PSpice(評価版)で
NF型イコライザーをStudyする
その3
またしても徒然なるままにNF型イコライザーのStudy。
なお、今回シミュレーションに使用した測定手法についてはkephis氏のサイトを参照した。
http://homepage1.nifty.com/dcr/dcmic/pspice/pspice.htm
感謝m(__)m
最初は我がNo−128?MCプリのイコライザーアンプ。
初段の2SK117は2SK97の代役。両者のgmはほぼ等しいのでシミュレーション上代役として問題ない。
2段目の2SA872A、終段の2SC1775もそれぞれ2SA726G、2SC984の代役。2SC1775のコレクタ−ベース間の3pFのコンデンサーは2SC1775を2SA984相当のモデルにするためのもの。
アンプ出力のR11は、ここでは820MΩと無視できる大きさ(つながっていないのと同じ)にしてある。
その結果。
赤がオープンゲイン、青がクローズドゲイン、緑がループゲイン、水色がオープンゲインの位相、ピンクがクローズドゲインの位相、黄色がループゲインの位相。
縦軸は、赤のオープンゲイン、青のクローズドゲイン、緑のループゲインについては左側の1で、単位はdB、水色のオープンゲインの位相、ピンクのクローズドゲインの位相、黄色のループゲインの位相の方は右側の2で、単位は°(度)である。
理想NF型イコライザーの理想状態では、オープンゲイン自体がRIAA特性となり、その結果、ループゲインが周波数に関わらず一定、ループゲインの位相が周波数に関わらず0°となる。
が、グラフのとおり緑のオープンゲインは500Hz以下の低域と50kHz以上の高域で低下し、その位相も低域では60Hz付近の+30°をピークとした進み位相であり、高域では100kHz以上で遅れ位相となっている。
その原因は、低域については、2段目又は終段の出力インピーダンスが十分でなく、そのためオープンゲインの伸びが低域で十分でないためであり、高域については、使用素子の高域遮断周波数といった素子そもそもの高域限界によるものだ。
すなわち、2段目にカスコードアンプを使用しないシンプル型であるためその出力インピーダンスが相対的に低く、結果400Hz以下の低域でのオープンゲインの伸びが十分でなく、このためループゲイン(緑)が低域で10dB程度低下しているのだ。この結果ループゲインの位相(黄色)も60Hz付近に+30°のピークを有するものとなっている。高域は素子の高域限界によるものであり、これはやむを得ないもの。
が、可聴帯域上限の20kHzにおいてもループゲイン(緑)は低下しておらずその位相も20kHzでは−10°以下であり非常に理想的状態であり、総じて言えば、これでも我がNo−128?は十分に理想NF型イコライザー状態にあると言えるだろう。
なお、ループゲイン(緑)が0dBに沈むポイントは7.5MHz付近であり、このポイントにおけるループゲインの位相(黄色)は−125°以下となっている。この結果クローズドゲイン(青)の7.5MHz付近にもピークは生じておらず(微妙に持ち上がってはいるが)、位相補正も取り敢えず適切であることが分かる。
いくつかの要素の影響を観るため、回路に多少の手を入れる。
@位相補正定数の適切さを観るため、C1を200pFから100pFに変更。
A通常使用時と同様にフラットアンプにつながった状態ではどうなるのかを観るため、出力に0.1uFと820kΩを繋ぐ。
新たに橙のグラフが加わっているが、これはC6の出力側における利得のグラフであり、これによりカップリングコンデンサーであるC1とフラットアンプ入力のゲート抵抗820kΩによるハイパスフィルター通過後のゲインが分かる。
高域においては、位相補正のC1を100pFにしたことによりオープンゲイン(青)が0dBに沈むポイントが8.5MHz付近まで上昇したが、そのポイントにおけるループゲインの位相は−140°以上と回転が早まってしまっており、このためクローズドゲインにもその付近で4dB程度のピークが生じている。やはり位相補正のC1には200pFを用いた方が妥当だ。
低域においては、820kΩがアンプの負荷として利くとともに、NFB素子に対するドライブインピーダンスを下げてしまうために、オープンゲイン(赤)が低域で2dB程度減少していることが分かる。結果ループゲイン(緑)も低域の中域に対する乖離が−12dBと2dB広がった。それとともにループゲインの位相(黄色)のピークも+35°と大きくなっている。
一方、0.1uF+820kΩも10Hz以下の低域ではその合成インピーダンスが高くなることも分かる。10Hz以下ではオープンゲイン(赤)、ループゲイン(緑)とも大きくなっている。
最後に橙。これがフラットアンプ以降に伝達される周波数レスポンスの姿であるが、0.1uF+820kΩのハイパスフィルター効果が10Hz以下で利いており、それより下の周波数レスポンスは低下する。が、2Hz付近で−3dBであるから何ら問題はない。
なおいくつかの要素の影響を観るため、回路に多少の手を入れる。
@位相補正定数の適切さを観るため、C1を400pFに変更。
A最近カップリングコンは当然の如くにSE0.1uFが指定されるのだが、SE0.1uFはあまりにも高価。貧乏人としては是非半値の33000pFを使いたいのだが・・・(^^;
高域では位相補正のC1を400pFに変更したことにより、より安全な状態となっている。ループゲイン(緑)が0dBに沈む7MHz付近におけるループゲインの位相(ピンク)は−110°以下であり、結果クローズドゲイン(青)には何のピークも生じていない。
で、低域だが、果たして33000pFでは駄目だろうか。
