No−128?(完全対称型プリアンプ)製作記
1999年12月完成(一応)
その4
(2000年7月記)

その3はこちら

 ここからは、製作後日談のようなもの。

フラットアンプの方はステップ型の位相補正がなくとも安定になった、と書いたのに回路図には位相補正が入っている。これは、試験運転?している時に、また、訳の分からない現象が起きたからである。

新しいアンプが出来上がると、持っているアンプを組み合わせてとっかえひっかえ聴いてみたくなるもの。なので、私の場合もGOAなアンプ達に復活したばかりのNo−144やNo−147(風)、さらに出来上がったばかりのNo−139(もどき)まで持ち出して、自己満足に浸って音楽を聴いていたのだが、いつもの癖で(完全対称型パワーアンプを使っているとこういう癖が付くなぁ(^^;))、パワーアンプの放熱器に手を触れてみたら、なんと異常な熱さだ。ん?
これが出来たばかりのNo−139(もどき)で、ひょっとして気づくのがもう少し遅くなっていたら、それこそ「ちょっとした後日談」のネタになっていたと思うが、幸いにも早めに気づいて事なきを得た。のだが、調べてみるとNo−139(もどき)のアイドリング電流が0.5A程度にまで上昇しているのだ。本来0.2A設定なのに。
No−128? フラットアンプ
そこで、色々調べてみると、No−139(もどき)をこの完全対称型プリアンプと接続するときに限りこういう現象になるのだ。GOAなアンプ達は勿論、同じAC電源のNo−144やNo−147(風)ではこのような現象は生じない。
ついでに私はGOAなパワーアンプ達用に±30Vや±45Vの乾電池を用意しているので、これを使ってNo−139(もどき)を+45Vと±30Vの乾電池電源にして動作させてみると、この怪現象は起きない。

が、こういう現象は理屈は不明でも、発振だ!!
から、プリアンプの方を当たってみると、No−139(もどき)をAC電源で動作させ、信号ラインを接続すると、プリアンプのフラットアンプがそのゲインを最小位置にした場合に微少に発振することが分かった。

と言うわけで、根本原因が分からなくとも対処はしなければならないから、フラットアンプにも120Ω、200pFのステップ型位相補正を入れたものである。
結果、怪奇現象は全く発生しなくなった。
本当にプリアンプというものは、分からないというか難しいものだ。


No−128? レギュレータさて、わたしのNo−128?完全対称型プリアンプの電源電圧は何故か±15Vだ。別に乾電池10個の電圧に合わせているのではない。そもそも「オーディオDCアンプシステム」搭載のレギュレーターを搭載しているので、元は±17.5Vなのだが、またしても怪現象が発生していることが分かったので、これに対処するためにレギュレーターを調整し、わざわざ±15Vにしたのだ。

と言うのは、イコライザーの出力DCオフセット電圧の変動が左チャンネルだけやや大きいのだ。と言ってもDCプリアンプのイコライザーのDCゲインは非常に大きく、このためここに唯一コンデンサーを入れてDCをカットしているのが金田式だから、もともとこの点のDCオフセットが変動するからといって何ら問題とすべきものではなく、少々の変動など当たり前と見逃すのが普通だ。

ところが、今回の完全対称型はイコライザーのDCオフセットがかなり安定なのである。上手くするとこれを0mVに追い込めるのではないか、と思うぐらい安定なものだから、片方のチャンネルだけがやや変動が大きいため(といってもイコライザー出力で数十から100mV程度のオフセットなのだ)おかしいなと感じたのだ。しばらくその都度初段の半固定抵抗を調整していたのだが、ある時、ハッと気が付いた。
そうか、フォノプレーヤーを繋いだときと外した時でオフセットが違っているのだ。
早速再現実験をすると正にそのとおりだ。

となれば、理由は一つしかない。2SK97のゲート漏れ電流である。これが560KΩに流れるか数十Ωのカートリッジに流れるかの差で終段に発生するDC電圧がこれだけずれた訳だ。そのDCゲインを考えればごく微弱なゲート漏れ電流だが、分かってしまえば流れない方が良いに決まっている。
そこで手持ちの2SK97も幾つかお出まし願ってとっかえひっかえして調査してみると、2SK97はドレイン−ソース間電圧が14V〜15Vを境にしてゲート漏れ電流が急上昇するようなのだ。もとよりこの結果は私の手持ちの2SK97による結果だから皆そうとは言えないが、私の場合は素直に手持ちの範囲で解決することとして、レギュレータを調整して電源電圧を±15Vに下げて対処したのである。

勿論、カスコードを付加する方法もあり、ここまでの経験からそれでも最初の頃と違い安定動作させられるだろうとは思ったが、こうしてみるとシンプル型もイイ感じがするし、それなりに各素子に比較的高い電圧がかかっていて、いまさら複雑にする必要もないのではないだろうか、ということでこうなっている。


No−128? イコライザーアンプなお、このアンプの半固定抵抗は、最初地元で入手できたコパルのFT−6型とNECネオポットを使っていた。が、東京に出張の折り、海神無線でふとコパルのTM−7Pを見つけて、そう言えばと思って購入し、さっそく換装してみたのだ。

結果、これは大変よい。と私が宣伝してもしょうがないのだが、キックバックというか、調整時ドライバーを離した途端オフセットが揺り戻した、ということが全くなく、非常に気持ち良くアンプの調整ができる。

この部分に用いる半固定抵抗については音の点から色々な講釈もあるようだ。が、他の製作記を見ていただくと分かるとおり、私はもうあまりこだわらないで、安定性を重視したいと思っているのだが、その意味でもTM−7Pは非常に優れていると思う。

また、イコライザー出力の33000pFの後ろには820KΩをアース間に挿入している。これは、ロータリースイッチ切り替え時に、これがないとフラットアンプのゲート抵抗を通じて33000pFに充電電流が流れることに伴ってパチッというノイズが軽く発生するのを嫌ったためのもので、これでEQの低域でのオープンゲインが下がると考える人は付けなくとも良いものである。

さて、以上の様な経緯を経て、No−128?完全対称型プリアンプは現在の姿でほぼ完成した。懐かしの素子達を生かすことが出来たという満足感もあるし、これまでになく完成まで苦労した分愛着も深いものがある。また、コントロール機能を重視して外部入力を充実したのも正解で、結果我が家のメインシステムとなった。

外部入力についてはアッテネータのレベルを3種類用意したので、ほぼ完全に満足できる実用性を確保出来たと思う。しかしながら、ゲインコントロールで調整する音量の範囲が26dbなのはやはり不足だと思う。専用の部屋とシステムでいつも同程度の音量で聴ける方は良いのだろうが、そうでない私などはこうやって複数のアッテネータを用意して時と場所とシステムに応じて切り替えなければならない。

