No−128?(完全対称型プリアンプ)製作記
1999年12月完成(一応)
その3
(2000年7月記)

その2はこちら

金田式DCアンプのアースの引き回しについては、昔からどうもスッキリしないところがある。思い出せば、最初のプリアンプを製作した時から続く疑問だが、電池式GOAでは全く目立たないので半分忘れていた。が、AC電源方式が再び主流になって、また、そこそこ切実な問題となった訳だ。

と言うのは、アンプがハムを拾うと言うことである。
現実にはプリアンプで、場所によって拾う度合いが違ったりもするのだが、ハムが聞こえる状態でアンプを使うというルーズさは私にはないので、GOA以前のAC電源時代に、アースの引き回しをやや試行錯誤した結果、電源トランス近辺の平滑コンデンサあたりのアース処理とともに、プリアンプの入力ピンジャックと出力ピンジャックの所で左右チャンネルのアース同士をショートすることが有効にハムを止める手法であることを見いだし、以来、この手法で解決してきたのだ。
が、金田さんが発表するアンプでは、こういうことは全くなされておらず、どうして自分が作るとこうせざるを得ないのか?どこか違うのか、と疑問に思って来たものだ。

ところが、電池電源のGOAアンプでは、MC用のプリアンプでさえ、これをしなくても全くハムが出ないので、長らく気にも止めずにいたのだった。

金田さんのアースの引き回しは、時々示される実態配線図や写真で何度も確認するのだが、電源からアンプ基盤それぞれに放射状に配線されるもので、パワーアンプでもプリアンプでも変わりない。プリアンプが内部でEQ部とFA部が別基盤となれば、それぞれに電源部から配線される。そして、各チャンネルの基盤間の信号ラインはホット、コールドとも必ず結線されている。
全く素直?なものだ。逆に言うと殆ど引き回しのテクニックといったものがない。あるとすれば最短距離で配線している点だけのような気がする。No−128? イコライザーアンプ

非常に分かりやすいのだが、こうすると、例えば同一チャンネルにおいても、EQ部とFA部を別基盤に作った様な場合、電源部−EQ部−FA部−電源部とアースがループになってしまう。
また、プリアンプあるいはパワーアンプ単独では左右チャンネルのアース間にループは出来ないのだが、プリアンプとパワーアンプの信号ラインを繋いでしまうと、プリ電源部−プリ左チャンネル−パワー左チャンネル−パワー電源部−パワー右チャンネル−プリ右チャンネル−プリ電源部といった具合で、機器をまたいで左右チャンネルをぶら下げた大きなアースループが必ず出来てしまうのだ。これは電源を共通にしてステレオアンプを作る以上逃れられない必然だ。と思う。

このため、最初の金田式プリアンプとパワーアンプを製作したはるか昔、プリアンプとパワーアンプをピンコードで繋いだときに、片方のチャンネルだけを接続した場合は何の問題もないのに、両チャンネル接続するとハムが出て、なんでだ?、と思ったことを思い出す。
その解決策として入出力ピンジャックでの左右チャンネルアースのショートを見いだした訳だが、このようにアース間をショートすれば、それで機器間をまたぐアースのループが断ち切られることがハム解決の理由だろう。

そのほか、電源トランスを使用し、その先に電線という巨大なアンテナを背負う商用電源活用アンプの場合、特に微弱信号を扱うMC用プリアンプでは、アース処理の仕方によっては、朝鮮語や中国語のラジオ放送を拾ってしまうということもある、というのが私の実体験だ。というのは、このようなハムが解決出来ていない状況の際にラジオ放送を拾うことが同時に起きたように思うからだ。

これについてはアンプ入力にハイカットフィルタを入れることで解決することもあるが、位相補正を調整したり、左右チャンネルのアースループを小さくすることで解決できたように思う。後者が本質的な対処法だろうと思うが、私はこうする以外に解決することはできなかったと言った方がいいかもしれない。というのは、金田さんが記事に発表する実体配線図や写真からは、MC用プリアンプを含め、このような事をしている例が全くないからだ。
彼の方の場合は、私と製作手法が違っていて、あのような配線でもハムなどの問題は生じないのだろう?どこかに作り方の違いがあるものと思う。それは何だろうか、と疑問を持ち続けて来たのだ。

