コンパクトな製錬所の理趣

留辺蘂は平成18年(2006)に北見市と合併したが、
イトムカ を初め、かつては金銀そして水銀鉱山が犇めいていた。
地名はアイヌ語ルペシュペ (峠を越えたところの意) に由来している。 留辺蘂町


東無加川に沿った谷間に入る。
水銀は常温で液体のただ一つの金属である。
融点が-39℃、つまりこれより低い温度でようやく固体となる。 廃道


鉱床に向かってひたすら登る。
水銀の沸点は357℃、銀の沸点は2162℃。
つまり蒸発して気化する温度がこれだけ違うのである。 山歩き



しばらく登るとズリ山のような植生のない一角がある。
銀は消臭剤や抗菌、食品添加物としても使用されるが、
水銀の中でもメチル水銀は毒性が強い。 ズリ山


写真ではわかりにくいが、付近は人工的な雰囲気がある。
水銀は医療機器や薬、電池、計測機器などの分野で使用され、
無機水銀においてはほぼ毒性がない。 人工物


奥にはコンクリート製の遺構がある。
これはどうやら選鉱所の遺構のようだ。
金鉱山の製錬所と比較するとかなり規模が小さい。 製錬所


製錬か選鉱の施設が残存している。
製錬の前工程として鉱石をまずは砕いて大きさを揃える。
小規模なら手選、大規模鉱山なら比重淘汰、浮遊選鉱を用いて選別する。 製錬所


水銀は比重が大きいので重力選鉱などで濃縮、
それを密閉容器であるレトルト中で熱して水銀蒸気を発生させる。
規模が大きな鉱山ではレトルトではなく ロータリーキルン を用いる。 精錬



蒸気はコンデンサーと呼ばれる冷却室にて凝縮、
気体から液化した水銀を回収する。
このように水銀の製錬施設は加熱炉と凝縮装置で完結する。 廃墟


レールが残存している。
水銀製錬所で動力が必要となるのは、
鉱石の粗砕、送風機、場合によってはロータリーキルン程度である。 レール


金鉱山の製錬では、コンプレッサーや撹拌機、摩鉱機、石灰の撹拌機など、
多数の動力が必要だが、水銀製錬所には大掛かりなものは必要ない。
このことが製錬所の小規模化に貢献している。 製錬


選鉱所の最上段にも遺構はない。
鉱物の分離と純度を高める『選鉱』後、化学反応や加熱を用いて金属をより分ける『製錬』、
その後、電解・溶媒などを用いて再処理する『精錬』これらが一連のプロセスだ。 選鉱


選鉱所からは道のような掘割が続く。
これは手押し軌道のような鉱石の運搬路かもしれない。
製錬所とズリ山、坑口は一連のはずだ。 路


藪を抜けると明らかな道となった。
水銀鉱床は火山活動が元に形成され、
熱水鉱床と言われるものが多い。 軌道跡


数百m進むと人工的な平場があり、
明らかに近年、植林された雰囲気がある。
ここがレールの終点で、鉱石積み込み場所などであったかもしれない。 人工物


斜面に丸く穴が開いている。
地下坑道が埋没した部分かもしれない、
熱水鉱床とは地下の高温の水溶液が吹き上がって形成される。 坑口


坑口らしき穴の発見だ。
マグマの中には水分や炭酸ガスなど揮発成分が含まれているが、
これが冷えて固まり火成岩になるときには、揮発成分を含むことができない。 マウスon 坑口


非常に小さな坑口の発見だ。
岩場の亀裂のようだが、これは人工物だ。
内部を確認してみよう。 坑口


内部は続いているものの、狭くて体は入らない。
マグマが急速に冷却固結するときに、逃げ場を失った揮発ガス等は、
熱水となり付近の金属を溶解しながら岩場の隙間を地表に向かって遡る。 坑道


帰路で選鉱所から少し脇の平場を確認すると製錬所関連の土台があった。
ここで傾斜レトルト炉を用いて鉱石を加熱、
蒸気をコンデンサーで冷却して水銀を精製していたのだ。 遺構


付近には鋼製の架台が残っている。
マグマから噴出した熱水が種々の金属成分を沈殿させながら、
移動そして冷却、これが熱水鉱床である。 アンカー


小さな水銀鉱山の小さな製錬所。
昭和19年(1944)の国内水銀鉱山産出量は245t。
現在は水銀の需要が落ち込んだ半面、そのリサイクルが活発化している。 基台








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