橙がその結果だ。
レスポンス的には30Hz付近から徐々に低下を始めるのだが10Hzで−1.5dB、−3dBポイントは6Hz。0.1uFを起用した場合は確かに10Hzでも−0dBなのだが、・・・う〜ん。わたくし的には33000pFでも十分だと思えるなぁ・・・(^^;
世間一般のフラットアンプの入力インピーダンスは50kΩ程度のようだが、K式完全対称型イコライザー出力はこれらのフラットアンプに繋いで使えないのだろうか。
また、K式VGAフラットアンプによる音量調整は音を完全に絞ることが出来ず時に不便に思えることがあり、いにしえに使用されていた0.4uF+50kΩのアッテネーターをイコライザーアンプとフラットアンプの間に入れて音量調整したいのだが、完全対称型EQではこれは不可能なのだろうか。
というわけで、我がNo−128?の出力に0.4uF+50kΩを入れてみる。
ループゲイン(緑)は20Hz以上の可聴帯域で一定ではなく高域ほど大きい逆RIAA特性となっている。ループゲイン≒NFB量と考えて良いから、この場合可聴帯域では高域ほどNFB量が多い状態になる、と言うか、低域ほどNFBが少ない状態になるわけだ。これに伴いループゲインの位相(ピンク)も0°からは大きく乖離してしまった。(なお、20Hz以下でループゲインが大きくなるのは0.4uFの等価インピーダンスがこの帯域では上昇するから。)
その根本原因はオープンゲイン(赤)の低域での伸びが完全に鈍化し、どちらかというと可聴帯域でオープンゲインが一定となってしまっていることにある。これはR11が50kΩと小さいことが全ての原因だ。これによって理想NF型イコライザー状態は完全に崩壊した訳だ。
では、この場合このNo−128?はRIAAイコライザーとして機能しないのか?と言うとそうではない。ちゃんとRIAAイコライザーとして機能する。
クローズドゲイン(青)とこれに重なっているオレンジが示すR11の50kΩ上端のゲインはちゃんとRIAA特性となっており、この場合でもNo−128は正しくRIAAイコライズされた信号を出力するということが明らか。
だから問題はその音の質ということになる。この辺は自分で試して確かめてみるしかない。試してみて違いを感じないならばこの状態で使うことに何ら問題はない。が、試してみてなんとなく躍動感に欠けるようだなど違いを感じることがあれば、その原因はこの辺にあるのだろうと納得して元に戻せば良い。
続いてこれはNo−168MCプリのイコライザーアンプ。
2段目にカスコードアンプが付いてその出力インピーダンスが高いために、低域におけるオープンゲイン(赤)の上昇がより理想的になった。結果ループゲイン(緑)の低域における中域との乖離も6dBにとどまり、ループゲインの位相(黄色)の低域のピークも+20°以内だ。
高域では、ループゲイン(緑)が0dBに沈むポイントが5.4MHz付近で、そのポイントにおけるループゲインの位相(黄色)は−135°程度となっている。これが−120°を越えているためクローズドゲインに8MHz付近で3dB弱のピークが生じている。が、まずは許容範囲か。
出力に33000pFと820kΩを繋ぎ、820kΩ上端でのゲインも観る。
結果。
私の実機はカップリングコンに33000pFを使用しているから、これが我がNo−168MCプリの特性ということになる。
フラットアンプ入力抵抗の820kΩがオープンゲインを10Hzで2.5dB低下させ、ループゲインの10Hzにおける中域との乖離を9dBに拡大し(+3dB)、その位相の60〜70Hz付近における乖離を28°に広げてしまう(+9°)ことが分かる。
2段目のカスコードアンプアンプを省略したNo−168のシンプルバージョンを試してみよう。
まぁ、これでもまずまずと言うべきだろうか。
ループゲイン(緑)の低域におけるゲインの中域との乖離は11dB弱で、その位相(黄色)の低域でのピークも+30°程度。我がNo−128?とほぼ同等だ。
また、高域についてはカスコードアンプがなくなって位相回転要素が減ったことが利いており、ループゲインの位相余裕が増加し、結果、上のオリジナルNo−168でクローズドゲインに生じていたピークは全くなくなった。
次に、No−159MCプリのイコライザーアンプ。
オールFETだ。
結果。
おー!!素晴らしい。
ループゲイン(緑)の低域における中域との乖離が2dB程度しかない。し、ループゲインの位相(黄色)も1Hzから20kHzにおいて±10°に収まっている。これは驚異的だ。
これまであまり興味を持っていなかったのだが、なんとNo−159MCプリイコライザーは、真に理想NF型イコライザーだったのだ。
問題は何故これだけ理想的な理想NF型イコライザーが実現されたのか、であるが、No−159とNo−168の回路構成を見れば2段目が共通であるから、これは終段の違いによるものとしか考えられない。
これはアンプの出力インピーダンスを測定して確かめてみるしかない。
ので、これがそのためのシミュレーション回路。
アンプ出力に電圧源を挿入しAC1Vを加える。アンプの出力インピーダンスが0Ωならアンプ出力には一切電圧は発生しない。が、実際は出力インピーダンスがあるのでこれに比例した電圧Voutが発生する。電圧が発生すれば当然その電圧に比例した電流IoutがR11に流れる。アンプの出力インピーダンスZoutはオームの法則でZout=Vout/Ioutで求まる。
NFB回路は出力と切り離している。すなわちオープンゲイン時の出力インピーダンスを測るのだ。
なお、これはシミュレーションで可能な方法であり、実機ではやらない方が良い。と思う。(^^;
結果。
おぉぉぉ!
