欄外に書かれてある 
32−1

ベルリオーズ/幻想交響曲

J.C.カサドッシュ指揮リール・フィル

仏ハルモニア・ムンディ HM10072

「(指揮者とオーケストラは)まだ知名度は低いようだが、演奏、録音とも悪くない。fレンジ、Dレンジとも広大というほどではないが、きめは細かく、余韻もホールエコーもよくキャッチされている。ハイエンドがややヒステリックに響く時もあるが、決してハイ上がりではない。弦は繊細、管はわりとオフだが実在感があり、終楽章で鳴る鐘もステージの奥で鳴っているのがよくわかって妙にリアルだ。大地を揺さぶるような低域の迫力が感じられないのがちょっと物足らない。」


*注「1980年7月.オスピス・コンテスでの録音。エンジニアはJean-Francois Pontefract。”レコード漫談”132頁、参照。後で取り上げるテラークのマゼール指揮の”幻想”より、ワンポイントマイク的な音である。ナチュラル録音を反映してか、ミュンシュのような狂気と情熱の”幻想”ではなく純音楽的な自然体の演奏である。」
   
32−2

リムスキー=コルサコフ/スペイン奇想曲.ドビッシー/イベリア.トゥリーナ/交響詩「幻想舞曲」から”饗宴”

エドワルト・マータ指揮ダラス交響楽団

米テラーク DG−10055

「fレンジ、Dレンジとも広く、情報量大。オケの全体像をうまく捉えてバランスがよく、耳をそばだてれば個々の楽器も聴き分け可能というタイプ。マルチマイクで個々の楽器を録っておいて後でまとめたのとは大きな違いがある。ハイエンドは繊細でシャープだが歪みっぽさはなく、ローエンドはよく伸びていながら締まりがよい。バイオリンが、デジタルらしくない滑らかさを持っている。音場も広いが、奥行き感は少し圧縮された感じがある。演奏もいい。優秀録音盤。」


*注「1980年9月23日.ダラスのバブティスト教会クリフ教会堂での録音。マイクはショップス無指向性3本。スペインに関わる曲を集めたレコード。この号で同時に.テラークの、スラトッキン指揮”巨人”とマゼール指揮ショスタコービッチ5番を紹介。それらは比較的好意的な評だったが、”テラークとしてはもう一息”ともあり、優秀録音盤の太鼓判を押したのは此のマータ盤のみ。指揮者のマータは1995年、航空機事故で死亡した。」
   
32−3

バルトーク/管弦楽のための協奏曲.舞踊組曲

ゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ響

英デッカ SXDL 7536

「これぞデジタル、といった録音。といっても悪い意味ではなく、デジタルの良さが十二分に出ているということ。指揮、演奏までデジタル的に一糸乱れずカチっと割り切って見事である。fレンジ、Dレンジとも広く、非情にシャープに鮮明に切れ込む感じで、全域に渡って高分解能で、超感上はややハイ上がりだが、歪み感はない。厚み、エネルギー感も十分あり、低域は筋金入りの力強さで、ゴリゴリとして低弦の動きがよくわかる。定位、音場もいいが、あまりにも鮮明すぎて疲れる。広い部屋で、SPから5〜10メートル離れて聴きたい。優秀録音盤。」


*注「国内版.輸入メタル原盤プレスはロンドンL28C1003。ショルティは、これらの曲を1963年にロンドン響とデッカで録音しており、同じく名演奏、名録音の定評がある。」
   
32−4

モーッアルト/協奏交響曲K364.KAnh9

Vn:ピエール・アモイヤル、アルミン・ジョルダン指揮ローザンヌ室内管弦楽団

仏エラート STU 71370

「曲が曲だけにfレンジ、Dレンジ広大というタイプではないが、情報量は多く、分解能も極めて高い。繊細に切れてるが、デジタル風な鋭さはなく、アナログの良さが活かされた、そよ風のような爽やかさがいい。弦楽器は特に綺麗、音もモーッアルトらしい品の良さを保っている。楽器の余韻は見事にキャッチされているが、ホールエコーはもう少し欲しいところ。全体に少し細身の感じたが優秀録音盤である。スピーカーから5メートルも10メートルも離れなくても聴けるのもいい。」


*注「1980年4月、スイス、クリシエ大ホールでの録音。エンジニアはピエール・ラボワ。」
   
32−5

メンデルスゾーン.ブルッフ/バイオリン協奏曲

Vn:アンネ・ゾフィ・ムター.カラヤン指揮ベルリンフィル

独グラモフォン 2532 016

「DGのデジタルもだいぶ手慣れてデジタル臭さがとれてきた。どちらも甘口のポピュラー名曲だが、カラヤン、ムターの演奏はリンゴとハチミツ、とろーりの感じ(*)ではなくかなりハードにシャープに決めている。音は鮮烈、高分解能、一時のカラヤンのようにやたらハイ上がりでヒステリックに突っ張っていた感じはなくなり、オンマイクだがバランスはよい。ソロバイオリンも、シルキータッチで綺麗に鳴る。音像もしっかりまとまって、オケのやや手前にしっかり定位し、入り乱れる感じはない。オケはffで多少ヒステリックになるが、混濁感はなく、広がりもある。ホールエコーも少なめで、ホールの幅も一応出るが、高さは出にくい。優秀録音盤。」


*注「(*)は当時放映されていた西条秀樹のバーモント・カレーのTVCMの惹句。」
32−6

弦楽のためのアメリカ音楽:S・バーバー/セレナード、E・ファイン/シリアス・ソング.E・カーター/エレジー.D・ダイヤモンド/弦楽オーケストラのための輪唱

ジェラード・シュワルツ指揮ロサンゼルス室内オーケストラ

米ノンサッチ D79002

「1980年4月2日、パサディナのアンバサダー・オーディオ・トリアムでの録音。3Mのデジタル・システム使用。なじみのない曲ばかりだが、わりと面白い。音はデジタルらしい鮮烈さを前面に押し出したものだが、バランスは良い。中高域は鋭く切れ込んでエネルギッシュだが、メタリックになる寸前で踏み留まっている感じで悪くない。薄っぺらにならず、厚みもある。ローエンドは時にぼけ気味。高分解能だが、あまりにも即物的なので情感不足。盤質は廉価版より良い。」
32−7

ブラスの戦い/ウィリアム・バード:「戦い」.クーナウ:聖書ソナタ第1番「ダビデとゴリアテの戦い」.バンキエリ:ファンタジア.ヘンデル:王宮の花火より終曲

エルガー・ハワースとP・ジョーズ指揮フィリップ・ジョーズ・ブラス・アンサンブル

英ロンドンCS7221

「戦争に関係ある曲。(上記)以上をパーカッション二人を含むブラス・アンサンブルで演奏。ブラスはオンマイクで録ると、やたらにカン高く薄っぺらで聴けたものではないが、このレコードはわりとオフで録って十分な厚みを表現しており、パーカッションとのバランスも良く、ホールエコーもたっぷり入って音場が広い。ナチュラルサウンドの好録音。」

*注「1980年。ハンプステッド・ガーデン郊外、聖ユダ教会でのアナログ録音。原盤.英argo。”続々レコード漫談”94頁、参照。チェンバロなどの原曲を金管アンサンブルに編曲。国内版.輸入メタル原盤プレスはキング.K28C−128。写真は国内版。」
32−8

ビバルディ/セレナータ・ア・トレ

S:P・グリゴローバ.M・バンス.T:K・スパニエル.ルネ・クレマンシック指揮クレマンシック・コンソート

仏ハルモニアムンディ HM 1066.7 2枚組み

「ソプラノ二人、テナー一人にクレマンシック・コンソートの演奏。なじみのない曲。技法的にも四季のように同じ音を繰り返していくビバルディ調とは違う。演奏はベテランで安心して聴けるもの。場所はおそらく教会か博物館だろうと想うが、かなりライブで響きがよい。わりとオフマイクの録音だから、装置が悪いとボケボケの音になる可能性もあるが、ハイスピード、高分解能の装置で再生すると、音像はリアルでナチュラル、輪郭が強調され過ぎるところもなく、ホールエコーはたっぷり入っていて、空気感がよく出る。ホールの広さもわかる。狭い部屋でも刺激的にならず十分な広がりが楽しめるいい録音だ。」

*注「1980年11月の録音。場所不明。エンジニアはJean-Francois Pontefract。」

32−9

ショパン/エチュード(練習曲全集)Op10.Op25

Pf:フランシス=ルネ・デュシャブール

仏エラート STU 71406

「デジタル臭さのない録音である。エラートのアナログ録音には、パーカッションT、Uなど鮮烈なものが多いが、このデジタルは寧ろ抑制の効いた大人しい音になっている。ピアノはベーゼンドルファーで、締まりのよい地味な音。部分的に手袋をはめて弾いているようなところもないではないが、密閉箱スピーカーのようなダンピング(立ち下がり)の良さがあり誇張感がなく聴きやすい。音の伸び、透明感もう一息。余韻はよく入っているが、ホールエコーは少なめで、音場としてのホールの形が見えない。サーフェースノイズのせいでSN比はそうよくない。」


*注「1980年6月パリのギメ美術館での録音。エンジニアはヨランタ・スクラ。長岡氏の手持ちのレコードはジャケット表にJVC.デジタルシステム使用のステッカーが貼られてあった。私のものは、そのステッカーがなく、ジャケットの何処にもデジタル録音の表示はない。普通エラートのレコードはデジタルの場合、Digitalとジャケット表に印刷されている。」
32−10

J.S・バッハ/イギリス組曲

Cemb:ケネス・ギルバート

仏ハルモニア・ムンディ HM 1074/5

「使用楽器はクーシエ・タスキン(1778)ギルバート個人のコレクションだそうである。曲もいいが、全部聴くのは飽きるかもしれない。端正な、ややクールでドライな感じもある演奏。音は仏ハルモニア・ムンディらしい、ツヤと鮮度と雰囲気を持ったもの。ハープシコードは楽器によって、ハイ上がりのもの、ローブスト型のもの、堅いもの、柔らかいものと色々あるようだが、このレコードはオーソドックスなバランス、繊細にシャープに切れ込むが、柔らかさ、しなやかさを失わず、自然なエネルギー感と透明感とホールの雰囲気を持ち、安心して聴ける。時々車の超低音と小鳥のさえずりも入る。」
 
32−11

グリーグ.フランク.フォーレ/チェロ・ソナタ集

Vc:ロバート・コーヘン.Pf;ロジャー・ヴィノルス

英crd CRD1091

「グリーグの方はもともとチェロ・ソナタ。フランクのは、有名なバイオリン・ソナタからの編曲である(*)。どんな楽器で弾いても違和感がないという不思議な曲だ。録音はワンポイントかペアマイクか、鮮度の高い、締まりのよい音で、透明度も高く、ホールエコーもよく入っていて、ホールの空間を感じさせてくれる。音像は小さくまとまっており、ピシッと定位するが、ちょっと小さすぎる感じもしないではない。チェロがビオラぐらいのサイズに見えてくる。それと低音がやや不足。床が鳴っていないためか。演奏、録音ともいいが、強いていえばツヤがもう一息。」


*注「1980年.ロンドン、ハンムプステッドのロスリンヒル、ユニテリアン チャペルでの録音。エンジニアはBob Auger。チェロは18世紀のグァルネリウス、ピアノはスタンウェイ。」
32−12

ヘンリー・ラッセルとの一夜

Br:フォード・ジャックソン.Pf:ウィリアム・ボルコム

米ノンサッチ  H−71338

「ラッセル(1812−1901)はイギリスに生まれ、イタリアで音楽教育を受け、カナダに移民、アメリカには6年間いただけで、イギリスに帰国。アメリカにいる間、シンガーソングライターとして全国でワンマンショーを開き、非常な人気を博したという。それを再現したのが、このレコードで、ラッセルの自伝からとったナレーションも入り、陽気に歌いまくる。歌は十曲。クラシックとはちょっと違う。ピアノはゴツゴツとソリッドで量感のある音。ボーカルは少し荒っぽいが、エネルギーを生でぶっつけてくる感じがあり、ホールエコーもたっぷり。SN比はもう一息。」
 
32−13

アルフォンソ・エル・サビオ/聖母マリアのカンティガ集

弾き語り:エステル・ラマンディエ

仏アストレ AS59

「1980年9月、イーグルのレボー僧院の修道僧の寝室(大部屋)での録音。ハープ、ポルタテイフ・オルガン(携帯用オルガン、パイプ12本の簡単なもの)。ヴィエール(ハーディガーディ)を使っての弾き語り。曲は13世紀、トレド、セヴィラの王、アルフォンス10世の保護の下で作られた数百曲の中から、20.27.60.150.159.322.340.384.391が歌われる。ラマンディエはジャケットで見る限りすごい美人ではないが不思議な影のある女性で、冷たさの中に妙な色気がある。そのラマンディエの姿がスッと浮かび上がるような録音。僧院の寝室というが、写真で見ると天井の高いホールだ。その感じも出ている。優秀録音盤。」


*注「アストレやアリエールのから出ていたラマンディエのレコードを長岡氏が各誌で絶賛したのでベストセラーになり人気を呼び、ついに来日して演奏会を開き石丸電気のレコード売り場でサイン会をするようになった。」
32−14

ジョン・シェパード/ミサ・カンターテ、スピリチュス・サンクトゥス

デビット・ウルスタン指揮オクセンフォード・クラークス       

米 NONESUCH H−71396

「シェパードは1515〜1559年頃のイギリスの作曲家。曲もそれらしいもの。24人のコーラスで無伴奏。5声部に分かれているが、各声部の3次元的定位、前後の重なり具合は極めて明瞭で生々しい。音質としてやや粗さがあり、時にヒステリックだが、エネルギー感がある。音像定位は見事だが、音場としての、ホールの天井や壁が見えにくい。時々、ゴトゴトと車の通る音が入るのもリアルで良い。」


*注「原盤はフランスのカリオペCAL.1621。1977年1月、オックスフォードでの録音。エンジニアはG・キスロフ。ワンポイントマイク録音であろう。音質的にはオリジナルのカリオペの方がベターと考えてジャケット写真はフランス盤。ノンサッチ盤はアメリカ盤特有の盤質の悪さでハイ上がり気味。その分、シャープと言えないこともないがフランス盤の方が艶と雰囲気がある。ウルスタンとオクセンフォード・クラークスの合唱のレコードはカリオペから6−7枚ほど出ていて、国内版は”天上のコーラス”と題され人気があった。当時、オーディオ誌の記事で試聴ソースとしてよく使用されていた。」
 
カリオペ


「ノンサッチ」

          
   
33−1

ショスタコービッチ/交響曲第14番・死者の歌

S:J・バラディ、Br:D・フィッシャー=ディスカウ、B・ハィティンク指揮コンセルトヘボウ管 

英デッカ SXDL7532

「解説を読まずにいきなり聴いたら面食らった。室内オケとソロ・ボーカルという感じで、とてもシンフォニーとは思えない。第14番は1969年の作曲で、ソプラノ、バリトンとストリング・オケとパーカッションによるシンフォニー。ロルカ、アポリネール、キュッヘルベッカー、リルケの11編の詩が歌われる。ローレライ、自殺、詩人の死、等々、全て死のイメージの詩だが、曲は決して暗いものではない。録音はデジタルの良さが活かされた、非常に切れがよく、透明で、力強く、しかもツヤもあるもので、ピアニッシモが綺麗。響きが良く、音像はソリッドで音場も広い。優秀録音盤。」
 
33−2

パーセル/序曲集:アーサー王.ディドとエアネス.ボンデュカ.フェアリークイン.インドの女王.アブデラザール.悲しむ乙女、女房持ちの色男、年老いた男やもめ.恋敵の姉妹、

ロナルド・トーマス指揮ボーンマス・シンフォニエッタ

英シャンドス ABR 1026

「ABR1036(外セレ.1巻−51)同様、スーパーアナログである。録音はなかなかいい。鮮明さと音像、音場では1036に及ばないが、一般水準からすれば繊細に切れ込んで解像度が高く情報量が多い。バイオリンの数がわかるような録音だが、決してメタリックな感じではなく綺麗だ。低弦の動きもよくわかって気持ちがよい。ただ、音像と音場の3次元的な表現がもう一息。2チャンネルへのダイレクト録音の良さと、マルチマイクの悪さがともに出た録音。演奏はさっぱりとしたもので可もなし不可もなし。」


*注「キリスト教会修道院、1980年7月17.18日でのカーゾン兄弟の制作、録音。シャンドスのスーパーアナログとはショップス&ノイマンのマイクと特注ミキサーで2トラ76p/sのスチューダーA80に録音し念入りのカッティングに重さ140グラム以上の高品位プレスした特製レコード。この号で同時に外セレ1巻−51のドビッシーを紹介していた。マルチマイクとはいえ、メジャー録音と比べるとマイクの数は極端に少ないはず。辛口の長岡氏には多少の不満があったようだが、ソースが全てデジタル化された現在では2トラ76のピュア・アナログは貴重である。」
 

33−3

ラベル/マ・メール・ロワ

ゲルト・アルブレヒト指揮と語り ウィーン交響楽団

独アトランティス ATL95003

「1980年11月17日.ウィーン楽友協会大ホールでのデジタル−ライブ録音。ペローの童話による。子供用のピアノ連弾曲からオケの組曲に編曲したもの。そこでお子さま向きに解説付きでというわけ。もともと(レコードの)片面で収まる曲だが、A面は演奏しながら徹底解説、弾き語りならぬ指揮語りでアルブレヒトが声の良さと語りのうまさを聴かせる。B面は5曲をきちんと演奏。ドイツ語でペラペラやられても筆者には判らないが、録音は優秀、デジタル臭さは全くなく、鮮烈で透明で情報量が多いが、歪み感がなく、とげとげしさがなく、スムーズで美しい。音像は引き締まっており、定位も良い。音場は深く広い。ライブなので咳払いもなども入る。優秀録音盤。」

