No−128?(完全対称型プリアンプ)製作記
1999年12月完成(一応)
その5

その4はこちら



その後の10


・ある日、我がNo−128?MCプリアンプの終段トランジスタを2SC984に戻そうか、という気になった。

・2SC984は、2008年9月号のNo−198の記事の中で、子から“ダメ出し”を頂いた栄誉あるトランジスタである。

・子曰く、「2SC959(960)を似た規格の2SC984に交換すると、ドリフトが増えるだけでなく、とんでもないノイズが発生し、ハイゲインイコライザーアンプとして使い物にならなくなる。普通、アンプのノイズの原因はほとんど初段にある。出力段がノイズの原因になるのは2SC984が初めてだ。」

・ふ〜む。そうなのかぁ。。。

・では、我がNo−128?MCプリアンプで2SC984を再度試してみようではないか。

・2SC960(959)ならNo−121(もどき)もあるし、No−168(もどき)もあるし、どれも2SC960(959)では芸がないし。

・早速改悪作業。で、こうなった。
・結局のところ、終段のTRを2SC984に交換しただけ。
・それでどうなったのか?

・結論から言えば、ドリフトは増えるどころか逆に2SC960(959)の場合の半分ぐらいに減った。し、終段からノイズは出ない。し、ハイゲインイコライザーアンプとして何の問題もなく使い物になった。と、全く当たり前の結果でしかなかった。

それ故謎めくものとなった。
果たして、子は如何なる2SC984をご使用になられたのか。。。あるいは2SC984の音がよほどお気に召さなかったのか。。。

・は、分かる筈もない。ので、PSpice(評価版)と方形波応答等で観じることに専念する。

・先ずはイコライザー部。


・オープンゲイン(緑)は最低域で92dB。初段のgmがソース抵抗込みで5、2段目が2200/470=4.68、終段が5.1/1=5.1で全体で5×4.68×5.1=119.34mSとなるから、低域での負荷410kΩ(帰還回路の820kΩと次段入力抵抗820kΩのパラ値)に乗じれば最低域での利得=119.34×410=48,929.4倍=93.79dB。と、簡便なゲイン計算値と良く一致する。

・ループゲイン(赤)(≒NFB量)は、理想NF型イコライザーなので200Hzから100kHzまで30dBの一定値。200Hz以下での減少は、次段入力抵抗820kΩの存在と、無帰還状態での出力インピーダンスがこれらの負荷に対して十分に高くはないことによるもの。ちなみに次段の820kΩがなければ10Hzでのオープンゲインとループゲインはともにこれより4dB上昇するとPSpice(評価版)は占う。

・ループゲインの位相(黄)は、DCから100kHzまで±30°以内と理想的だ。NFB安定度に直結する高域での位相回転は、利得交点周波数である4MHz超付近でマイナス115°であり、位相余裕は問題ない。そのことはクローズドゲイン(青)の1MHz超領域にピーク等の盛り上がりが生じていないことからも明らか。これについては初段ステップ位相補正が上手く利いている。ステップfc1≒172kHz、fcc≒788kHz、fc2=3.6MHzなので、fccの788kHz付近からfc2の10倍の36MHz付近までの位相を戻す効果と、fc1の10分の1の17kHz付近からオープンゲインの減衰を早める効果が生じ、利得交点周波数はやや低域に移行して4MHz付近になるとともに、その4MHz付近での位相回転もマイナス115°にとどまった訳だ。
・などど、分かったようなことを言っているのは、ステップ位相補正がある場合とない場合のPSpice(評価版)のパラメトリック解析の結果による。(爆)

・ついでなので、PSpice(評価版)に、この状態での方形波応答波形も占ってもらう。この位相回転状態であれば何ら問題ないと思われるし、観るのは100kHz以上の方形波応答だけで良いのだが、この際1kHz、10kHzも一緒に占ってもらう。
1kHz 10kHz 100kHz
・何ら問題なさ気の方形波応答。現実の方形波応答もこのようになっていれば、PSpice(評価版)の占いは現実に近く、現実もPSpice(評価版)の占う姿に近い。と考えて良さそうだ。ということになる。

