倶知安峠 9162(9262)レ 小沢〜倶知安
小沢発車
交換の気動車が5分遅れてきた。
しびれを切らしたC623は安全弁から蒸気を吹き出している。
激しい雨の中だというのに、構内外れの陸橋下には今日もたくさんのファンが三脚を立ててC62の発車を待ち構えている。
「今日も大勢来てるなあ・・・。」苦笑する乗務員。
やがて出発信号機が青に変わる。
「上り本線出発進行!」
「ATSよし。」
『9162列車、小沢発車。』(無線)
「ハイ、9162、小沢発車。」
「発車ァ!」
次の瞬間、小沢の構内に野太いC623の汽笛が鳴り響く。
ゆっくりと動き出す1750mmの大動輪。一回転、二回転・・・やがて純白のドレインが機関車の両側にほとばしる。
さきほどまで微笑をたたえていた乗務員の表情は険しいものに変わっている。これから倶知安トンネルを抜けるまで延々7km余り、ひたすら20‰の急勾配とR300、R250という急曲線が連続する。稲穂峠と違って途中で息の抜ける場所はない。まさに心臓破りの登り坂・・・。この小沢〜倶知安間10.3kmを15分で走るように運転ダイヤは設定されている。つまり、時速41.2km・・・。あの急勾配をだ。倶知安峠にはパフォーマンスはない。真剣勝負だ。
助走区間は小沢駅を発車した直後、構内の数百メートルだけ。陸橋の下をくぐるとすぐに20‰の勾配だ。構内を飛び出す頃には60〜70km/hの速度にしておかないと、この峠は登り切れない。乗務員は食い入るようなまなざしで前方を注視する。機関車の速度を確かめるようにしながら・・・。
(↓1990年5月 小沢)
小沢の発車。お手軽に撮れる場所ではありましたが(特に寝坊助の私は、宿から歩いて5分で行けるこの撮影地で何度お茶を濁したものか・・・ (^^; )、数ある発車シーンの中でもここの発車以上に迫力のある発車シーンは、今に至るまでどの線でもお目にかかったことはありません。磐西のD51も山口のC57もここに比べたら月の前の星・・・。
それもそのはずで、↑にも書いた通り、倶知安峠というのは、よくぞここまで過酷な線路の敷き方をしたと感心するくらい急勾配と急カーブの連続なのです。C62は元々本線急行用で急勾配区間には向かない機関車ですから、これがいかに過酷なものか・・・1750mmの動輪はあの急勾配では35km/h以下になるととたんに空転しやすくなるのだそうです。C62が狂ったような速度で峠を駆け抜けていく姿を見て、最初は「あんなに飛ばさなくてもいいのに・・・」と思っていましたが、そうではなくて、飛ばして行かなければ空転停止してしまう危険があるからなんですよね。特に雨が降っているような日は条件はさらに悪くなります。
倶知安峠は、小沢の駅を発車するとすぐに20.0‰の勾配、その後18.0、20.0、20.5、20.0、20.8、20.0、18.2、20.0という勾配が続き、倶知安トンネルの出口でようやくようやくL。ちょっとでも息を抜いたら終わり・・・というすさまじく長い急勾配。それを無事に登り切るため、C623は小沢で全力スパートをかけていかねばならないのです。
この大迫力の発車シーン、もう一度見てみたい・・・。
小沢駅のすぐ東側は小高い牧場になっていて、ときどき数頭の牛が放牧されているのを見ることができました。小沢の町を一望するように見下ろすことができたこの場所から遠望した限りでもC62の必死のスパートぶりがよく見て取れるんですよね。
(↓1995年8月 小沢)