*注「ゲルト・アルブレヒトは同レーベルにチューリッヒ・トーンハルレ管と”楽器とその演奏法”と題する指揮語りのレコード(ATL95002)を出していた。現・読売交響楽団音楽監督で同オケの演奏会でも、このような啓蒙活動をしている。別にゲオルグ・アレキサンダー・アルブレヒトという指揮者もおり、更に、その息子も指揮者活動していて混乱する。」
 
33−4

レスピーギ/交響詩「ローマの松」.「ローマの噴水」

フリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団

米RCA ATL−14040

「0.5シリーズというリカッティング・シリーズで3500円と高い。1959年12月24日、シカゴ、オーケストラホールでの録音。当時の3トラックのマスターテープから、ハーフスピードでステレオにリマスタリング、NR(ドルビー)使用、リミッター使用せず、このマスターからハーフスピードでカッティング、西独テルデックでプレスしたもの。盤もやや厚手で140gある。レンジは十分に広く、特に低音は厚みと量感があり、テラークを思わせるようなところもある。情報量は多いが、粒子はやや大きく、線は太め、高域はややヒステリック。しかし、隙間なくつまった有機的な音のつながり、立体的音場は悪くない。」

*注「0.5(ポイント・ファイブ)シリーズとはハーフ・スピードのカッティングを意味する。米RCA 0.5シリーズは同じカッティング原盤から高品位プレスした再発盤はARP1−4579があり、なぜか、こちらの方が重量が165グラムもあり厚くて重い。シカゴ響の黄金期を築いた名指揮者ライナーによる歴史的名演の好録音となると存在価値は高い。この号の記事で、0.5シリーズのミュンシュ指揮ボストン響のサンサーンス/交響曲第三番にも言及されていたが、こちらは評価が低い。これとは別に、同じRCAのマスターから、真空管のアンプで再カッティングした復刻盤にチェスキーレコードとジャケットも初版オリジナルそのままに復刻したRCA Living StereoのLPもあった。つまり、この演奏に関しては3種類のオーディオ・マニア用高品位復刻盤レコードがある。チェスキーは長岡氏の評価の対象になっていないが、プレスも更に厚く、音質も、0.5シリーズに劣らない。」
 

「ポイント5」


「チエスキー」
33−5

ビバルディ/協奏曲集「四季」

Vn:J・シルバースタイン.小沢征爾指揮ボストン交響楽団

米テラーク DG10070

「マイクはショップスSKM−52Uを3本。編成が小さいせいもあってわりとオンマイクの感じになっている。デジタルの良さが出ているがデジタル臭さはない。弦のピチカートが鮮烈で凄い。ボーイングは鮮明だがスムーズで決してメタリックにはなっていない。ハープシコードも繊細に切れ込むが鋭くはない。低音はなかなかハードでダイナミックである。全体としてはデジタルをアナログカッティングしたらこういう音になるはずだ、というような鳴り方。音像もしっかりしているし、定位も良いが、間接音不足で、やや雰囲気不足。優秀録音盤。」

*注「1981年10月10日、マサチューセッツ、ウェルズレイ大学ハウトン礼拝堂でのサウンドストリーム製デジタル録音。」
 

33−6

アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳

S:ブレゲン.Cemb:キプニス

米ノンサッチ DB79020

「1981年.デジタル録音.2枚組み。音楽帳はJ.S.バッハが後妻のA.M.バッハのために作った練習曲集で、第1巻はフランス組曲ほかで、片面に収録、第2巻は音楽帳のための作曲のほかに、コラールの段片なども入っており、1,2巻とも、ほかの作曲家の曲や作者不明の曲も多い。中心になるのはクラヴィーア(キーボード)曲で、クラヴィコードと、ハープシコードが使われている。クラヴィコードは全く小さな楽器だが、録音もハープシコードよりはぐんと小音量でで繊細、しかもSN比が良い。全体に繊細で透明でデジタルの良さだけが出たような録音。音像と音場がもうひとつだが、これだけ美しい音は少ない。特にクラヴィコードは抜群。優秀録音盤。」
 
33−7

モーッアルト/4手のためのピアノ・ソナタ K497.K381

Pf:マルコム・ビルソン、ロバート・レヴィン

米ノンサッチ N78013

「1981年6月19日、コーネル大学ジェームス・ロウ講堂での録音。1780年アントン・ウォルター製で、モーッアルトが実際にコンサートで使ったフォルテピアノは生家に飾ってあるので、こちらは1977年フィリップ・ベルト制作のコピー、5オクターブでピッチはA−430、ニーレバーとハンドストップを持つ。わりとオンマイクで録っているので、ホールエコーは少ない。ピアノ自体の余韻も少ないようだ。フォルテピアノの感じはよく出ていて、奏者の息づかいや、ニーレバー、ハンドストップのガサゴソという音も自然に入ってるがどぎつさはなく、わりといい録音だ。サーフェイスノイズはやや多い。」
 
33−8

モートン・サポトニック/アクソロトル、野獣

Vc:J・クロスニク、Tb:M・アンダースン、Pf:V・ベイリー

米ノンサッチ N78012

「サポトニックは、シンセサイザーの第一人者。レコードもかなり出ている。このレコードに収録されているのは”両生類の二重生活”という現在作曲中の大曲の一部。楽器とゴースト・エレクトロニクスによる演奏。定位の移動、ピッチの変更(上下100Hz)アンプのf特の変更などを行うシステムと、これをコントロールする信号を入れたテープによる演奏。コントロールするだけでは音は出さないからゴーストだ。音は鮮烈、強烈でエネルギッシュ。音像は小さく、定位も面白い。優秀録音盤。」


*注「”レコード漫談”150頁、参照。ところで”両生類の二重生活”という曲は完成したのだろうか。現代曲に敏感な長岡氏の報告がなかったと思う。」
 
   
33−9

マクダウェル/第1現代曲、ソナタ第4番

Pf:チャールズ・フィエロ

米ノンサッチ H−71399

「マクダウェル(1860〜1906)はアメリカの作曲家。第1現代曲はリストに認められた作品。第4ソナタは代表作。筆者は初めて聴いたのだがはったりのない親しめる曲だ。ピアノ(スタンウェイ)が少し小さく見えるが、ごく自然な感じでセンターに定位。音域バランス、切れ込み、響きもなかなか良い。」
 
33−10

ヘンデル/オラトリオ メサイア

S:エンマ・カークビー,Clt:C・ワトキンスン,クリストファー・ホグウッド指揮エンシェント室内管,他

英オワゾリールD189D3    3枚組み.箱入り

「ホグウッド、オワゾリールの組み合わせは独特の音色を持っている。実に繊細で、歪み感が少なく、美しい音なのだが、あまりにもアクぬきして、晒してしまったような細身のところが気になる。古楽器を使っているせいかとも思ったが、アストレやハルモニア・ムンディを聴いてみると、そうでないことが判る。音像、音場もいまひとつ、やはりワンポイントとマルチの差だろう。それを前提として、一応、優秀録音。演奏も多少アクぬきの感あり、ハレルヤ・コーラスもサッパリしたもので、あまり盛り上がらない。」

*注「ロンドン、セント・ジュードオンザヒルでの録音。日頃聴き慣れている近代的大編成に改変されたハレルヤ・コーラスからすると確かに盛り上がりに欠けるが、この方が原典に近いはずである。国内版.輸入メタル原盤プレスはロンドン L75C−1266/68。ホグウッドのメサイアは同じ演奏団体、独唱陣による1982年、ウェストミンスター寺院大聖堂での録音.録画がLD:レーザーディスク、ロンドン SM088−3282が出ていて、長岡氏がアップで高解像度と、AVフロント.ディスクホビー.連載2、で高く評価されていた。」

       
FMfan別冊1982年 夏号.No.34      
*「連載4周年記念でカラー版だった。記事冒頭に、この年の秋に初めて世に出るCD(当時は未だDADと言っていた。)について少し触れられている。量産品CDを聴かない限り評価は出来ない旨が書かれてあり時代を感じさせる。この号では冒頭記事にワーグナー/楽劇ニーベルンゲンの指環 第一夜”ライン黄金”がブーレーズ、ベーム、ショルティの新旧3種、取り上げられていた。外セレ1巻40にも採り上げられたショルティ盤は”これを凌ぐ録音は永久に出ないだろう”と大絶賛されている。長岡氏はCD全盛となった後年にも、ショルティ盤を同様に評していた。その他の、ブーレーズ、ベーム盤はバイロイトの新旧のライブ録音。デジタルのブーレーズに関しては”雰囲気のある、いい録音だが、ショルティとは次元が違う。”とあり、1966年のベーム盤は”音はショルティとブーレーズとの中間的な感じだ。ブーレーズよりはオンマイクの感じで、レンジも少し広いが、ニュアンス、雰囲気はブーレーズ盤の方が出る。声は艶と伸びがあってなかなかよいが、ショルティ盤ほどの野性的な逞しさ迫力はない。”とある。つまり、本来、それなりに評価すべき録音なのに、ショルティ盤が凄すぎて霞んでいるのだ。”レコード漫談”149−50頁にも、これら3種類が取り上げられている。」 
   
34−1

ワーグナー/楽劇「トリスタントイゾルデ」  1966年バイロイト音楽祭・ライブ録音

ビルギット・ニルソン,ウォルフガング・ヴィントガッセン,マルティ・タルベラ,クリスタ・ルートビッヒ,ペーター・シュライヤー,他

カール・ベーム指揮バイロイト祝祭管,合唱団  5枚組 箱入り

独グラモフォン 2713 001

「オケも歌も鮮明に録られており、厚みと力がある。たぶんバイロイトの客席で聴くよりはずっと明快な響きになっていると思う。ホールエコーも適度に入っており、雰囲気もある。音場の広がりは十分。奥行きと高さはもう一息だが、それでも注意すれば上段に歌手、中段にオケ、下段に客席の咳払いといった区分が出来るかもしれない。第一幕の前奏が終わってゼーマン(P・シュライヤー)の歌が左手から入り、そのエコーが右上方に抜けている感じはなかなかいい。五枚組だが、曲は九面で終わり、十面はリハーサル風景が入っている。これがなかなか雰囲気があって面白い。」


*注「”続レコード漫談”61頁、”ディスク漫談”69頁、参照。初版は139 221/25、ジャケットデザインの違う再発版はDG2740 144。ワーグナーの聖地バイロイト劇場のオーケストラボックスはステージ地下に潜る構造になっており音響的にこもり易い。同じバイロイトで、ベーム指揮の”さまよえるオランダ人”1971年ライブ.DGも名演とされるが録音の面では明瞭度が悪い。」
34−2

ベートーベン/歌劇「フィデリオ」

T:J・ビッカース、Ms:C・ルートビッヒ、B:ワルター・ベリー、他

オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団、合唱団

独EMI 149 00559/61 3枚組み箱入り

「1962年の録音だが、fレンジ、Dレンジは十分にとれており、最新録音盤にひけをとらない。透明度も高く、歪み感は特に少なく、声が割れたり、荒れたりしない。オケは厚みと力があり、細かい音も良く入っているが、一音一音を分解して見せるタイプではなく、有機的につながっていながら細かいというもの。声も自然に伸び伸びと歌っている。音像は個々の楽器や歌手が明確に浮き彫りにされるというタイプではなく、ある意味では漠然、渾然としているが、オケとして、オペラとしての全体的な音像、音場は大変しっかりしており、実在感がある。今は個々の楽器や歌手を録っておいて、後で組み立てるという方式だが、昔は音楽全体を録ったのだろうか。」


*注「これも19世紀生まれの巨匠による定評ある名演。プロデューサーはウォルター・レッグ。」
 
34−3

ルーセル/蜘蛛の饗宴,バッカスとアリアーヌ,シンフォニエッタ、交響曲第3,4番,

アンドレ・クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団

仏EMI・パテマルコニC181−52293/4

「録音は1枚目が1963年、2枚目は1965年である。録音はギョッとするほどの物ではないが悪くない。1枚目の方はちょっとやせる感じがあるが、2枚目(交響曲第3,4番)は音に厚みがあり、たっぷりしている。特に交響曲第3番の頭の部分の低弦の響きは独特だ。ふわふわとした柔らかい低音だが、音程はしっかりしており、量感が凄い。最近の録音のように、楽器1台ずつ独立して聴かせる分裂症的なところがなく、多少の歪みっぽさはあっても、いかにもオーケストラだなという感じの鳴り方である。」


*注「”続レコード漫談”28頁、参照。」
34−4

アングリア(イギリス)のクリスマス

フレデリック・レンツ指揮古楽アンサンブル    

米ノンサッチ H−71369

「曲は13〜18世紀のクリスマス音楽。B面最後は18世紀の曲、グリーンスリーブスで終わるが、オリジナルスタイルの演奏である。全曲、透明で鮮明で素晴らしいが、A面、6曲目に出てくるベルの音はゾクゾクするくらいリアルで美しい。音像、音場も見事、楽しめる。優秀録音盤。」

  *注「”続レコード漫談”227頁.参照」

34−5

ウィーンのダンス音楽/ヨハン,ヨーゼフ・シュトラウス,ヨーゼフ・ランナー,グライフェントセルフの作品集

ミヒャエル・ディートリッヒ指揮ウィーン・ベラ・ムジカ・アンサンブル  

仏ハルモニア・ムンディ HM1058

「1980年8月の録音。メンバーは7人。(同じ団体で)ちょうど、2年前の録音に”1850年のダンス”(HM−1013)というのが出ており、その続編と見て良い。特にシャープでもダイナミックでもないが、ややソフトタッチの厚みのある豊かな音で、余韻やホールエコーも適度に入っており、雰囲気があってBGM的に楽しめる。ただ分解能不足の装置で聴くと、単なる寝ぼけた音になってしまう恐れもある。」


*注「録音エンジニアはJean-Francois Pontefract。同団体のハイドン、ツィンガレーゼは外セレ.1巻−28で紹介。他にもベートーベン/24のメヌエット.を仏HMに録音している。いずれもセンスの良い選曲で演奏、録音とも優れている。」
34−6

イタリアン・プレジャース     ITALIAN PLEASURES/ギター黄金期の音楽より

ジュリアーニ/序奏と主題と変奏とポロネーズ,L・レニヤーニ/序奏と主題と変奏と終奏,F・カルッリ/小さな2つのノクターン

G:マイケル・ニューマン.L・オルトマン.セコイア弦楽四重奏団

米シェフィールド LAB−16

「1981年5月21−4日、MGMシェフィールドスタジオでの(ダイレクト・カッティング)録音。セコイア弦楽四重奏団というのは日本では余り知られていないが、バイオリンがマツダ・ヨーコ、ワタナベ・ミワコという日本女性である。セコイア弦楽四重奏団の演奏はノンサッチ−シルバシリーズN−78006でも聴ける。それと比するとこのレコードが大変歪みが少なく、ツヤがあり、綺麗に鳴っているというのが判る。ギターの立ち上がりが甘くならず、バイオリンがとげとげしくならず、いいバランスだ。明るくカッチリ、くっきりと録れているが、強いて言えばやや雰囲気不足。それと演奏がもう一つのっていないという感じはある。」

34−7

カシミール/伝統的な歌と踊り

米ノンサッチ H−72058

「現地録音の民族音楽を中心としたエクスプローラー・シリーズは100枚近く出ているが、デビット・ルイストンという人が録音したものが圧倒的に良い。全て優秀録音であり、音楽性も高く、現地録音の雰囲気もよく出ている。このレコードは首都スリナガルでの録音。ヒマラヤ、カラコルムなど8000メートル級の山々に囲まれた地方だけに、空気が希薄で透明度が高い。そんな感じの音がする。サントゥーア(ダルシマーに似た打楽器)、サズ・イ・カシミール、ゼータ(ともに撥弦楽器)、ドウクラ(ペアのドラム)を伴奏とするクラシック音楽とフォーク・ミュージックを収録。オンマイクで鮮烈なサウンド、田舎臭さ満点。」

*「デビット・ルイストン(David Lewiston)については”レコード漫談”152頁.参照。以下4枚はルイストンの現地録音。機材は不明だが、ワンポイントマイクとナグラかステラボックスのポータブル・オープンデッキと推定。」
 
34−8

チベットの仏教/ギュートのタントラ、マハカラ

米ノンサッチ H−72055

「タントラ派というのはインドの秘密的宗教の一つだそうである。広い意味での仏教の中に入るのだろうが、日本の仏教とはかなり違うようだ。マハカラというのは全身真っ黒な神様で、頭にはドクロをつけ、6本の腕には、火炎刀、三叉、血の入ったドクロつぼ、ドクロのロザリオ、太鼓、草ひもを持ち、火炎を背負っている。タントラ僧の特技はひとりでコード(和音)を発声できること。それにコントラバスとでも表現したいような超低音の発声。これに強烈無比の打楽器が加わって、聴く者を圧倒する。超人的、悪魔的なサウンド。特にB面後半が凄い。オーディオマニア必聴盤。」
 
34−9

チベットの仏教/儀式用オーケストラと歌

米ノンサッチ H−72071

「ヒマカル・ブラデシュ、タシ・ヨングでの録音。パル・フンツォク・チヨコリン寺院での、ドルクパ・カギュー式の各種儀式の生録である。と自分で書いても、何のことかよくわからない。音楽は150pのホルン、もっと長いホルン、法螺貝、人間の大腿骨のトランペット、ドラム、大小のベルといったもの、日本のお寺の法要でもそうだが、単調といえば単調。しかし、サウンドには圧倒される。特に凄いのがホルンだ。文字通り前代未聞の恐るべき迫力。ホルンというより巨船の汽笛に近く、椅子にしがみついていないと吹き倒されてしまうくらいのエネルギー。物理的かつ心理的な圧力を持っている。オーディオマニア必聴盤。」