これが、電池式のGOAプリアンプとパワーアンプでは、金田さん指示のとおり(か?)のアース配線で、現実にアースループが出来ていても何の問題も生じない。不思議なものだ。

長々と何を言ってるのかと思われる方もいらっしゃるかとも思うが、ハムとともに一瞬にしてUHC−MOSが飛んでしまった今回の事故の原因には、アース処理の問題も絡んでいたものと考えるからである。直接の原因は発振だが、その発振を引き起こした要因にはアース処理の問題も一枚かんでいたように思うのだ。

今回の完全対称型プリアンプも、ケースに組んだ当初は電源部からの単純放射状配線としていたのだ。ただし、電源は取りあえず乾電池だから、電池式GOAと同じでそれほど問題はないだろうと高をくくっていたことも否定できない。
が、この忌まわしい事故でこの問題をはっきり思い出した。

位相補正もいじりながら慎重に再現調査をすることにした。と言うと科学的のようだが、現実は単なるカットアンドトライ、であるところが悲しいところだが(^^;;。

すると、ハムと発振が案外セットであること、即ち位相補正を増やしてアンプを安定にすると、同じアースの引き回し状態でもハムも止まったりすることや、逆に発振を起こすか否かがアースループの切り具合とも密接に関連するものだということが現実体験として分かった。
位相補正が十分でないと、プリアンプ側だけでなく、パワーアンプ側の入力部分までアースのショート処理をしないとプリアンプが発振したりするということも経験した。位相補正がより安定になるとこれをショートしなくとも発振しなくなったりするのだ。 全くよく分からない。
分かったり分からなかったり(^^;)。

というのは、終わってみての感想だが、順番としてはアースループの小型化に先ず取りかかったのだった。
電源の±レギュレータ間、イコライザーアンプ・フラットアンプの入出力での左右チャンネルのアースをそれぞれ連結しショートした。
案の定、これでハムは全く出なくなった。

が、まだ発振する。No−128? フラットアンプ

それもレギュレーターまで道連れにして発振するのだ。こんなのは初めての経験だが、発振と共にレギュレーターに付いている電池電圧センサーを兼ねた例の赤い発光ダイオードが十倍位の明るさになるのである。なんとも分かりやすく、かつ強烈だ。
それもフラットアンプのゲインコントロールボリュームの位置によって発振するのである。具体的には最小ゲイン付近と最大ゲイン付近で発振するので、最初はフラットアンプが発振の原因で、やっぱり100%帰還させたり、NFBでゲインコントロールするというのは難しいものなんだよな、と考えたのだった。

だから、フラットアンプの位相補正のC、Rを色々いじったのだがさっぱり上手くいかない。NFBを変化させてゲインコントロールすること自体間違いなんではないのだろうか、と思うぐらいさっぱりだ。本屋に行って電子回路関係の本をひもとき、オペアンプの勉強などもしてみる。フラットアンプの出力にも100Ω抵抗を入れてみたりもした。そう言えば真空管式プリアンプのフラットアンプにもこれが付いているし。が、効果なし。

これが何週か(と言っても土日の何時間かだが)続いて諦めたくなったころ、ふと思いついてイコライザーの出力部を監視しながらフラットアンプのゲインコントロールボリュームを回してみる、と、なんとフラットアンプのゲインコントロールボリュームの位置でイコライザーアンプの方が発振したり、発振が止まったりしているのである。なに!こんなことがあるのか?? 2つのアンプは別々のNFBループだし、どうなってるんだ? と、思ったが、現実だからしょうがない。

となれば、イコライザーアンプの方の位相補正の適正化に注力するのが最初だ。ということで、ステップ型位相補正の抵抗とコンデンサの値をカットアンドトライする。当初は抵抗の方は68Ωに固定し、コンデンサーの方を大きくすることを考えた。結果、手持ちのSEコンに最早相応しい容量のものがなくなり、失敗寸前だったが、じゃあ、抵抗の方を増やしてもイイんじゃないか、と気づいて抵抗値を少しずつ増していき、220Ωと200pFの組み合わせで、これまでの苦労は何だったんだ、と思うぐらいあっけなく安定になってしまったのだった。