他のグラフも消さずに残しているので見にくいが(怠慢失礼(^^;)、観るべきものはオレンジのグラフだ。その縦軸は3の軸であり表示単位はΩである。
であるから、No−159のオープンゲイン時の出力インピーダンスは100Hz以下では、な〜んと2.74MΩもあり、1kHz以上でこれが下降して20kHzでは200kΩ強、100kHzで40kΩ、1MHzで4kΩとなり、100MHzで1kΩ、10GHzでは100Ωに収束する。という結果だ。
K先生の「音楽を愛する電子回路」上巻80ページの図17にRIAA帰還素子のインピーダンス周波数特性が掲載されているが(図17の縦軸のインピーダンスの単位がΩとなっているが、kΩの間違いだ。)、それによればそのインピーダンスは10Hzで700kΩ、20Hzで650kΩ、100Hzで300kΩ、1kHzで67kΩ、10kHzで13kΩ、20kHzで6.9kΩ、100kHzでは1.7kΩである。
このRIAA帰還素子のそれぞれの周波数におけるインピーダンスに対して、アンプのオープンゲイン時の出力インピーダンスが大きい場合に、アンプは電流出力状態となり、負荷素子であるRIAA帰還素子のインピーダンスに比例したオープンゲイン特性となって、オープンゲイン自体がRIAA特性になる、というのが理想NF型イコライザーの根本原理だ。
だから、理想NF型イコライザーを実現するためにはアンプのオープンゲイン時の出力インピーダンスが全周波数領域でRIAA帰還素子のインピーダンスより高い必要があるのだが、な〜んと、No−159のEQアンプではそれが実現しているのである。この結果、上のようにループゲイン周波数特性が一定、ループゲインの位相が0°という理想NF型イコライザーに非常に近い状態が実現しているのだ。
素晴らしい(^^)
これがNo−168ではどうか。
う〜む。残念ながら1kHz以下の低域の出力インピーダンスは750kΩだ。
NFB帰還素子のインピーダンスは10Hzで700kΩであるから、No−168の場合、ごく低域ではその出力インピーダンスがNFB帰還素子のインピーダンスにほぼ等しくなってしまうのだ。
出力インピーダンスと負荷インピーダンスが等しい場合、電流出力アンプの電圧ゲインは出力インピーダンスが負荷インピーダンスより高い帯域におけるゲインの1/2=−6dBになる。
上のNo−168で低域のループゲインが中域のループゲインの−6dBとなっていたのは、こういう理由によるものだった訳である。
No−159とNo−168との間には、終段がFETの2SK117であるかTRの2SC960であるかの違いしかないのだが、それがこのような違いをもたらした訳だ。
“音楽を愛する電子回路”上巻87ページの図37にはNFB後のイコライザーアンプの出力インピーダンスZoも掲載されている。
ので、こちらでも計測してみる。
それがこれで、出力にNFB回路を接続すれば良いだけなので造作もない。
結果。こちらも観るべきはオレンジのグラフ。
なるほど。先生仰せの如くNFB後出力インピーダンスは劇的に減少してほぼ1/100となり(40dB=100程度の電圧NFBが掛かるので当然の事なのだが)、10Hzで10.1kΩ、1kHzで900Ω、10kHzで190Ω、100kHzで30Ω程度と図37とほぼ同程度になった。また図37と同様10Hzから100kHzの範囲ではそのZoの周波数特性自体がRIAA特性だ。
が、100kHzを越える超高域では10MHzで1kΩのピークを有する特性になっているのだが、この辺は図37では測定範囲外で不明。(^^;
さて、上で測ったNo−159のオープンゲイン時の出力インピーダンスが100Hz以下で2.74MΩであったことは、K先生の“音楽を愛する電子回路”上巻87ページの図37と、これに関連して先生が記載されているオールFETイコライザーのオープンゲイン時の出力インピーダンスZoの計測値に比べてかなり高い。図37にあるとおりK先生の実測値ではオープンゲイン時の1kHz以下の出力インピーダンスは585kΩなのだ。
終段の動作電流値が異なるのではないか? 確かに出力インピーダンス的には動作電流を減らした方が有利だ。が、こちらのシミュレーションでもそれは2.5mAに合わせてある。
う〜ん。おかしい。やはりシミュレーションはシミュレーションに過ぎないのか。要するに現実妥当性を欠くということなのか。
が、K先生が実測されたと思われるオールFETイコライザーの回路はNo−159のものではなく、上巻82ページの図23に示された2段目差動アンプにカスコードアンプが付加されていないシンプルタイプのようではないか。
で、このシンプルタイプである。
このタイプの出力インピーダンスはどうか。
結果。これがNFB前すなわちオープンゲイン時のZo=出力インピーダンス。観るべきは同じくオレンジのグラフ。
な〜んと。このシンプルタイプでは1kHz以下の周波数で510kΩ程度だ。さらに100kHzでは1kΩ強であり、どちらもK先生の実測値に近い結果と言えるだろう。
これはNFB後すなわちクローズド時の出力インピーダンス。
10Hzで11kΩ、100kHzで20Ω弱でZo自体がRIAA特性になっているなど、K先生の実測値にごく近い結果だ。
結論、としてどう考えるべきか。
勿論シミュレーションが正しくないということが考えられる。たとえばここに用いた2SK117のモデルパラメータが現実の2SK117を正しく反映していないとしたらどうしようもない。
が、仮にここに用いた2SK117のモデルパラメータが現実の2SK117をある程度正しく反映しているとすれば、2kΩのソース抵抗により電流帰還を掛けた2SK117の出力インピーダンスは、実はK先生の実測値より高いのだ、ということになる。また、完全対称型の出力インピーダンスは、終段自体の出力インピーダンスと2段目の出力インピーダンスが共に高い状態の時に求められる理想的な高さになるということ。そしてこれが実現しているのがNo−159のオールFETMCイコライザーであり、No−168のMCイコライザーは終段が出力インピーダンスの高さがまだ足りずNo−159のレベルには至っていないということになる。図23のシンプル型は逆に終段の出力インピーダンスは高いものの2段目の出力インピーダンスが十分でなくNo−159のレベルに達し得なかったということになる。
K先生は図23のシンプル型オールFETMCイコライザーでその出力インピーダンスを論じられているのだが、その後2段目カスコード接続の効果については電源電圧変動抑制効果の観点から論じられており、この辺が明らかにされていないのはちょっと残念。
