名古屋地区の雑誌などに書いた散文をご紹介

くらはし かん散文集

   今後、随時追加していく予定です。


『BS探偵団リポート』  …バイト速報 /1990.5〜9


国際都市ナゴヤに逆行する
ガンコな電気屋さん、メ〜ッケ!

1990.5.10号

 去年、デザイン博を大成功させ、国際化へ大きく進展したはずのナゴヤ。その表玄関ともいうべき名駅付近で、わがBS探偵団は恐ろしいものを発見した。まずは右の写真だが、よーくみると、どうだ、おわかりいただけるだろうか、そう、つづり、ショップのつづりが違っているのだ!
 どうしたことだ。あのデザイン博を成し遂げ、街並みを大幅にクリーンアップし、パルコや、ヒルトン、ボトムラインの進出で、全国的にもイメージチェンジを歌い上げたナゴヤにsohp!  いまや中学一年で習得するこの単語 shop。このshopがナゴヤ人には分からない。そして道ゆく人も気づかない。気がついても店主に教えようとしない。我々BS探偵団だって教えなかった。だって、こんなおもしろいもの直させたら惜しい。
 そうか、これは店主のパフォーマンスなのかもしれない。道ゆく人に楽しんでもらいたい。自分の店の看板を見て気持ちが晴れるのなら、いくらでも自分はピエロになろう!うーん、この店の主人は懐が深い!

  いや、もしかしたら、ただのガンコ親父なのかもしれない。人が何とか直させようとしても一度自分が作ったものを直すなんて、男のコケンにかかわる。てやんでい!こちとら名古屋生まれの名古屋っ子でい!男が一旦出したものを、はいそうですかって引っ込められるかい!ってんで家族一同が隣近所と、まともに顔を合わせられない暮らしをしているのにも構わず、ただ強情一点張りでsohp、sohp、sohp!
 あるいは何らかの経営理念から、つづりを変えている可能性もある。鉄鋼関係の会社が「鉄」という字が「金を失う」となっているのは縁起が悪いというので「金の矢」という字をよく使うというのは有名な話。
 とにかく看板一つで、これだけ楽しめるこの店。所在地、店名を明かすのが、はばかられるのは言うまでもない。

 


雨ニモ負ケズ風ニモ負ケズ
立ち続けるオジサンの正体

1990.5.24号

 ゴールデンウイークも終わり、つかの間の休息で翼を休めていたビジネスマンたちも、また以前のように街に職場に戻ってきた。連休でボケた頭を元に戻すのには少々時間が必要だが、ことに今春社会人となった新入社員たちは、入社以来、緊張した日々の連続で、やっと仕事がわかるようになったかという矢先にゴールデンウイーク。緊張がいっきに解け学生気分を思い出し大いに羽根を広げただろうが、またあの緊張の日々が始まり、冷蔵庫とサウナを行ったり来たりするような過酷な状態に逆噴射寸前という人も少なくないだろう。そんな五月病のアナタ、リタイヤする前に是非この人に会ってほしい。右の写真、中央に立つ人影、そう、このやや太めの人物、わがオフィスの窓から見えるビルの屋上に雨の日も風の日も立っている。はたして彼は何者なのか、そして何のために立っているのか。