・で、現実の方形波応答。この場合の応答波形は2SK117によるソースフォロアバッファ出力点で得たものである。
No−128?MCEQ 2SC984 
1kHz 20mV/div 5V/div
No−128?MCEQ 2SC984
10kHz 0.1V/div 5V/div
No−128?MCEQ 2SC984
100kHz 0.5V/div 2V/div
・シミュレーションが示すものとそっくり。と言えるだろう。従って現実の位相補正も従来のままで良好であるということになる。

・参考までに、こちらは終段が2SC959(960)の場合。
No−128?MCEQ 2SC959 
1kHz 20mV/div 5V/div
No−128?MCEQ 2SC959
10kHz 0.1V/div 5V/div
No−128?MCEQ 2SC959
100kHz 0.5V/div 2V/div
・終段2SC984の場合と何も変わらないようだ。

・この回路では終段は2SC959(960)でも2SC984でも位相補正は同じで良いことがこれで分かる。よって、回路は変えない。
・更に参考までに、右中央は終段2SC984の場合の1MHz方形波応答。

・これからしても位相補正は良好だ。

・さらに右端はPSpice(評価版)が示す、初段ステップ位相補正なしの場合の100kHz方形波応答波形。

・高周波(10MHzオーダー)の発振が生じる。というご神託である。
No−128?MCEQ 2SC984
1MHz 0.5V/div 0.5V/div
  

・次にフラットアンプ部。

・終段の2SC1775のB−C間にCob相当のC1、C2をつなぎ、2SC984相当としてはこれを3pF、2SC959(960)相当としてはこれを18pFとするパラメトリック解析で、終段トランジスタが
2SC984の場合と2SC959(960)の場合をあわせて占ってもらう。
・オープンゲインは56.4dB、ループゲイン(≒NFB量)は40dB、クローズドゲインは16.4dBだが、高域でラインが分かれる。勿論、より高域まで伸びている方が2SC984相当の場合。

・オープンゲインは、初段のgmがソース抵抗込みで1.3、2段目が1200/470=2.55、終段が1600/47=34、従って全体でGm=1.3×2.55×34=112.71mS。なので、負荷6.6kΩであるから全体の利得=112.71×6.6=743.9≒57.4dBと、簡便な利得計算値と良く一致する。

・一番上がループゲインの位相だが、橙が2SC984相当の場合であり、ピンクが2SC959(960)相当の場合。

・これらから、高域特性は終段TRのCobが少ない方(この場合は2SC984)が良くなることが分かる。が、高域特性の良好化は必ずしもNFB安定化に繋がるものではない。この場合利得交点周波数は2SC959(960)相当の場合には2MH程度であるのに対して、2SC984相当の場合は4.5MHz程度に上昇することが示されているが、この辺はもうCobとかの要因ではなくft等の素子固有の高域限界で位相が大きく回転する領域なので、下手に利得交点周波数が上がるとかえって発振に至ってしまう可能性が高まるのだ。

・なのだが、この場合の占いの結論は、ループゲインの位相回転が、2SCC959(960)相当の場合は利得交点周波数2MHz点で-100°の非常に良好の範囲内、2SC984相当の場合は利得交点周波数4.5MHz点で-110°と良好の範囲内となり、どちらの場合も特に別途の位相補償を要することなく安定動作するだろう、とのありがたいご神託だ。

・これでクローズドゲインのfc=高域カットオフ周波数は、
2SC959(960)相当の場合では3MHz、2SC984相当の場合には9MHzとかなり広帯域である。別途の位相補償を要しないならば、Cobの小さいTRを用いた方が高域特性は良好になるのは当然だが、まぁ、現実には実装等の関係でそんなに高域まで伸びない可能性は高いだろう。

・一方、2SC984相当の場合に5MHzから15MHz付近までクローズドゲインの方がオープンゲインより大きいものとなっており、この間でやや正帰還になることが示されている。ので、MHz超の領域でややあばれが生じる可能性はある。が、これも実装等の関係でそこまで至る前に実際のゲインは落ちている可能性も高いので案外大丈夫かもしれない。
・まぁ、その辺対策が必要かどうかは方形波応答で観じる。
No−128?MCFA 2SC984 
10kHz 0.5V/div 5V/div