また、MC用のレコード再生機能の点では、そのトータルゲインは大きすぎると思う。特に能率が高い訳でもない我が家の90db程度の市販スピーカーシステムで聴いてもゲインコントロールのボリューム位置は最低、つまりフラットアンプのゲイン0dbでも音量は大きめだ。完全対称型パワーアンプのゲイン設定が40倍になったこともこれに拍車をかけている。イコライザーのゲイン設定抵抗を1KΩにしてそのゲインをやや下げてもみたが、その程度では焼け石に水なので元に戻してしまった。この辺は、ボリュームを常識的な手法で使うことを止めてからずっと続く金田式DCアンプのひとつの課題(使いにくさ)だと思うのだが、我が家のシステムでは日中に限ればぎりぎり実用性が保たれる範囲なので、取りあえずはこれで良しとしている。それなら、自分のシステムに合うように遠慮なくゲイン設定を変更すれば、と言われるかな(^^;;。

Taniyama Hirokoと、幾つか課題はあるが、No−128?完全対称型プリアンプは一応完成し、時間と空間を超えた音楽を再現してくれている。今日もまた、レトロな雰囲気で右のレコードなどを聴きているのだった(^^;。

こうして見ると何となく恐ろしげなジャケットだが、もともと霧に霞んでいるような写真で、谷山浩子の「鏡の中のあなたへ」というLPだ。鏡の中の私が彼女に覗かれている。
最近のJ−POPではあり得ない、心の琴線をくすぐるような「COCKY POP」の雰囲気があまりに懐かしいレコードだが、音自体は非常に瑞々しいもので、完全対称型プリアンプ、というか金田式DCプリアンプのすばらしさを実感してしまう。

このレコードが録音された頃に今回復活を果たした日立の2SC984はジャンク箱に入ってしまったということになるが、完全対称型式のお陰で20年を経てここに新たな出会いとなった訳だ。

ところでこの方、今も音楽活動しているのだろうか・・・
などと、こんなことを書いてもしょうがない。
ということで、以上。


最後まで読んでくれた方、お疲れさまでした。では・・・   
 

No−128?の内部

その後

イコライザーの位相補正定数の記載が誤りだったので文章を修正した。
フラットアンプの位相補正定数を390Ωと200pFに変更した。
フラットアンプの終段のアイドリング電流をやや減らして8mA程度とした。このため2段目差動アンプの共通エミッタ抵抗が390Ωから470Ωに変わった。
以上は回路図に反映させた。
(2000年9月30日)

その後の2


本体を製作してからもう1年以上が過ぎた。ようやくその電源部をこしらえた。勿論AC電源である。
回路はMJ95年6月号のNo−128オリジナルどおりだ。電源トランスの出力をブリッジ整流しただけの回路だから変更しようにもしようがない。

電源トランスはオリジナルどおりのテクニカルサンヨーTKP−1。ダイオードは31DF2ではなく安売りしていた30DF2にしてしまった。が、電解コンデンサーはネジ式の日ケミKMH80V2,200uFを奮発した。
ケースはタカチのOS49−26−33BX。オリジナルはこれより一回り小さいケース1個に電源部もアンプ部も組んでいるのだからこちらは非常に贅沢な使い方ではある。(^^;

さて、私の金田式DCプリアンプの電源がAC商用電源になるのは何年振りのことだろう。金田さんの録音系におけるバッテリー導入の動きがプリアンプやパワーアンプの再生系に及んできたのは多分81年頃で、私のプリアンプも83年頃にはSWレギュレーターの電池式になっていたように思えるので、もうかれこれ18年にもなってしまう訳だ。

長年慣れ親しんだ文化を変えるような気分・・・と言えば大袈裟だが、このプリアンプをAC電源に戻すと入り口から出口まですっかりAC電源となってしまうのだ。約20年振りに・・・。

かつてAC電源を捨てて乾電池を電源にしたことについては、音が良いということ以外にそのマニアックさ自体で悦に入っていた部分もあることも告白すれば、ここに少しばかりの敗北感があることも分かっていただけるかもしれない。何のための乾電池だったの・・・?金田さん・・・(^^;;

だからAC電源の方が乾電池よりも音が良かったらちょっとショックだし、どうせなら少しハムでも聞こえてくれた方がよい、という気持ちが心のどこかにある。

このごく簡単なAC電源部の製作が今日までのびのびになってきたのはそういう訳があってのことかもしれない。

ま、AC電源でも乾電池以上の音が出る回路構成に進化したという通説に従って取りあえず納得しましょう。音が良ければそれでいいじゃないですか。

と、前置きが長くなったが、結論は短くて、少なくともこのプリについては今後乾電池を使う必要性は失せた。電池特有の透明感、静寂感に何ら引けを取らないだけでなく、低域のエネルギー感、ダイナミック感、滑らかさ豊かさでは勝ってしまうようだ。ついでにハムのかけらもないのだ。AC電源特有のモヤモヤはどこへ行ったの?

などと書くと電池の音が悪いと思われる方がおられるかもしれないが、そうではなくてどちらも同じように良いのだけれども・・・


そうさ、そうさ。しょうがないさ。
名前は同じネオでもとうの昔に水銀0の根性なしになった電池だもの。
完全対称方式は、この電池の音の悪さが開発動機になったなんてこともどこかで聞いたような気がするし、とすれば当然じゃないか・・・

と、千々に乱れるこころ、今日のところは電池のせいにするしかなくて・・・(^^;;

(2001年2月24日)

その後の3

また半年が過ぎた。

未来は分からないもの。
あたりまえだが半年前にはこんなことがあろうとは思いもしなかった。
なんと、幻の名器2SA566が手に入ったのだ。(^^)

これを手に入れるのはかれこれ20年振りぐらいだが、これはインターネット社会がもたらしてくれたものと、この世の進歩(変化?)に感謝せざるを得ない。

そしてその結果が右の写真だ。
2SA566を飾っておくわけにはいかない(^^)
レギュレーターのモトローラ2N3741、2N3766は早速2SA566、2SC1161に置き換えられた。

と今回はこれだけのこと。


以下は単なるタワゴト。

やはり名器は名器なのか。
特にアナログディスク、即ちレコード再生がより楽しくなったようだ。

今となってはレコード再生をいわゆるハイファイ(こんな言葉、今も使うのかな?)と言う訳にはいかないだろう。CDに比較したら再生帯域も広くはないし、ダイナミックレンジも狭いし、ノイズや歪のような再生音の傷も多い。

が、何故かより素朴な実在感を感じたりするんだな〜(^^;

なんと言うか、所々に破れがあって一部衝立で見えない部分もあるが、もの自体は近くで肉眼で見ているような直接感がある、とでも言ったらよいか、要するに鮮度感が良いと・・・
いや、これに比してハイビジョンな映画も勿論素晴らしいのですけどね(^^;;

また、AC電源より水銀0でもナショナルNEOを電源にした方がそんな感じがより得られる感じになったので、またしても電池電源に戻ろうか・・・、という気にもなっている。が、消耗を気にする必要がないAC電源はやはり便利なので、結局当初の目論見どおり併用ということになろうか。CDはAC電源、レコードは電池電源てな感じで(^^;

と、今回は単なるたわごとに終わってしまった・・・


(2001年9月1日)

その後の4



また1年半が過ぎた。

昨年は半導体完全対称型プリアンプの新型、No−168が発表され、その考察をする中でこのNo−128(?)の改造も予感されたのだが、No−168に比して明らかに劣るというほどでもなかったのでそのままになっていた。