なんと、こうするとフラットアンプの方は位相補正を取り払ってしまっても問題がないのだ。いい加減にしてくれ〜、と言いたくなったが、当たり前にも言うべき相手がいない。

が、ようやく出来たな〜、と、安堵感・満足感が湧いてくる。
全くアマチュアの鑑のような泥縄式対処法だが(^^;

ということで、しばし休憩だ。
   ま、アース処理については、いずれもう少し勉強することにしよう。


これで位相補正処理は取りあえず終わり発振の心配はなくなったが、フラットアンプの過大ドリフトの解決が残されている。

まだ、オープンゲインの不足が原因ではないかとの思いが消えない。だって、初段の負荷抵抗が680Ωでは殆ど初段にゲインは期待出来ないし、2段目も電流ゲインは入力側抵抗値とエミッタ抵抗値の比でこれも殆どゲインが期待できない。となれば全く終段頼みなのだ。

それではまず終段のゲインを最大限に高めてみよう。となるとB−E間の抵抗値を大きくして、あわせてエミッタ抵抗を取り去ることだ。

ということで右のような回路を考えて実際に作ってみた。課題は熱暴走しないように温度補償することだが、それをB−E間に挿入したサーミスタでやろうという考えだ。C960を差動アンプに使うときのように熱結合して、さらにその両側から挟むように2つのサーミスタをC960に接着して熱結合する。

完全対称型パワーアンプの温度補償手法を拝借してみたものだが、やってみるとなかなか上手い具合のアンプとなった。アイドリングも安定だし、出力のドリフトもさらに半分ぐらいとなった。

これで終わりかとも思ったのだが、まだ完全に満足できるドリフト量ではない。±10mVぐらいはある。それではと言うことで別の方法も考えた。そちらが上手くいかなければこの回路を採用したと思うのだが、なんと、もっと劇的に効果のある手法があったのだった。

それは、初段のゲインを高める方向で、そのドレイン抵抗値を大きくすることだ。こうすると付随して2段目の電流ゲインも大きくなる。ということで思い切って3.6KΩを入れて関連の定数を調整して動作させて見ると、劇的にドリフトが減ったのだ。最大ゲイン位置にあっても±5mV程度のドリフトに収まる。ようやくGOAプリアンプ並みになった。

と言う訳で、右の回路は採用されず、現在の回路図のフラットアンプの方向に進んだのである。

これらの実験は別々にやってしまったので、こういう結果になったわけだが、今考えれば、右の回路の初段のドレイン抵抗値を3.6KΩにして関連の定数を調整すれば、もっと良い結果が得られるかもしれない。
が、その時は初段ドレイン抵抗値を増やしたことによる劇的な効果に舞い上がってそこまで考えることなく、右の試作アンプは解体してしまった。その時点でヘッドフォンも使いたいという志向があれば、この回路をもう少し追求しただろう。今後機会があれば追求したいと今思っている。

さて、残った本命のフラットアンプについては、これも終段を可能な範囲でゲインを上げようと考え、B−E間抵抗を620Ωとし、エミッタ抵抗を電流安定が図られる範囲で小さくするよう実験して、結果24Ωまで引き下げて現在の状態となったのであった。
これで電源ON当初7mA程度で、温度上昇と共に徐々に増加し11mAから最大でも12mAで終段アイドリング電流は安定するという状態になっている。

なお、終段の電流は上記のように現在のところ10mA程度となるよう設定してある。
というのは、完全対称型の終段のC960の下側のコレクタ電流は、上側のC960のコレクタ電流に
上側の2段目差動アンプの出力電流を加えたものとなるので、その分下側には上側より大きなバイアスがかかってバランスが取られているのだ。

完全対称と言いながらこの点では完全に対称ではない訳だが、2段目差動アンプの出力電流が1mA程度だから、その10倍程度をアイドリング電流として終段に流せば文字通り桁が違うということとなり許容範囲かな、ということである。ただし、金田さんは6mA程度に設定しているので、別に問題ではないのかも知れないが、対負荷抵抗値での終段のA級動作範囲も拡大するからこれで悪い方向ではないだろうと思っている。


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