No−128?MCFA 2SC984 
100kHz 0.5V/div 5V/div

No−128?MCFA 2SC984 
1MHz 0.5V/div 5V/div

・1MHzの方形波応答の立ち上がり部分のカーブがやや盛り上がっている感じでやはり数MHzの領域の周波数特性に微妙な盛り上がりがある感じがないわけではないのだが、この程度は問題ないだろう。そのほか10kHz及び100kHz方形波応答も非常に良好で、この場合、ポール配置は適切で、特段別途の位相補償は不要であることが明らかだ。

・これで今回はCobの値が大分異なる2SC959(960)でも2SC984でも別途の位相補償はなくとも上手く行くという結論だ。ただし、これはクローズドゲインを6.6倍に設定したが故であって、これを1倍(0dB)などもっと小さく設定する場合は初段ステップ位相補正で何とかする必要が生じる。かもしれない。

・今回はそうしない。よって、フラットアンプ部も回路は変えない。

・なお、右は終段2SC984の場合のスルーレートを観たもの。振幅が大きい方が入力波形で縦軸1V/divであり、その内側で振幅が小さい方が出力波形で10V/div。横軸は1uS/div。なので、0.5uSで30Vは確実に立ち上がっていることからそのスルーレートは60V/uSを超えている。終段2SC959の場合はこれが50V/uSだった。この辺はCobの値の多寡がそのまま反映し、より高速になったのである。

・が、ここで観測系の問題が明らかになった。

・我がNo−128?の電源電圧は±15Vなので、30V以上の出力が出ることは物理的にあり得ない。のにオシロは30V以上の電圧を表示している。ということはプローブの×10モードによる我が観測系の測定誤差が大分あるということだ。確かにゲイン設定が6.6倍であるから入力が4.1V程度なので出力は27Vほどでないとおかしい。それが32V程度に表示されているから19%も大きく表示されていることになる。

・まぁ、今後はこの辺にも注意して観じることにしよう。(爆)
No−128?MCFA 2SC984 
100kHz 1V/div 10V/div


・さて、その音。

・なのだが、私が聴く限りにおいては非常に良好だ。

・勿論微妙なところだが、確かに2SC959(960)ほどのダイナミックレンジはない感じでその意味ではやや小振りかもしれない。が、だからといって大人しくぼけた感じという訳ではなく、これで十分にダイナミックだし、こちらはより細やかなたおやかさ、美しさを感じる。要すればこちらは聡明で優美な女性といった感じ。で、とても良い。(^^)


・結論。

・我がNo−128?MCプリアンプには、当面、全面的に2SC984を採用する。




(2008年12月4日)






その後の10の補足



・前回、我が安物オシロのプローブの×10モードの精度が悪いことが判明したので、改めてスルーレートを観じておく。
100kHz  No−128 MCFA C984 100kHz 1V/div 5V/div
・左は、PSpice(評価版)による100kHz方形波応答。

・入力は4Vppなので、出力は26.4Vppになる。これでスルーレートを読み取ると、0.2uSで26V立ち上がっている。ので、そのスルーレートは130V/uS。なかなか高速だ。

・問題の実機のスルーレートだが、期待して撮影した写真が右。振幅が小さく写っている方が入力波形で縦軸1V/div、大きく写っている方が出力波形で縦軸5V/div。で、出力方形波の立ち上がりでスルーレートを読み取ると0.2uSで15V立ち上がっているから、スルーレートは75V/uS。う〜ん、シミュレーション結果ほどではないか。。。

・なのだが、本当はもう少し良好かもしれない。というのは、入力発振波形自体の立ち上がりが写真のとおり0.2uSで3V、すなわち15V/uSしかなく、出力方形波はこの場合例え無限大のスルーレートがあっても15×6.6=99V/uS以上のスルーレートにはなり得ない状況だから。要するに入力発振波形のスピードで出力応答波形のスピードも制限されているのだ。だから、本当はシミュレーションどおり100V/uS以上のスルーレートがある。かもしれない。

・さて、この回路構成では、スルーレートは2段目差動アンプの動作電流と終段TRのCobで規定される。2SC959(960)に替えてCobの小さい2SC984を起用したことにより、大分高速になった訳だ。



(2008年12月17日)