今年になってPSpice(評価版)でシミュレーションに少しばかり手を染めた結果、完全対称型のことも以前よりは理解できたように思えてきた。また、この3月7日にK先生の14年ぶりの新単行本“音楽を愛する電子回路 オーディオDCアンプ製作のすべて 上巻”を入手したところ、トランジスタ式の完全対称型プリアンプの最新型「高出力MCプリアンプ」が掲載されており、それを見るにやや感じるところもあった。

結果、我がNo−128(?)はこうなったのである。


No−168で半導体完全対称型プリアンプの標準型は手に入れたから、このNo−128(?)まで同じものにしたのでは面白くない。

No−168に対して、こちらはあくまでシンプルに最低限の半導体素子数で完全対称型を構成するという128精神(←そんなのあるのか)でいくことにしたのだ。

が、微妙に変化しているところもある訳で・・・(^^;









まずはフラットアンプ。

No−168の製作の過程では、2段目にトランジスタを用いる場合はフラットアンプにもカスコードアンプが必要だ、と結論付けたのだが、新単行本掲載の最新型トランジスタ式プリアンプである「高出力MCプリアンプ」にはやはりフラットアンプのカスコードはない。

何故か? 

「それほどの差ではないのだよ・・・。」と天の声。 はっ。m(__)m

さっそくPSpice(評価版)でシミュレーションしてみよう。

機  種    電圧利得
(db)
      電圧利得差 理論値
との乖離
電圧利得差 理論値
との乖離
        負荷1KΩ 負荷21KΩ 負荷51KΩ 21KΩ−1KΩ    51KΩ−1KΩ   
                     理論値= 26.4   理論値= 34.2
168FET FA カスコードなし 44.4 66.2 70 21.8 -4.6 25.6 -8.6
    カスコードあり 44.9 68.2 72.5 23.3 -3.1 27.6 -6.6
168TR FA カスコードなし 51.7 72.6 75.7 20.9 -5.5 24 -10.2
    カスコードあり 51.8 75.0 79.5 23.2 -3.2 27.7 -6.5
128(?) FA カスコードなし 46.2 67.0 69.8 20.8 -5.6 23.6 -10.6
    カスコードあり 46.4 68.7 72.4 22.3 -4.1 26.0 -8.2
                           
original 168 カスコードなし    40.0        68.0             28.0     -6.2
高出力MC カスコードなし    34.1       62.5            28.4     -5.8


表一番上が、2段目J103のNo−168フラットアンプそのもの、真ん中は2段目にA726を起用した我がTR版No−168フラットアンプ、そして下が今回の改造前の我がNo−128(?)フラットアンプである。

それぞれ2段目のカスコードアンプがない場合と付加した場合について、アンプの負荷が1KΩ、21KΩ、51KΩでのオープンゲインの電圧利得を測定したものだ。

完全対称型は理想的にはオープンゲイン時の電圧利得はアンプ負荷に比例する。のだが、それは2段目差動アンプ及び終段が理想的に電流出力の場合(=出力インピーダンスが∞の場合)であって、現実にはそうでないので、特に出力に繋がる負荷抵抗が大きくなるほどに理想からは外れてしまうのである。

これはやむを得ないことであるが、その理想から外れる程度が少ないほど、逆に言えば理想に近ければ近いほど音も良い、と思えたのがNo−168でTRバージョンのフラットアンプを考えた際の私の個人的結論であった。だから我がNo−168TRバージョンFAには2段目にカスコードを付加した訳だ。

が、こうしてみると数値的には確かに著しい差という訳ではない。勿論カスコードを付加した場合の方が理論値に近い結果が出るのだが、ではカスコードなしでは全くだめか、というとそうでもない、それなりの結果にはなる、といった数値であろうか。

が、数値的な差は小さく見えても実は大きな差なのかも知れない訳で・・・(^^;


さて、
問題は、表の下に載せた二つのデータだ。これは新単行本に載っているK先生オリジナルの実測データなのである。

これが実に問題なデータなのである。

なんとK先生のこれらカスコードなしのフラットアンプの実測結果の方がカスコード付きのフラットアンプのシミュレーション結果より理論値に近い、すなわちより理想に近いのである。

そんなはずは・・・

と思いつつも、シミュレーションと実測ではどちらが勝るか、は、勿論実測が勝るにきまっている。

この新型回路もPSpiceシミュレータに掛けてみるしかないではないか。

・・・・・・・・・・・・

結果、

茫然自失・・・  さすがにK先生。そのなされることは遥かに高いのだ。

m(__)m 参りました。


これで我が128(?)フラットアンプは上のようになったのである。

その微妙な定数変更には結構奥深い意味があるのだ・・・(^^;




新単行本に登載された最新型の高出力MCプリアンプのフラットアンプのイメージ。

例の如く出力負荷を1KΩ、2KΩ、4KΩ、8KΩ、16KΩ、32KΩ、64KΩにパラメトリックに変化させた場合のオープン電圧利得&位相のシミュレーション。







グラフ左下のグループが電圧利得特性、これが問題なのだ。それが7種の負荷に対応して7本あるのだが、その間隔が驚異的ではないか。

2段目差動アンプにはカスコードを付けていないのに、利得がかなり高負荷まで6dbステップの比例関係が続いているのだ。

えぇぇぇぇぇ・・・・(驚)






なんと、この高出力MCプリアンプは2段目にカスコードがないにもかかわらずシミュレーションでも電圧利得の負荷比例特性が優れたものになっているのである。

K先生の実測結果が裏付けられてしまった。

ではこの回路に2段目カスコードを加えた場合はどうだ、と、あわせて上と同等にシミュレーションした結果はこうなのである。

機  種      電圧利得
 (db)
        電圧利得差 理論値
との乖離
 電圧利得差 理論値
との乖離
       負荷1KΩ 負荷21KΩ 負荷51KΩ 21KΩ−1KΩ    51KΩ−1KΩ   
                      理論値= 26.4   理論値= 34.2
高出力MC カスコードなし 37.2 61.1 66.0 23.9 -2.5 28.8 -5.4
    カスコードあり 37.1 62 67.1 24.9 -1.5 30.0 -4.2


カスコードなしの状態で、上で試した他の機種のカスコード付きの場合のシミュレーション結果を上回る結果が得られているのだ。
すばらしい。「高出力MCプリアンプ」実に恐るべし・・・。

う〜ん・・・、参った。

2段目カスコードなしでここまで優れた結果を生み出されては、2段目差動アンプにトランジスタを起用した場合は2段目にもカスコードが必要だ、とした先の判断は撤回せざるを得ない。(^^;

