市営移換された炭鉱の産物


街から離れた小高い山の上にある遺構。
白い外観で昭和の中盤の雰囲気だ。
付近は屯田時代から飲料水には恵まれていなかった。 外観


建屋は二階建てでそこそこ大きい。
戦後も炭鉱地帯にのみ浄水施設があり、
農村地域は良質とは言えない飲料水を使用していた。 浄水場



木製の電柱と灯具が残る。
かつては鉄分や有機成分を多量に含んだ地下水を、
簡易なろ過装置や煮沸によって使用していたという。 電柱


これが建物の玄関となる。
2階の壁が崩れ、ひどい状態だ。
これ以上崩れないか、十分確認を行う。 玄関


一階に入ってすぐはパイピングギャラリ、配管室だ。
七種の太さの異なる配管が迷路のように這っている。
急速ろ過池に付属する各種配管だ。 パイピングギャラリ


配管のつなぎ目にはゲートバルブが配され、
その上部回転部は二階へ向かって延長されている(黄色丸)。
二階に恐らく切替ハンドルがあり、それを操作するとこのバルブが開閉するようだ。 バルブ


所々に異なる径の直管を接続するレジューサーが配してある。
原水、浄水、排水、逆洗、表洗または空気、
溢流(あふれた水)および、ろ過後排水用の7種の配管が構成されている。 パイピングギャラリ



配管の太さは80A(外形89.1o)でもなくA呼称規格ではない。
各池との連絡管との関係か、
規格管ではなく鋳出の特殊異形管が使用されている。 配管


築別浄水場が異形鋳鉄管だったのと同様に、
本浄水場も昭和30年代、A呼称規格前の配管が使用されており、
これは炭鉱時代の産物、つまり40年代以降に新設されたものではない証拠だ。 配管


これは ルーツブロワー とその駆動モーター。
ルーツブロワーは一対の砂時計形(まゆ形)のローターを互いに逆回転させ、
比較的低い圧力で大容量の気体を送り出せるポンプだ。 ルーツブロワー


これは恐らくコンプレッサーの代わりに使用され、
急速ろ過池内で 「フロック」液体中に分散しマイナスの電荷を帯びている極微細粒子を、 凝集剤にて正+の電荷を与え集めて固めたもの を形成するための凝集剤を混濁させるために、
水槽内に空気を送り込んだものと思われる。 ルーツブロワ


これは『ゐのくち式渦巻ポンプ』、取水井から ろ過池への供給用であろう。
揚水用ポンプとして昭和40年代まで主流だった高性能ポンプだ。
東大教授の井口氏が発明改良した、世界的に通用する理論は現在のポンプ技術にも流用されている。 ゐのくち式ポンプ


ゐのくち式ポンプは中央部に回転する羽根車と固定される案内羽根を持ち、
外縁部に環状の渦巻室を配する構造により、
ポンプ効率の向上を達成した。 ゐのくち式ポンプ


配管室は昭和30年代の様相。
炭鉱時代の設備が色濃く残る。
恐らく各配管は機能ごとに色分けされていたようだ。 配管室


配管には『200・昭和十五年』の文字がある。
やはり鋳鋼製配管だが昭和15年は冗長過ぎる。
恐らくどこかで使用していた配管を再利用したのかもしれない。 昭和15年



ゲートバルブはさらに古く、
『昭和十四年』の鋳出し文字がある。
これらもリサイクルの爪痕のようだ。 ゲートバルブ


付近にはかなり大きなタンクがある。
これは 凝集沈殿装置としての混和池だと思われる。
河川水に含まれる不純物(にごり)を取り除くために凝集剤などの薬剤を混ぜる槽だ。 タンク


混和池の水槽上にはモーターが設置してある。
水中の不溶性の微細粒子(ゴミ)を荷電(+)すると集まり重くなって沈む。
そのために添加される薬剤が凝集剤だ。 モーター


モーター軸の先にはスクリューが付いている。
これで水槽内を掻き混ぜ、
凝集剤と微細不純物をより早く吸着させるのである。 スクリュー


付近には固まりきった石灰が残っている。
これは河川水のph調整のために中和剤として投入されたものであろう。
凝集剤の効果はあるph条件下とされている。 石灰


飲料水の水質基準ではpH値は5.8〜8.6と決められており、
凝集沈殿装置に消石灰を添加して浄化を早めると同時にpHの調整を行う。
また鉄管のサビによる赤水の発生防止にも石灰は効果があり、
分離された汚泥に消石灰を加えると脱水効果があり運搬し易くなる。 石灰


外階段を使用し二階へ昇る。
二階には ろ過池、操作室などがあるはずだ。
落下に十分留意して歩く。 階段


急速ろ過池、事務室、薬剤の投入室等が並ぶ。
凝集剤にて塊となった細かなゴミを
ろ過砂に通して排除する工程だ。 二階


急速ろ過池とともに、
制御盤、そして手動開閉台が残る。
ここが浄水場のメイン施設となる。 制御盤


第一ろ過池用、源水用と手動開閉台が数か所ある。
一階のパイピングギャラリに存在したゲートバルブの開閉操作を延長した中間ロッドで行うことで、
地上部にて開閉操作ができる開度目盛付の装置である。 手動開閉台