*注「ノンサッチのチベットの仏教は4枚シリーズで他に2枚出ている。」

34−10

ペルーの祭り・高地アンデスの音楽

米ノンサッチ H−72045

「録音は1968年6.7月。南部ペルーの3600メートルの高地、アヤクーチョ、チュステ、パウカルタンボでの祭りの現地録音である。アヤクーチョは地図にも載っている人口2〜3万の都市だが、他の二カ所は山の中の小さな村だ。ギター、マンドリン、ハープ、大小の管楽器、ドラムスによる演歌と歌、A面八曲、B面四曲、いずれも雰囲気があって面白いしバラエティに富んでいる。A面三曲目のプルプルチャ、ウェイリ・ウイルチャという歌は、左にボーカルと拍手、右にギター(の一種)センターにコンティヌオという感じでよく決まっているが、B面四曲目はバンドの街頭行進で、拍手やつぶやき声が入り、祭りのガヤガヤした雰囲気がよく出ている。」
 
34−11

ウェスト・オブ・オズ

アマンダ・マックブルーム、リンカーン・マヨーガ

米シェフィールド LAB−15

「1981年4月24日〜28日ダイレクト・カッティング。LAB−23とほぼ同じメンバーでの録音。入り口から出口まで自作管球式で通している。ジャケットに見るマックブルームは、シワだらけのおばさんが幼児服を着ているという感じだが、歌は巧いし、声もいい。伴奏、演奏もいい。SN比が良く、透明度の高いすっきりとした綺麗な音で割と力があり、ホールエコーも適度だ。音場は奥行き感がもうひとつだが、トータルでは優秀録音盤。」


*注「長岡氏の手持ちと私のものとはジャケット・デザインが異なる。映画”オズの魔法使い”より”虹の彼方へ”が歌われているので、長岡氏のものは歌手のアマンダが少女ドロシーの扮装をしてジャケット写真に出ている。私のものはHQ180DISC、つまりハイ・クオリティ・スーパー・アナログ・プレスで重さも180グラムあり、ずっしり重たい。シェーフィルド・ラボのダイレクト・カッティングLPは、同じスタンパーから130グラム程度の通常プレスとHQ180DISCがある。」
34−12

アール”ファーザー”ハインズ プレイズ・ヒッツ・ヒー・ミスド

P:アール・ハインズ.Ds:ビル・ダグラス.B:レッド・カレンダー

米リアルタイム RT−105

「中身はポピュラー名曲集という感じ。新譜ではないが腐る心配がないので採り上げた。オンに過ぎず、オフに過ぎず、バランスが良く、楽器の音色が生に近い感じで再生される。ピアノもコロコロとよく弾んで、厚みもある。バードランドのチューバの厚みとエネルギーは強烈。いい録音だが、雰囲気は不足。スタジオ録音か。」


*「詳しい録音年月日不明。1978年頃のダイレクト・カッティング。旧・西独プレス。この号で同時にリアルタイム RT−303のデジタル録音のジャズを採り上げているが批判的。リアルタイムはダイレクトカッティングが真骨頂。」
 
34−13

ワンナイト・スタンド/ア・キーボード・イベント

米CBS KC2・37100

「1981年1月12日ロサンゼルスのドロシー・チャンドラー・ハビリオン、1月20日カーネギーホールでのライブ録音2枚組。ソニーPCM−1600使用。キーボード中心だがメンバーが凄い。(ハービー・ハンコック、アール・クルー、ローランド・ハナ、ロン・カーターを初め十数人の錚々たるメンバー)。曲はおなじみ、気楽に聴いても良く、またデジタルの鋭さがジャズにマッチして音も良い。しゃべりや拍手が入って雰囲気も満点。」

   
      
FMfan別冊1982年 秋号.No.35      
*「別に特集という記載はないが、今回も記事が多い。9頁に亘り45枚もレコードを紹介している。冒頭に”レコードの売り上げが落ちているのは貸しレコード屋のせいだと誰もが言うが、これから出るCDのせいとは誰とも言わない”、とあり、やはり時代を感じさせる。この当時は貸しレコード屋は音楽業界の目の敵にされており国内版の帯には、コピーするカセットテープをドクロに模したマーク:HOME TAPE KILLING MUSIC.とともに、賃貸業に使用することを禁じると書かれてあった。貸しレコードの旗手、黎紅堂の社長は若手起業家として今のホリエモン並の話題の人物であったが、今は何をしているのか。音と映像の多くがデジタル化されてしまった現在、コピーどころか本物そのままにクローンとしてCD−R.DVD−Rに情報をそのまま移せる。レコード会社も、この頃と比べると著作権侵害に寛容になってしまった。」       
35−1

J.S・バッハ/無伴奏チェロ組曲 第1.2番

Vc:イェルク・バウマン.

独テレフンケン 6.42667AZ

「デジタル録音.DMM。DMMのメリットはカッティング時、およびカッティング後の変形がないため、プリエコー、ポストエコーが出ず、SN比がよく、音の切れ込みが良いといった点。このレコードも力強く、静かで、余韻が長く、デジタルの良い面が上手く活かされている。演奏もいいが、鼻息がきれいに(?)リアルに入っているのが、ちょっと耳ざわり。」

*注「初めてのDMM:ダイレクト・メタル・マスターを採り上げた記事。DMMはアモルファス金属原盤にダイレクトにカッティングする技術。従来のラッカー盤にカッティングするものよりスタンパー生産工程が省略できるので歪みが少ないとされる。この号で長岡氏はDMMは大編成に弱いのではないかと指摘していた。」
 
   
   
35−2

ベートーベン/リスト編曲.交響曲第6番「田園」.ピアノ独奏版

Pf;シプリアン・カツァリス

独テレフンケン 6.42781AZ

「シンフォニーのピアノ編曲というのは難しい。ずいぶん頑張ってキイをフルに使ってオケに迫ろうとしてはいるが、たとえば小鳥の声などは到底無理だし、雷鳴もイマイチ。しかし録音は極めてナチュラルで距離感があり、これが本当のピアノの音だという感じがする。フラットで癖のないB&Kのマイク2本だけで、わりとオフに録っている。」

*注「克明なテクニカルノートがレコードに付随している。1981年9月ニューヨークでの録音。B&K4133:マイク2本。マイクアンプ:マーク・レビンソンML−6a.2台にマーク・レヴィンソン−スチューダA80による2トラ76cm/s.アナログ録音。ノイマンVMS80+SX80によるハーフスピードDMMカッティング。使用ピアノはマーク・アレンbP:カツァリスのための特性ピアノ。録音エンジニアはJ・ホロビッツ。音楽評論家の石井宏は、この演奏に対して”ピアノで交響曲を再現するのに無理がある”という意見を厳しく非難していた。傾聴に値する演奏にまで高めたカツァリスの超絶技巧を聴くべきである。カツァリスはベートーベン.全交響曲のリスト編.ピアノ版をテレフンケンに録音したが、アナログ録音は田園のみである。国内版.輸入メタル原盤プレスはキングK28C−270。キング盤にはDMM表示がなく普通カッティングと想われる。カツァリスは、この後、教育テレビのピアノ講座の教師をして人気者になった。」
35−3

ウィリアム・ボイス/8つ交響曲

指揮とVn:ロナルド・トーマス.ボーンマス・シンフォニエッタ   

英crd CRD1056

「ジャケット裏の写真を見ると、マイクは3本、ブームスタンドで高さ2.5メートルぐらいにセットしてあるだけだ。ボイスは18世紀イギリスの作曲家で、最近は結構人気があるらしい。1742年頃から60年頃にかけて作曲された、独立のミニ・シンフォニーである。モーッアルトをさらに軽快に繊細にしたような親しみやすい曲で、音は明るく透明で、軽く爽やか。レンジは中域にウェィトが置かれているが、これは楽器の性格からくるもので、意識的にナローにしたものではなく、よく聴くと、ローエンドもハイエンドもちゃんと伸びている。小型スピーカーでも十分に再生されるし、マトリックス・スピーカーでも効果的。」

*注「ドルセットのポール・アーツ・センター、ウェセックス・ホールでの録音。エンジニアはBob Auger。写真には写っていないが、3本のマイク他に天吊りのマイクがありそう。」
 
35−4

ドメニコ・スカルラッティ/四季

H.L・ヒルシュ指揮ミュンヘン・ヴォーカル・ゾリステン.同室内管弦楽団


スイス TUDOR 73014

「世界最初のレコーディングだそうである。ビバルディの四季と違って全然有名でない。四人の歌手とオーケストラによるセレナータである。春がソプラノ/カリ・レヴァース、夏がソプラノ/レジナ・マライネケ、秋がテノール、ハイナー・ホフナー、冬がメゾ・ソプラノ/リア・ボルレンというメンバー。両面で50分25秒入っている。インストゥルメントがいい。ハープシコードが出しゃばらず右手奥でごく自然に鳴っている。管楽器がわりと張り出してくるがうるさくはない。ホールエコーがよく入っており、実に響きがよい。ただ、ボーカルがモノラル的にセンターに集中するのが惜しい。大人しい音のようでいて、Dレンジは意外と広いから再生は難しいかもしれない。」
 
   
35−5

ストラビンスキー/兵士の物語

語り:ロジェ・プランション、兵士:パトリック・シェロー、悪魔:アントニー・ヴィテース

ピエール・ブーレーズ指揮アンサンブル・アンテルコンテンポラン

仏 エラート STU−71426

「演奏、録音とも精密仕上げの職人芸の感じ。すみずみまで目が届き、計算し尽くされている。リズム感覚が抜群で爽快。音は鮮烈で、時には鋭く突き刺さるほどだが歪み感はない。各楽器は見事に分離して、定位も明確。三人の語り手も、きちんと定位するが、定位がハッキリしすぎて妙な不自然さもある。顔は見えるが全身像までは見えない。また、スピーカーの内側にしか定位しない。音場にやや不満はあるが、トータルでは優秀録音。」

*注「1980年、パリ、ポンピドゥーセンターのIRCAMでの録音。エンジニアはピエール・ラヴォワ。兵士役のシェローは演出家としても著名。この頃、バイロイトでブーレーズと共に”リング”を斬新な演出で上演し話題を呼んでいた。」
 
35−6

ザ・クイーンズ・メン

シンプソン&バリー・メイソン指揮カメラータ・オブ・ロンドン

英crd CRD−1055

「クイーンズ・メンとはエリザベス1世の宮廷に仕えた、エセックス伯、アンソニー・ホルボーン、サー・ウォルター・レイリーなどのことで、これらの人々のためにダウランド、バード、ギボンズが作曲。カメラータは1974年結成の8人のグループでマンロウの指導を受けたりしている。シンプソンがメゾ・ソプラノとテナー・ヴィオル、他の7人も1,2腫の古楽器を操る。1本のルネサンス・フルート以外は全て弦楽器である。繊細で明るくシャープな録音で、少し細身ではあるが鮮度は高く、音像は引き締まって輪郭鮮明、音場も自然である。演奏は若々しいが、わかりやすい曲ばかりで、気軽に聴ける。」

*注「1978年、ロンドン、ハイゲイト、聖ミカエル教会での録音。エンジニアはBob Auger。」
35−7

コレルリ/クリスマス・コンチェルト.ファリーナ/パバーヌ、ビバルディ/シンフォニア.他

アドリアン・シェファード指揮カンティレンナ

英シャンドス  ABR 1024

「カンティレンナは1971年、スコティッシュ・ナショナル菅の主要メンバー14人によって結成され、リーダーは同オケの主席チェリストであるシェファード。ルネッサンスからバロックの音楽を中心に演奏している。実際の演奏会同様、円陣形式の配置での録音。録音はムラがあるようで、全体としては繊細で三次元的な(音場の)広がりのあるいい録音だが、部分的には弦がきつくなったり、厚みが不足したりする。ファリーナの曲はSN比が悪く、音も良くない。なおマトリックス・スピーカーでは効果抜群。」

*注「1975年6月、グラスゴーのダリントバー・ホールでの録音。録音と制作はBrian Culverhouse 」
 
35−8

スペインのラ・フォリア

グレゴリオ・パニアグワ指揮アトリウム・ムジケー  

仏ハルモニア・ムンディ HM1050

「古代ギリシャでアッと言わせたパニアグワが、さらにワルノリしたという感じ。フォリアは16世紀スペインに起こった舞曲で、パニアグワは有名無名のフォリアを集大成、これを中世風から超現代ジャズ風まで、ヨーロッパ風からアラブ、インド風、ヤンキー風まで、フュージョンというか、コンフュージョンというか、楽器もお得意の古楽器のほかに、日本風カスタネット(拍子木?)、コニャックびんの爆発、芝刈り機、ランドローバと大ハッスル。やはり小鳥の声が入っており、古代ギリシャに負けぬ優秀録音盤。A面内周部にはアッと驚く仕掛けが入っている。パニアグワはビートたけし、アトリウム・ムジケは音楽ひょうきん族か」

*注「1980年6月の録音。エンジニアはJean-Francois Pontefract。ジャケットの画はゴヤ作。録音から四半世紀経っても未だにデジタルが凌駕できない超!優秀録音である。この頃、フジテレビで”おれたち、ひょうきん族”というギャグ・バラエティが話題を呼んでいたのだ。」
35−9

バルトーク/弦楽四重奏曲 第1.2番

ヴェーグ弦楽四重奏団          

仏アストレ  AS67

長「1972年4月、スイス、ラ・ショー・ド・フォン音楽劇場での録音。AS68.69には第3−6番が入っていてれで全曲。ハンガリーの弦楽四重奏団だけに、バルトークは手慣れた感じで伸び伸びと演奏。スペアナで見る限り弦楽四重奏団としてはfレンジ、Dレンジとも広い感じだが、決してどぎつい音ではなく、わりとオフマイクで、穏やかだが芯のあるサウンド。ノコ(ノコギリ)の目立ての感じは全くなく、ピアニシモが綺麗で雰囲気がある。音像の形も定位も自然である。」

*注「エンジニアはジョルジュ・キスロフ、彼はカリオペでも録音を担当していた。ワンポイントマイク録音であろう。ヴェーグ弦楽四重奏団は全員がストラディバリウスの名器を使用している唯一と言っていい弦楽四重奏団。ジャケット写真のバルトークのポートレイトは本人よりシャンドール・ヴェーグにサイン入りで献呈されたもの。作曲家直伝の歴史的名演奏の名録音である。ヴェーグは同レーベルにバルトーク弦楽四重奏曲 第1−6番、3枚に分けて全集録音をしていた。初版はヴァロワから出て、テレフンケンから独プレスの全集(6.35023 3枚組み箱入り)も出ていた。ジャケット写真は、3.4番を収めたAS68であるが、デザインは同じ。」
 
35−10

J・フランセ/ワーイ、パリだ。

ピエルネ&リヴィエ/サックス四重奏団.ネーザーランド・サックス四重奏団

米ノンサッチ H−71402

「1979年オランダ、ハールレム市での録音。フランセのオペラ・コミック。”パリ、われら二人”、”新ラスティニャック”、”パリだ、俺は来たんだ”と3つもタイトルがついていて何だかわからない。パリの田舎者という感じだろう。ソロはS.Ms.T.Br、各一人、B二人の6人。かなりオンマイクだが、声に力があり、鮮明で定位も良い。雰囲気もある。少し距離を取って聴くと素晴らしいんじゃないかと思う。美しい曲だ。B面はサックス四重奏でピエルネ、フランセ、リヴィエの三人の6〜8分の小曲ばかり3曲。S.A.T.Brのサックスが使われる。これも録音はなかなかいい。輪郭鮮明で艶があり定位も良い。ジャズのサックスの音に近い感じだ。」
 
35−11

シューベルト/ピアノ五重奏曲「鱒」

Pf:H・メジモレック、Vla:A・アラッド、Cb:L・シュトライヒャー、ハイドン・トリオ

独テレフンケン 6.42695AZ

「デジタル録音、DMM。DMMの良さはSN比、力感、切れ込み、余韻といったところにあるようだが、一方、本当の繊細感やハートまで感じさせる雰囲気はやや不足、非人間的な冷酷さを感じさせる時がある。DMMのキャラクターなのか、デジタルのキャラクターなのかよくわからない。この録音はバランスが良く、オン過ぎず、オフ過ぎず、厚みがあって良い。コントラバスもしっかりと力強くなるが出しゃばらず、ピアノもコロコロとよく鳴るが、どぎつさがなくナチュラル。ホールエコーがもう少し欲しい感じだ。」
35−12

クーラウ、チェレプニン、ボサ、ベルトミュー/フルート四重奏曲集
  

クーラウ四重奏団

独テレフンケン 6.42708 AZ

「デジタル録音.DMM。クーラウ四重奏団のメンバーは、デンマークの若いフルート奏者で、いずれもデンマーク王立音楽院のポウル・ビルケント教授の門下生。これまでに、モイーズ、ラリュー、ゴールウェイ、ランパル、デボストらの巨匠の指導を受けている。クーラウ以外の曲は現代曲で、なじみは薄いが、聴いてみると意外と耳あたりはよく、マイクはオンに過ぎず、オフに過ぎず、バランス良くハモっている。音像はナチュラルで楽器のサイズが判る。定位もナチュラルで誇張感がない。」
 
35−13

J.S・バッハ/リュート組曲BWV996.D・スカルラッティ/ソナタ5曲

ギター独奏:バルタザール・ベニテス

米ノンサッチ H−71404

「1978年10月、オランダ、オイルショットのバーテルス・モンフォルタネン修道院。1981年7月オランダ、ハールレムのリュテルゼ・カークで録音。ベニテスはウルグアイ生まれ、12歳でギターを習い、1970年にはサンティアゴ・デ・コンポステラでセゴビアに学び、翌年同地の国際ギター・コンペ、1973年ベニカシムでのタレルガ・コンペで1位。特にA面のバッハが良い。実にシャープで力強く、輪郭鮮明、鼻息が入っているが、うるさいほどではない、歪み感ゼロ、ボンツキなし。締まりがよく、芯があって、しかも豊かで厚みがあり、柔らかさもある。優秀録音盤だ。」
 