とは言え、真空管MCプリ(これらは理想NF型イコライザーではない。)のことを考えれば、理想NF型に少しでも近づくことが良い音のために必要十分条件だ、と言うわけでもなさそうなので、むやみに理想NF型イコライザー化を追求してもしょうがないというのも事実なのだろう。
また、MCイコライザー自体のオープン時のZoを高くしても、次段フラットアンプ入力にはゲート抵抗820kΩが入り、これがあるといくらMCイコライザー自体のオープン時のZoを高くしてもあまり意味がないという現実もある。
こうやってカップリングコンデンサー0.1uFとフラットアンプのゲート抵抗820kΩがつながってしまえば、
このようにどうしても理想からは外れるのだ。
が、No−159のMCイコライザーは半導体MCイコライザーのグループでは最も理想NF型イコライザー実現の潜在能力が高い。
だから次段フラットアンプのゲート抵抗をより高いものに交換してみる価値がNo−159の場合はある。
例えば820kΩを6.8MΩにした場合のシミュレーション結果がこれだ。
実に理想的な理想NF型イコライザーが実現している。No−159を作って試してみたくなる結果だ。(^^)
なお、上のオリジナルの位相補正ではクローズドゲイン(青)特性において10MHzポイントで6dBのピークが生じてしまっているので、これを生じないよう位相補正をいじってみた。
初段ステップ位相補正を150Ω+330pFとしたところ、
ピークもなくなり、これなら何の問題もないだろう。
次に、“音楽を愛する電子回路”上巻123ページ搭載の高出力MCプリのイコライザーアンプ。
赤がオープンゲイン、青がクローズドゲイン、緑がループゲイン、水色がオープンゲインの位相、ピンクがクローズドゲインの位相、黄色がループゲインの位相。
これを観ると高出力MCプリの性能はNo−168と同程度であることが分かる。すなわちその出力インピーダンス特性はNo−168と同程度でNo−159には及ばないということだ。
なお、オープンゲイン(赤)はNo−168に比べ4dBほど小さい。のだが、これが位相補正的には有利に働いてクローズドゲイン(青)の高域にはピークが生じていない。
高出力MCは電源電圧が±50Vと余裕が大きいので、この際終段2SC960のエミッタ抵抗を大きくして電流帰還を増やし出力インピーダンスをさらに高めてみてはどうか。
回路的には2SC960のベース抵抗とエミッタ抵抗を2倍にすれば良いだけだ。これで動作電流は変わらず、電源電圧利用率だけが小さくなるだけなのだが、電源電圧が高いのでこの点問題にはならないだろう。
殆ど同じで、あまり効果がないという結果だ。何故だろうか? ちょっと不明(^^;
2段目共通エミッタ抵抗を4倍にして、2段目及び終段の動作電流値を1/4にする。
どうも動作電流を減らした方が出力インピーダンス的には効果的なようなのだ。
このとおりだ。
実に理想に近くなった。その程度はNo−159並と言えるだろう。
では、高出力MCプリイコライザーの動作点はこのように設定した方が良いのか?と言うとそれは分からない。動作電流を減らしたことが原因でかえって音が悪くなるかもしれない。ので、興味ある方は勝手に試されたい。(^^:
それよりも、高出力MCプリには2段目に禁断の2SA606を起用してみたいという誘惑に駆られることがある。(^^;
GOA時代にも最終段階でメタルキャンTRプリとして採用されたあの組み合わせ。あれを完全対称型でも実現してみようというもの。(^^)
シミュレーションをあれこれやってみると位相補正Cはやや増やす必要はあるようなのだが・・・、
特性的には2段目に2SA872を起用したものにはやや劣っているが・・・まぁ大丈夫そうですねぁ。まぁまぁですね。
作ってみようかしらん。(^^)
±50Vの電源を用意するのが面倒ということであれば、取り敢えずNo−168用の電源を流用して±27V電源ではじめてみてはどうか。
回路は“音楽を愛する電子回路”上巻122ページの図123から拝借する。
Cobの大きいトランジスタを使うせいか位相補正はこの程度必要のようだ。
結果。
特性的にはNo−168程度になっている。
まぁまぁですね。本当に作ってみようかしらん。(^^;
メタルキャンプリの話題を出してしまった以上、触れないわけにはいかない。か・・・(^^;
というわけでNo−121。メタルキャンTRによるスーパー・ストレートプリアンプのイコライザーアンプ。
初段は評価版PSpiceの制約のためカスコードアンプを省略し、定電流回路を電流源で代用しているが、まぁまぁNo−121だろう。
これがPSpiceの描くその特性。
赤がオープンゲイン、青がクローズドゲイン、緑がループゲイン、水色がオープンゲインの位相、ピンクがクローズドゲインの位相、黄色がループゲインの位相。というのはこれまでと同じだが、これまでの完全対称型イコライザー群との際だった違いはオープンゲインが非常に大きいということだ。クローズドゲイン設定も1dB程度大きいのだが、オープンゲインは12〜18dBも大きいので、結果ループゲインも11〜17dB大きい。
ループゲイン≒NFBの量であるからNo−121EQは現代完全対称型EQより11〜17dB大きなNFBが掛かっていたということになる。
そして、大きなオープンゲイン(赤)のせいもあり、ループゲイン(緑)が0dBに沈む周波数が8MHz超と高いのだが、その周波数におけるループゲインの位相(黄色)が−180°に達してしまっている。結果クローズドゲイン(青)に8MHzにおいて22dBものピークが生じている。
これでは発振してしまい決して安定動作をしないというシミュレーション結果だ。
が、世に安定動作しているNo−121はちゃんと存在しているようであるから、シミュレーターがおかしいのか、モデルパラメーターが正しくないのか、シミュレーション設定がどこかおかしいのか・・・(^^;
ただ、オープンゲイン時における出力インピーダンスと理想NF型イコライザー動作の理想度については、No−121も最近の完全対称型と同等あるいはそれ以上であるということは確かだろう。
GOAからはもう一つNo−122を登場させよう。GOAの最後のMCプリがNo−122。
2SK97と2SK43はモデルがないので2SK117で代用したがシミュレーション上は問題ないはず。
これがその結果。
これもオープンゲインは大きく、ほぼNo−121と同じだ。全体の特性もNo−121とほぼ同等だ。
ループゲイン(緑)が0dBに沈む周波数はなんと22MHzと非常に高くこのポイントでのループゲインの位相(黄色)は−180°に達しているため、このポイントでクローズドゲイン(青)に16dBのピークが生じてしまっている。
したがって、No−121と同様No−122も発振してしまい決して安定動作をしないというシミュレーション結果だ。
が、我がNo−122は一応安定動作しているのである。(爆)(^^;