のだが、問題はこの回路のどこにその秘密があるのか、だ。

外見的には全く同じで、定数設定と電源電圧の違いだけだと思うのだが、それがこれだけの異なる結果を生みだすとは・・・

もしや電源電圧のせいでは?、とにらんでこのまま±27Vにしてみたのだが、多少の違いは出るもののこの回路の優位性は動かなかった。

となると、次に怪しいのは終段TRのベース抵抗とエミッタ抵抗の設定ではないだろうか。

と睨んで、この点で最も成績の悪いこのNo−128(?)でシミュレートしてみたのである。

結果・・・

No-128(?)      電圧利得
 (db)
         電圧利得差 理論値
との乖離
 電圧利得差 理論値
との乖離
ベース抵抗値 エミッタ抵抗値 負荷1KΩ 負荷21KΩ 負荷51KΩ 21KΩ−1KΩ     51KΩ−1KΩ       
                         理論値=   26.4  理論値=    34.2
   620Ω    24Ω     46.2    67.0    69.8      20.8   -5.6     23.6    -10.6
   620Ω    47Ω     41.9    64.4    68.2      22.5   -3.9     26.3    -7.9
   620Ω    51Ω     41.3    64.0    68.0      22.7   -3.7     26.7    -7.5
   620Ω    56Ω     40.7    63.6    67.8      22.9   -3.5     27.1    -7.1
   560Ω    47Ω     41.1    63.7    67.4      22.6   -3.8     26.3    -7.9
   560Ω    51Ω     40.6    63.2    67.1      22.6   -3.8     26.5    -7.7


そうだったのだ。

No−168の考察時には2段目の出力インピーダンスを上げることを主に考えたのだが、やはり終段自体の出力インピーダンスも十分に高いことがこれに劣らず重要だったという訳なのである。

2段目の出力インピーダンスもそうだが、先ずは終段のエミッタ抵抗値の設定、これもキモだ。ということなのだ。

フラットアンプの終段の場合は帰還後には適度に低い出力インピーダンスになる必要があるので無帰還時むやみに高ければいいというものではない。が、それも踏まえつつ所要の高出力インピーダンスを獲得しておかなければならないということなのだ。したがってその設定には最良ポイントがあるということになる。

それにあわせてベース抵抗値だ。

これが2段目FETのNo−168の1/3に設定されている。これもキモい。

これで終段の電流ゲインも1/3となるのだが、結果、上側の2段目差動アンプから見た終段の等価入力インピーダンスも1/3となって、2段目出力インピーダンスも1/3で良いということになるのである。
カスコードなしの2段目トランジスタでOKとなるように構成されている。ということなのだ。

2段目の電流ゲイン&出力インピーダンス、終段の電流ゲイン&等価入力インピーダンス、アンプ全体としてのゲイン、それらがすべて考慮されてあの「高出力MCプリアンプ」の回路になっている。

だが、この表の結果で分かるように、「高出力MCプリアンプ」の秘密を我がNo−128(?)フラットアンプに取り入れてもまだK先生の「高出力MCプリアンプ」には及ばないではないか。

まぁそれは、あちらはさらに初段の負荷抵抗や2段目差動アンプの電流帰還抵抗など、説明されないところで一層の最適化がなされているが故に違いない。


「それほどの差ではないのだよ・・・。」と、遠くで天の高笑い・・・。


えーい、悔しい・・・


が、そうとあっては従う以外にあるまい。

我がNo−128(?)のフラットアンプは、結局手持ちススムの関係もあり、終段エミッタ抵抗を47Ωとし、その関係で2段目共通エミッタ抵抗が360Ωに変更され、結局初段、2段目ともにカスコードを付加しないシンプル型のままになったのである。が、何のことはない。K先生の「高出力MCプリアンプ」の軍門に屈したのである・・・(^^;

が、その結果、きた〜!
これだよ、これ。この躍動感、柔らかくかつ強靱な力強さ、そして美しさ。
何もかも良くなったではないか。

やはり完全対称型は2段目及び終段が理想に近ければ近いほど良いのだ。(勿論、負荷との相関関係を踏まえた上においてだが・・・)

ま、この128(?)も我がNo−168TRバージョンと全く同じでは面白くないしね。(^^)(←負け惜しみ)





で、この際なので終段トランジシタを2SC960から2SC984に換装したのである。

既にイコライザーの方にはC984を起用しているし、これで一層C984の音になるだろう。

また、この方がオープンゲイン時のGB積がアップして広帯域になるはずなのだ。

少しは「高出力MCプリアンプ」の鼻をあかしてやりたい・・・(^^;

というわけで、先ずは終段2SC960のイメージで終段B−C間に30pFを外付けし、同様に負荷を1KΩ、2KΩ、4KΩ、8KΩ、16KΩ、32KΩ、64KΩにパラメトリックに変化させた場合のオープン電圧利得&位相をシミュレートする。








第1ポールは75KHz(1KΩ)〜6KHz(64KΩ)の範囲で終段負荷の増減にあわせて移動する。

最終的にオープンゲインが0dbとなるポイントは負荷によらず1.9MHz付近であるが、初段に入れたステップ位相補正の効果で位相回転が戻り、シミュレーション上は同ポイントの位相回転は−140°弱程度となっている。安全圏は−120°以内とのことだが、実機はごく安定だ。







続いて、終段を2SC984としたイメージで終段B−C間は3pFだ。

2SC984の規格は、Vcbo=50V、Vceo=50V、Ic=500mA、Pc=350mW、fT=230MHz、Cob=5pF と、実はなかなかに立派な特性を持ったトランジスタなのである。

形状はいかにも古風だが、型番自体はC960より後の番号であるので、まあ、C960と同時期のTRだろう。いにしえに初期K式プリアンプの終段シングルエミッタフォロアや、今はなき第1世代の超高速大電流レギェレータの3段ダーリントンエミッタフォロアの初段に起用された、という経歴を有している。知る人ぞ知るTRなのだ。

音もなかなかに良さげ。(^^)

そのCob=5pFなので、ここではC1815の規格上のCobが2pFであることから3pFを外付けする。








第1ポールは90KHz(1KΩ)〜13KHz(64KΩ)と期待どおり伸びて、オープンゲインが0dbに沈むポイントも5.5MHzとなった。

初段のステップ型位相補正は実にこの日の来るのを知っていたかのようにその5.5MHzポイントで位相が最も戻って−120°〜−125°となるではないか。実機も全く安定だ。

この結果から、終段TRを2SC984に換装しても他には何の定数変更も不要ということが明らか。(^^)







で、その音なのだが・・・

2SC984。これも実に名石だ。と思う。持っている人は完全対称型プリで活躍させて欲しい。






(2003年3月24日)




その後の5



また2年半が過ぎた。こうしてろうそくは刻一刻短くなっていく。な〜んて(^^;

さて我がNo−128(?)完全対称型MCプリアンプ。久しぶりのビックマイナーチェンジである。

それが右の写真。上がことの前、下がことの後。

理屈は別頁のシミュレーションを見ていただくこととして、要するにイコライザーアンプのより理想的な理想NF型イコライザー化を図ることにしたもの。

といって基板を作り直すのはちょっと面倒。と思いつつ基板をつらつら眺めて見ると、な〜んと、ここに配置してくれと当初から考えてあったがごときに追加部品を収めるべき場所があるではないか。→
これなら作業は一瞬だ。


という訳でこうなった。(^^)

