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総括       敬称略

 「矢車会」は、自主公演ですから本興行では、とても出来ないことが出来る自由さはありますが、総てが主宰者の責任になります。「矢車会」は、九回を数えているという事でしたが、私は知りませんでした。富十郎は「歌舞伎座さよなら興行」の内に是非実現したいという願いを持って万端を整えました。
それに、八十才と十才の親子共演という奇跡に近い舞台を作り上げるという決意で臨みました。
歌舞伎役者・長唄・清本・囃子方・振付の歌舞伎関係者に、能・筝曲の協力を得て本番を迎えました

当日を迎え、富十郎夫人・正恵さんは「精一杯やってきました。あとは頑張ってもらう事を祈るだけです」と涙を潤ませていました。
周囲の皆さんの細かい心遣いは、既にご紹介しました。
総てをやり終えて、富十郎は「皆さん。有難う、有難う」、あらゆる人に声を掛けていました。
鷹之資は、連獅子の装束を脱ぐと「隈取り」の顔のままで富十郎の楽屋に駆け込み抱きついていました。緊張から解き放たれた瞳は涙ぐんでいました。
「連獅子」の子獅子は、勘三郎(当時勘九郎)は、十三才、勘太郎は、十才初演でした。勘三郎(勘九郎)は、勘太郎の「毛振り」の身体への負担を医師と相談、無理をさせない事と、半端な「芸のくせ」も考え、控えめにしたと語っています。
今回は、富十郎は唯一最後の機会であり、「歌舞伎座さよなら興行」の内にとの思いで実現しました。
後日、鷹之資は「おう(父)は頑張ったね」と子供の顔になっていました。
今回の経過を見ていて「伝統芸能」の世界の絆の強さと素晴らしさを感じました。歌舞伎界だけではなく縦横の繋がりの広さを知ることが出来ます。
「三響会」という自主公演があります。
これは、亀井広忠、田中傳左衛門、田中傳次郎の三兄弟が古典芸能各界の相互交流(コラボレーション)をする企画で公演しています。2005年10月公演の「能・長唄による船弁慶(観世喜正・他)」「「石橋(梅若普矢・中村勘九郎・他)」「三番叟(野村萬斎・市川染五郎・他)」が「芸能花舞台」で放送され、時折DVDで見ていますが、年長者では出来ない事を若い人達が自主的にやられる事は将来への明るい展望になり結構な事だと期待しています。
一方で、心配なのは地方の「民俗芸能」です。私の周辺については、随時、お伝えしていますが世代の継承が巧く行っていません。高齢の方と子供の間を繋ぐ中間層が、ぽっかり大きな空間になっているからです。
「伝統行事」の中心は地元の氏神様の祭礼です。神社行事は組織と奉賛会などの後援があり伝統に従って忠実に立派におやりになり誠に結構な事です。
氏子の側の環境が大きく変わっているのが実情です。少子・高齢化に加えて商業形態の変化、自営業の減少により、サラリーマン化で、休日の固定(土・日が中心)があります。政教分離で行政組織が関わらないと言いますが、これは「言い逃れ」の口実もあり、現実は、大きく有名な祭りでは「首長」と言われる方が祭りの大役を務めておられます。
衰退と言いながらも立派に祭りが行われている地域も多くあります。そういう所は、家族、地域の連帯感がしっかりしている所です。祭り行事に参加する(出来る)子供は小学校三年生から六年生というのが普通です。小学校を卒業したら離れるという曖昧な不文律が「やらなくていい。やってはいけない」という雰囲気を作っています。続けてやりたい子も居る筈です。折角、身に付けた、笛・太鼓などを辞めてしまうのは非常に残念です。部活、受験などで時間が取れない事情もありますが「お祭り」だけでも参加するように考えてあげるのは大人の責任ではないでしょうか。
「お祭り」が立派な所はそれが出来ています。指導者は高齢化し、何れ亡くなっていきます。その中間を支えるのが成人層ですが、長老からの伝達を受け止め、次世代に繋げられなかった事が今の事態です。
戦争のよる祭り道具の焼失による空白と、その後の娯楽の多様化が「お祭り」に対する考えを誤らせたと思います。
「お祭り」の立派な所は参加者が多過ぎ、世代交代という理由で、年齢(六十才)による制限(法被など祭り衣装を着ない)という不文律がありました。六十才は、まだやる気一杯、能力もまだまだ充分です。参加は拒否されないのですが普段着で随行される姿は寂しいものでした(過去)。私は他所者ですが毎年拝見していて、声をお掛けしていた事もあるので「何時も山車でお囃子をしておられたのに寂しいですね」と申し上げました。「決まりですので」と言われながらも私は哀愁を感じました。
私は、間接的でしたが何となく現役上位の方に私の感じたことを申し上げました。それが通じたかどうかは判りませんが、その後、祭り衣装を付けて楽しく参加しておられるのを見ますから「良かったのかなあ」自己満足しています。
現代はビデオなどで動画が残せます。歌舞伎の若手も今は亡き故人の名優の演技を学び取っています。先輩と後進の橋渡しを勤めるのが、今生きている世代の責任だと思い記録の保存と伝達をしています。
画像は多くありますが著作権などの問題があり抹消される心配があり、ご紹介出来ません。

                       (終わり)          20・2・10
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