   
35−14

バロックのギター音楽:J.S・バッハ/リュート組曲第2番パルティータ BWV997.パーセル(ボネル編曲)/フェアリー・クィーン他

ギター独奏:カルロス・ボネル

米ノンサッチ H−71403

「ボネルは1949年生まれのイギリスのギタリスト。かなりオフマイクなのではないかと思うが、ローブースト、ハイカットの感じで、図太い、分厚いサウンドが特徴。しかし、音像はむしろベニテスより小さい。ベニテスの方は鼻息が少しはいるが、こちらにはそれが全然ない。雰囲気もあり、落ち着いて聴けるサウンドだが、筆者個人としてはベニテスの方を買う。立ち会った編集者二人の場合は意見が分かれた。好みによってどれもよく、二枚買って損はしない。」
 
35−15

サティ/シネマ:バレエ「本日休演」の交響的幕間、サルの王を目覚めさせるラッパ、家具の音楽:第1曲「県知事の私室の壁紙」、第2曲「錬鉄の綴れ織り(タペストリー)」、第3曲「音のタイル張り舗道」、ヴェクサシオン

Pf:ミシェル・ダルベルト、マリウス・コンスタン指揮アルス・ノヴァ、他

仏エラート STU−71336

「サティの曲は人を喰ったタイトルが多い。休演(ルラーシュ)はインスタント派のバレエ、ルネ・クレールの映画”幕間”、ピカビアの詩”犬のしっぽ”、ピカビアのセット、ポーランの振り付け、それにサティの音楽という、ダダイズムのひょうきん族的バカ騒ぎで、アッといわせるはずだったが、失敗らしい。とにかく音楽は残った。他の三曲のうち、サルの王・・・・はトランペット二重奏。『ヴェクサシオン(しゃくにさわること)』はピアノである。A面の休演が面白い。音場はそう広くはないが、細かい音がよく入っており、ホールエコーもきれい。B面は少しホコリっぽいが、繊細で距離感がある。」

*注「1980年1月レバノン・ノートルダム教会(在パリ)での録音。E(録音):Pierre Lavoix。このホールは名録音が生まれた場所として有名だが、その後、近代建築に改築されたため、今ではもう録音場所としては使われなくなったようだ。『続々レコード漫談』203頁、参照。ここでは『録音は優秀である』と書かれてある。」
 
35−16

ゴールデン・レイン/バリ島のガメラン音楽とケチャ

録音:デビット・ルイストン

「録音は1960年代末が70年代初めだろう。A面はガメランで、ちゃんと作曲者がいる。1曲目はグド・ラナが60年代に作曲したゴールデン・レイン、2曲目はイ・マリオが1951年に作曲したバンブルビー(まるはな蜂)、バンブルビーの方が面白い。民族音楽といっても高度のテクニックを要する本格的な音楽だ。重々しいゴングの音もいいが、右上方に絶えずさえずる小鳥の声が楽しい。B面はケチャ。これは超人的なテクニックを必要とする音楽劇で、芸能山城組のおかげで、日本でも知られるようになった。宮廷の庭園での演奏。草むらで虫の声しきり。本物のケチャの迫力はさすがで、野外録音だけにデッドだが、地声の鋭さや距離感はよく出ている。」

*注「”レコード漫談”160頁、参照。」
35−17

ロマンチック・ハンガリアン・ギター音楽

G:ダニエル・ベンコ

独テレフンケン 6.42809AZ

「デジタル録音.DMM。ベンコは15歳でギターを始め、最初はポップスだったが、次第にクラシックに惹かれるようになり、リュートから、オルファリオン、ヴィウエーラといった古楽器(いずれもリュート属)にまで手を伸ばす。しかし本人は、自分はビート派から入ったポップ・ミュージシャンだといっている。このレコードに入っている曲はハンガリーの作曲家のものか、ハンガリーに関係のある19世紀の曲のみ。録音はバウマンのチェロに似ており、SN比がより強く、厚みがあり、切れもよいが、鋭い感じはなく、余韻も綺麗だ。音場は感じられないが、空間が感じられるから面白い。鼻息がやはり気になる。」
 
35−18

ジャン・バラケ/ピアノ・ソナタ 1950−1952

Pf:クロード・エルファー

仏アストレ AS36

「バラケの曲は前にも紹介したことがある。日本での知名度は低いが、フランスでは名士らしい。先入観なしに聴いてみて、なかなかいい曲だと思う。演奏もいい。アストレの録音はワンポイントが基本だからこれもそうだろう。弦すれすれにまでマイクを突っ込んでジンジンとした音を録るタイプではないが、といっても決してボケたソフトタッチの音ではない。切れ込みも良く、ダイナミックで、空気感が見事。余韻、ホールトーンが自然で、雰囲気たっぷり。カミソリで切れ込んでくる感じではないが、細かい音もよく拾っており、いい録音である。」

*注「1969年7月12〜14日コペンハーゲンでの録音。」
35−19

ショパン/ワルツ集

Pf:シプリアン・カツァリス 独テレフンケン 6.42706

「アナログ録音のDMMである。演奏の善し悪しはその方面の専門家に任せるとして、大変安心感のもてる演奏である。録音もギンギンに突っ張ったタイプではなく、わりと自然に録られてバランスがよい。スペアナで見るとレンジが狭いように見えるが、これが本来のピアノの音であるし、またショパンの曲は概して中高域にウェイトが置かれているから、ローエンドでポンポンくるというのは少ない。音像もわりと小さくセンターにまとまっており、怪物ピアノにはなっていない。ただSN比はあまりよくない。DMMのおかげでテープのS/Nがもろに出てしまったのか、ノイズのブーレージングよくわかって感じはよくない」

   
35−20

カンプラ/歌劇「タンクレード」抜粋

S:カテリーヌ・デュッソー、アルマン・アラビアン、ジャック・ボナ
クレマン・ザフィニ指揮プロヴァンス楽器アンサンブル ほか

仏 ピエール・ヴェラニィ PV−811

「プロローグと五幕からなるオペラより抜粋。珍しいレーベル、珍しい曲ということで取り上げた。原典はタッソーの長編詩”解放されたエルサレム”で、モンテヴェルディの”タンクレディとクロリンダの戦い”もこの詩からとっているが、(引用した)場所が違うので登場人物も共通しているのはタンクレディだけ。透明度、切れ込み、繊細感はもうひとつだが、素朴な力強さがあり、雰囲気も出ている。A面四曲目のエルミニ(ソプラノ:C・デュッソー)のアリアのピアニッシモの美しさは独特。音像、音場も自然でなかなか良い。」

*注「アンドレ・カンプラ(1660〜1744)はリュリ、ラモーと並ぶフランスの歌劇の作曲家。モンテヴェルディの”タンクレディとクロリンダの戦い”外セレ.1巻−9、参照。」
 
35−21

バッカスの音楽

ラディスラフ・ホラセク指揮スロヴァーク・マドリガル・アンサンブル&室内管弦楽団

米 エベレスト SDBR−3318

「原盤はプラハのARTIA(スプラフォン)レーベル、S−4686だ。録音年代は不明だが、場所はブラスティラバのプロテスタント教会。原曲はヨゼフ・ロスコフスキー(1734〜89)自筆の”夕べのバッカナール”。これは1966年に発見されたもので、ソロとコーラスとハープシコードによる曲だが、作曲ではなくチェコ・バロック風の戯れ歌やパロディのコレクション。これを更に新しく拡大編曲しての演奏。四人のソリスト、コーラス、伴奏のバランスが良く、声は鮮度が高く綺麗だ。音場はまあまあ、全体にもう少し肉付きとツヤがあるといいが、トータルではなかなか良い録音といえる。」

*注「”続レコード漫談”60頁.参照。」
                 

35−22

ウォルトン/歌劇「熊」

S:ダフネ・ハリス、Br:グレゴリー・ユリシック、B:ノエル・マンギン

ヴァンコ・カウダルスキー指揮メルボルン管弦楽団

英シヤンドス ABR−1052

「録音は1977年オーストラリア放送のメルボルン・スタジオ。チェホフの一幕物の喜劇からポール・デーンとウォルトンが構成したオペラである。原作は昔読んだことがあるが、なかなか面白いものだ。かなりオン・マイクの録音だが、マルチ・マイクにありがちな汚さ、薄っぺらさは全くない。シャープで繊細で、細かい音がよく入っており、SN比も良い。輪郭鮮明、繊細でリアルの極致だが、それでいて音にツヤがあり、ホールエコーもきれいに入っている。ただ、あまりに音が近く、指揮台で聴く感じなので、広い部屋で、距離を取って聴きたい。」
35−23

ラベル/歌劇「子供と呪文」

S;アーリン・オージェ,アンドレ・プレビン指揮ロンドン交響楽団、合唱団,他  

独EMI 1C067−43 169

「6,7歳のイタズラ小僧が、ソファや時計やティーポット、猫、トンボ、蛙、火などの妖精にいじめられるおとぎ話のオペラ。曲も良いが、演奏もいい。そして録音が素晴らしい。スペアナで見てもfレンジ、Dレンジの広さはわかる。超低域は量的にはやや不足だが、ちゃんと入っている。鮮烈で繊細で歪み感が少なく、透明で、エネルギッシュで、厚みがあり、声が力強く、ツヤがあり、ソプラノがffでも全く歪みっぽさがない。オケとコーラスのトゥッティでもびくともしないのには感心した。音像も小さく、奥行きがよく出るが、左右と高さの三次元的音場感はもうひとつだ。」

*注「”続レコード漫談”181頁.参照。」
 
35−24

モンテベルディ/ 歌劇「オルフェオ」

フィリップ・フッテンロッハー、ラケル・ヤカール、

ニコラウス・アルノンクール指揮 チューリッヒ・オペラハウス・モンテベルディ・アンサンブルほか

独テレフンケン6.35591FK 2枚組み箱入り

「オリジナルTVサウンドトラック版という珍しいもので、Unitel Film & TV productionとあるが、ビデオなのかフィルムなのか、よくわからない。紹介する二作のほかに(歌劇)”ウリッセ”も出ている。オルフェオはフッテンロッハー、エウリディーチェはヤカールが歌っている。TVを意識してかどうか、テンポの速い縮刷版の感じで、二枚に(普通は三枚)に納まっている。fレンジも少し狭い感じだが、楽器の編成からして、そうワイドレンジになるはずもない。音は中域がしっかりしているせいか、きめが細かく透明で切れがよく、ヤカールの声も実に綺麗だ。もう少し演奏者の遠近感が欲しいが、ホールエコーの消えていく感じはいい。」

*注「”続レコード漫談”161頁参照。同じ音源によるLD:レーザーディスクが出ていた。”ディスク漫談”162頁参照。」
35−25

モンテベルディ 歌劇「ポッペアの戴冠」

ニコラウス・アルノンクール指揮 チューリッヒ・オペラハウス・モンテベルディ・アンサンブルほか

独テレフンケン6.35563 3LPs  3枚組み箱入り

「オルフェオと同じくオリジナルTVサウンドトラック版三枚組。音は独特だ。まずSN比がすごくいい、良すぎて、さっぱりしすぎて、雰囲気不足の感さえある。オケもボーカルも実に美しく繊細で透明で、特に声が綺麗だ。ハープシコードも繊細でいい。ホールエコーも素晴らしい。ただ、全体に繊細すぎて細身の感じがする。音像は小さく引き締まっているが、音場の高さまでは出にくい。オルフェオと似ているのは当然だが、録音はこっちの方がいいと思う。」

*注「”続レコード漫談”14頁と162頁参照。アナログ録音である。アルノンクールの再録音、前の録音から10年も隔たっていない。旧版は同じくテレフンケンで5枚組、そのせいか音にゆとりと厚みがあり、個人的には、この録音より優れていると思う。」
35−26

歌の谷

アーネスト・トムリンソン指揮ローゼンデール男声合唱団

英シヤンドス ABR−1023

「トムリンソンは著名な作曲家兼指揮者だそうだ。コーラスは1924年の創設で、53年間指揮を執っていたフレッド・トムリンソンは引退して以来、息子が後を継いでいる。歌は民謡やポピュラー名曲中心で17曲。たとえばフリムルのドンキー・セレナーデ、ビートルズのイェスタディも入っている。ピアノ、パーカッション、ピッコロ、バス・ギター、バイオリンの伴奏つき。コーラスを一人一人分解するタイプではなく、全体像としてとらえ、大波のようにうねりながら押し寄せてくるかと思うと、サーッと引いていく。広がり、厚み、奥行き感、雰囲気が実にいい。」

*注「1980年7月4.5日、クロウショウブースの聖ヨハネ教会での録音。”続々レコード漫談”29頁、参照。」
 
35−27

プーランク/カンタータ「人の顔」、クリスマスの4つのモテット、サルヴェ・レジナ、アッシジの聖フランシスコの四つの小さな祈り

エレーヌ・ギュイ指揮プロヴァンス合唱団

仏 ピエール・ヴェラニィ PV−2811

「フランス・ディスク・アカデミーのグランプリと、ディアパゾン・ドール受賞。録音データはないが、ジャケット撮影は1981年。ピカソの”泣く女”だ。A面はカンタータ”人の顔”はエリュアールの詩からとったもので、1943年夏ドイツ占領下のフランスで作曲。オフマイクで、ワンポイントに近い録音ではないか。ひとりひとり鮮明に録るというやり方ではなく、トータルサウンドとして、ホールエコーをたっぷり取り入れて厚みのある音と奥行き深い音場を作り上げている。透明度、分解能はやや不足。少しホコリっぽい代わりに、演奏会場の汚れた空気を実感できる。」
 
35−28

乞食オペラ(オリジナル版)

S:パトリツィア・クヴェルラ、T:パウル・エリオット

ジェレミー・バーロウ指揮ブロード・サイド・バンド 

仏ハルモニアムンディ.HM1071

「バーロウを含めて四人で13種類の楽器を操る。18世紀初めには色々な乞食オペラがあった。いずれも当時の民謡やポピュラーソングをつなぎ合わせたオペラ形式にしたもの。その中では、ジョン・ゲイのまとめたものが有名で、これから三文オペラや、本誌33号で紹介した最新盤(R・ボニング指揮、英デッカD252D2.録音については低評価)の乞食オペラも出てきているが、このレコードは当時の乞食オペラの元歌を原曲のまま紹介しているもの。器楽も歌もいい。声に厚みと力があり、自然なホールエコーがたっぷり。ツヤと響き、透明感、音場感、空気感が素晴らしい。優秀録音盤だが、曲そのものには退屈するかもしれない。」

*「1981年5月の録音。エンジニアはJean-Francois Pontefract。クヴェルラはネルソンやカークビー同様、美貌、美声のソプラノ、しかも彼女らと同じく優秀録音が多い。」
 

       
FMfan別冊1982年.冬号 No.36    
36−1

ベルリオーズ/幻想交響曲

ロリン・マゼール指揮クリーブランド管弦楽団

米 Telark  DG−10076

「最近のテラークはロクなものがないので、これも全く期待していなかったのだが、出てきた音にビックリ。これぞ名録音”春の祭典”の再現ではないか、よく考えてみれば演奏も録音条件もプレスも”春の祭典”と同じだ。なるほど、こういうところで音が決まるのか。演奏は多少誇張した感じがなくもないが、音は強烈無比、厚く、重く、しかもスピード感あり、繊細で奥が深く、オフマイクにもかかわらずブラスもの、ピチカートも鮮烈。第一級の優秀録音盤だ。」

*注「1982年5月10日、クリーブランド・セヴィアランス・ホールでのデジタル録音。マイクはショップス・コレット・シリーズ。トランス、リミッター、イコライザーなど一切使用せず。 ”レコード漫談”131頁.参照。第5楽章の鐘はホールから400メートル離れた教会の2個の鐘にマイクを立て、450メートルのマイクケーブルでホールの音響室のミキサーでオケと同時録音したが、長いケーブルがたたってか、こっちの方は余り効果はなかったようだ。」 
       
36−2

ドリーブス/バレエ曲「コッペリア」全曲

エルネスト・アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団

独デッカ 6.35146DX 2枚組み.箱入り

「2枚組みで1959年という古いもの。解説にはc1974年になっているから、プレスは、その頃かもしれない。1950年代、1960年代のアンセルメには定評があるが、これもそのひとつ。ショルティの”指環”なんかもそうだが、初期のステレオ録音には、最近になってようやく真価を発揮し始めたというものが少なくない。つまり、当時の再生システムに対しては極度にオーバークオリティだったということである。曲と演奏については今更説明の要はないので省略。録音はアンセルメらしい鮮烈で壮大なもの。レンジが広く、ややハイ上がりだが情報量が極めて大、歪み感も少なく、音像も小さく定位鮮明、音場も広い。ホールエコーも少なめだがちゃんと入っている。優秀録音盤。」

*注「以上のように長岡先生は最大級の賛辞をされている。私は英盤も聴いたが、個人的には良くも悪くも最小限のミキシングと真空管アンプを通したステレオ初期の録音と感じた。デッカは1970年代に同曲をリチャード・ボニングの指揮で同じオケで録音したが、私にはボニング盤の方が鮮明に聴こえる。ただボニングは実際のバレエのステージの経験が無く、ベテラン、アンセルメの方が音楽としては本格派だろう。この録音は管球式の再生アンプで真価を発揮するものと想われる。国内版輸入メタル原盤プレスは キング GT 9199/9200」
36−3

デビット・デル・トレディチ/ファイナル・アリス

S:バーバラ・ヘンドリックス.G・ショルティ指揮シカゴ交響楽団

英デッカ SXDL−7516

「シカゴ・メディナ教会でのデジタル録音。ソプラノ・サックス、マンドリン、テナー・バンジョー、アコーディオンのフォーク・インストゥルメント・グループが加わる。トレディチは1980年にピュリツァー賞を受けたアメリカの第一線の作曲家。ルイス・キャロルの”不思議の国のアリス”と”鏡を抜けて”にウィリアム・ミーの”アリス・グレイ”をミックスした、ナレーションとアリアとオケという構成。1976年の初演ではナレーションとフォーク・インストゥルメントはPAでガンガン流したそうだから、もともとオーディオ向き。声が絶妙に良く、フォークもオケも鮮烈、透明、音像定位、奥行きも素晴らしく、第一級の優秀録音盤だ。曲もいい。推奨盤。」

