謎の製錬施設
アプローチから激藪だ。
笹薮の斜面を下り、
平場を探す。
しばらく藪を進むと、
明らかに人工的な平場がある。
道路にしては広く、何等かの施設があったようだ。
藪の足場は湿地帯で非常に歩きにくい。
斜面をトレースして進む。
鉱床図によると鉱区は3か所に分散していたようだ。
上流域には小川が流れている。
下流に沢はなかったので、
どこかで地下に染み込んでいるのだろう。
開けた一角の奥に人工物だ。
スクエアな形状の塔のようなものがある。
しかし、他の鉱山跡では見たことのない形状だ。
高さは5m程度、煙突のような形状だ。
主な硫黄製錬法は
『焼取法』と
『蒸気製錬法』
に二分される
。
大量生産型の『焼取法』に対し、低品位鉱に対応する『蒸気製錬法』となる。
おそらくこれは硫黄製錬に関する熱処理装置の名残だ。
『焼取法』は容器に入れた鉱石を炙り、
比較的低い温度で蒸発する硫黄蒸気を冷却して生産する。
塔の断面は正方形で、周囲には木材も残る。
『蒸気製錬法』は高圧蒸気容器に封入した鉱石に高密度の蒸気を吹き込み、
高温高圧をもって液体化した硫黄成分を濾過して製品化する。
塔の下部には開口部があり、これは蒸気製錬法のボイラー跡のようだ。
恐らく加熱用の石炭などを投入する炉の一部だと思われる。
タンクには容積比2倍の水を投入する。
炉のすぐ上部には小径の穴があり、
熱気を集中させる狙いがあるようだ。
水蒸気を用いて150℃までタンク内の温度を上昇させる。
ボールバルブが破損して吐出している。
やはり圧がかかる構造なのだ。
タンク内圧は4〜5kg/cm2で抽出には3〜5時間の経過が必要だ。
付近の沢は若干の硫化水素臭がある。
蒸気製錬は焼取法に比較して煙害がなく、
作業環境もよく、周囲の木々が立ち枯れるようなこともない。
周囲の平場には建築木材が朽ちている。
蒸気製錬の硫黄実収率は80%、
必要な燃料も製品1tあたり1,700kcalと高効率だ。
周囲には硫黄成分が染み出た水たまりがある。
蒸気製錬の短所は鉱石の成分や粒度などの条件により、
製品品質が左右されやすい側面があることだ。
そのため大規模硫黄鉱山では浮遊選鉱と蒸気製錬が組み合わされていたようだが、
本坑のような小規模鉱山では、
純粋に蒸気製錬のみが施工されていたようだ。
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