源氏は18歳。北山の山寺に加持の治療に訪れた際、源氏はひそかに恋慕する藤壺（父桐壺帝妃であり源氏の義母）によく似た少女を見出しました。源氏はこの少女を手元にひきとって養育したいと思います。この少女は、後に源氏の正妻格として連れ添うことになる紫の上です。少女の庇護者である祖母の尼君は、その後山寺を去り、京に住まっていたが、病重く、明日をも知れぬ身でありました。源氏はその尼君を見舞います。次の古文本文を読んで後の問いに答えよ。
（尼君ノ病床ハ）いと近ければ、心細げなる御声絶え絶え聞こえて、「いと ａかたじけなきわざにもはべるかな。この君（孫娘デアル少女ノ事） ｂだに、 ｃかしこまりも聞こえたまひつべきほどならましか @ば」とのたまふ。（源氏ハ）あはれに聞きたまひて、「何か、浅う思ひたまへむことゆゑ、 Aかうすきずきしきさまを見えたてまつらむ。いかなる ｄ契りにか、見たてまつりそめしよりあはれに思ひきこゆるも、 ｅあやしきまで、この世の事にはおぼえはべらぬ」などのたまひて、「かひなき心地のみしはべるを、かの ｆいはけなうものしたまふ御一言、Bいかで」とのたまへば、「いでや、よろづ思し知らぬさまに、 ｇ大殿籠り入りて」など聞こゆるをりしも、あなたより来る音して、「上こそ。この寺にありし源氏の君こそ Cおはしたなれ。など見たまはぬ」とのたまふを、人々いと ｈかたはらいたしと思ひて、「あなかま」と聞こゆ。「いざ、見しかば心地のあしさ慰みき、とのたまひしかばぞかし」と、 Dかしこきこと聞きえたりと思してのたまふ。いとをかしと聞いたまへど、人々の苦しと思ひたれば聞かぬやうにて、 ｉまめやかなる御 ｊとぶらいを聞こえおきたまひて帰りたまひぬ。 Eげに言ふかひなのけはひや、さりとも、いとよう教へてむと思す。
またの日も、いとまめやかに Fとぶらひきこえたまふ。例の小さくて、
「 Gいはけなき鶴の一声聞きしより葦間になづむ舟ぞえならぬ
同じ人にや」とことさら幼く書きなしたまへるも、いみじうをかしげなれば、 ｋやがて御手本に、と人々聞こゆ。少納言ぞ聞こえたる。「訪はせたまへるは、今日をも過ぐしがたげなるさまにて、山寺にまかり渡るほどにて。かう訪はせたまへるかしこまりは、この世ならでも聞こえさせむ」とあり。いとあはれと思す。
秋の夕は、まして、心のいとまなく思し乱るる人の御あたりに心をかけて、あながちなるゆかりもたづねまほしき心まさりたまふなるべし、「消えんそらなき」とありし夕思し出でられて、恋しくも、また、見れば劣りやせむとさすがにあやふし。
H手に摘みていつしかも見む紫のねにかよひける野辺の若草 【若紫】
問１ ａかたじけなき、ｃかしこまり、ｄ契り、ｅあやしき、ｆいはけなう、ｇ大殿籠り入り、ｈかたはらいたし、ｉまめやかなる、ｊとぶらい、ｋやがての、活用語であるならその基本形と文中での意味を順に記しなさい。★
問２ ｂだにについて文法の観点から文意に即して解説しなさい。★★★
問３ @ば、Bいかでの直後に補うことができる語句をそれぞれについて記しなさい★★
問４ 本文中で文意の上からみて上一段活用の動詞の活用上の誤用の語があるがそれはどれか。ただしたものを記しなさい。★★★
問５ Aかうすきずきしきさまを見えたてまつらむ、Dかしこきこと聞きえたりと思してのたまふ、Eげに言ふかひなのけはひやを口語訳しなさい。★★
問６ Cおはしたなれ★★を品詞分解して、その文法上の用法を説明しなさい。★
問７ Fとぶらひきこえたまふで使用されている敬語の用法を文意に沿って解説しなさい。★★
問８ Gいはけなき鶴の一声聞きしより葦間になづむ舟ぞえならぬについて、
（1）「いはけなき鶴の一声」とは本文のどういうことを比喩して言うものか。★★★
（2）「葦間になづむ舟」とはどういうことか。また、何の比喩なのか。★★
（3）この歌に使用されている比喩以外の修辞について解説しなさい。★★★
問９ H手に摘みていつしかも見む紫のねにかよひける野辺の若草について、
（1） 「紫」は何の比喩となっているのか、本文中から5字以上10字以内の語句を抜き出しなさい。★★
（2） 「野辺の若草」は何の比喩となっているのか、本文中から5字以上10字以内の語句を抜き出しなさい。★★
問１０ 「源氏物語」の成立した時代・作者の名・作者が仕えた中宮とその父親の名を順に記しなさい。★
源氏物語「たづの一声 2/2」（若紫） 解答用紙（プリントアウト用） へ
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