急速ろ過池は第一から第三まで段階的に存在する。
緩速ろ過池がバクテリアを捕食する生物をも利用し1〜2日をかけて濾過されるのに対し、
急速ろ過はその30〜50倍という高い ろ過速度を持ち、狭い面積で多量の水が浄化できる。 急速ろ過池


急速ろ過池の底には未だ ろ過砂が残る。
凝集剤と撹拌された河川水はこのろ過砂を通され、
浄水は地下の浄水池に貯められる。 急速ろ過池


過去の急速ろ過池は滞留時間を稼ぐため、1本の長いろ過池が使用されたが、
底に傾斜を持つことで沈降距離が減り、立体的に沈殿面積が増えることとなる。
傾斜板の沈降装置により小型化による敷地面積の節約、工事費低減に貢献できるのである。 傾斜


ろ過砂はやがて不純物で目詰まりし、流れが悪くなる
この汚れた ろ過砂を表面から洗浄するのが『表洗』、底から洗うのを『逆洗』と呼ぶ。
『逆洗』時の排水を均一にするための水路が中央の排水桶で、
当時は船底塗料を塗布し防錆、近年ではFRP(繊維強化プラスチック)製のものとなった。 急速ろ過池


それぞれのハンドルは排水や表洗、逆洗用のバルブ操作用だ。
ろ過砂の ろ材の詰まりは流れの悪さとなり、配管への圧力上昇を誘発、
バルブや機器への負荷となる。 水位計


三か所の急速ろ過池それぞれに複式メーターが設置してある。
ろ過流量、ろ過速度の2重目盛(rate of flow)、
そして損失水頭(loss of head)である。 複式メーター


損失水頭は圧がかかった密閉配管上部に小さな穴を開けたとき、
その穴から吹き上がる水の高さをmで表したもの。
ろ過流量は時間当たりの体積量(m3/h)、
ろ過速度は ろ材を通って流出する ろ液の見掛けの速度(m/h)である。 複式メーター


ろ過流量、ろ過速度は密接に関係しており、
ろ材の目詰まりによって、流れが悪くなっても
  ろ過流量を一定に調節するのが目的だ
損失水頭は ろ過池の逆洗時期を判断する材料となる。 ろ過速度


制御盤はキュービクル型ではなく機器が露出したタイプだ。
ポンプや電動機(モーター)の駆動制御や、
タイマーリレーの様な機器もある。 制御盤


事務室は独立した部屋になっている。
人員が常駐し、常時監視していたようだ。
内部を確認してみよう。 事務室


事務所内にはストーブや流し台、
休憩のできるスペースもある。
しかし広さはあまりない。 事務所


年代物の扇風機がある。
脇にはオイルポットも腐食している。
時が止まっているかのようだ。 扇風機


冷蔵庫も年季が入ったものだ。
東芝製、full automaticと記載されている。
上には薬品が数種置かれている。 冷蔵庫


台秤も分銅と共に残る。
てこを利用した天秤を用いて、
分銅の加減や移動により釣り合う場所を探して重量物を計測する。 台秤



これは凝集剤を ろ過池に供給するタンクだ。
当時からPACと呼ばれるポリ塩化アルミニウムが凝集剤として使用され、
マイナスに帯電している水中の微細粒子にプラス荷電をもつ凝集剤を添加すると、
荷電が中和され凝集が起こる。 PAC


これはテラコンフィーダーと呼ばれる粉粒体供給装置だ。
PACの製造のために、振動をもって粉の化学薬品を
連続的に定量を排出する装置だ。 フィーダー


これは次亜塩素酸ナトリウムの供給装置で時代が一気に新しくなる。
恐らく後に増設された装置のようだ。
水に注入し中性域に近づくと強い殺菌効果を発揮する。 次亜塩素酸ナトリウム


配管も塩ビ管、ボールバルブも樹脂製と、
炭鉱時代は液化塩素で殺菌していたようだが時代と共に
次亜塩素酸ソーダに変更、機器も改訂されたようだ。 バルブ


次亜塩素酸ソーダは淡黄色の透明な液体で、
pH調整剤の苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)と共に投入、
次亜塩素酸などの有効塩素により、ウイルスや病原性細菌を死滅させる。 次亜塩素酸ソーダ



塩素ガス漏洩検知警報器が残る。
次亜塩素酸ソーダは酸が添加され、pHが7以下になると塩素ガスが発生する
つまり苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)と共に投入してる以上は安全である。 塩素ガス


警報機のスピーカーである。
よってこの警報器はかつて炭鉱時代に
ガス化の危険性が高い液化塩素を使用していた証でもある。 警報器


時期的なこともあり最終工程の浄水池や配水池は確認できなかった。
確認できたのは水の中の細かい不純物を塊にする混和池、
塊となった細かなゴミや砂を沈める ろ過池とそれに付随する設備群だ。 浄水場


炭鉱時代に建設された証拠はパイプ類の外径が物語り、
液化塩素の使用は警報機が指し示す。
給水人口の増減や、市への移管、環境問題から何度も改修されたであろう浄水場跡は、
新旧が融合した不思議な空間だった 混和地





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浄水場跡
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