右がその部品追加後の写真だが、ご覧の如く従前からあった部品は一切動かす必要もなく改造作業は終了したのである。

で、追加したものは何か。

それは、熱結合されている2段目差動アンプの2SA726Gの上に見えるトランジスタ、そしてその左の銀帯と思しきダイオード、そしてその反対側でトランジスタとSEコンの間にある進。

こうしてみるとその部品配置には全く不自然さが無く、当初から計算済みであったかのようだ。(^^;

なお、上の写真と見比べると写真右上の四角いSE33000pFの下側に2本、左側に1本の抵抗があったものが取り去られているに気づかれると思うのだが、実はそれは前回の段階ですでにそうなっていた出来事。なのだが、未報告だった。



しかしてこれが改造後の我がNo−128?完全対称型プリアンプの回路図。

細かい点では、イコライザー初段の2SK97ソースのトリマーを200Ωに戻した。また、前回2年半前の時点でそうなっていたのだが、帰還回路の1500pFにシリーズの3.6kΩの高域帰還制限抵抗、イコライザー出力にシリーズに入れた発振防止用の47Ω、そして33000pF通過後の出力にソース切り替え時のノイズ防止用に入れた820kΩは、それぞれ不要または不適当という理由で撤去してある。

なお、真ん中のフラットアンプのソース切り替えスイッチはディップスイッチで表現してあるが描写モデルがないためにこれで表現しているもので、現実にはロータリースイッチ。
 
こうして見ると、もはやオリジナルNo−128の面影も薄く、No−128の名を冠することもどうかと思えるぐらい。(^^;

で、今回の要点は勿論イコライザー2段目差動アンプ右側に入れたカスコードアンプ。

これを1個入れることによってこのシンプル型完全対称MCイコライザーも最新のNo−168MCイコライザーに匹敵する理想NF型イコライザーになるのである。(^^)

左側?
基板に入れる場所がない。し、2SA726ももはや在庫僅少なので省略。(^^; 






PSpice(評価版)で改造後のイコライザーの特性を観る。

ここで終段の2SC1775は2SC984の代役。Cobの違いはB−C間にいれた3pFで補正しておく。

まずはオープンゲイン時の各部の電流出力(gm)。これを観ると各部動作の対称性等がよく分かる。

この場合は位相補正が利かないようにR15は無視できるぐらいに大きくしておく。





かなり素晴らしい。(^^;

このグラフの見方等について興味のある方はこちらへどうぞ





PSpice(評価版)が描くその特性はどうか。まずはイコライザー単体の性能を明らかにするために負荷抵抗は820MΩと無視できる大きさにしておく。
今度は位相補正をちゃんと利かせる。




実に立派なものだ。(^^;

2SA872を1個追加しただけなのだが、これでNo−168レベルになった。(^^)





実働状態では、カップリングコンデンサー33000pFとフラットアンプの入力抵抗820kΩが出力にパラの負荷となる。

この実働状態時における特性はどうか。

ついでなので各部の動作点も表示しておこう。




オープンゲインは1Hzで96dBに達している。NFB量は中域で36dB、低域では最小で28dBと乖離は最大で8dB。

かなり理想的な理想NF型イコライザーになったわい。(^^)




参考までに1995年6月号のオリジナルNo−128のイコライザーを同様にシミュレートしてみる。

まずは各部の電流出力(gm)。





う〜む。

はっきりいってあまり良くありませんねぇ・・・(^^;




しかしてその特性は・・・





う〜む。やはりイマイチ。(^^;

しかもクローズドゲイン(青)に10MHz付近で10dBのピークがあり、位相補正もあまり妥当でない感がある。(^^;

が、これ、95年6月号の82ページにある図21、オリジナルNo−128イコライザーアンプのゲイン周波数特性の実測結果にごく近い感じがするのだが・・・(^^;





実働状態ではこうだが、




やはり、オリジナルNo−128は過渡期の作例と言わざるを得ないようだ。

ただし、音の点でどうかはまた別の話であるのでお間違えなきように・・・(^^;





さて、問題は改造後の音であるが、


・・・いやはや参った。我が家のメインMCプリに返り咲きそうな気配・・・(^^;







(2005年10月16日)




その後の6


2段目差動アンプ右側の動作電流に起因する完全対称型の動作非対称性は、問題にするほどのレベルではないとは思うのだが、やはり終段動作電流の少ない半導体完全対称型プリアンプなどにおいては気になる点だ。

2段目差動アンプ右側の動作電流は、終段プラス側のベース(ゲート)抵抗を経由してアンプ出力点に現れるのだが、出力点DCレベルは0Vでなければならないから、必然的にこの電流を終段マイナス側が吸い込まなければならない。

このため、終段マイナス側の動作電流は、終段プラス側の動作電流に2段目差動アンプ右側の動作電流を加えた電流値となり、この動作電流の違いが終段のSEPP動作の対称性をどうしても崩してしまうのである。

しかも、終段マイナス側の動作電流を終段プラス側の動作電流より2段目差動アンプ右側の動作電流分多くするためには、2段目差動アンプ左側の動作電流を右側より増やし、これによって終段マイナス側TRのベース電流を増やすことによって果たす以外になく、また、このためには初段差動アンプ右側の動作電流を左側より増やさなければならないので、結局僅かではあるものの初段差動アンプと2段目差動アンプの動作対称性まで崩してしまうのだ。

パワーアンプなど、終段の動作電流(アイドリング電流)が2段目差動アンプの動作電流に比してある程度以上に大きい場合は全く問題ないとは思うのだが、この問題は完全対称型の回路構成に起因して完全対称型に内在する動作非対称性であり、終段の動作電流が少ないプリアンプでは問題の顕在性レベルが高く、やはり気になってしまうのだ。




この問題に対処する方法として「但聞ドライブ」という手法がある。

いにしえにニフティのfavフォーラムで但聞響さんという方が提案された手法で、正しくは、カレントミラー等を使用して2段目差動アンプのAC信号電流を含む動作電流を検出してアンプ出力点から抜き取るという精緻な手法だったと記憶している。

私がいくつかのアンプに起用した「但聞ドライブ」は、出力点から単に2段目差動アンプ右側アイドリングDC電流を定電流回路で抜いてやるものだが、実はこれは単なる簡易型に過ぎないもので、その意味で本当の「但聞ドライブ」ではない。

この簡易型「但聞ドライブ」でも初段差動アンプ及び2段目差動アンプの動作非対称性については解決するので、その意味で多少の効果はある。

が、よくよく考えてみれば、この簡易型の「但聞ドライブ」では終段の動作非対称性を実は何も改善していないし、だからといって、カレントミラー等の回路を付加する本来の「但聞ドライブ」を導入しなくとも、もっと簡単にこの問題を根本的に解決する方法があるではないか。

と、ようやく気付いたのであった。(^^) 

気づいてしまえば、な〜んだ。なのだが、その結果我がNo−128?はこうなったのだ。







どこが変わったのか? どこも変わっていないように見えるが・・・

って、終段マイナス側のベース抵抗の設定がちょっと変わっているのである。たったこれだけ。(^^;