*注「”ディスク漫談”51頁、参照。国内版,輸入メタル原盤プレスは日本ロンドン L28C−1533。」

36−4

モーッアルト/バイオリン協奏曲 第2.4番

Vn;アンネ・ゾフィ・ムター、R・ムーティ指揮フィルハーモニア管弦楽団

独EMI 067 43 229

「録音は1981年11月。デジタル録音のDMMである。DMMでないものも出ているはずで、ジャケットのDMMのマークが目安。SN比がよく、透明度の高い録音だ。一音一音がハッキリ録れており分離がよい。ムターのバイオリンも非常に綺麗な音で録れており、鮮度は高いが歪み感はない。ただ三次元的ステレオとして聴こうとすると不満が出てくる。まずバイオリンとオケの距離感が不足。バイオリンの音像は拡大はしていないが、不安定で、バイオリンのサイズやや大きさが変化したり不自然な移動感が見られたりする。オケも本来の配置から前後左右に圧縮された感じで、広い部屋でスピーカーの感覚をぐんと広げて聴くといいだろう。」


*注「長岡先生は、音場感に不満を呈されているが、名手ムターの録音で透明度と鮮度が高く歪み感がなければ音楽ソフトとして十分推薦モノであろう。」
 
    
36−5

ミトマニア/魔女,妖精,水の精,魔法使い,悪霊

ベーレン・ゲスリン  

独ハルモニア・ムンディ069 99948T

「録音はブランジンゲンの聖ペテロ教会。(ベーレン・ゲスリンは)四人で古楽器を演奏して歌う。ジャケットが凄い、というよりもったいない。1枚ずつ立派なジャケットになりうる悪魔的サイケな油絵を12枚並べて、ミニチュア美術展の感じ。ワンポイントマイク録音と想うが、リュート、マンドリン、ガンバ、フルート、実に見事。パーカッションもオフだがリアルで力強く、ボーカル、特に男声の朗々たる響きは絶品。男女のデュオも良く、顔かたちが見えてくるような録音。コーラスはちょっと荒れる個所もあるが、曲も変わっているし、推奨盤のひとつだ。」


*注「デジタル録音、DMM。ジャケットは渋沢龍彦の文学の世界を想起させる。パニアグワのレコードとともに、優れた録音と奇抜な音楽で、当時、話題になっていた。国内版.輸入メタル原盤プレスはテイチク KUX−3248−H。」
36−6

ダブル・ベースとギターの音楽

Cb:デニス・ミルヌ、G:デビット・ラッセル

英パール SHE 569

「1978年12月7日ロンドンでの録音。ダブルベース(コントラバス)は1688年アマーティ、ギターは1975年のラミレス。ミルヌについては、コリン・デービスとゲーリー・カーの推薦文みたいなものがついている。ラッセルについてはバンクーバ・サンという地方誌の紹介と、セゴビアの簡単な賛辞みたいなものがついている。曲はエックレス、ハイドン、グラナドス、パガニーニ、ファリャなどの作品計7曲。オフのワンポイントマイク録音かと思うが、バランス的にギターが弱く、スペアナで見てもすごいハイ落ち。SN比もよくない。しかし、強調感、誇張感がまったくなく、音像、音場のまとまりもよく、よくも悪くもシロウト録音の味である。」


*注「筆者、未聴。コントラバスは17世紀製のニコロ・アマティとしたら、かなりの銘器である。それだけでも聴く価値あり。」
 
   
36−7

ベートーベン/ピアノ・ソナタ・全集 VOL2

フォルテ・ピアノ:マルコム・ビンス

英オワゾリール D−183D3

「当時を再現するフォルテピアノによる演奏である。ピアノはマテウス・アンドレアス・シュタインの1802年物と、オッフェンバッハのハイルマンの1800年物が使われている。ペダル無し。ニーレバー付きというもの。曲は8番から15番まで8曲、3枚組。ポピュラーな曲(悲愴、葬送、月光、田園、を含む)が入っており、VOL1より一般向き。とにかく古いピアノなので音は独特だ。古いピアノをコピーした新品を使うとかなりキンキンした音になるのだが、こちらは本当に古い物なので低音が弛んでややボンついたような感じ。それにスピネット、あるいはハープシコード風の高音と一味違ったベートーベンになっている。録音はごく自然でいい。」


*注「ノンサッチにフォルテピアノを録音しているマルコム・ビルソンと名前が似ているが別人。”一味違ったベートーベン”というより、こちらがオリジナルのベートーベンである。音量が大きく音域の広い近代のピアノはベートーベンの時代には存在しなかった。」
 
   
36−8

ラモー/ハープシコード曲集 第二組曲

Cemb:トレバー・ピノック

英crd CRD−1020

「オクソン・スウインコームの聖ボトルフ教会での、ピノック自身による録音。ラモー/ハープシコード全集の第2巻に当たる。ハープシコードは1745年デュルケン製のコピーで、1972年クレイソン&ガレット製。薄暗い教会堂の中で、自分でマイクセッティングまでやって、自分一人で弾いているという感じだろうか。実に静かで、しかも広さと雰囲気があり、芯のある力強く、よく伸びる音、輪郭鮮明で一音一音が明確に聴き分けられて、しかもよくハモってひとつの音楽を作り上げている。わりと大型のハープシコードで、教会堂の音響特性もあってか、低域はかなりの量感があり、ハイエンドも伸びているが、イコライジングした伸ばし方ではない。」

*注「c1975年となっているが録音年月日不詳。バランス・エンジニアとして例の通りBob Augerの名も出ている。」
36−9

ラベル/歌曲「シェラザード」「五つのギリシャ民謡」から二曲、「二つのヘブライの歌」「マダガスカル島土民の歌」

S:フレデリカ・フォン・シュターデ、小沢 征爾 指揮ボストン交響楽団

米CBS 36665

「録音は1979、80年。デジタル録音。アッと驚かせるようなデジタル臭さはなく、さりげない録音で、ボーカルもナチュラルで聴きやすく、オケも厚みと広がりがあり、ホールエコーも弱いが、ちゃんと入っている。音像の輪郭は、これ見よがしの鮮明さはないが、近距離で聴いてもどぎつさがなく、音場の広がり、奥行きもある方だ。(*)チャイコフスキーのバイオリン協奏曲の小沢とはずいぶん違う。アメリカ盤で盤質がイマイチ。」


*注「長岡氏は、この号で、スピヴァコフ独奏の英EMI盤を”いかにもマルチマイク的な雰囲気のない録音だ”と批判していた。」
36−10

カンターテ・ドミノ

Org:アルフ・リンダー,S:マリアンヌ・メルネス,

トルステン・ニルソン指揮オスカルス・モテット・コーラス 

スェーデンPROPRIUS PROP7762

「1976年1月23〜5日、4月29日ストックホルムのオスカル教会での録音。要するにクリスマス音楽集である。カンターテ・ドミノはエンリコ・ボッシ(1861〜1925)の作曲で、他に17〜20世紀の各国の小品を取り上げている。ヘンデルもあればグルーバーの聖夜もあり、A面最後のララバイという曲は実は朝鮮のアリランの歌であり、B面の最後はバーリンのホワイト・クリスマス。めちゃくちゃのようだが、演奏スタイルは一貫しており、違和感はない。オフマイクの音場録音で、SN比、透明感はイマイチだが、奥行き感は凄い。ソロのエコーも実によく伸びる。」


*注「”続レコード漫談”226頁.参照。全世界でベストセラーになった有名なレコード。金田アンプ試聴会でも使用されたことがある。」
36−11

ザ・シェフィールド/トラック・レコード

Key:ジェームス・ニュートン・ハワード、Per;レニー・カストロ、G:マイク・ランダウ、Ds:カルロス・ヴェガ

米シェフィールド   Lab−20

「1982年5月22日、カリフォルニア、カルバー市、MGMシェーフィールド・ラボ・スタジオでのダイレクト・カッティング。このレコードの狙いはロック・インストゥルメントによるテスト・レコードということであって、音質最優先、ローエンドまで一切圧縮せずに十分な余裕をとってカッティングしてあるので、A面2曲計8分20秒、B面も2曲7分35秒しか入っていない。曲はあまり面白いとは思えないが、さすがに音は立派。もの凄いエネルギーと生々しさを持ち、音場の奥行き感もわりとある。アーム、カートリッジを選ぶ。」
 
     
FMfan別冊1983年.春号 No.37   
37−1

サンサーンス/交響曲第3番.オルガン付き

ロリス・チェクナボォリアン指揮ロイヤル・リバプール・フィル

米CHALFONT  SDG−312

「1980年3月19日、リバプール・カテドラルで、サウンドストリーム・システムを使ってのデジタル録音。マイクについては記載はないが、8本は使っているようだ。演奏はなかなか盛り上げ方がうまい。録音はスペアナでもわかるように、fレンジ、Dレンジとも広く、壮絶。情報量が多く、エネルギーもある。特に低域は、さすがでもりもりと出てくる。高域は明るく華やか、やや硬質で、現が突き刺さる感じになる時もある。音場は広く深いが、カテドラルの恐ろしく高い天井の感じが、ちょっと出にくい。同曲のテラーク盤(外セレ2巻190.オーマンディ盤)とはバランスが違う。比較してみたが、50Hz以下はテラークが5〜8dB高く、6kHz以上はシャルフォンが3〜7dB高かった。」


*注「チェクナボォリアンは珍しく中東系アルメニア出身の指揮者、この当時、売り出し中の話題の新人だったが、さほど大成せず現在も地味に活動中。」
 
  
  
37−2

ショスタコービッチ/交響曲第5番・革命

ベルナルト・ハィティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団  

英デッカ SXDL7551

「この曲もレコードは多いが、これはなかなか味のある録音だ。演奏はエネルギッシュだが、ドライにならず、ロマンチックに聴かせる良さがある。音はレンジは広いが、バランスとしては中高域寄り、というよりかなりハイ上がりで、鮮烈、壮烈だが、歪み感は全くないのは見事。情報量が多く、バイオリンの弦の一本一本が見えるような繊細な切れ込みは素晴らしい。ホールエコーもたっぷり入っており、響きが実に良い。各楽器の定位も良く、音場も広く奥行きが深い。ただ全体としては厚みと豊かさが不足。テラーク盤やバーンスタインのCBSコロムビア盤とと比較してみたが、低音から超低音が10〜15dB低かった。」


*注「1981年、コンセルトヘボウでのデジタル録音。ハイティンクは、デッカにショスタコービッチの交響曲全集を録音していた。4、10,15番がアナログ録音で、他はデジタル録音。」
 
37−3

クセナキス/メタスシス.ピトプラクタ.*エオンタ

モーリス・ルルー指揮フランス国立放送管弦楽団

Pf:高橋悠治、K・シモーノフ指揮パリ現代音楽器楽アンサンブル

米CARDINAL VCS-10030

「CARDINALシリーズはVANGUARDの廉価版で、現代音楽の初録音が中心、といっても1960年代の話。このレコードもc1967年である。B面の曲は”エオンタ”、Pf:高橋悠治、K・シモーノフ指揮パリ現代音楽器楽アンサンブルの演奏。こちらは音が悪い。A面の”メタスシス”、”ピチプラクタ”が超ハイファイ録音である。fレンジ、Dレンジ広大、スペアナではローエンド、だら下がりに見えるが、”メタスシス”のppでは中域と超低域が同レベルで出ており、空気感が凄い。ffでは高域が壮絶で、大変なハイレベル・カッティングだが、これっぽっちも崩れず歪まず鮮烈の極み、分解能最高、細かい動きが実によく判り、奥行きも特に深い。20年経っても、これに追いつけない!」


*注「クセナキス:IANNIS XENAKIS(1922〜2001)はギリシャの作曲家、建築家、エンジニア。」
 
  
37−4

ビリヤンシーコ/古楽追想

グレゴリオ・パニアグワ指揮アトリウム・ムジケー

仏ハルモニア・ムンディ HM1025

「VILLANCICOSの語源はVILLA(田舎の別荘)やVILLAGE(村)と同じで、田舎歌、田園歌のこと。スペインでビリヤンシーコ、他の国でも似たような名前で呼ばれていた。15〜16世紀の作品で、ルイス・ミラン、ファン・デル等、といつた作者の判っているもの、作者不明のもの、とりまぜて24曲。一聴してパニアグワと判る独特のサウンドだ。fレンジ、Dレンジ広大、情報量大、高分解能、立ち上がり、余韻、ホールエコー、ツヤ、厚み、力感、何をとっても最高。音像はリアルの極致、音場は三次元的に無限。今回のbP!!。」


*注「1979年の録音。エンジニアはJean-Francois Pontefract。国内版は、スペイン音楽研究家で碩学者の浜田滋郎さんが解説を担当、その”古楽追想”の邦訳を使わせて頂いた。A面冒頭、太鼓が奥の方から近寄ってくる遠近感と移動感は本当にリアル。友人に聴かせたら余りの生々しい実在感に呆れ果てて笑い出したほど。音楽も古代ギリシャやラ・フォリアよりは親しみ易くマニア必聴盤!!デジタル録音で、これだけリアルに再現できるソースがあるだろうか?」
  
37−5

ジェンキンスのコンソート・ミュージック

ピーター・ホルマン指揮アルス・ノヴァ

英MERIDIAN E−77020

「フランスのアルス・ノヴァとは別物。ホルンを含めて6人で、Vn2、Vla、Vc、バス・ヴィオル、テオルブ、室内オルガン、各1、随時持ち替えて演奏、軽快な曲だ。ジェンキンスは1592〜1678年のイギリスの作曲家。コンソートは小編成の弦楽合奏。MERIDIANとしては珍しくSN比の良い鮮烈な録音。バロック・バイオリン独特な鋭さはあるが歪みっぽくはない。低弦は少しボーボーと鳴る。明るく切れ込みのよい音だが雰囲気があり、音場感、特に前後感がよい。楽器の定位が動くが、奏者の体の動きの再現か。」

*注「1978年8月1.2日、ロンドン、エルサム・カレッジで録音。マイクはAKG C−24,デッキはナグラWS、テープはアグファPER−525。ワンポイントマイク録音である。MERIDIANはオーディオ・メーカーでアンプも出している。」
 
  
37−6

カフェハウスの音楽/レハール:オペレッタ「パガニーニ」より、カールマン、レオンカバルロ、クライスラー、エルガーの作品

ケルン室内オーケストラ

独ハルモニアムンディ 067 199 947

「10人のメンバーで、弦とクラリネット、打楽器、ピアノ、リードオルガンを演奏。本来、BGMのはずだろうが、鮮烈、壮烈で緊張感の強い録音になっている。一聴して硬質でハイ上がりのサウンドだが、情報量が多く、分解能大。透明でシャープで、歪みっぽさはなく、ヒステリックにもメタリックにもならない。レーザーガンで切り裂くような裂くような爽快感がある。音像定位はは全面整列型、音場感、特に奥行く不足。同じ演奏者のサロン音楽(独ハルモニアムンディ 067 99 946)はまた音が違う。」


*「デジタル録音。外セレ2巻143.144のサロン音楽のシリーズもののようだ。」
 
  
  
37−7

宮廷のトランペット合奏音楽

エドワルト・タール指揮、ベニト・エクルンド・バロック・アンサンブル

スェーデンBIS LP−217

「ナチュラル・トランペット24、トロンボーン4,ティンパニ、コントラバス、オルガン各1という編成で、曲によっては3人から25人で演奏する。SN比はもうひとつだが、楽音とノイズがハッキリ分離して聴こえるので透明度は十分ある。ややオフだが、ごくナチュラルな音で厚みと力強さがあり、分解能大、定位も良く、ホールエコーが美しく、広がり、奥行き感、見事。高分解能の(再生)装置で真価を発揮する録音。」


*注「1980年7月14/16日、エーテボリのヘルランダ教会での録音。マイクはナカミチCM−1000.2本、ルボックスA−77による2トラ38アナログ録音。テープはアグファPEM−468。独テレフンケンDMMプレス。エンジニアはFolk Holmqvist.、プロデューサーに演奏者のタールの名があり、BISの社長フォン・バール氏は現場に関わってないようだ。タールは名トランペット奏者、外セレ1巻61のBISをはじめ、ノンサッチ、エラートに多く録音しており、しかも優秀な録音が多い。カセットデッキ専業メーカーのナカミチのマイクとは珍しいが、具体的な仕様は不明だが、デッキ付属のローコストECM:エレクトレットコンデンサーマイクではないだろうか。」                                
 
  
  
37−8

ビバルディ、サンマルティーニ/リコーダー協奏曲、テレマン/組曲

ドロットニング・ホルム・バロック・アンサンブル

スェーデンBIS LP−210

「Vn5.Vla.Vc.Cb.Cemb.各1、それにリコーダー。ビバルディは作品10の3、ニ長調”五色鶸(ごしきひわ)”、これは面白い。ピッコロ相当のリコーダーがセンターにピシッと定位し、形が見える。ピッコロは一聴して小鳥のさえずりを思わせるメロディを吹く。弦が鮮烈に切れ込むが歪み感無し。鮮度、透明度、力感が見事。音像は実物大でソリッドでリアル。音場も実物大でジャケット裏の写真を見ると部屋は狭いが、その狭さまでリアルに再現されている。まさにマイクの位置に立って聴く感じの音だ。」


*注「1982年5.6月、ストックズンドのペトルス教会での録音。マイクはゼンハイザーMKH−105.2本、ルボックスA−77による2トラ38アナログ録音。テープはアグファPEM−468。独テレフンケンDMMプレス。」
 