しかしながら、我がNo−122、時々不穏な体を垣間見せることもあるということを告白せねばなるまい。というのは、内部インピーダンスの低い鉛シールバッテリーをその電源として用いた場合に、マルチの高域側に起用したパワーアンプ側に発振を引き起こす場合があるのである。同じパワーアンプで我が手持ちの別のプリを起用した場合は全く安定に動作するのだが、No−122の場合だけそうなるのだ。
正確にではないにせよ、このシミュレーション結果はNo−122の位相補正に不備があることを示しているのかも、だ。
ま、それはそれとして、この2つのGOAMCプリのシミュレーション結果からGOA時代のMCプリEQが完全対称型よりおおむね15dBは高いオープンゲインとNFB量を有していたことは確かだろう。この辺はその音にも利いているところではあるまいか。
また、理想NF型イコライザー動作の理想度の点では両者ほぼ同等だ。
動作安定度というかNFB安定度ではどうもオープンゲインを減らした設定の完全対称型に軍配が上がりそうだが、見方によっては完全対称型はNFB安定度を確保するためにオープンゲインを小さくせざるを得ないのだということかもしれず、これは一概には判定できない。
そこで、また少しばかり遡りNo−116である。
VGAが最初に搭載されたMCプリアンプであり、その意味では現在の半導体完全対称型の元祖でもあるものだ。
いやいや凄いオープンゲイン。低域で114dBにも達している。
これもクローズドゲイン(青)の29MHzで18dBのピークが生じており、発振してしまうぞ、というシミュレーション結果だ。(^^;
う〜ん・・・。モデルパラメータが正しくないのかなぁ・・・
そこでちょっと視点を変えて、各段の半導体出力を中心に各部の電流出力(dB)を観る。
これで簡単にgmが分かってしまう。
ここで位相補正のC3とC4を極微少な容量にしてあるのは、これらが無い状態と同様にするため。ならば回路図から取り去れば良いのだが、取ったり付けたりするのが面倒なので(^^;
凡例のIDDB(J1)とはJ1の2SK117の電流出力のdB表示という意味である。そのグラフは緑色でこれを見ると低域において大体−47.1dBだ。この場合gm=1Sの場合0dBとなるので−47.1dBとはgm≒4.4mSのことである。2SK117の規格をみるとその順方向伝達アドミタンスはId=0.85mA程度では9mS程度だ。差動アンプの場合はこれが1/2になるから9/2=4.5mS。う〜ん、なかなかよく出来たモデルだ。(^^;
で、その周波数特性がこのグラフに表示されているという訳なのだが、そのグラフは数MHzの領域まで平坦である。すなわち初段はこの帯域まで低域と同じゲインを有するということ。
同様にIDDB(J2)とは初段反転入力側の2SK117のgmであるのだが、MHz領域まで非反転入力側の2SK117のgmとぴったり一致している。初段差動アンプが対称動作していることの証左だ。
以下、ICDB(Q6)〜ICDB(Q12)までがQ6からQ9までの2SA872Aと、Q10からQ12の2SC1775、そのそれぞれのコレクタの電流出力のdB表示であり、最後のIDB(R13)はR13の820kΩに流れる電流のdB表示だ。
これを見るとQ6からQ12まで、そのコレクタ電流出力は極めて良く一致していることが分かる。これは、ここに起用されたカスコードアンプとウィルソン型カレントミラー回路の動作精度が高いことを表している。ここでこの電流出力ゲインを決めているのは2段目差動アンプのQ6、Q7の2SA872Aだ。その電流出力をQ8、Q9の2SA872Aがエミッターで受けてコレクターから出力する。このうちQ8の出力をQ10、Q11、Q12の2SC1775によるカレントミラー回路で折り返してQ10のコレクターから出力する。この回路構成の理想は勿論Q7=Q9=Q10。まぁカスコードアンプによるQ7=Q9は当然と思うのだが、Q7=Q10のためにはカレントミラーの精度が問題になる。そして、こうして見るとウィルソン型カレントミラー回路の精度はなかなかに高いものだということが分かる。
それらの電流出力ゲインは中低域で大体−4dBであり、10Hz以下ではやや下がって−4.5dB程度だ。周波数特性的には大体100kHzまではフラットであるが、それ以上の高域で低下して−3dBポイントは650kHz程度、5MHz程度で−20dBだ。
ピンクのIDB(R13)はこれらとは違ったグラフを描いているが、これぞ電流出力アンプ+RIAANFB素子のMCイコライザーの出力自体がRIAA特性であることを表しているもの。
で、最低域での電流出力dBは−4.5dBであるから、その順方向伝達アドミタンス=相互コンダクタンスgmはgm≒600mSとなる。ただし、アンプ出力電流がこのR13(820kΩ)とNFB素子(低域で820kΩ+51kΩ)に分配されているので、このMCイコライザー自体の本来のトータルGMは最低域で大体その倍の1.2Sだ。
が、820kΩを出力に繋げばそれによってgmも小さくなり、低域でのオープンゲインは600mS*820k=492000≒113.8dBとなる。ぴったりだ。と言うか、1200mS*(820kΩ+51kΩ//820kΩ)=506838≒114dBでぴったりなのだ。(^^)
が、これは当たり前であってモデルの妥当性を証明したわけではない。ので、次に行く必要がある。(^^;
ので、さらに遡ってこれは1988年12月号のNo−107のDCプリアンプのファーストイコライザーである。
何故これを持ち出したかというと、これが先生の「時空を超えた音楽再現」上巻において取り上げられ、その73ページから75ページにかけてこの回路のオープンゲイン計算が取り上げられているからだ。その計算値とここでのシミュレーション結果を対比すれば、シミュレーションの妥当性が分かるだろう。
結果。
見方は同じだが、まず分かるのは、カレントミラーの精度が劣っていること。オレンジがQ10の電流出力だが、Q6,Q7,Q8,Q9の電流出力がほぼ等しいのに、これだけが1〜2dB小さい。やはりワイドラー型カレントミラーはウィルソン型カレントミラーより精度は劣るようだ。
さて、問題の各部gmだが、初段は動作電流がやや上がったためか−46.6dBとなった。すなわちgm≒4.7mSだ。K先生の「時空を超えた音楽再現」上巻では初段2SK97のこの動作電流でのgmは6.1mSで計算されている。こちらの2SK117はやや小さく2SK97の77%ということになる。