で、問題はその謎解き。

なのだが、要すれば、完全対称型の場合、2段目差動アンプ右側出力は終段上側をドライブするドライバーであるともに、終段とともに負荷をドライブする出力段の一部なのだ。という視点にようやく辿り着いた、ということなのである。

気付いてしまえば、「当たり前だろ!」 という感じであるのだが、そうすると、

完全対称型の終段は、プラス側は2段目差動アンプ右側出力電流の電流ブースターであり、マイナス側は2段目差動アンプ左側出力電流の増加型カレントミラーと解することもできるから、計算は簡単で、

2段目差動アンプ左右の動作電流をa、終段のベース抵抗をb、エミッタ抵抗をcとすれば、
2段目を含めて出力段上側(プラス側)からの出力点への出力電流は a+a*b/c
出力段下側(マイナス側)からの出力点への出力電流は a*b/c
よって、出力段の電流ゲインとすべきものは、これを入力電流aで除算して
出力段上側が 1+b/c
出力段下側が b/c   と、そもそも異なるという事実に気付いてしまう訳なのである。

このNo−128?で具体的に数値を当てはめれば、
出力段上側の電流ゲインは 1+5.1/1=6.1倍
出力段下側の電流ゲインは 5.1/1=5.1倍
なのだ。


要するに、2段目差動アンプ右側の動作電流も考えれば(と言うか、考えなければならないのだ。)、完全対称型の出力段上下はそもそも電流ゲインが異なるのである。そして、これがこの問題の核心だったのだ。

本来の「但聞ドライブ」はこの問題に対し、出力点に2段目差動アンプ右側出力の逆相信号を注入してキャンセルすることで対処しようという手法なのだが、そうではなくて、それじゃぁ、単純に出力段下側の電流ゲインを出力段上側に合わせることで解決すれば良いではないか、というのがここでの新手法である。

このNo−128?であれば、出力段下側の電流ゲインを上側と同じく6.1倍になるようにして対処しましょうということだ。よって、マイナス側のベース抵抗を6.2kΩに変更したのである。(本当は6.1kΩなのだが、6.1kΩという抵抗がないので。)

すなわち、終段下側のベース抵抗をdとして、d=c*(1+b/c)とすれば良いのだ。

もちろんベース抵抗とエミッタ抵抗の比率を変えるだけなのでエミッタ抵抗の方を変えても良いのだが、エミッタ抵抗の方は電流帰還量や終段の電源電圧利用率等にも関係してしまうので、そういう問題のないベース抵抗側で調整するのが吉だ。

なんのことはない。こんな簡単なことで、完全対称型DCアンプは2段目差動アンプ右側の動作電流が出力点に現れることによる動作非対称問題と完全に決別し、DC動作もAC動作も完全に完全対称動作になるのである。すなわち、これが根本的解決手法なのだ。


いや〜、めでたし、めでたし。長年の“もやっと”が秋の空の如くに“すっきり”だ。 \(^^)/ \(^^)/




本当かいな?(^^;

というわけで、シミュレーションしてみる。


まずイコライザーのイメージでオープンゲイン状態での各部電流出力(dB)を観る。




各部の動作点。

ペアのシミュレーションモデル素子は現実と違って全く同一特性なので、本来それらが対称動作していれば動作点は全く一致し、出力点のオフセットも黙って0Vになっていなければおかしいのだが、微妙にそれが崩れている。

のは、2段目差動アンプの動作電流流路が左右で対称でないという完全対称型の回路構成のためだ。

このため、終段上下の2SC1775の動作点を微妙にずらして下側の2SC1775のアイドリング電流=上側の2SC1775のアイドリング電流+2段目差動アンプ右側の2SA872ペアの動作電流とすることにより出力点オフセットを0Vにしていることが分かる。

それは自動的にそうなるのではなく、初段差動アンプのソース側のトリマーを調節することにより実現している。R12とR13がそれだが、R13の方が4Ω弱小さくなっている。結果、初段差動アンプは右側の方の動作電流がやや多く、その結果、2段目差動アンプは左側の方が動作電流がやや多く、その結果、終段は下側の方がアイドリング電流がやや多くなって、上手くつじつまが合わされている、という訳だ。





そのペア素子同士の微妙な動作電流の乖離がどれだけ問題になるのかが重要なわけだが、それを観ることが出来るのがこの電流出力のグラフ。

一番下が初段差動アンプドレイン、真ん中が2段目差動アンプコレクタ、一番上が終段SEPPのコレクタの電流出力。

これを観ると、やはり終段SEPPで、動作電流の多い下側が上側よりちょっとgmが大きくなっているようではあるが、それは出力インピーダンスの問題によるものかも知れず、まぁ、この程度の動作電流の違いは問題にするレベルではないという感じだ。

よかった。よかった。(^^)




と、これまで思っていた訳だ。(^^;

では、本当にこれで良いのか?を観るために、入力に正弦波を実際に入力し、終段上下の出力信号をそれぞれ見てみよう。というのがこれ。

入力は20Hz正弦波。出力の負荷は1MΩ。MCイコライザーの場合、20Hzにおける負荷はNFB素子のインピーダンス820kΩと次段フラットアンプの入力抵抗820kΩがパラレルだから410kΩ程度だが、終段はA級PP動作であるから上下それぞれから見ればそれは倍の820kΩだ。だからここではわかりやすく1MΩとしたもの。



結果。

何故か赤、すなわちマイナス側の方の振幅が小さい。

終段はマイナス側の方が動作電流が多いのでその分gmが大きいはずで、それならマイナス側の振幅が大きくなるのが当然なのだが・・・(^^;




では、入力信号を1kHzとし、その場合のNFB素子のインピーダンスにあわせて負荷を100kΩにした場合はどうか。

勿論入力信号のレベルは10倍とする。




やはりプラス側がマイナス側より大きい。(^^;





さらに、入力信号を20kHzとし、その場合のNFB素子のインピーダンスにあわせて負荷を10kΩにした場合はどうか。

入力信号のレベルは当然さらに10倍とする。




同じだ。(^^;

なお、緑のプラス側がピークで延びきっていないが、これは電源電圧の関係等で飽和したもの。




ついでに、単なる参考までに、20kHz入力で、負荷1MΩの場合。




この場合は、何故かマイナス側(赤)の方が大きくなった。が、これは正に上下の出力インピーダンスの差による影響が大きくなったのだろう。プラス側(緑)の位相も遅れており、やはり伝達経路がTR一個分多いことなども効いているようだ。その意味では2段目差動アンプ左側にもカスコードを加え伝達経路も対称にすべきなのかもしれない。





次に、こちらが今回の改良後のMCイコライザー。

違いは終段マイナス側ベース抵抗が6.1kΩになっただけだ。





この場合の各部の動作点。

上の場合と比較すれば、初段差動アンプ及び2段目差動アンプの左右動作点が非常に良く揃ったことが分かる。それは初段のトリマーであるR12とR13の値が0.1705Ωしか違っていないことにも現れている。

ただこの場合でも終段上下の2SC1775の動作点は当然異なる。





だからこの場合の各部電流出力を見れば終段上下のTRのコレクタ出力における電流出力(dB)はこのように乖離してしまう。(ちなみにこれはエミッタ出力における電流出力(dB)を見ても同じなので念のため。)