その後の11



・時来たれり。

・故に我がNo−128?完全対称型プリアンプのMCイコライザーが改変の仕儀となった。

・のは、理想NFBイコライザーを捨てたNo−210のバッテリードライブ多機能DCプリアンプのイコライザーがあれほどの音であるなら、理想NFBイコライザーのままでAOCによるカップリングコンデンサーレスを実施したらどれほどの音になるかを確かめるためである。

・で、結論から言うと、あまりに素晴らしく、語彙の足りない私には上手く表現する言葉がない。

・ので、私としては初めて「次元が違う」という言葉を使いたい。
・その回路はこう。

・変更はMCイコライザー部のみで、要するにMCイコライザー部にAOCを付加しただけである。

・勿論、理想NFBイコライザーであるためにイコライザー出力は定電流負荷のソースフォロアバッファで受ける。

・また、従前ソースフォロアバッファの定電流回路は可変抵抗式としてオフセット調整していたのだが、AOCでオフセット調整を自動的に行うのに、その後のソースフォロアバッファでまた手動でオフセットコントロールするのはいかにもとんまなので、ソースフォロアバッファもAOCのNFBループに入れる。とは言え、上下の2SK117BLの特性は揃っているにこしたことはないので上下の2SK117BLにはIdssが同じもの使う。
・LTSpiceでその動作を占っておく。
・と、こうなる。

・No−210より低域のオープンゲイン(赤)が大きいので、その分AOCのゲインも大きい必要があるのでそうしてある。のだが、そうするとAOCフィルタのfcをさらに低くしないと仕上がりゲイン(緑)のRIAAカーブが低域で高い周波数から低下してしまう。ので、AOCフィルタは10MΩと2.2uFの組み合わせになっている。これで仕上がりのRIAAカーブはNo−210と同様に20Hz程度まではRIAAカーブとなっている。

・問題はループゲイン(青)とその位相(青の点線)だが、AOCが作用する100Hz近辺以下では理想NFBから外れるものの、200Hz以上では可聴帯域でループゲイン(青)はほぼ一定の30dB程度であり、その位相(青の点線)もほぼ0°と理想NFBイコライザー状態を良く保っている。
・なんとも。。。

・このレコードとは思えない堂々として安定した素晴らしい音はどうだ。

・これは、カップリングコンデンサーレスのためというより、やはりAOCによって極低域に多量のNFBが掛かり、同じくAOCによってEQ部本体の動作点が極安定することによる(カンチレバーが制動されることによる?)ような気がする。

・DCアンプがDCアンプを止めることによってこうなるとは、なんとも皮肉な話だが。

・次から次へとレコードを聴く。


・これは夢だろうか?と、頬をつねってみる。

・痛っ!(^^; (爆)




(2010年10月17日)








その後の12




・最早これ以上はないだろうと思っていたのにまさか1年も経たぬうちに。。。。

・我がNo−128?完全対称型プリアンプのMCイコライザーがまたしても改変の仕儀となったのである。

・のは、あれほど素晴らしい音をもたらしたNo−210のイコライザーへのAOC導入&カップリングコンデンサーレス化が実はホップ&ステップで、No−215のイコライザーのVIコンバーター導入がそれに続くジャンプであるなどとは、到底予測不可能だったためである。

・このように金田式イコライザーがここに来て三段跳で次元を超えてしまい、その結果の音を聴いてしまった以上、もう元には到底戻れない。

・ので、こうなった。

・改変作業は基板を新しくすることなく、従来基板上で行った。ので、基板裏側はちょっと汚い。(爆)(^^;
・その回路はこう。

・変更はMCイコライザー部のみで、要するにMCイコライザー部をNo−215EQと同様のイコライザーIVコンバーターにしただけである。

・もはや理想NFBイコライザーも何も関係ないので、その関連のものは跡形もなく消え去った。全くにしてNo−210とはNo−215のための回路だったので、この我がNo−128?EQ部もすっかりその内容を取り入れる。

・抵抗の定数は手持ちのススムを使うことを優先して辻褄を合わせてあるが、
勿論、カートリッジVICには右のカートリッジユニット達を共用するので、ISCはそれに合わせる。

・が、電源電圧がNo−215より高いことを理由に変更した部分もある。
・で、その音。

・あぁ。。。全くNo−215EQの音そのものだ。

・レコードを聴くことがこんなにも楽しいなんて。(^^)



(2011年8月28日)