で、R13でのアンプ全体の見かけ上のGMはピンクのIDB(R13)が表すとおり−0.7dBである。すなわちgm≒920mSということになる。K先生の計算値と対比するためにはこれを50kΩ/(180kΩ+13kΩ//50kΩ)=1.259倍してアンプ本来のGM≒920mS*1.259=1158mSとなるから、先生の「時空を超えた音楽再現」上巻では820mSと対比すると、トータルGMではこのシミュレーションの方が141%ということになる。
結果としては、初段2SK97を2SK117で代用し、同じく2段目差動アンプ等の2SA726を2SA872で、カレントミラーの2SC1400を2SC1775で代用していることを考えても、このシミュレーションではちょっとゲインが高めに出るようだ。
1.41倍と言えばかなり誤差があるなぁ・・・とも思えるが、dBでみれば3dBである。で、3dBであれば大した誤差ではないと思える。
う〜ん。なかなか微妙だわい。(^^;
って、ループゲインが0dBに沈む付近での3dBはかなり微妙で、ループゲインが3dBの違いがNFB安定性を左右する場合がなきにしもあらず。(^^;
で、No−107DCプリアンプのファーストイコライザーの特性だが、
オープンゲイン(赤)は低域で93dB程度とK先生の計算値より3dB高く、1kHz〜10kHzの高域で82dBとこちらではK先生の計算値より4dB高くなっている。
が、このNo−107の場合はシミュレーション上も位相補正は回路図の値で適切で、クローズドゲイン(青)には何らピークが生じていない。のは、ループゲイン(緑)が0dBに沈む4.5MHzにけるその位相遷移(黄)が−102°程度であるから。
と、この点は良いのだが、理想NF型イコライザーの視点から見ると、1kHz以下におけるループゲインの低下が−12dB。これは我がNo−128?と同等なレベル。
理由は勿論出力にパラに入っている50kΩである。が、これは音量調整のアッテネーターであるからしょうがない。
No−107はこのためRIAANFB素子のインピーダンスを下げるため、これに180kΩと26000pFを起用している訳だが、これでも理想にはまだ遠かった訳だ。
より理想を求めるという観点からしてこの辺もスーパーストレート型登場の理由だったのだろう。
で、そのスーパーストレート型が90年6月号のNo−116である訳だ。
このシミュレーションでは実際より3dB程度高い値が出るらしいということはあるが、そのオープンゲインは超低域でなんと119dBに達し、これに伴いループゲイン(緑)≒NFB量は可聴帯域で50dB程度である。しかも理想NFBイコライザーの理想度も大変良く、1Hz〜100kHz程度までループゲイン≒NFB量がほぼ一定だ。その理想度はNo−159に匹敵する。
が、問題が一つ。それはクローズドゲイン(青)に30MHz付近で20dBものピークが生じていることであり、通常これはこのアンプが発振することを表している。
しかしながらNo−117の実機は回路図の位相補正定数で安定に動作したと考えるべきであるから、シミュレーションで安定でないという結果が出るのはシミュレーションの方に問題があると考えるべきだろう。
で、ヒントは先に見たようにこのシミュレーションではオープンゲイン等が3dB程度高めに出るらしいということ。オープンゲインは即ループゲインに直結するからループゲインも3dB高く出ていると考えれば、下図でループゲイン(緑)が0dBに沈むポイントは25MHz程度であるが、これは本来3dBポイントの18〜19MHzであると考えられ、そうするとその位相遷移も−120°にかなり近づいてくる。
とは考えられないだろうか。(^^;
と、まぁ考えられないこともないのだが、もし実機のNo−116でも発振したというような場合にはどうすべきかをシミュレーションで考えてみると、まずは当然位相補正C3の値を大きくすることだ。
ピークをなくすためには15pFが必要なようだ。
このとおり。ピークは消える。これで安定動作するであろう。
が、こうするとオープンゲイン(赤)が可聴帯域でRIAA特性と言うより、単なる6dB/octの下降直線に近くなっている点が気になる。
これではLUXKITのA804の場合と同じではないか。
その理由はオープンゲインがはっきり言って過大なこと、そして位相補正C3によるワンポール補償が強力に効いたせいだ。
これでは普通の市販アンプと同じで面白くない。
であれば、位相補正を程々にして安定になる方法で行こう。
R8を少し小さくしてループゲイン≒NFB量をやや下げて安定度を確保しようという訳。
結果、ピークは消滅した。これでも安定に動作するであろう。これでもループゲイン≒NFB量は42〜43dB確保されている。
が、クローズドゲインが1kHzで51dB程度とやや大きくなってしまうのが問題と言えば問題かな。(^^;
No−121に戻って各段の半導体出力を中心に各部の電流出力(dB)を観る。
初段の電流出力は−46.2dB。したがって初段のgm≒4.9mS。2段目差動アンプの電流出力は−10dB。すなわち、ここまででgm≒315mS。
No−116と比較すると初段のgmは大きいのに2段目までではgmは小さい、のは2SA607のgmが2SA872のそれより小さいためということになる。加えて、2SC959で構成したウィルソン型カレントミラーの精度が2SC1775で構成したNo−116のそれより悪い。低域側でゲインが減少してしまっている。理由は確たる事は分からないが2SC959のhFEが2SC1775のそれより小さいためだろうか。
その正否はともかく、そのせいでR13におけるgmは最低域で−14dBとなっている。すなわちgm≒200mSである。アンプ本来のGMは、これを820kΩ/(820kΩ+51kΩ//820kΩ)=1.941倍して、アンプ本来のGM≒200mS*1.941=388mSよって、低域でのオープンゲインは388*((820k+51k)//820k)=163878≒104.3dB。
と、まどろっこしいことをしなくても200mS*820kΩ=164000≒104.3dB
で、No−121。シミュレーション上でも安定にすべくいろいろやってみたのだが・・・、
位相補正C3を大きくすると安定にはなるがやはりオープンゲイン自体が6dB/octの直線に近づいてしまって面白くない。
ので、帰還量設定抵抗R8をやや小さくしてNFB量を減らすことで対処しよう。(^^;
結果。
これでもクローズドゲイン(青)に6MHz付近で5dBのピークがある。が、このシミュレーションでも同様にオープンゲインと、そしてその結果ループゲインとが3dBほど実際より高い結果が出ると仮定すれば、これでも問題ないということになるのだが、どうだろうか。まぁ、オリジナルの実機で全く問題なく動作するのであればこのシミュレーションはもとより何ら意味はないのだが。(^^;
なお、こちらのグラフではオープンゲイン(赤)が10Hz以下で計算値の104dBを超えているが、それは前にも書いたとおり820kΩとシリーズの33000pFの超低域でのインピーダンス上昇のため。
