精錬における化学反応
《目次》

  1. 資源抽出のプロセス
  2. 製錬の種類
  3. 青化精錬
  4. その他近年の精錬法
  5. 電解精製
※目次クリックからリンクしています
 金の製錬に限定し解説しています。


資源抽出のプロセス

傾斜コンベヤ

物理的分離と化学的分離
 物質の分離法には物理的分離と化学的分離がある。
 資源は天然には鉱物として存在し、この鉱物が集まった鉱石として産出される。

 岩石の中で有用鉱物を含み、資源として回収可能なものが鉱石と呼ばれる。
 鉱石から有用鉱物を分離する方法の中で、
 元の鉱石の物理的変化なしに分離する方法が物理的分離と呼ばれ、
 そのプロセスは選鉱と呼ばれる。

 選鉱は破砕と磨鉱と呼ばれる鉱石を細かい粒にする単体分離の過程と、
 鉱石内部に化学的変化を及ぼさない、「浮遊」泡による表面張力を利用「比重」重液による比重差を利用・ 光学・静電・磁力などの選鉱分離過程がある。


  一方、化学的分離は選鉱後に純粋な元素を取り出すため、
 化学反応や電気分解反応を用いて、原子・分子レベルで元素をお互いに分離する以下の工程である。


製錬の種類

青化精錬所
製錬と精錬
 採掘したばかりの鉱石には石や砂、
 必要な金属(=有価鉱物)もあれば 「無用鉱物」脈石も含まれる。
 化学的に鉱石の中から有価鉱物を取り出す作業が『製錬』である。
 一方、製錬後、化学反応や熱処理を用いて更に不純物を除き、
 純度の高い金属などを取り出す過程を『精錬』という。



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 図は製錬の種類と年代を摸式化したものだ。
 製錬工程内には大きく分けると加熱処理を行う『乾式精錬』と、
 化学反応を用いる『湿式精錬』に分類される。

乾式製錬
 乾式製錬は高温での溶融により、脈石と金属を分離させるもので、
 転炉、反射炉、溶鉱炉等が使用される製錬方法だ。
 日本では佐渡金山(1876)や小坂精錬所(1900〜)、菱刈金山(鹿児島、現在)、 大栄鉱山等 で採用されてきた。

大栄鉱山

湿式製錬
 一方、湿式製錬は化学反応を流用するもので、 水溶処理によって鉱石を酸・アルカリ液で浸出した後、
 化合物となった物質に  「イオン化傾向」電子(−)を渡して陽イオン(+)になろうとする  が高い卑金属を加えて目的の金属を沈殿析出する置換法や混汞法などがある。

アマルガメーション
 乾式製錬と同時期に並行して進化した湿式製錬は、
 「混汞法」(=こんこうほう)  と呼ばれる水銀を用いた方法で、これはアマルガメーションとも呼ばれた。

 金や銀は水銀と結びついて、合金を作り易く、
 その性質を利用して金銀を採取し、その合金をアマルガムと呼んだ。
 水と共に細かく粉砕した鉱石に、水銀を加えて混合、
 金銀が水銀に溶けて合金(アマルガム)となる。
 ここから不要な土砂を洗浄後、
 その個体を加熱して水銀を蒸発させることで金を得ることができる。
 しかしながらこの方法は、水銀による環境破壊が懸念される。


青化精錬

青化法
 明治19年(1888)にイギリスで金銀がシアン溶液に溶けやすいという性質を利用し、
 金銀を回収する方法が特許として発表、周知のものとなった。
 これを青化法という。

 プリンターなどのインク色に『シアン』がある。
 このシアンとは 「プルシアンブルー」Fe4[Fe(CN)6]3 (紺青)を語源とし、
 青色顔料を由来とした青酸化合物である。

 化合物プルシアンブルーのCNという部分こそ、青酸カリ(KCN)のCN部分であり、
 青酸の状態では反応性が高すぎて不安定なため、
 カリウム塩やナトリウム塩にしたものが、
 それぞれ青酸カリウム(シアン化カリウム)、青酸ソーダ(シアン化ナトリウム)となる。


リーチング
 採掘した鉱石を破砕、そして水と共に粉砕、そして泥状になるまで磨鉱する。
 これにシアン化ナトリウム液を加えて空気を吹き込みながら溶解させる。
 この工程をリーチングと呼ぶ。

精錬所

シアンと金の溶解メカニズム
 シアンと金はどうして結合しやすいのだろう。
 酸化反応とは-電子を放出する反応で、
 逆に還元反応とは-電子を受け取る反応だ。

 酸化反応により、金(Au)は-電子を放出し一価の陽イオンとなる。
   @4Au=4Au++4e-
 一価の陽イオンとなった金は安定を求めてシアンと結びつきシアン化金となる。
   A4Au++4CN-=4AuCN
 このシアン化金は更にシアンと結合して安定する。
   B4AuCN+4CN-=4Au(CN)-2