その後の12の補足:トランスインピーダンスアンプをちょっとStudyする



・No−215EQで登場したイコライザーIVコンバーターは、要すればトランスインピーダンスアンプである。

・そのインピーダンスは帰還回路のインピーダンスに一致し、従って
ゲイン=「VIコンバーター2SK97のgm×イコライザーIVコンバーターの帰還回路のインピーダンス」
となり、結果逆RIAA特性のイコライザー出力が得られる。

・のだが、そうすると、イコライザーIVコンバーターであるトランスインピーダンスアンプ自体はどのような動作をしているのだろうか?トランスインピーダンスアンプ自体のゲインはこの式のどこにも出てこないのだが、それはどこに行ったのか?

・で、ちょっとStudy。

・結論から言えば、No−215EQのようなトランスインピーダンスアンプは、帰還量100%のボルテージフォロア動作をしている。

・のは、右図の通り、Aが出力インピーダンス=∞の電流出力源が入力となるトランスインピーダンスアンプであるが、これすなわちBの出力インピーダンス=0Ωの電圧出力源が入力となったボルテージフォロアに全くイコールだ。

すなわち、イコライザーIVコンバーターは、100%帰還の掛かったゲイン=0dBのユニティゲイン動作をしている。

・本当か?

・を、LTSpiceで占う。

・今回はミドルブルック法という手法でシミュレートする。そしてNo−215EQ形式に改変後の我がNo−128?EQのシミュレーション回路が下のとおり。
・その占うゲイン−周波数特性が右。赤がオープンゲイン、緑がループゲイン、そして青がクローズドゲインである。オープンゲイン(赤)とループゲイン(緑)はほぼ一致しており、すなわちNFBが100%掛かっているので、仕上がりのクローズドゲイン(青)は0dBという訳だ。

・ループゲインが0dBに沈む利得交点周波数はなんと40MHz程度と、私のような素人が設定してはいけない領域となっているが、その地点でのループゲインの位相は−150°程度であり、ちょっと危なげだが何とかなる範囲か?

・とはいえ、イコライザーIVコンバーターが100%帰還の掛かったゲイン=0dBのユニティゲイン動作をしていることは間違いないようだ。従ってここに起用するアンプはユニティゲイン動作で安定なものでなければならない。昔のGOAなどはそのままではちょっと無理かな。


・それはともかく、このイコライザーIVコンバーターの動作がボルテージフォロアであるならば、従来型EQで実施した方法での理想NFB動作は不可能である。NFB量まで逆RIAA特性になってしまう。この場合は、アンプのオープンゲイン時の出力インピーダンスを低くして、このようにRIAA素子のインピーダンスと関係なくオープンゲインが高域fcまで一定になるようにした方が、ループゲイン≒NFB量も低域からfcの20kHz弱までの領域で一定となり、すなわち理想NFB動作となる。IVコンバーター動作ではこうすることが理想NFB動作なのだ。

・No−210登場の際、EQ回路に何故フラットアンプ部のような回路を導入し、25年続いた理想NFB動作も放棄してしまったのか?と疑問を呈したのだが、それはその回路がNo−210ではなくNo−215のための回路であったからだ、ということがこれで全くにして明らかだ。No−215でしっかり理想NFB動作が継続されている。要するにNo−210はNo−215の予告編だった訳だ。が、気づけなかった。(爆)(^^; ← あほう。(−−)
・なので、我がNo−128?EQをNo−215形式に変更するに当たり、従前施していた従来型の理想NFB動作をさせるための回路素子は全く意味がないので全て撤去し、終段の抵抗定数も変更した。

・で、No−215EQも同じだが、この回路は低域で90dB近くのNFBが掛かっていながら高域のfcは20kHz弱となかなかに奇跡的である。

・だから、2段目差動アンプのエミッタに抵抗を入れるのは、従来型では出力インピーダンスを上げることに主眼があったが、この場合は電流帰還でそのゲインを殺すのが主眼だ。

・また、この回路の安定性は初段のステップ位相補正の設定如何にかかっている。ので、その設定もちょっと気を使った方が吉だ。

なので、初段のステップ位相補正について、そのR3を従来の220Ωと130Ωでパラメトリック解析すると、結果が右。

・これが220Ωでは利得交点周波数が40MHz弱でその点での位相回転も−150°程度だったものが、これを130Ωにすると利得交点周波数が30MHz弱に下がり、その位相回転も−130°程度と位相余裕が20°ほど増えるという占い結果。なので、これを130Ωに変更した。