 始めはただ、うさん臭いだけの存在で好奇の目で眺めるだけであったが、毎日毎日一日も欠かさず立っている彼の姿を見るにつけ、次第にそれは感服の念に変わり、朝、出社するとまずブラインドを開け、すでに持ち場についている彼の姿を確認するのが習慣になってしまった。
 そして「おっ今日もガンバッているな、僕だって負けるもんか、君の仕事が果たしてどんなものか、どんな価値があるのか僕は知らないが、きっとそれはやりがいのあるものなんだろう。例えば一日中そこに立っていて、宇宙から降ってくる塵の観測をしたり、放射能の量を調べたりするのか、えっ違うのか。じゃあ、そうだな、錦通りの交通量をそこから調査しているんだろう。分かった、ヒルトンの客の入りをチェックしている地元のホテルの人か。おーい、何とか言ってくれ、僕はキミを励みに毎日仕事をしているんだ。いつも背中を向けていないで、たまにはこっちを向いて顔を見せてくれてもいいじゃないか。そしてキミが手を振ってくれれば、僕もそれに応えて手を振ろうじゃないか。キミがほほ笑んでくれれば、僕もニッコリ笑って自慢のエクボを見せようじゃないか。そして最初は文通から始めよう。僕は気が小さいんだ。いきなり会ったりしたら、きっと何も言えなくなってしまうに違いない。文章ならちょっとは自信があるんだ。こう見えても昔は9歳も年下の女の子と文通していたことがあるんだ。顔を合わせるまでは、結構うまくいっていたんだ。彼女がどうしても僕の写真を欲しいなんていうから送ってやったら、ウソつきっ!っていうハガキが来たきり、終わってしまったんだ。いいじゃないか、そんなことは。

 とにかくキミはまず、こっちを向きなさい。話はそれからだ。おい、聞いているのか。よ〜し、いつまでも意地をはってるんなら好きにしなさい。もうキミのことなんか知らないから。でも最後に一つだけ聞かせてくれないか。キミは、もしかしたらみんなが言うように、いらなくなって屋上に放置してある銅像なんかじゃないよな」。


おみごとっ!
「見栄っぱりハウス」

1990.8.2号

 近年ますます悪化する住宅事情。都市部ではマイホームを持つなんて夢のまた夢。とはいうものの我々若いモンには、まだピンと来ない先の話だ。毎日の電車の窓からみる家々も都市部に近づくにつれ小さくなっていき、こんなものを手に入れるために皆さんガンバッてらっしゃるんですなあ、とまるで他人事のように感心するのみである。

 そんな家々の中に一軒、風変わりな家を見つけた。右の写真である。正面から見ると、まことに堂々と胸を張ったようなこの家。2階のベランダもかなり広く、大邸宅とまでは言えないが、なかなか優雅な雰囲気を醸し出している。そこに住む家族の、ゆとりあるライフスタイルが目に浮かぶようだ。
 ご主人は40代半ばといったところだろうか。一部上場を目前にした急伸企業の名古屋支店長。仕事は精力的にこなすが、休日は無駄な接待ゴルフなどせず家族を大切にしている。妻はインテリア・デザイナー。結婚後も仕事を続けているが、家庭を犠牲にしないようにセーブしている。先月から油絵を始めた。子供達は2人、姉は中学2年でエレクトーンが得意だ。近頃、母に内緒でツルゲーネフの「はつ恋」を読んでいる。弟は小学5年。マラドーナとマイケル・チャンと落合のファンで、将来何になったらいいのか、小さな頭を悩ませている。

 ところが、どんなに幸福そうな家庭でも、一歩中に入ってみれば世間に言えない悩み事の一つや二つはあるもので、この家族の場合、中に入るまでもなく、一歩横へ回ってみればその悩みは一目瞭然である。すなわち、家が薄い。
 1階部分は、まあ普通の家と変わりないが、2階はベランダをあまりにも大きく取りすぎたせいで、建物の部分がまるで壁のようになっている。どんな間取りになっているのか教えていただきたい気がするが、あそこへエレクトーンを入れると、エレクトーンの幅だけで終わっちゃいそうである。
 この家を建てるとき、御主人の支店長45歳は悩んだに違いない。支店長の家には大きなベランダは欠かせない。かといって道に面した東向きにベランダを作っても、幅が狭くて貧弱だ。それなら南向きに長く大きなベランダを作るか。多少2階の部屋が住みづらくはなるが、なんと言っても支店長だ。陳腐な家は恥ずかしい。南向きにベランダを作れば、これは立派に見えるだろう。横へ回られると少々苦しいが、なあに、黙っていれば気づかれまい。えっ、家族が住みづらいって?何を言うんだ。お父さんは支店長だ。お前たちも協力しなきゃダメです。あっ、お母さん、そんなところへ絵の具をつけちゃって何てことするんですか。今晩、早川と吉田がくることになってるんだ。エレクトーンはいけませんよ。お前はまだ猫ふんじゃったしか弾けないじゃないか。痛っ!こらっ!家の中でサッカーボールを蹴るんじゃありません。お前のようにブクブク太った子どもがサッカーが出来ますか!相撲にしなさい、相撲にっ!!
 この「見栄っぱりハウス」、今度ばっかりは所在地は明かせない。なお、この文章はフィクションであり、実際の家族とは何ら関係がないので、くれぐれも誤解のないように。