次に、No−122各部の電流出力。
やはり2SK117(オリジナルは2SK43)一本によるカレントミラーの精度は良くない。1kHz以上の領域でも1dB程度の乖離が生じているし、低域では最大で8dB近く乖離してしまう。
低域における乖離は、負荷インピーダンスの高まりに対して2SK117の出力インピーダンスがついて行けないのがその原因だ。ソース抵抗560Ωによって電流帰還が働いても2SK117の出力インピーダンスの高さが十分にはならない訳だ。が、No−158では同じ2SK117終段で十分な出力インピーダンスが得られていることを考えると、このソース抵抗を2kΩ程度に高めれば良い結果が得られるかもしれない。
初段の電流出力は−44dB、2段目差動アンプの電流出力が−12dB。と、2SJ72は2SA606とほぼ同程度のゲインを稼いでいることが分かる。さすがにHigmなFETだ。
で、結果としてはR13における電流出力(ピンク)は低域で−14.5dBとNo−121とほぼ同等であるから、No−122もオープンゲインは低域で104dB程度になる訳だ。
2段目ソース抵抗を2kΩに高めてカレントミラーの精度を上げてみる。
やはりかなり精度は上がる。が、これまたやはり完全ではないのも確か。
もとに戻して、これについてもシミュレーションで安定動作するよう位相補正等を調整してみた結果、2段目差動アンプの位相補正Cはオリジナルの倍、そして帰還量調整抵抗は180となった。
結果がこれだが、これでもクローズドゲイン(青)には18MHz付近で4dBのピークが生じている。
さて、ここでまた完全対称型に戻って、我がNo−128?。
これの各部の電流出力を観る。
結果。
特徴は一見して分かるとおり、GOAでは横線が2本だったのに対して横線が3本であること。すなわち下から初段の電流出力、2段目差動アンプの電流出力、そして一番上が終段SEPPの電流出力だ。完全対称型は初段、2段目そして終段SEPPそれぞれにゲインがある。
初段の電流出力はほぼ−48dBだからそのgm≒3.95mSである。
2段目差動アンプ出力では中域で−37dB程度であるから2段目までのgm≒14mS。
そして終段SEPPの出力では−23.5dB程度であるからgm≒66.5mS
その結果、R11における電流出力は低域で最大で−28.4dB程度だ。すなわちこの点でのgm≒37.5mS。No−121はこの点でのgm≒200mSであったから一桁gmが小さい。
結果、このNo−128?の低域でのオープンゲインは37.5mS*820kΩ=30750≒89.76dBとなるわけで、これはNo−121やNo−122のそれよりも14〜15dBも小さい。
さて、ここで観るべきは初段の電流出力はJ1もJ2も高域まで良く揃っていること、これに対して2段目差動アンプのQ1、Q2と終段SEPPのQ3、Q4は僅かだが乖離が生じていることだ。これは2段目差動アンプと終段SEPPの動作対称性が僅かながら崩れていることを表している。
今一つは、2段目差動アンプの電流出力と終段SEPPの電流出力すなわちgmが1kHz以下の低域で低下することである。
これは低域で増加する負荷のインピーダンスに対してそれぞれの電流出力のインピーダンスが低くなって、その結果gmの低下を招いているのである。要するに2段目及び終段の出力インピーダンスの高さが足りないということなのだ。
実際、この状態では、
このとおりで、低域でオープンゲイン(赤)は90dB。
ループゲインは低域で中域に対し12dB低下してしまう。
このNo−128?をより高性能にするためには2段目差動アンプ右側(終段上側ドライブ担当)にカスコードアンプを入れるのが良い。左側はカスコードはなくて構わない。
結果はこのとおり。
顕著な違いは2段目差動アンプの電流出力(黄&青)。低域まですっかり直線になっただけでなく差動アンプ左右(Q1とQ2)の乖離も大幅に改善された。加えてゲインも0.5dBほどアップしている。さらにこの結果を受けて終段SEPP出力での電流出力の乖離まで改善された。良いことずくめだ。
が、終段SEPP出力での電流出力についてはやはり低域で低下する。これは終段自体の出力インピーダンスを高めなければ改善できない点だ。
まぁ、取り敢えずこれで2段目までは理想的になったということ。(^^)
ここでついでなので初段に入れられた位相補正の効果を観る。
R15の値を本来の220Ωに戻す。
このように2段目及び終段の高域特性が一桁低い周波数域からカットされる訳だ。
この改良型No−128?の特性はどうか。
オープンゲイン(赤)は低域で94dBと改良前に比べ4dBアップし、結果ループゲイン(緑)の中域に対する低域での乖離も−8dBと改良前に比べ4dB改善された。結果70〜80Hzにおけるループゲインの位相の乖離も10°改善されている。
これ以上の理想的特性を目指すとなると終段の出力インピーダンスをより高くすることが必要だが、出力に次段の入力抵抗820kΩがパラでつながる限り理論的にループゲインの低域での低下−6dBと位相+20°は必然であるから、これでもう十分だ。と思う。(^^)
という目で観ると、No−168はどうか。
2段目の出力インピーダンスは十分高い。結果各部電流出力も一致すべきものは良く一致しており、非常に良い特性だ。
ゲインはNo−128?よりやや小さい。
その特性は、
低域でのオープンゲイン91.5dB。ループゲインの低域での低下は−9dB、位相は+30°。
試しにNo−168の2段目からカスコードを取り去ってみる。
やはり予想通り。
2段目の出力インピーダンスの高さが足りないためその電流出力gmも低域で低下してしまうほか、左右のgmも僅かに乖離してしまう。そしてその結果は終段まで引きずられてしまう。ゲイン自体もやや低下する。
No−128?の場合と同じだ。
次に、“音楽を愛する電子回路”の高出力MCプリのイコライザーアンプ。
う〜ん。なかなかに素晴らしい。(^^)
全体的に揃うべきところはきちんと揃っているし、2段目差動アンプ出力も低域まで一直線だ。が、終段SEPPの出力はgmはやはり低域では低下する。
ゲイン設定はさらに小さくなってR19でのgmは低域で−31.7dB≒26mS程度だ。よってオープンゲインは低域で86.6dB程度だろう。
その特性は、
なかなかに良い。(^^)
続いてNo−159。
素晴らしい。(^^)
これにはNo−168も高出力MCプリも敵わない。
クローズドゲインにピークを生じないように位相補正をちょっといじって(^^;
その特性は、
最高だ。(^^)
次段の入力抵抗820kΩなかりせばの本来の特性は、