また、この観点からすると初段をgmの大きい2SK97からgmの小さい2SK30とかにした方が良さ気ではないか。とも思ったのだが、これは実機も2SK97で安定動作しているのでそのままにしておいた。(爆)
・2SK97は理想的な電流源ではないのでその出力インピーダンスは無限大ではない。従ってより現実に近いシミュレートをすると上のようになる。入力の電流源にパラレルに抵抗をつなぐ。と、この抵抗値が要するに電流源の出力インピーダンスなので、これを100kΩ、1MΩ、10MΩとするパラメトリック解析をしてみる。と、その結果が右。

・オープンゲイン(赤)はどの場合も同じだが、ループゲイン(緑)は上から10MΩ、1MΩ、100kΩの場合、クローズドゲイン(青)は上から100kΩ、1MΩ、10MΩの場合と、信号源の出力インピーダンスが小さくなるほどにループゲインは小さくなり、クローズドゲインは大きくなる。要するにゲインを持ってしまう。しかも低域ほどその割合は大きい。何のことはない。このカーブはNFB回路の逆RIAA特性のインピーダンスを反映したものであり、要するに信号源の出力インピーダンスが10MΩ以下程度に低くなるほどに反転動作のRIAAイコライザー動作になっていくということである。この抵抗を270Ωにした場合が、前に変更した反転動作のNo−128?EQなのである。

・が、ここで生じたクローズドゲインがVIコンバーター+イコライザーIVコンバーターとして得られるゲイン=「VIコンバーター2SK97のgm×イコライザーIVコンバーターの帰還回路のインピーダンス」に加算されるのか?というとそうではないようだ。この場合のクローズドゲインはノイズゲインというもので、これが大きいほどトランスインピーダンスアンプとしての動作でノイズが大きくなる。ということらしい。

・ので、この前に繋がるVIコンバーターのFETは、gmが同じならば出力インピーダンスが高いものが良いし、出力インピーダンスが同じならばgmが大きいものが良いということになる。何故なら、VIコンバーター+イコライザーIVコンバーターで得られる本来のゲインとノイズゲインはSとNの関係であり、SN比が良くなるのはそれぞれそういう場合だからである。

・要するにgmが大きくて出力インピーダンスの高いFETが良い訳だが、ここに2SK97が採用されたのは、そういう理由によるのか〜も知れない。

・出力インピーダンスばかりではなく、容量もあろう。

・なので、容量を信号源にパラレルにして、これを0.1pF(なしに相当)、10pF、100pF、1000pFとするパラメトリック解析。

・結果が右で、ループゲイン(緑)が0dBに沈む利得交点周波数が
0.1pF、10pF、100pF、1000pFの順に低域に下がっていき、オープンゲイン(赤)とループゲインの乖離が大きくなる。その結果容量が増えるほど低い周波数から高域でノイズゲインが生じ、その大きさも容量が大きくなるほど大きい。

・すなわち、容量は出来るだけ小さい方が良いのだ。

・ということは、VIコンバーターからアンプ本体に至るまでのケーブルの容量もここにパラになるので、それらのケーブルの容量が大きいのはまずいということになる。

・し、アンプ内の配線も容量の大きいシールドケーブルでなく、ダイエイ電線で繋いだ方が良いということになる。もともとこの部分はインピーダンスが低く信号レベルも高く誘導の影響を受け難いのだし。

・よって、No−215EQ形式に改変後の我がNo−128?EQもそうした。

・また、我がNo−215EQの方も従前のシールド線を使ったまま内部配線をしていたのだが、急遽オリジナルのようにEQ入力はダイエイ電線に変更した。
・で、こうなったのである。

・なお、以上の解析については、kephis氏のDC Recording HPの
トランスインピーダンス・アンプのシミュレーション2種”及びそこで紹介されている以下資料をすっかり参照させて頂いた。m(__)m
http://www.tij.co.jp/jp/lit/an/jaja097/jaja097.pdf
http://www.tij.co.jp/jp/lit/an/jaja098/jaja098.pdf



(2011年9月1日)