  
37−9

パーシー・グレンジャーの音楽/岸辺のメモリー、リンカンシャーの花束、リスボン湾、フェロー島ダンス、デリー地方のアイルランド民謡、他全10数曲

J・ウェストブルック指揮UCLA管楽アンサンブル

米VARESE-SARAVAND  VCDM- 1000-50

「1980年1月4.5日、UCLAのロイスホールで、サウンドストリーム・システムによるデジタル録音。45回転盤。マイクはAKG414を3本。プレスは日本ビクター。グレンジャー(1887〜1961)はイギリス、プライトンの生まれ、後にアメリカ市民権獲得、耳あたりの良いポピュラー・ミュージックが中心。録音は超絶サウンドを狙ったものと思うが、確かにfレンジ、Dレンジ大。情報量も多く、音場も自然、オフマイクのピアニッシモの表現が大変いい。フォルテではむしろハイエンドが薄めになる。」 


*注「UCLAつまり南カリフォルニア大学、ロイスホールはデッカのメーター/ロスアンジェルスフィルの録音にも、よく使用される。マーラー第3も、ここで録音した。」
37−10

恐竜の午後/バスーンとピアノのための音楽/エルガー「ロマンス」、グノー「マリオネットの葬送行進曲」、イベール「カリナン」、ピエルネ「演奏会用独奏曲」、サンサーンス「ト長調ソナタ」、他の小品集

Bss:ローレンス・パーキンス,Pf:マイケル・ハンコック 

英hyperion A66054

「ジャケットのイラストは恐竜のシッポがバスーンになっているというふざけたもので、てっきり、イギリスのひょうきん族と思っていたら、中身は極めてオーソドックス、まじめに演奏している。バスーンは力強く、パタパタという指使いの音も自然な感じで入る。ピアノは出すぎず引っこみすぎず、芯のある音。音場は、広いが、奥行きは浅い。それもそのはず、ジャケット裏の写真を見るとピアノは左側が壁についている。サロンか廊下みたいなところで演奏している。」

*注「1982年12月29−30日の録音。エンジニアはA・Howell。DMM。機材は不明、おそらくワンポイントマイク録音であろう。“レコード漫談”147頁に‘優秀録音盤’という評価がある。ジャケットは御覧の通り、インパクトがありセンスが良い。バスーンの先端から蜂が飛び出しているが、なにかの判じ物なのか?デザインはPipper Taylor Associates 」
37−11

フランスのサクソフォーン/ミヨー、ブトリー、フランセ、イベールの作品

Sax:ペッカ・サヴィヨキ、Pf:マリー・ラコーネン

スェーデンBIS LP−209

「サックスはアルト。ライブなスタジオなのだろう。妙に冷たい人工的な音にはなっていない。SN比がよく、細かい音をよくキャッチして、質感のよく出た録音。サックスは厚みと力があり、材質にふさわしい輝きを見せる。息遣いは入るが指のカタカタという音はほとんど聴こえない。ピアノもバランスよく、右手は結構切れもよい。音像もナチュラルで安定、エコーもきれいだ。響きもよい。」

*注「1982年5月18、19日、ジュルスホルムのBISスタジオでの録音。録音、編集、制作はBISの社長R・フォン・バール。マイクはノイマンU−89が4本、ミキサーはノイマンSAM82、デッキはスチューダーA80、ドルビーなし。テープはアグファPEM−468。DMM。」

37−12

ベートーベン/ピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」,24.27番

Pf:パウル・バドゥラ=スコダ

仏ASTREE AS73

「1980年9月の録音。バドゥラ=スコダのコレクションのオリジナル楽器によるベートーベン・ソナタ集の4枚目である。今回はジャケットの写真に見られるゲオルグ・ハスカ制作(1815年)のハンマーフリューゲルを使っている。全面に木目むき出しで厚い板を力任せに曲げて囲んだ感じの民芸調の作りだ。ずぶとい脚は正に大根脚というべく、農家の納屋でほこりをかぶっていたピアノという趣だ。音もいかにもそれらしく、ゴツゴツとした骨太の田舎風?の音で、レンジはそう広くはないが、厚みと重量感のある左手、コキコキとした鳴り方の右手のコントラストが妙。余韻は短く、ドライな鳴り方。SN比は余り良くない。」

*注「アストレ、パウル・バドゥラ=スコダのベートーベン/ピアノ・ソナタ集については外セレ1巻363と3巻207、参照。」
    
37−13

コダーイ.ヴェレッシュ/無伴奏チェロ・ソナタ

Vc:ヨハネス・ゴリツキ 

独THOROFON 66−21320

「ゴリツキは1942年チュビンゲン生まれのチェリスト。A面が有名なコダーイの無伴奏チェロ作品8、片面32分53秒も詰まっている。B面はコダーイの弟子ヴェレッシユの無伴奏チェロ・ソナタ。国内盤が.出ていないが、なかなかいい曲だ。音源がシンプルなので録音は楽かもしれないが、しっかりした音で録れている。輪郭鮮明、一音一音はごまかしのない明確な音。切れがよくシンがあり、力のある音だが、どぎつさはない。音像は原寸大でセンターにピタリと定位する。そこに見えるような録音。余韻、ホールエコーが綺麗だが、わりとライブなスタジオかもしれない。」


*注「1976年2月、ヴェルデマルク・スタジオでの録音。TELDECプレスで盤質が良い。」

37−14

現代のフィンランド・ギター音楽/ノルドグレン:蝶々,ラウタバラ:ユニコーンのモノローグとセレナード、バーグマン:深夜、ハイマン:感動すること... 

ギター独奏:ユッカ・サヴィオキ

スェーデンBIS LP−207

「現代曲5曲。曲もいいが、演奏、録音がすばらしい。透明度が高く、立ち上がりと余韻がバツグン。誇張した録音ではなく、自然にバチッ、ピーンと来て、余韻はうねりながら限りなく弱くなるが、消えることがないという感じ。まるで釣り鐘のようだ。鼻息やピックの音も入るがうるさくはない。力強くシャープだが、マイクはオンに過ぎずオフに過ぎず、ため息が出るほど綺麗な音だ。」

*注「1982年5月3、4日、ジュルスホルムのBISスタジオでの録音。マイクはノイマンU−89が4本、ミキサーはノイマンSAM82、デッキはスチューダーA80、ドルビーなし。テープはアグファPEM−468。DMM。バーグマンとハイマンの曲は奏者のサヴィオキのために書かれ彼に献呈された。」
 
37−15

鳥と泉/メシアン:聖降誕祭のミサより、パッフェルベル、バッハ、ビバルディ、他のオルガン曲

オルガン独奏:ベニト・ベリー

スェーデン Proprius PROP−7742

「1974年9月12〜15日、エステルイエートランドのヴォーニャ教会のオルガンによる録音。このレコードはハイエンドをブーストした録音なので、再生時に10kHzで4〜5dB絞るとバランスもよくSN比も改善されると注意書きがある。実際にハイ上がりの録音だが、そのまま聴いてもなかなかのものだ。低音は地を這い、包み込んできて、腰骨、背骨をゴンゴンと揺さぶる。高音は頭のシンを鋭く突き抜ける。氷河と対決するような録音でおもしろい。パッヘルベルのヘ短調シャコンヌがいい。」
   
37−16

シュッツ/ルカ受難曲

T:ゲオルグ・イエルデン、ハンネス・ライマン指揮サンモリッツ・エンガディナー聖歌隊、他

独 SDG 610 305

「SDGは10枚くらい持っているが録音はわりと良い。仏HMやBISに比べると、ややナローレンジで少し曇った感じ。音場もナローだが、かえって聴きやすいともいえる。無伴奏なので低域不足に見えるが、不自然な音ではない。ソリストの定位は左右に分かれ誇張された感じはあるが、コーラスは自然。音場はそう広くないが、ホールエコーはたっぷり。少しサ行が鋭く、明るく力強く張り出してくるが、トータルでは曲、演奏、録音ともいい方だ。」


*注
「このレコードのレーベル名SDGとは"Soli Deo Gloria" の略、つまりラテン語で”ただ神にのみ栄光あれ”の意味。J・S・バッハは作曲の後、楽譜の最後に必ずこう記していた。この曲は自分の力ではなくて神の力によってできた、といったことを表すとされている。」
37−17

リゲティ/アヴァンチュール、新アヴァンチュール、ヴォルミナ

ツェルハ指揮ディ・ライエ・アンサンブル

米CANDIDE  CE−31009

「製作1973年だから、それ以前の録音か。VOXの廉価版である。盤は最近のもの(110g)に比べて硬く重い(140g)。曲は好きずきだろうが、”新アヴァンチュール”が面白い。,ソプラノ、アルト、バリトンの3人の歌手(楽器的な扱い)とフルート、ホルン、チェロ、ベース、二人の打楽器、ピアノ、ハープシコードによる音響空間の表現。この録音はすごい。戦慄のサウンド。SN比は良くないが透明度極めて大、fレンジ、Dレンジ広大、トランジェント抜群、鮮烈、強烈、途方もないエネルギーを持っているが、実にリアルで、特に声はナマそのもの、ハ行サ行も美しい。音像、音場もナマそのもの。これだけ強烈なサウンドで、歪み感や不自然さがないのは訳がわからない。」
 
37−18

ヘブリディーズ諸島の歌

S:アリソン・ピアーズ,Hp:スーザン・ドレーク  

英hyperion A66024

「ヘブリディーズはスコットランド北西部の諸島。岩だらけの未だ開発の手が伸びていない地域で、特にアウター・ヘブリディーズが古い民族音楽の宝庫。マージョリー・ケネディ=フレーザー女史が民謡発掘に島に向かったのが1905年。歌集の編纂にはケネス・マクレオドの援助があった。歌は情緒豊かで楽しいが、気品のあるもの。演奏は手馴れた感じで、苦もなく歌いこなして飽かせない。音像は小さく音場は広く、ハープが右やや後方で控えめに、しかし明確に鋭くかつエレガントに鳴り響く。声も伸び伸びとしてツヤと色気があり、実に美しい音響空間を作り出す。シンプルな音源なのに(リスニング・ルームの)空気まで入れ替えたような鳴り方をする。」


*注「”続レコード漫談”152頁に”いわゆる民謡の枠を越えた芸術性の高いものである。推奨盤。”とある。ソプラノのアリソン・ピアーズはMERIDIANレーベルにもレコードでヘブリディーズ諸島の歌曲(Land of Heart`s Desire:英MERIDIAN E77008 を同じくハープの伴奏で録音している。こちらは、おそらく37−5と同じ機材によるワンポイントマイク録音であろうか、清澄さはやや劣るがhyperionのDMMにない味わいがソプラノにあり、声の浸透力と艶と生々しさは上回る。」
37−19

コルトナの賛歌

カルテット・ポリフォニッコ・イタリアノ

伊ARS−NOVA  VST−6113

「無伴奏の男声四重奏。録音データ不詳。イタリア中部の古都コルトナのエトルスカ・アカデミー所蔵の第91番コーデックス(古文書)が原典で、13世紀の祈祷書と考えられる。ジャケットの絵は聖フランシスだが、フランシスコ派と似たような教団の祈祷書らしい。最初の写本は1889年、音楽的に研究した写本は1935年。レコードはこれが最初なのかシロウト臭い録音で、レンジも狭いし、SN比、透明度もイマイチ。しかし、田舎臭く、野太く、力強く、ゴツゴツした声、骨格、肉付き、表情まで見えるような生々しい録音は面白い。ホールエコーもたっぷり入っている。マイクは2本と想うが、間隔開きすぎの感じだ。」


*注「”続レコード漫談”33頁.参照。」

 
   
       
FMfan別冊1983年.夏号 No.38    
”記事の冒頭に、前回はマイナーレーベル中心だったが、今回はメジャーレーベルのメジャーな曲を中心に選んだ旨が述べらている。”    
38−1

メンデルスゾーン/交響曲 第4番「イタリア」     4題

「最近、気がついたのだが、この欄ではメンデルスゾーンの曲はバイオリン協奏曲を1枚取り上げただけである。これは不公平だと思って、新譜ではないが、四番を4枚取り上げることにした。」

A 併録

メンデルスゾーン/第5番「宗教改革」

レイモンド・レッパード指揮イギリス室内管弦楽団     

仏エラート STU−71064

「このレコードは鮮度、透明度は高い方で、情報量もあり、輪郭のはっきりしたカチッとした音だが、決してヒステリックにはなっていない。ローエンドも締まりがよく、適度の力があり、低弦の動きは明快だ。定位も良いが、奥行きは浅い。望遠レンズでのぞいた風景のように前後がつまっている。これはマルチマイク録音としては仕方のないことで、マルチのわりには綺麗に録れているといってよい。」

*注「録音年不明。エンジニアはChristopher Parker、彼はEMIのエンジニアの筈だが...」
B 併録

メンデルスゾーン/序曲「フィンガルの洞窟」、「静かな海と楽しい航海」

クリストフ・フォン・ドホナニー指揮ウィーンフィル  

 英デッカ SXDL 7500 

「初期のデジタル録音だが、デジタル臭さは少ない。スペアナの形も他の3枚と大差ない。とはいっても、やはり違いはある。どちらかというとオフマイクの感じだが、ぼけるところは全くなく鮮明に録れておりおり、コントラバスのピチカートはこのレコードが一番しっかりしている。演奏もサウンドもダイナミックで、スピード感があるが、ffで弦がややきつくなる。音場と奥行きは深いが水平方向の広がりはイマイチ。弦がセンターに集中しがちなのも気になる。間隔を開いたスピーカー配置で再生することを想定しての録音か。」


*注「”続レコード漫談”149頁、参照。ドホナニーはウィーンフィルとデッカにアナログ録音でメンデルスゾーン/交響曲 第2番”賛歌”も録音していた。」
C 併録

メンデルスゾーン/交響曲 第1番 

ベルナルト・ハィティンク指揮ロンドンフィル          

蘭フィリップス 9500 708

「第1番はメンデルスゾーン15歳の時の作品。さすがは天才、モーッアルト風なところや、真夏の夜の夢みたいなところもあるが、安心して聴けるシンフォニーだ。録音は第4番と同等。4番より少しきついか。4番は演奏、録音とも良い。おおらかなサウンドだが、スケール感があり、重量感のあるガッシリした構成の低弦をベースに、ピラミッド型の音型が展開する。ややオフ気味だが、ベールをかぶった音ではなく、きめは細かい。繊細に切れ込むがメタリック、ヒステリックにならず、ソフトドーム的なサウンドだ。ホールエコーもたっぷり入っており、音場は広い。特に奥行きの表現は優れている。ワンポイント(マイク)的な味を見せるマルチマイク録音か。」


*注「1978年3月13−14日、同年11月27−30日、London Walthamstowでの録音。国内版,輸入メタル原盤プレスは日本フィリップス 25PC−66。ハィティンクは大編成の合唱がつく2番賛歌を除いて、メンデルスゾーンの交響曲をロンドンフィルで録音していた。」


D 併録

シューマン/交響曲 第4番

リッカルド・ムーティ指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

英EMI ASD 3365

「SQ録音。SQというのはマトリックス4チャンネルの一種で、2チャンネルで再生してもなんとなく広がりがあるが、スピーカー・マトリックスという方式でリアスピーカーを使うとサラウンド効果が得られる。欠点としては、位相ずれによる違和感と多少のほこりっぽさがあること。国内盤でもSQは結構あるが表示していないので知らずに聴いている人が多い。このレコードの2チャンネル再生の音はきめが細かくホールエコーもきれいに入っており、ある程度の臨場感はある。ややベールをかぶった感じでエネルギー感、メリハリ不足。スケール不足。音像、音場にやや不安定な広がりがあるが雰囲気でかえる録音か。」

*注「録音評価が低いが、当時売り出し中の名指揮者ムーティの若き日の演奏と言うことで買って損はしないだろう。この当時、ムーティは交響曲第3番イ短調スコットランドも録音していたが、その国内盤はオマケにスコッチのミニボトルがついていた。EMIの1970年代製作のLPで、レコードの番号の末尾にQがつくのはSQである。SQエンコードとマルチマイクと複雑なミキシング処理で、1970年代のEMIのクラシック録音は不鮮明で混濁感の.あるものが多かった。その典型はマルティノン指揮フランス国立管のラベル、ドビッシー管弦楽集。ただ稀に優秀録音もあった。こういうものはトラックダウンをやり直しSQ処理を外してリマスターしても根本的には改善されないようだ。」
 

「A」




「B」




「C」
38−2

シベリウス 管弦楽全集 第1巻/交響曲 第1番、交響詩「フィンランディア」

ネーメ・ヤルヴィ指揮エーテボリ交響楽団

スェーデン BIS LP-221

「BISというのは社長?ロベルト・フォン・バールのニックネームをそのままレーベル名としたもの。彼はプロデューサー、録音技師、テープ編集者、計算係、法律顧問、語学顧問、セールスマン、配送係、掃除夫、その他という肩書きで、早い話が社員はおらず、奥さんが手伝うという形で既に230枚。ヤルヴィはエストニア生まれの指揮者。演奏はちょっと控えめ。第1楽章、木管に続いて左手から弦が入ってくるあたりはエレガントで美しい。オフマイクの好録音だが、ややハイ上がりで、エネルギー感もほどほど。テラークとはバランスが違う。」


*注「1982年9月3日、エーテボリ・コンサートホールでの録音。ノイマンKM−83 四本+同SM−69(MS方式ワンポイントマイク)、?カセットビデオKCA−60BRとソニーPCM-100によるデジタル録音。DMM。”続レコード漫談”89頁と”続々レコード漫談”82頁参照。バール氏の身分は当時の話。奥さんはフルート奏者。ヤルヴィとエーテボリ交響楽団は無名だったが、このシベリウスの交響曲全集を機に評価が高まった。」
 
38−3

シベリウス 管弦楽全集 第2巻/交響曲 第5番、祝祭アンダンテ、カレリア序曲

ネーメ・ヤルヴィ指揮エーテボリ交響楽団

スェーデン BIS LP-222

「LP−221に比べると、もう少し厚みと重量感を感じさせる録音。やはりオフマイクで全体像をとらえ、SNの良いPCMで細部も繊細に描き出そうという録り方。きめが細かく、響きもあり、定位がよく、トライアングルが音量、音像とも実物大に再生される。少しソニーPCMの金っ気が感じられ音場が俯瞰型になる。」