 更に酸素(O2)が必要な理由を還元反応から見てみよう。

 酸素と水(H2O)は還元反応により過酸化水素と水酸化物イオンに分かれる。
   CO2+H2O+2e-=H2O2+2OH-
 過酸化水素は電子を受け取り、水酸化物イオンを放出する。
   DH2O2+2e-=2OH-

 これら5式を集約すると、
   4Au+8NaCN+2H2O+O2=4Na[Au(CN)2]+4NaOH

 シアン化カリウム(青酸カリ)でなくシアン化ナトリウム(NaCN)を使用するのは
 主にコストとの兼ね合いだ。

 付加した酸素(O2)により、酸化力の強い過酸化水素が生成し、
 金(Au)から電子(-)を引き抜くことで、シアンが金と結びつくもので、
 酸素は反応に不可欠であることがわかる。


轟鉱山

溶解した金の析出
 リーチング反応後、固く結びついたシアンと金は安定した状態である。
 しかしここから目的の金を抽出しなければならない。

 金は最もイオン化傾向=電子(-)を渡して陽イオン(+)になろうとする性質が低いので、
 亜鉛(Zn)粉末を投入することにより、
 亜鉛が金と入替り、シアンと結びつくことで 金が析出する。
 これを『メリルクロー法』と呼び、化学式で表すと、
   2Na[Au(CN)2]+Zn=Na2Zn(CN)4+2Au
 となる。

その他近年の青化精錬法

 
活性炭による金回収
 1970年頃からシアン溶液に溶解した金・銀を、
 活性炭に吸着させて回収する方法が開発された。

 粉砕・摩鉱した鉱石にシアンと酸素を送り込み、
 金・銀をリーチングする方法はメリルクロー法と同一であるが、
 この金・銀が溶解した泥状液に抽出槽内で活性炭を投入し、
 それに金・銀を吸着させ、その活性炭だけを取り出す。

 この活性炭から加熱したアルカリ性シアン溶液にて金・銀を溶離して、
 純度の高い金・銀溶液を得る。この工程を『ストリッピング』と呼び、
 その後溶液を直接電解して金・銀を回収する。
 この方法は活性炭、つまりカーボン(C)を用いるため、
 カーボン・イン・パルプ(Cabon in pulp)=CIPと言われる。

チオ尿素リーチング
 猛毒のシアン溶液を使用しない金・銀溶解法が、チオ尿素を用いた方式だ。
 チオ尿素とは染料や合成樹脂の原料となる有機化合物だが、
 金・銀と反応して安定な化合物を作るものの、
 そのコストや回収技術に研究の余地があり、 現時点では研究開発段階である。
 

ヒープリーチング
 破砕した鉱石を堆積、消石灰を添加してpHを10.5に調整した、
 濃いシアン化ナトリウム混合溶液を散布し、金・銀をリーチングする方法がある。
 これはヒープリーチング法と呼ばれ、
 アメリカ、オーストラリアの低品位鉱に対して行われ、
 寒冷地では屋外散布による凍結に注意が払われている。
 その後、活性炭による吸着が行われ、
 CIP法との併用ということになる。

大金鉱山

電解精製

 泥状鉱石にシアン化ナトリウム液を加えて溶解させるリーチング工程の後、
 亜鉛を添加するメリルクロー法によって金が析出する。
 しかしながら、ここで析出したものは金・銀の合金である。
 この合金から金・銀のみを分離させる工程が電解精製である。

 金と銀との大きな差、これは銀のみが硝酸(HNo3)に溶けることである。
 まず、硝酸銀水溶液中に合金を投入し、マイナス電極(カソード)側をステンレスとし、
 プラス電極(アノード)側を合金として、電流を流すと、
 陰極ステンレス側に(-)電子受け取るために銀が析出し、
 陽極合金側下部に銀よりイオン化傾向の低い金・白金・パラジウム(=銀スライム)が堆積する。

 次にその銀スライムを硝酸に溶かして、金以外の不純物を除去した後、
 塩化金酸溶液中で同様に電流を流し、
 より純度の高い金を析出させる。


製錬所

 つまり要約すると、青化製錬は砕いて泥状にした金鉱石に、
 反応を即するための水と空気、ガスの発生を抑えるための中和剤としての石灰、
 そしてシアン化ナトリウムを混合し、シアンと金合金を結合させる。
 その後、亜鉛を投入して今度はシアンと亜鉛を結合させて、
 金合金を析出させる。

 金合金は硝酸銀(塩化金)水液中で電気を流し、-電極側に銀が析出、
 +側電極に金が析出することを繰り返し、純度の高い金を得ることができる。



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