理想NF型イコライザーの理想がほぼ完全に実現されている。と言って良いだろう。
2段目差動アンプ&カスコードアンプに2SA606を起用した禁断の高出力MCイコライザー。や如何に!?(^^;
惜しいことに2段目カスコードのQ5、Q6、特にQ6の電流出力が差動アンプの電流出力より小さくなっている。さらにQ6のgmは低域で低下する。
う〜ん。何故だろう。Cobのせいだろうか。それとも素子のもともとの出力インピーダンスが低いのだろうか。
が、仕上がりは、
まぁ、2段目が2SA872のオリジナル高出力MCイコライザーにやや劣る程度だ。
特性は劣っても、音は逆転評価かもしれないし・・・(^^;
完全対称メタルキャンMCプリを取り敢えずNo−168の電源を流用して試すとすれば、
やはり2段目と終段には多少対称性に乖離が生じるのだが、
その特性は、
まあまあかな。(^^;
(おまけ)
以上のシミュレーション結果から、僭越ではあるがGOAスーパーストレートの完成型No−116をいじってみる。
基本的視点は、過剰と思われるオープンゲインを引き下げてNFB安定度を高めること。勿論理想NF型イコライザーとしての理想度は最高レベルを維持する。そのための手法は2段目差動アンプに電流帰還をかけること。だが、いにしえからのDCアンプファンの方はご承知のとおり、当時にあってはこれは禁じ手。
先生、今となってはどうでしょうか?(^^;
2段目差動アンプ2SA872のエミッタに120Ωの電流帰還抵抗を入れただけであるが、これで20dBもゲインが低下する。あわせてその効果で高域の遮断周波数が高くなっていることも分かる。
問題は2段目差動アンプの動作対称性だが、この結果を見る限り電流帰還を入れない場合と変わらないように思えるのだが、どうだろう。
これなら良さ気では。(^^;
この場合、位相補正は完全対称と同様に初段のステップ型の方が良い。また、NFB帰還素子に3.6kΩの高域帰還制限抵抗を入れる必要もない。
帰還量設定抵抗の値も470Ωに戻す。
これでどうだろうか。
結果。
う〜ん。素晴らしい。
理想的なNo−159よりもさらに理想的になったではないか。(^^)
(おまけ その2)
この際、第一世代の抵抗負荷2段差動アンプタイプも観ておく。
No−69。
この時代は分配型イコライザーだったが、無論理想NF型イコライザーではない。
まずは低域上昇を担うファーストイコライザー。
オープンゲイン(赤)は可聴帯域で80.5dB。そのfc(−3dB点)は30kHzでそれ以上の周波数では6dB/octで下降していく素直な特性だ。特に位相補正はなされていないのだが、回路図に現れない2段目差動アンプの2SA872AのCobが位相補正の役割を果たしている結果だ。結果、ループゲイン(緑)が0dBに沈む1.7MHz付近でのループゲインの位相は−105°程度に収まっており、クローズドゲイン(青)には全くピークが生じていない。
クローズドゲイン(青)は1kHzで44dBであり10Hzでは64dBだ。この低域におけるゲインの上昇を得るためにNFB素子によってループゲイン(緑)が低域で下降させられている訳だ。ループゲイン≒NFB量であるから、要するにNFB量を低域ほど少なくすることによってクローズドゲインにおけるRIAA特性を実現している訳である。
結果、低域におけるNFB量は中域に対して最大22dB少ないことが分かる。あわせてループゲインの位相(黄)も150Hz付近で最大58°進む大きな山を形成している。
これが電圧出力アンプでRIAA特性を得ようとする場合の実態。
このため低域のNFB量は15dBしかない。
さて、上のほうで我がNo−128?に0.4uF+50kΩを負荷とした場合の状態を見たが、その時の状態は要するにこのNo−69の状態に近づいたということなのである。折角の理想NF型イコライザーが、電圧出力アンプ+RIAANFB回路のごく普通のイコライザーになってしまうということだ。
で、問題は音であって、もしこのNo−69MCプリの音と理想NF型イコライザーであるNo−168MCプリの音になんら違いを感じないということであれば、No−168等も0.4uF+50kΩを使っていにしえのような音量調整をしても一向に構わないということになるわけ。
「で、君は?」
はっ、・・・(^^;
各部の電流出力(gm)はどうか。
初段2SK117は左右ともよく揃っていて−46.9dB≒4.5mS。
2段目差動アンプの2SA872の左右も動作対称性は大変良く、低域で−3dB≒700mS。高域の−3dBポイントは30KHzと、この電流出力(gm)特性が上の周波数特性を形成しているものであることが分かる。
赤が終段の2SC1775、青が2SA872の電流出力なのだが、残念ながら乖離している。コンプリといっても別種のトランジスタの組み合わせだからどうしても乖離は生じる。
最終的に出力に流れる電流がR12の電流を測定した真ん中あたりの緑のグラフ。
これまでと違ってRIAAでイコライズされたグラフにならないのは、このアンプが電流出力アンプではなく、電圧出力アンプであるためだ。
その値は低域で−13.4dBであるからそのgm=214mS。よってこのアンプのオープンゲインは214mS×50kΩ=10700倍≒80.6dBと、上のグラフとぴったり。
こちらは高域下降を担当するセカンドイコライザー。
オープンゲイン(赤)は可聴帯域で66.5dBとファーストイコライザーに比べ14dB少ないのは初段が2N3954となっているためだが、−3dBポイントは15kHz程度となっている。これは初段の負荷抵抗が18kΩと大きいためだろう。こちらもそれ以上の周波数では6dB/octで素直に落ちていく。これも位相補正は適切だ。
クローズドゲイン(青)の1KHz以上のRIAA下降曲線はループゲイン(緑)を増やすことによって得られていることが分かる。すなわち1kHz以上でNFBを増やすことによってRIAAの高域下降特性を実現している訳だ。これに伴ってループゲインの位相(黄)は5kHz付近で45°程度進む山を形成している。
NFB安定度確保のために帰還回路に1.2kΩが付加されているのだが、その効果や如何に?
という訳でこれを取ったの同じ状態にして試してみる。
なるほど、クローズドゲイン(青)が20MHz付近で2dB程度のピークを有するようになった。
が、この程度なら大丈夫かもしれない。
こちらも各部の電流出力(gm)を観ておこう。
ファーストイコライザーと同様だ。
特にコメントはない。
と、徒然にやってきたシミュレーションはこの辺までとし、毎度のことだが最後にいつものお断りを。
以上のシミュレーション結果及びその解析には何の保証もないので悪しからず。また、登場した素子モデルについては何もお答えできない。ので重ねて悪しからず。
(2005年10月14日)