*注「録音機材は、LP−221:36−5と同じ。音場が俯瞰型になるのは、メインマイクのSM−69が天井吊りだからであろう。交響曲の録音としてはマイクの数は少ない。」
 
38−4

ヘンデル/王宮の花火の音楽 3題

「夏といえば花火、ということでヘンデルの花火を3枚取り上げた。」

 
A:ピエール・ブーレーズ指揮ニューヨークフィル

米CBS M−35833

「製作1980年。B面にベレニーチェ序曲、二重協奏曲を収める。録音は古いはずだ。このレコードの編成はわりと大きいようだ。荘重な宮廷調を出そうとして一応成功してはいるが、やはりニューヨークの匂いのする宮廷だ。弦と木管のはずだが、金管とスチール弦のように聴こえる時がある。金ピカの王宮の仕掛け花火。間接音が綺麗なのでカートリッジを選んで少し抑えるような鳴らし方をするとよい。」

*注「現代音楽の巨匠ブーレーズにしては珍しいバロック音楽。ニューヨークフィルの音楽監督はミトロプーロス、バーンスタイン、ブーレーズと引き継がれたが、この三者の共通項は?と考えると....」
 
B:クリストファー・ホグウッド指揮 古楽アカデミー(エンシェント室内管)

英オワゾリール DSLO−548

「B面は、ハルレ・ソナタ(Fl.Vc.Cemb)第1番、オーボエとホルンとファゴットのためのアリア1,2。アリアのメロディはオペラ”テセオ”からだが、木管バンドの掛け合いで、定位も良く、奥行きも深い。奥の方から聞こえてくるホルンがいかにもヘンデルらしい。花火の報はホグウッドを含めて48人の編成。オーボエ7人、ファゴット、ナチュラルトランペット各4人、ナチュラルホルン3人、コントラファゴット1人、打楽器6人で盛大に花火を打ち上げる。テンポの速い、現代的な演奏と聞こえるが、これがオリジナル楽器によるオリジナルスタイルか。切れが良く、締まりがよいが、弦がややメタリックに響く。奥行き感はわりと出ている。」


*注「バロック当時の楽器で演奏している。古楽器のバイオリンはガット弦、つまり羊の腸で作った弦を張っており、現代楽器は此にナイロンやアルミの線などを加えたポリマー弦を使用。弦の音は聴き慣れた現代楽器よりメタリックな感はある。」


C:ネビル・マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団

蘭フィリップス  9500 768

「B面に合奏協奏曲”アレキサンダーの饗宴”、序曲ニ長調の2曲。マリナーのレコードは共通した音色があるような気がする。演奏はスローテンポで、スケール感にウェイトを置いて流れていく。個々の楽器を強調する録り方ではなく、全体の雰囲気重視型。音場の広がりは、これが一番奥行きが深いが、ややホコリっぽさもある。演奏会場の濁った空気感とでもいうか。鮮烈に、繊細に切れ込んでいくタイプではなく、分解能はイマイチだが、聴きやすい音になっている。木管の掛け合いでホグウッド盤は左から出てくるが、これは右から出てくる。このホルンのオフの感じはなかなかいい。」

*注「1979年1月2〜6日、6月21〜23日、ロンドンのSt.John`s教会での録音、外セレのブランデンブルグと同じホール。国内版,輸入メタル原盤プレスは日本フィリップス 25PC−102。」
 

「A」



「C」
   
38−5

ブラームス/ハンガリアン舞曲 第1−22番

クルト・マズア指揮ライプチッヒ・ケバントハウス管弦楽団   

蘭フィリップス6514 305

「制作1983年。21曲、全曲入り。ピアノ連弾曲からの編曲だが、ブラームス自身の編曲は1.3.10の3曲のみ。後はドボルザーク、パーロウ、ハルレン、フォン、ショルム、シュメリンクが分担。キャラクターの違いは演奏で抑えている。ブラームスらしい重厚なサウンド、ややオフマイクのゆったりとした鳴り方で、低弦の厚みがベースになって、どっしりとしたピラミッド型の音形。音場は広がりがあり、奥行きが特に深い。高さも少し出る。ホールエコーも特に長い方で、これがうまく再生できないと良さが生きてこないだろう。トライアングルが澄み切った音で気持ちが良い。第1バイオリンが時にヒステリックになるがトータルではいい録音だ。」

*注「デジタル録音。旧・共産圏の東独のデジタル録音としては最初期のものである。録音エンジニアは不明。C・ストリューベン?。東独ドイツ・シャルブラッテンのオーケストラ録音の大半に彼が関わっていた。指揮者のマズア(1927~)は政治家としての資質もあり、ベルリンの壁崩壊後に統一ドイツの首相候補と言われていたが、共産主義時代の旧悪が露見し政治から失脚。奥さんは日本人。」
 
38−6

チェリビダッケ/タッシェンガルテン(ポケットの中の庭園)

セルジュ・チェリビダッケ指揮シュトゥットガルト放送交響楽団

「制作1980年。国際児童年に合わせてのレコード売り上げはユニセフに寄付するとある。国内版がフィリップスから秘密の小箱というタイトルで出ている。同じ録音かどうかよく知らない。1お入り子供たち、2風さんがチューリップを歌わせる。3アヒルの説教、といったタイトルの小曲13曲の構成。現代音楽と言うより、わかりやすく聴きやすいセミクラシックの感じ。録音はかなり力の入ったもので、量感、力感に溢れ、厚みがあり、しかもバランスよく、ヒステリックにならず、楽器の音色がよく分かる。定位もよく、ホールエコーが長く尾を引いて消えていく。ジャケットの写真を見るとスタジオ録音らしいが、うまく処理してある。」

*注「一切の録音を拒否したことで有名なカリスマ指揮者チェリビダッケ(1912〜96)の唯一のステレオ・スタジオ録音。一時期、このレコードにはかなりのプレミアがついていたが、今はどうなのか。実際にはデビュー直後デッカにモノラル録音が少しあり、晩年にはビデオのライブ収録をレーザーディスクで出すことに許可していた。没後、大量のライブ録音がCDで出てベストセラーになった。この曲は、ラベルのマ・メールロワか歌劇”子供と呪文”風な設定と曲想。チェリビダッケの得意としていたドビッシー、ストラビンスキー、プロコフィエフ、ミョーの影響も端々にうかがえる。フィリップスの国内盤と同じ演奏。原題は直訳するとポケットの庭で"秘密の小箱"というのは誤訳が明らかだが、なぜか訂正されず復刻CDにもそのまま流用されている。」


38−7

チャールズ・ウォリネン/チェロと10人の奏者のための室内協奏曲

リンギング・チェンジス

Vc:フレッド・シェリー、C・ウォーリンネン指揮現代音楽集団、ニュージャージーパーカッション・アンサンブル

米NONESUCH H−71263

「ウォリネンは1938年生まれ。室内協奏曲は1963年の作品で、弦と木管とピアノ、打楽器で計11人。B面はリンギング・チェンジス、1969〜70年の作品。鐘をとっかえひっかえ鳴らす、という意味だが、ピアノ、ビブラホンを含む打楽器を13人で演奏。ノンサッチの面目躍如の録音で、文句を付けるところはほとんどない。fレンジ、Dレンジとも広く、鮮烈に切れ込んで情報量大。歪み感ゼロ。バイオリンやビオラも出てくるのだが、実に綺麗である。メジャーレーベル録音のバイオリンはどうしてああ汚い音がするのか不思議でならない。音像は実物大、定位も自然で、音場は3次元的に広く深く高い。曲も面白い。優秀録音盤。」


*注「プロデューサー(ノンサッチの表記ではcoordinator)はテレサ・スターン。録音はElite Recording,Inc.によるドルビーシステム。ノンサッチのアナログ録音で、このコンビなら現代音楽でもバロックでもまず間違いなく優秀録音である。外セレで取り上げられたノンサッチ盤の多くは彼らの手による物。因みにテレサ・スターン女史(1927〜2000)はピアニストでもあり、ノンサッチ特有の濃いデザインを指定したのも彼女で、未知の音楽、曲、演奏家を積極的に発掘して古楽から現代音楽、民族音楽まで製作。”レコード漫談”、不思議大好きノンサッチ、の章で取り上げられている長岡鉄男ごのみの玉石混淆のノンサッチのキャラクターを作ったが、その功績が認められず左遷され難病を患い闘病のうえ不遇の内に死亡したそうだ。彼女の生前に長岡氏の高評価と日本での評判はは耳に届いていただろうか....偶然にも長岡さんとほぼ同世代に生き死亡している。http://www.obituary.com/sterneteresa.html.」

38−8

モーッアルト/セレナード第5番

Vn:フランツ=ヨーゼフ・マイヤー、コレギウム・アウレウム合奏団

独 HARMONIAMUDI 067 99 958

「制作1983年、デジタル録音。マイヤーはコンサートマスターで実質的な指揮者。ほかに24人のメンバーで、フルート3、オーボエ、ホルン、ナチュラルトランペット各2、ファゴット1人、それに弦楽合奏の編成。デジタルらしいというか、SN比がよく、ハウス栽培の野菜のような清潔感と透明感がある。楽器のひとつひとつ、一音、一音が明快で、厚みはイマイチだが、切れ込みの鋭さがあり、鋭いわりには耳障りなところは少ない。ソロ・バイオリンも楽器の大きさ(というよりちいささ)、弦の細さが出るような鋭い音だが、伸び伸びとよく通る美しい音で、グラスハーモニカのような感じもある。音像はしっかりしているが、雰囲気はもうひとつ。」
 
   
38−9

スティーブ・ライヒ/「ドラミング」、「6台のピアノ」、「マレット楽器、声、オルガンのための音楽」

演奏:スティーブ・ライヒ

独GRAMOPHON 2740 106 3枚組

「ドラミング(1971年作曲)がLP2枚85分と長い。ライヒは47歳(当時)、現代音楽の中でも変わり種で、同一パターンがずれて重なっていく時の効果をというのをしつこく追いかけている。ドラミングは、四部に分かれており、マリンバ、グロッケンシュピーゲル、調律された小太鼓、ピッコロなど、4〜11人で演奏、リズムパターンのズレで聴かせる。リズムやテンポの異なる雨だれ(より近いイメージでは雨漏り)が同時多発で、オケや鍋や洗面器の上に落ちているという感じだ。頭を空っぽにして聴き流すと不思議な世界に誘い込まれる。」

*注「スティーヴ・ライヒ(Steve Reich, 1936年10月3日 - )は、ミニマルミュージックを代表するアメリカの作曲家。」
 
   
38−10

スカイ/ファイブ

英ARIOLA 302 171

「1982年10〜11月、オーストラリア演奏旅行のライブ。ホールはメルボルンのコメディ・シアター、パースのコンサートホール、アデレードのフェスティバル・シアター、シドニーのキャピタル・シアター。2枚組で12曲。3面にはサクラ変奏曲が入っている。4面最後の曲はHOTTA、堀田さんではなく、JOTA(スペイン舞曲のホタ)。ライブ・アルバムは、最も騒々しい曲で締めくくるのがしきたり、それで、その曲を持ってきたとジャケット解説。エネルギーはあるが、わりとウォームな録音で、聴きやすいが、締まりと、分解能はアッと驚くほどではない。音量は大きいが、Dレンジはそう広くない。拍手が右と左、ドラムスがセンターと定位。」
 
   
38−11

ブラームス/ビオラ・ソナタ 第1番.第2番   2題

A:

Vla:ブルーノ・パスキエ、Pf:ペネティエ

仏ハルモニア・ムンディ HM-1092

「1982年2月、ソーヴァン城での録音。どういう場所か知らないが、響きの具合からすると、硬い石で囲まれた部屋の感じだ。このソナタはクラリネットでもビオラでも演奏される。生誕150年ということでブラームスのレコードも色々出そうである。演奏は現代的でドライ。ビオラ独特のまろやかさがちょっと出にくく、バイオリンみたいにシャープに聴こえる。一方、ピアノの方はオフマイクだがエネルギー感たっぷり、力強く芯のあるサウンドで、音量とスケール感でビオラを圧倒する感じもある。演奏全体としては、薄いベールをまとった鋭さ、といった響き方で、小型システムでは、こちらのほうがBISよりいいかもしれない。」
*注「このコンビで仏ハルモニア・ムンディにはブラームス/バイオリン・ソナタ第1.2.3番の録音がある。」

B:併録

ブラームス/バイオリン・ソナタ第1.2.3番

Vn、Vla:ニルス=エリック・スパルフ、Pf:E・ヴェステンホルツ

スエーデン BIS LP−212/3     2枚組

「こちらは表情たっぷりの演奏で、録音もBISらしい良さが出ている。比較のためにスペアナはビオラ・ソナタの方でHMと同じ箇所をとったが、やはり形が違う。ビオラは柔らかさ、甘さがよく出ており、艶がある。ピアノもわりとオンだが、ビオラとのバランスが良く、全体に輪郭鮮明だが、鋭すぎず、甘すぎず、距離感が大変良く出ている。音像も自然な大きさにまとまっている
。」

*注「1982年5月から8月にBISスタジオでの録音。マイクはノイマンU−89が4本、ミキサーはノイマンSAM82、デッキはスチューダーA80、ドルビーなし。テープはアグファPEM−468。DMM。BISのスチューダーA80によるアナログ録音は、これに限らず概ね良好で外れはないようだ。」
 

              「B」
38−12

ホロビッツ 演奏旅行1979・1980/クレメンティ:ソナタ作品33の3、ショ.パン/舟歌、練習曲5.19番、ラフマニノフ/前奏曲作品32の5、楽興の時第二番、V・Rのポルカ

Pf:ウラディミール・ホロビッツ.

独RCA RL−14322

「コンサート79.80というレコードは先に出ているが、これしその続編。DMM。B面の曲が終わる少し前からざわめきと拍手が入る。オンに過ぎず、オフに過ぎず、ピアノの全体像、あるいは音楽の全体像をとらえるような録音で、実によく鳴って、響きが美しい。右手のffでも力強くきまるが決してメタリックにはならない。低音もスペアナで見るよりは豊かだ。ピアノだけのレンジはスペアナではもう少し狭い。最後の拍手が大音量で、ローエンドとハイエンドを伸ばしている。」


*注「ライブ録音。20世紀最高のピアニストといわれるホロビッツ(1904〜90)の晩年の記録である。この年、ホロビッツは初来日した。5万円の法外に高いチケットと出来の悪い演奏で、吉田秀和に”ひび割れた骨董品”と評され話題を呼んだ。この批評にホロビッツは憤慨して翌年もリベンジ?に来日してマシな演奏をして雪辱?を果たした。」
 
38−13

シューマン/交響的練習曲、幻想小曲集

Pf:ルネ・デュシャブール

仏エラート NUM−75046

「交響的練習曲は遺作の変奏曲五曲つき。A面30分、B面31分という長時間録音で、その点は割安といえる。ジャケット裏の写真で見ると、観用樹の鉢植えなど置いてあるあまり大きくないサロンのようだ。交響的の方は荘重にじっくりと盛り上げていく演奏は少し肩が凝るが、なかなかいい。61分も詰め込んだにしてはfレンジ、Dレンジとも広く、SN比も良く、スペアナで見てもカッティングレベルが高い。一音一音明快だが、メタリックにならず、崩れず、危なげなところが全くない録音。ホールエコーもたっぷりというほどではなく、音像も拡大せず、人工的ないやらしさのない好録音だ。」


*注「1982年4月パリ大学都市サロン・オノラでのでのデジタル録音。」
 
     
38−14

リスト/ハンガリー狂詩曲 第1−16&19番

Pf:ジョルジュ・シフラ

独EMI 183−14 021〜3

「全19曲のうち、17、18番を除く17曲が収められて3枚組箱入り。ハンガリー生まれのシフラのハンガリー狂詩曲だから演奏は文句なし。ディスク大賞のステッカーが貼ってある。録音もいい。トランジェント抜群、立ち上がり、立下りがよく、楽器本来の余韻が綺麗に出る。輪郭鮮明で同時に鳴っている音が数えられそうな鳴り方だ。といってバラバラの音ではなく、音楽的にもよく整っている。ピーンと張り詰めた、しかしメタリックさゼロの高音、ソリッドで力強く、ブーミーさゼロの低音。プラスチックの庭石や、砕石の庭石ではなく、川でもまれて角のとれた本物の庭石の味。音像もセンターにあまり拡大せずに定位する。優秀録音盤。」

*注「製作は仏EMI-パテマルコニー。オリジナルの仏盤はもっと音がいいかもしれない。ジョルジュ・シフラ(1921-1994)ハンガリー生まれの名ピアニスト。歴史的名演奏の名録音である。」

38−15

声と楽器のためのヴェネチア音楽/モンテベルディ、パレストリーナ、ストロッツィ、モリナーロ、など16−17世紀の作品集

Ms:テレサ・ベルガンサ、リュート:今村泰典、Cemb:J・テーラー他

スイス CLAVES  D−8206

「1982年2月ザーネン教会でのデジタル録音。DMM。録音はデジタルDMMの良さが出てSN比がよく、鮮烈、透明、Dレンジ大。声が伸び伸びと力強く、下手をすると耳をつんざく感じになる寸前でうまく抑えて見事。リュートやハープシコードも繊細感がよく出ていてきれいだ。ホールエコーもたっぷり入って奥行き感大。」