なぜかストーリーを感じる
「心理テスト標識」

1990.8.23号

 街を歩いていると、実に様々なものに遭遇する。見たこともない奇妙な物を見つけて感激したり、突然の事件に直面して、思わぬシャッターチャンスを得たりする。しかし街のあちことで、しょっちゅう眼にしている物でも、よくよく見ると意外なおもしろさを含有しているときがある。

 街のあちこちにある物。例えば道路標識。
 標識というものは、その目的からすれば一目でその意味する内容が伝わることこそ望ましい。「止まれ」は、いかにも両手を広げて、ここでストップするように三角の角で停止ラインを指しているし、「一方通行」や「右折」「左折」の矢印の類も、非常に判りやすい。もっと判りやすいのは具体的な絵が描いてあるものである。「踏切」を知らせる汽車の絵とか、「落石注意」、「鹿が飛び出します」などは人間だけでなく動物が見ても理解でき、この標識のおかげで田舎では動物の交通事故がずい分減ったそうだ。

 しかしここに、同じタイプの絵標識がありながら、今一つ意味不明瞭のものがある。右の写真である。正解から先に言えばって、そんなもん誰でも知ってるかもしれないが、なんとこれは歩行者専用道路であることを意味している。確かに背の高い大人と、髪にリボンをつけた少女が歩いているのは判る。だがこの二人、何か妙な雰囲気を持っている。
 まず妙といえば、このオジサンの体格が妙である。関節がいくつあるのか判らないくらいに、くねくねしている。そして帽子をかぶっているせいもあってか、まるで妖怪人間ベムのようだ。見る人が見たら、「ここでベムに会えます」の標識だと思うに違いない。しかしベムならまだいい。いくら「人間になりたーい」と恐い顔でやって来ても、彼は正義の味方だ。ベラはちょっとコワイかもしれないが、僕は五輪真弓のファンだし、ベロだって案外、弱くって、いいヤツみたいだ。きっと少女の遊び相手になってくれることだろう。
 だがこのシルエットがベムとは限らない。だいたいあのツエを持っていないじゃないか!危ない、危ない。もうちょっとで騙されるところだったぜ。ベムと見せかけて、お前は悪い宇宙人だなっ!女の子と手なんかつないじゃって、ベムはそんな軽薄なヤツじゃないぞ。そして人体実験のために少女を誘拐しようというのだな。甘いキャンデーかなんかで誘っておいて、ここの角を曲がったとたん宇宙船が迎えに来ていて、光がピーッと当たると二人とも宇宙船に吸い込まれるという「宇宙人に御用心」の標識か、これはっ!!

 いや待て、悪いのはオジサンの方とは限らない。案外、悪者は少女の方かもしれない。酒に酔って千鳥足のオジサンの後ろへソッと近づいて、ズボンのポケットから財布を抜き取ろうとしているところだな。そうか、これは「スリのガキんちょに注意」の標識とも解釈できる。まったく近頃のガキは悪いからねー。ウチのマンションで、このところ自転車がよくなくなったりして騒ぎになるけど、どうもありゃガキんちょの仕業だぜ。ゴミの日でもないのにゴミを捨てたり、上の階から死んだゴキブリを落としたりって、それは俺の仕業だけど、誰も見てないから平気さ。
 とにかくこの標識は面白い。見る人によって、いろいろな解釈があるだろうが、これを頭っから「歩行者専用道路」と信じて疑わないアナタ。アナタが一番危ない人だと私は思いますぜ。
 

筆者コメント/この文章はフィクションであり、ほとんど事実ではありませんので、くれぐれも誤解のないように。
 


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