源氏物語「たづの一声 1/2」(若紫)   問題

 (治療のため滞在なさっていた)例の山寺の人(=源氏の君)は、(病も)快方に向かったので山をお出になった。(かわいい少女の祖母である尼君の)京のお住まいを探しあてて、時々、源氏はお手紙をおやりになる。(しかし、) 返事がいつも同じ趣ばかりであるのも無理もないと思っているところへ、 この幾月は以前にも勝る煩悶に、(藤壺)以外のことは考えることもなくて、日が過ぎてゆく。
 秋の終わりのころ、源氏の君は何か心細くてたまらず嘆息なさる。月の美しい夜。秘密の愛人のところに、やっとのことで行く気におなりになったが、(出かける頃は)時雨(しぐれ)のように雨が降ってきた。お出かけ先は六条京極あたりで、(今日のお出ましは宮中からなので)少し距離がある感じがする。(その途中に、)手入れもしない家の木立ちがとても古びて、お暗く見える家があった。いつもお供としてそばを離れぬ惟光(これみつ)が、「亡き按察使(あぜち)の大納言の家でございまして。(先日)ちょっとしたついでに見舞いましたところ、『例の尼さまはひどく衰弱なさったので、何事も手がつきません』と(少納言が)申しておりました。」と申し上げると、(源氏は)「気の毒なことだ。お見舞いすべきだったのに、どうしてそうと報告しなかったのだ。入って案内を請えと」おっしゃるので、お供の者を邸に入れて取次ぎをさせた。「わざわざこのようにお立ち寄りなさったのです。」と(口上を)言わせたので、供人は内に入って「このようにお見舞いにおいで遊ばせました。」と言うと、女房たちは驚いて、「どうしたらよいことやら。ここ数日、すっかりお弱りになられましたので、ご対面などもできます。」というけれど、「お帰し申し上げては恐れ多い。」とあって、南の廂(ひさし)の間(ま)を片付けて、そこへお入れ申し上げる。
 「『誠に取り散らしてはございますが、せめて(わざわざのお見舞いを)恐縮に思う気持ちだけでも(申し上げねば)。』と思います。存じもよらぬことで、陰気なお座敷で(恐れ入ります)。」と申し上げる。まことにこのような所は勝手の違った感じがなさる。(源氏は、)「いつも思い立ち存じながら、(参っても)詮(せん)無い様にばかりにお取扱いなさるので、遠慮いたしまして、『病気が重い。』とも存じ上げず、気になることよ。」などと申し上げなさる。(尼は、)「気分のすぐれぬことはいつものことでございますが、今際の時(=死に際)になりまして、恐れ多くもお立ち寄りくださいましたのに。自分で(お礼を)申し上げられませんとは。(かねてあなたさまの)仰せくださいましたあのこと(孫娘である姫を引き取って養育したいという申し出)は、万一(あなたさまの)思し召しが変わらないようでございましたら。こんな頑是(がんぜ)ない年頃が過ぎましてから、きっとお目おかけください。なんとも心細い有様を見残して参りますのが、願っております往生の道の障(さわ)りに思われることです。」などと申し上げなさった。
【若紫】



源氏物語「たづの一声 1/2」(若紫)  解答用紙(プリントアウト用) へ

源氏物語「たづの一声 1/2」(若紫)  解答/解説 へ

「たづの一声 1/2」(若紫) 問題 へ


「たづの一声 2/2」(若紫)  問題 へ




トップページ 現代文のインデックス 古文のインデックス 古典文法のインデックス 漢文のインデックス 小論文のインデックス

「小説〜筋トレ国語勉強法」 「評論〜筋トレ国語勉強法」

マイブログ もっと、深くへ ! 日本語教師教養サプリ


プロフィール プライバシー・ポリシー  お問い合わせ






gtag('config', 'UA-163384217-5');