*注「録音はハイデルベルグのTonstudio van GeestでエンジニアはTeije van GeestとAlfons Seul」
                                     
38−16

シャルパンティエ/牧歌劇「アクテオン」

T:ドミニク・ヴァイス.S:アグネス・メロン,ウィリー・クリスティー指揮レザール・フロリサン,他   

仏ハルモニア・ムンディ HM1095

「1982年4月の録音。世界最初の録音だそうである。マルカントワーヌ・シャルパンティエ(1635〜1704)は戦後になってから人気の出てきた作曲家。アクテオンはギリシャ神話から題材をとった短いオペラで、狩りの女神アルテミスの裸身をうっかり覗いた王子アクテオンが鹿に変身させられ、自分の連れてきた犬に追い立てられて、かみ殺されるという悲劇。HMらしい繊細で透明で艶のある録音。かなりダイナミックで、ややハイエンドがきつい感じもある。ワンポイントではなく、マイクは4〜8本ぐらい使っているのか。オンでありながら、響きが美しい。A面の3分の1ぐらい入ったところ、狩りをしているにぎやかなシーンがいい。」


*「”続レコード漫談”216頁、参照。プロデューサーはMichel Bernard、録音エンジニアはClaude Armand。いつもの仏HMのスタッフではない。合奏メンバーにテオルブの名手K・ユングヘーネルの名がある。」

       
FMfan別冊1983年. 秋号 No.39    
39−1

ベートーベン/交響曲第6番「田園」

V・アシュケナージ指揮フィルハーモニア管弦楽団

英デッカ SXDL−7578

「1982年2月、ロンドン、.キングスウェイ・ホールでのデジタル録音。田園のレコードは大変な数が出ており、またかという感じだが、アシュケナージの登場ということで、新鮮みがないわけでもない。録音機材不明、録音は当然イギリス(のスタッフ)だが、カッティングとプレスはオランダ。音は第1楽章、第2楽章はマイルドでエレガントで艶もある。弦が繊細で、ピアニッシモが美しく絹ずれ(ママ正しくは衣擦れ)のような微妙な音色が再現される。密度は高いが、多少のホコリっぽさもあり、見通しがイマイチだが、むしろ自然な感じともいえる。第4楽章の嵐は、グランカッサが右よりからズドンと迫る。迫力は十分だが、弦が俄然ヒステリック、メタリックになる。音場は奥行き感もある方だ。」

*注「アシュケナージはピアニストで指揮者、現NHK交響楽団音楽監督。この頃から指揮に進出してきた。デッカのSXLナンバーはアナログ録音で、SXDLはデジタル録音。デュトワ.フィルハーモニア管のサンサーンス/交響詩、管弦楽集はアナログ録音なのに間違ってSXDLになっていた。」
   
39−2

ショスタコービッチ/交響曲第12番「1917年」

ベルナルト・ハィティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団  

英デッカ SXDL7577

「1982年、コンセルトヘボウでのデジタル録音。交響曲第9番で、西欧的として党から批判されたショスタコービッチは改心して交響曲第10番以降また交響曲第5番”革命”第7番”レニングラード”の路線に戻った。第11番”1905年”はロシア第一革命、第12番”1917年”は決定的となった十月革命をテーマに壮大。A面は圧倒的に重苦しく、秘密警察と密告に怯える民衆の呻き声といった感じ。B面はドンドンパチパチと勇ましく革命戦争が始まり、終楽章は野放図な解放の喜び。録音は情報量大、レンジ広大、低域はズシンと底力があり、中高域は鮮烈にシャープに炸裂する。時にヒステリックでメタリック、音像は前面整列型。小音量で聴くか、距離を取って聴くと良い。」
 
39−3

プロコフィエフ/交響曲第1番「古典」、組曲「キージェ中尉」「3つのオレンジの恋」

エンリケ・バティス指揮ロンドンフィル

英EMI ASD−4414

「1983年制作。デジタル録音。プレスもジャケットもドイツ。プロコフィエフの作品の中では親しみやすいものばかり3曲。いかにも現代的な演奏と録音で爽快感があるが、曲による表情の変化は少ない。だいたい同じような傾向の録音だが、「3つのオレンジの恋」が代表格といってよく、実に鮮烈、壮烈、ブラスがまさに金色、真鍮色に輝かしく炸裂してシャワーのようにふりそそぐ。fレンジ、Dレンジとも広く、情報量大。切れ込みが鋭く、音の分解能、楽器の分離が良く、透明感があり、ピアニッシモも綺麗。ホールエコーは少な目だが、ちゃんと入っている。音像はやや前面整列型だが、まあまあ許せる。明るすぎオンに過ぎるのが難点だが良い録音だ。」
 
   
39−4

コープランド/アパラチアの春、バーバー/弦楽のためのアダージョ、ウィリアム・シューマン/アメリカ祭典序曲

レナード・バーンスタイン指揮ロサンゼルスフィル

独グラモフォン 2532 083

「制作1983年、デジタルのライブ録音。39−5と同じ条件の録音だろう。音色もよく似ている。前の2曲はもともと明るいキラキラした曲だが、バーバーの曲はネクラのしんみりした曲。取り合わせが妙で、バーバーの曲までネアカになってしまっている。スペアナでもわかる通り、とにかく底抜けに明るく開放的、繊細にシャープに限りなく細かく切れ込んで分解し、分離し、ダイナミックに叩きつける。やや前面整列型だが、平面スクリーンではなく、一応、奥行きもある。マルチマイクの優秀録音盤。」
 
39−5

ガーシュイン/ラプソディ・イン・ブルー、バーンスタイン/ウェストサイドストーリー・シンフォニック・ダンス

L・バーンスタイン指揮ロサンゼルスフィル

独グラモフォン 2532 082

「制作1983年、デジタルのライブ・レコーディング。典型的な現代録音だ。やはり自作自演の方が熱が入るのか、演奏録音ともB面のウェストサイドストーリーが良い。録音の音質は両曲とも情報量が多く、明るく輝かしい。個々の楽器の音が鮮明に録れていて、力もあり、歪み感は少ない。ガーシュインはややSN比が悪く、楽器のサイズが不自然。音場は前面整列型だが、シンバルがピアノの前に出しゃばるようなところもある。ウェストサイドの方がさらに歯切れが良く、力もあり、音像も拡大せず、定位も良く、奥行き感も出ている。ワンポイントマイク録音のような本当の自然な奥行き感とは違い、やや人工的ではあるが、ここまで処理して再構成できれば立派。弦や金管がいささか明るすぎるので広い部屋で距離を取って聴きたい。」


*注「バーンスタインはCBSからグラモフォンに移籍して、ライブ録音が多くなった。プロデューサーはスタジオ収録を望んだが、バーンスタインはライブにこだわったそうだ。長岡鉄男氏はライブ収録(アナログ録音)のウィーンフィルとのベートーベン交響曲全集、第9の録音をbQ9で”ハイ上がりで歪みっぽく、薄っぺらで、やせぎすでヒステリックで、どうしようもない”と厳しく批判していた。 長岡氏の評価の対象にはなっていなかったが、同じくウィーンフィルとのブラームス交響曲全集は国内版LPで聴くと、デジタル録音とは思えぬほど不鮮明で歪みの多いなひどい録音だった。グラモフォンのバーンスタインのライブ録音の多くはスタジオ収録のように聴衆のノイズが全く聞こえないし、おそらく、ゲネプロとのツギハギだったのだろう。そうした処理が悪影響を及ぼしていたようだ。」
39−6

サクソフォン協奏曲集/グラズノフ、ラースン、パヌラの作品

Sax:ペッカ・サヴィオキ、パヌラ指揮ストックホルム新室内管弦楽団

スエーデン BIS LP−218

「1982年8月、ストックホルムの音楽アカデミー、コンサートホールでの録音。DMM。マイクはノイマン U−89 3本、ゼンハイザー MKH−105 2本。ソニー PCM−100によるデジタル録音。PCM−100はプロ用プロセッサーのローエンド機種で、サンプリングは44.056kHz、14ビット。(因みにサウンドストリームは50kHz、16ビット。)発売は1979年で150万円。現在は製造中止。音はBISの特徴がよくで、サックスは艶やかで力強く、厚みと奥行きがある。オケは少し薄味になるが、室内管弦楽団なのだから当たり前ともいえる。録音は材料の方式や性能にはあまり関係なく、スタッフのセンスで決まるのだということを痛感させられる。」
 
   
39−7

ヴィルトーゾ・チェロ・コンチェルト/C.P.E・バッハ、クープラン、ボッケリーニのチェロ協奏曲集

Vc:エルメル・ラヴォトハ、ウェディン指揮カルマー州立室内管弦楽団 

スエーデン BIS LP−224

「1982年10月、スェーデン、パスカラヴィク教会でのデジタル録音。DMM。ソニー PCM−100使用。マイクはノイマン U−89 4本。チェリストはブダペスト生まれ。室内管弦楽団は弦楽器が11人、フルート、クラリネットが各1人と小編成。ジャケット裏の写真を見ると、教会の礼拝堂か。椅子など片付けて、正面と左右はカーテンを吊ってある。明るく、鋭く、鮮明で透明、SN比も大変良く綺麗な音。ホールエコーも透明で綺麗。オケはややオフだが、チェロはオン過ぎる。全くホコリのないホールで、息を殺して演奏しているような、不自然なくらいの透明感が特徴。ひょっとすると14ビットのせいかも。」
 
39−8

草原のリズム−アッパーボルタの音楽 VOL−U

米NONESUCH 72090

「1983年の新譜だが、録音は1973〜5年。録音、写真撮影、解説はカスリーン・ジョンソン。ノンサッチの民族音楽シリーズの中ではデヴィッド・リュイストンの録音したものが、生々しさと土臭さで群を抜いているが、このレコードの録音も生々しさでは抜群。しかし土臭さは少ない。現地人の演奏による現地録音のはずだが、スタジオ録音みたいにSN比が良く、透明で、余分な音が入っていない。音像はリアルで、定位も明確。前後の人物関係もよく判るが、音場空間は無限に広いのか、全然ないのか、不思議な空間表現である。音は器楽、声楽、全て生々しく力強く、打楽器は強烈、鮮烈、歪みっぽさゼロ、ドスドスと心臓に突き刺さる。優秀録音盤。」

*注「この当時、ノンサッチのレコードは輸入盤に日本語解説を添えてパイオニアから販売されていた。」
 
   
39−9

バイオリンとハープのための作品集/ポリーニ、シュポア、ボアルデュー、ヴィルム.、ロッシーニの作品.5曲

Vn:ユーディ・メニューイン、Hp;ニカノ−ル・サバレタ

独EMI 067−03 975

「1982年制作、デジタル録音。ベテラン同士で苦もなく淡々と演奏している。音の方もベテランが気楽に録音したという感じで、音質は悪くないし、音場も初心者向きに分かりやすく展開する。音としてはバイオリンもハープもバランスのとれたナチュラルサウンドで、ぼけもせず、刺激的にならず、音像はハープの低音とバイオリンがセンターと左スピーカーの中間に定位、ハープの高音は右スピーカーの位置に定位するる両スピーカーの間隔が適当ならいいが、間隔が広いと、一人では演奏不可能な巨大ハープに化けてしまう。」


*注「長岡氏推薦の優秀録音という超A級レベルではないようだが、当時は健在で今は亡き、両巨匠の”音質は悪くない”という演奏ということで取り上げた。」
 
39−10

ブラームス/「バラード」作品10の1〜4、「ラプソディ」作品79の1と2

Pf:グレン・グールド

米CBS D−37800

「グールドの最後の録音ということである。ソニーPCM−1610を使ってのデジタル録音。デジタルにしてはSN比はイマイチ。マイクやミキシング・コンソールのノイズか、アメリカ・プレスの盤質の悪さか。録音もデジタル臭さがかけらもなく、トータルで極めてアナログ的な録音。演奏はあまり奔放なところはなく、端正で力強く、堂々としている。だが、演奏中のつぶやきが少ないようで、その辺に心身の疲れのようなものが出ているのだろうか。わりとオフマイクでピアノ全体をよくとらえ、メタリックにもヒステリックにもならず、十分なエネルギー感と厚みのある音。透明感がもう一息。」


*注「この録音にノイズが多いのは、デジタル録音のマスタリングでアナログ録音のプロセスを通した可能性がある。グレン・グールド(1932〜82)カナダの鬼才ピアニスト。この記事の前年に死亡。彼はコンサートを拒否しスタジオ録音に専念していた。奇人。でエピソードが多く演奏中、ぶつぶつ独り言を言う癖があり、夏目漱石の”草枕”を愛読し繰り返し読み返し、日本映画”砂の女”を100回以上も見たという。」
 
39−11

北ドイツのバロック音楽/ブクステフーデ.ラインケン.ベームのオルガン曲

オルガン独奏:ハンス・ファギウス

スェーデン BIS LP−231

「1983年4月6日.サンドヴィケン・バプティスト教会での録音。ルボックスA77、マイク ゼンハイザーMKH−105.2本 直結。ノン・ドルビーという超シンプル録音。ファギウスは1951年スェーデンのノルショッピング生まれのオルガニストでBISでは既に20枚録音。オルガンはスェーデンのオルガン制作者オロフ・ヘルトント 1739年の作。49鍵ストップという小オルガン。いかにも小ぢんまりとした音だが、たいへん響きが良く、ゴソゴソ、ゴトゴトといった演奏ノイズもきれいに入っいて、それがさして耳障りでなく、実にリアルで親しみやすい。」
 
39−12

シューマン/幻想小曲集、幻想曲ハ長調

Pf:アルフレッド・ブレンデル

蘭 PHILIPS 6514 283

「制作1983年。デジタル録音。PHILIPSのブレンデル、ベートーベン/ピアノ・ソナタ全集(1970年代のアナログ録音)あたりは、ジャケットも色褪せた感じで、音もイマイチだったが、この283や282(シューベルト/ソナタ)あたりになると、ジャケットもコントラストがついて鮮明。録音もしっかりとしてきた。とは言ってもブレンデルの特徴は活かして、オンに過ぎずオフに過ぎぬナチュラルサウンド。響きが良く力強さもあり、ピアニッシモも綺麗に確かにとらえられている。ピアノの大きさもよく出ている。ホールエコーも自然。音楽そのものをとらえたような良い録音。わずかにホコリっぽさも感じられるが、それも人間臭さに通じて好感が持てる。ブレンデルはデジタル向き?。」
 
39−13

老竜、怒り狂うとも〜ルターと彼の同時代の歌

ベーレン・ゲスリン

独HARMONIA MUNDY 069 99 964

「制作1983年。録音はブランジニゲンの聖ペテロ教会。ミトマニアで脚光を浴びたベーレン・ゲスリンの第2弾。ミトマニアはオカルト・ソングだったが、今度は宗教改革時代の聖歌と歌と踊りを集めて、ベーレン・ゲスリンが編曲したもの。老竜うんぬんはルター作品の歌詞の一部。老竜はローマ法王のことか。内容、録音ともミトマニアと似た感じ。楽器も声も強烈、オフ気味に奥の方から響いてくる太鼓の音が、図太くエネルギッシュで面白い。全体としては、ややヒステリックで、歪み感もある。ミトマニアと録音場所も同じだが、わずかに響きが違い、今回の方が直接音が鋭い感じ。トータルではミトマニアよりわずかに落ちるが、なかなか良い録音だ。」


*注「デジタル録音。DMM。オフマイク録音、殊にワンポイントマイク録音。同じ機材で同じホールで録音しても、気象条件のなど違いで響きが変わり、音質に影響することがある。」
 
      
39−14

カントルーブ/オーヴェルニュの歌・第1集

S:キリ・テ・カナワ,ジェフリー・テイト指揮イギリス室内管弦楽団  

英デッカ SXDL7604 

「1982年8月、ロンドン、キングスウェイ・ホールでのデジタル録音。カントルーブはほとんどオーヴェルニュの歌だけで知られる作曲家だが、心休まるいい曲だ。第5集まであるうち第3集までが入っている。オーヴェルニュ地方も、カナワの出身地ニュージーランドも、火山、温泉、放牧で知られる土地柄。そのせいか雰囲気はぴったり。みずみずしく、歯切れの良い、艶のある声で、透明度も高い。オケはA面の頭でハテナ?と思わせるところもあるが、2曲目からよくなり、3曲目、3つのブーレの第1「泉の水」あたりはすばらしい出来。繊細で明快で歪み感が少なく、個々の楽器を分解してみせながら、歪みっぽさを全く感じさせない。優秀録音盤。」

*注「レコードは第3集まで出ていた。キリ・テ・カナワ(1943〜 ) マオリ族出身の父親とヨーロッパ人の母親 のもと、ニュージーランドのギズボーンで生まれのソプラノ歌手。1982年エリザベス女王より男性の“サー”の称号に当たる“デイム”の称号を受けた。日本の相撲のファンで、千代の富士を”美男子”と賞賛していた。このレコードの木管ソロが殊の外に美しいと思っていたら、オケのメンバーに、Ob:ニール・ブラック、Cl:シーア・キングの名手が参加していたそうだ。国内版.輸入メタル原盤プレスはロンドンL28C−1461。」
 
 
39−15

ヴォルフ/ゲーテ歌曲集、ケラーの詩による6つの古謡ほか

S:エリー・アーメリンク.Pf;J・ジャンセン

蘭 ETCETRA ETC−1003

「制作1982年。ロマンチックで親しみやすいシューベルトと違って、理知的で堅苦しいヴォルフの歌。わりとやわらかいものを、集めてはいるが、アメリンクも少し構えて、端正で力強い歌い方。ピアノも力強い音だ。特にピアノは出色。ダイナミックで、量感十分。ふやけたり、キンキンとメタリックになったりしない。声も力強く、やや硬質でサ行も硬いが、決して鋭く突き刺さる声ではない。ただ、オンマイクのせいか、音像は顔だけしか見えず、マイクから離れたり、近付いたり、左右に揺すったりするのが判る。宙に浮く生首の感じだ。ホールエコーは綺麗だが不自然。広いデッドなスタジオに反射板を置いての録音という感じだ。」

*注「宙に浮く生首とは不気味な表現だが、一般の歌曲の録音はマイクが近すぎ、首どころか唇の存在しか判らないものが多い。」
 
     
     
    


PAGE−1はこちら
PAGE−3はこちら

PAGE−4はこちら