これでは対称な出力は得られないような気になってしまうのだが、実はこれで良いのである。出力には2段目差動アンプ右側出力も関与するためだ。

これまでそれに気づかないでいたのが間違いだったのだ。人間なかなか事を観ることができないものだなぁ。(^^; ←お前だけ(−−)





で、早速20Hz正弦波、負荷1MΩの場合から上と同様に観る。






結果は一目瞭然。

オープンゲインでこの場合の利得は45000倍≒93dB程度になろうか。この状態で終段PP出力までの動作がこれだけ対称であれば十分だろう。(^^)





次に1kHz入力、負荷は100kΩ。





素晴らしい。

何も言うことのない対称動作だ。(^^)






次に20kHz、負荷は10kΩ。






終段上側TRの出力プラス側が6Vで飽和しているのはご愛敬だが、ここまで20Hz、1kHz、20kHzと観てきて、この方法で完全対称型の動作対称性が完全に確保されることが明らか。という結果だろう。(^^)





ついでに、こちらでも単なる参考までに、20kHz入力で、負荷1MΩの場合。





上と同様に、こちらもこの場合はマイナス側(赤)の方が大きくなった。

やはり上下の出力インピーダンスの差による影響が大きくなったためなのだろう。この場合もプラス側(緑)は位相も遅れており、やはり伝達経路がTR一個分多いことなどが効いているに違いない。





という訳。(^^)

であるから我がNo−168の方もすでに改良してしまっている。

問題はこれがどれだけ音に影響するものか?

なのだが、プリアンプの場合終段SEPPはA級動作であって上下信号は加算であるからその振幅に乖離があっても致命的ではない、し、まっ、この程度は枝葉末節の部類だろうから、あまり変わらないのでは・・・。

興味のある方は自己責任で勝手にお試しあれ。すっきりするかも。な〜んて(^^;



(2005年11月12日)




その後の7


我がNo−128?完全対称型プリアンプ。また1年が過ぎて小変更。

が、わたくしの場合、「進化が続いている」 訳ではない。(^^;

まず、変更前。




このフラットアンプ部の方形波応答。
No−128? 完全対称型プリアンプのフラットアンプ部 ステップ位相補正390Ω+200pF
V-min V-mid V-max
100kHz 100kHz 100kHz
10kHz 10kHz 10kHz

100kHz方形波応答で明確なとおり、V−mid(ボリューム中央)位置とV−max(ボリューム最大)位置でオーバーシュートとアンダーシュートが生じている。10kHz方形波応答ではそれが左肩上下において髭のようになって現れている。見え方は違うが内容は同じだ。

最近ようやく理解したのだが、オーバーオールNFBアンプの方形波応答において、オーバーシュート、アンダーシュート、リンギングを生じない条件は、利得交点周波数における位相回転が90°以内であり、一般的に安全範囲と言われる120°まで回っていればもうそれだけでピーク10%のオーバーシュート、アンダーシュートは生じるもののようだ。135°ではこれが20%、150°では60%で、こうなるともう殆ど限界だ。

勿論利得交点周波数で位相が180°回ってしまえば発振してしまうので、位相余裕は多めにあるべきだが、かと言ってループゲインが1に落ちる前の周波数領域においてポールを1個に保ちかつ完全ワイドラー状態にして位相回転を90°以内にするというのは、アマチュアとしてもあまり芸がない部分があるし、発振安全性はあるはずのさらに30°から40°の位相回転領域を活用して可聴帯域における位相回転を減らしたり、可聴帯域におけるNFB量を増やしたりと、位相補償に多少の技巧を施してもばちは当たらないはずで、そうすると方形波応答ではこの程度のオーバーシュート、アンダーシュート、リンギングは生じてしまうものなのだ。だからこの程度のオーバーシュート、アンダーシュート、リンギングは許容範囲であり問題無しと判断するのが妥当だろう。

で、この390Ω+200pFという位相補正定数については、たまたまこうしていたと言っても過言ではないのだが、結果的には実に適切な定数になっていたということが方形波応答を観る環境が出来て分かったのだった。今回、我がNo−128?のこの回路構成では、ステップ位相補正はこの390Ω+200pFが最良でこれ以上に良い組合せはないことを、色々定数を変更し方形波応答を観て確認したのだった。自分も案外幸運に恵まれているのかも。(^^)





ところで、先にNo−168の方では初段ステップ位相補正定数を変更することにより方形波応答をより適切なものに改善出来た。

のに、No−128?ではこれ以上改善できないのだろうか?

結論的には出来ない。

何故か。

それは、こちらの終段に高域特性のより優れたトランジスタ2SC984を使用しているから。なのである。

・・・・・・・・・・・・

ここで、気分が動いた。

では高域特性の優れていない、例のいにしえのトランジスタ2SC960(or959)を起用しようではないか。と。(^^;

要するに芸のない方向へ、久しぶりの先祖帰りだ。

早速はんだごてを握り、あっという間に次のようになってしまったのだった。

主な狙いはフラットアンプの初段ステップ位相補正の排除。

そのために終段のベース抵抗も増やした。

果たして上手く行くか?(^^;

変更後の回路はこう。

なお、ついでにMCイコライザーの方の終段もC960(959)に変更し、フラットアンプの方は終段のベース抵抗が大きくなり終段上下ゲインのアンバランスは小さくなるので、その抵抗値を微調整することはやめてある。




で、早速改良後のフラットアンプ部の方形波応答。
No−128? 完全対称型プリアンプのフラットアンプ部 ステップ位相補正無し
V-min V-mid V-max
100kHz 100kHz 100kHz
10kHz 10kHz 10kHz

大成功\(^O^)/

目論見どおり、高域特性の良くない2SC960(959)の起用で初段ステップ位相補正は不要になった。

と言うわけで、これで行くことにしたのだった。(^^)









警告:この場合、2SC960(959)に代えて2SC984、2SC97A、2SD756など高域特性の優れたTRを起用すると発振する可能性もある。ので、その場合はそれぞれ勝手に対処されたし。(^^;



(2006年10月7日)





その後の8


何もしないでいても時は流れを止めることがない。いつの間にか我がNo−128?完全対称型プリアンプも前回の小変更からまたまた1年が過ぎてしまった。。。毎度のことだが時の流れは速くて切ない。

今年は暑い夏がいつまでも続いてかなりまいった。が、さすがに10月になれば秋だ。気候もようやく体に優しくなってきた。ので、ようやく久しぶりにアンプに触る気分になった。結果、我がNo−128?完全対称型プリアンプはこうなったのだった。(^^;

というわけで早速変更後の回路。↓




まぁ、回路図で一目瞭然だが、要すれば2007年4月号のNo−192を模倣しただけ。(^^;

が、No−192のプリアンプ部は、GOA登場以来悩まされ続けた問題にようやく解決策が提示されたものであり、その意味では、K先生、特にそこに触れてはいないのだが、実は画期的内容なのである。(^^)

で、問題とはもちろん音量をゼロまで連続的に絞れない不便さであった訳だが、それをフラットアンプ部の反転動作化とイコライザー出力への定電流負荷付ソースフォロアバッファの追加により解決したのがNo−192のプリアンプ部なのである

顧みればなんと20数年ぶりの解決策の提示なのだ。

が、私だけではなく古いK式ファンにあっては、そりゃそうだけどホントにソースフォロアバッファなんか挿入するのでいいの? という感も否めない。(^^; すなわち、いずれ「やはり音的にいまいち」なんてことで。。。になるのでは。。。という感じ無きにしも非ず。。。(^^;
現に最新のNo−194でトーンファクトリのシルバードマイカがその運命を辿っている。し、MCプリについては、信号回路にスイッチが入らないコロンブスの卵2という理由で音量をゼロまで連続的に絞れない従来型に戻ってしまった。ではないか。。。(^^;
まぁ、真空管式ではバッファ追加もスペース的に容易でなく作り直しになるからとのご説明ではあるのだが。。。(^^;

が、私としてはK式MCプリでも音量をゼロまで連続的に絞れるという当たり前のことを是非とも実現したい。ので、この際、我がNo−128?完全対称型プリアンプにそれを導入してみようという気分になったのである。(^^;

幸い我がNo−128?は基盤に無駄な余裕がある。ためソースフォロアバッファがイコライザー
基盤に追加で載せられるし、フラットアンプ側の反転動作化はもとより容易だ。変更に要する部品類もほとんどキャリーオーバーできそうだし、それで不足するものもジャンクボックスを探すと見つかったのだった。(^^)


で、ある日速攻で改造の手を加えた。(^^) で、その結果のイコライザー基盤の様子が右上の写真であり、フラットアンプ基盤が右下の写真。

イコライザー基盤の写真の左下の方に今回追加したソースフォロアバッファー部が写っている。のだが、何故かTM−7Pが写っている。のは、上の回路図のとおり定電流回路の電流値設定用抵抗をオリジナルNo−192とは違って半固定抵抗にしたもの。それは、ここの出力DCオフセットを極力0Vに抑えるためだ。先生おっしゃるようにこの回路で上下FETのソース抵抗を等しく設定するとその出力DCオフセットのドリフトは非常に小さくなるようだ。が、DCオフセット自体がオリジナルの回路で自動的に0Vになるかというと、そうは問屋が卸してくれない。しかるにここの出力DCオフセットは極力小さい必要があるのである。この後ろに電圧ゲイン最大20倍のDCフラットアンプと電圧ゲイン10倍のDCパワーアンプがつながる場合で、そのDCオフセット電圧が200倍に増幅されることを踏まえると、パワーアンプの保護回路の働かない条件を満たすためのDCオフセットの限界は±3mVだ。が、これをソース抵抗固定のままFETの選別で達成しようというのはなかなか骨な作業だ。そのため、定電流側のソース抵抗を可変にして簡単に調整できるようにしてしまったのだ。(^^;

ついでに余計なことだが、K先生の作例ではこの部分のDCオフセットが+7.3mVとあるのだが、これだと最大ゲイン時パワーアンプの出力には1.4VのDC電圧が発生してしまうことになる。ので保護回路が動作するものと思われるが、まぁ、最大ゲイン(ボリューム最大)で使うことはないという割り切りだろう。

次に、イコライザーNFB回路の2SK97ゲート抵抗を560Ωから270Ωに変更し、イコライザーのゲインを6dBアップしてある。のはNo−192と同様だが、それはK先生おっしゃるように私のこの回路構成でもCD入力とのバランスなどにおいて確かにこの方が使い勝手が良いため。

次にフラットアンプ入力のミューティングスイッチは排除した。ソースフォロア出力をアースにショートする訳にはいかないので当然の変更だ。

続いて、ゲイン連続可変の反転入力フラットアンプが右下の写真であるが、反転入力部分に追加したスケルトン抵抗が新しいほか、いくつかの進が不要になって取り去られている。入力のスケルトン抵抗は手持ちの都合で5.6kΩであり、ゲインコントロール用のコスモスボリュームも手持ちの都合で50kΩである。よってフラットアンプの電圧ゲインは最大でも9倍にしかならないのだが、私の環境ではこれで十分だ。(^^) また、CD入力部の抵抗も従来の抵抗をそのまま活用して20kΩのままとした。これでCD入力側の電圧ゲインは最大2倍(6dB)程度になるのだが、やってみるとこちらもこれで我が環境では適切な音量が得られる
のだった。めでたし、めでたし。(^^)



さて、非反転型から反転型に変更したこともあり、その動作の妥当性を観るためにもフラットアンプ部の方形波応答を確認しておく。

上から左チャンネルの100kHz方形波応答、10kHz方形波応答、右チャンネルの100kHz方形波応答、10kHz方形波応答で、それぞれ左からボリューム位置がレベル1、レベル5(中央)、そしてレベル10(最大)の場合であり、それぞれの写真では下が原波形であり、上が応答波形だ。

このオシロ写真では入出力の位相が同相となっているが、反転型アンプであるから本当は逆相である。ここでは対比しやすいようにオシロ側で一方の位相を反転させている。

これを観ると、基本的に良好な方形波応答だ。が、両チャンネルともボリューム位置がレベル1のときの100kHz応答波形の肩部分に細かいリンギングが数波乗っていることが分かる。
やはりボリュームを絞るとNFが深くなり、MHzオーダーの高域で位相余裕がやや不足するのだろう。が、この程度なら許容範囲だ。と思う。(^^;

No−128? 完全対称型プリアンプのフラットアンプ部 Ver.4
Left channel V-1 Left channel V-5 Left channel V-10
100KHz 100KHz 100KHz
10KHz 10KHz 10KHz
        
Right channel V-1 Right channel V-5 Right channel V-10
100KHz 100KHz 100KHz
10KHz 10KHz 10KHz




結果、その音は非常に良好だ。(^^)

し、バッファを追加したことによる悪影響は我が駄耳には感じられない。(^^) ←のが、駄耳の証拠か(−−)

そして、音量をゼロまで連続的に絞れるのは実に嬉しい。夜中でも音量を下げることによってスピーカーで聞くことができる。これが何よりも有り難い。音が小さくともスピーカーで再生すればこそ体全体で音圧を受ける自然な感覚が得られるし、自然な空間の広がりも得られるのだ。これはいくら音がよくともヘッドフォンでは得られない。

良いものになったわい。(^^)






(2007年10月31日)





その後の9


前回の小変更から8ヶ月。我がNo−128?完全対称型プリアンプは、ついにVGAをやめてしまったのだった。  ← いいのか。。。(−−)

ふ〜む。。。ここまでやってしまうと最早K式とは言えないかもだなぁ(^^;

で、併せて反転型も止めて非反転型に戻した。

が、悪くない。(爆) し、なんと快適なことか。(^^)  

。。。(^^;




フラットアンプ方形波応答
 10kHz  下:入力 上:出力 100kHz  下:入力 上:出力
1MHz  下:入力 上:出力 100kHz  入出力波形を重ねてみた



(2008年6月16日)





その5はこちら